SEACNケーブル

 これも先日のこと、ある研究所の壁に貼られていた2001年の海底ケーブル地図を見ていたら、パラオの近くにSEACNという海底ケーブルが引かれている。そんな話は聞いたことがないし、現在の海底ケーブル地図には出ていない。

 おかしいなと思ってググってみると、SEACN(South East Asia Cable Network)は、インドのDishnet DSLという会社が敷設しようとしていたが、パートナーのTyComという会社が投資資金を引き揚げてしまったために、プロジェクトが中止になったようだ。

Dishnet DSL abandons submarine cable project (Monday 9 June 2003)

 2003年のニュースだが、2001年のITバブルがはじけた余波だったのだろうか。

Dishnet shelves $1.2bn undersea cable project

 この記事を読むと、

Post 9/11, TyCom’s financials along with those of a host of other US companies came under the scrutiny of the US market regulator.

とある。9/11の影響か。

 2001年3月のニュースを見ると、パラオをつなぐという話は書かれていない。やはり素通りの計画だったのだろうか。

DishnetDSL-TyCom route survey on

 TyComという会社はよく分からないが、インドのTATAに2004年に買収されたようだ。

速水融「日本の資源、森を見失うことなかれ」

速水融「日本の資源、森を見失うことなかれ——林業についての近著に思うこと」『三田評論』2013年1月号、102〜105ページ。

 先日、前任地がドイツだったという外交官と話す機会があった。「もはやドイツから学ぶことはないと思っていたけど、ドイツの林業のマネジメントはすばらしかった」と言っていた。

 その話と符合する速水先生の林業解説。タイトルからして林業の本を書かれたのかと思ったがそうではなかった。他人の著作を紹介しながらの評論。

 日本の森林資源は減っていないものの、活用もされていない。林業の活性化には山勘ではなく、現代的なマネジメントが必要。しかし、数十年単位の投資みたいな林業は、数代にわたって継承していかないといけない。

 速水先生の専門は人口論。人口論と林業論は通じるところがあるそうだ。

 そういえば、近い専門の同僚がドイツに留学していることも思い出した。

 日本にとって森林は有利な資源。うまくマネジメントし続ければ再生可能。でも普通にしていては安い輸入木材に負けてしまう。

 常々、一次産業のIT化が必要だと思って来た。農業へのITの利用は進んできている。農業情報学会なんてのもある。林業のIT利用はどんな学会で議論しているのだろう。

PTC’13

 年度末で青息吐息。昨年は暇だったのに、今年はなぜかとても忙しい。年末から学生の卒論、修論、博論を読み続けながら、国内外で出張し、原稿を書き続けている。相変わらず会議も多い。予定が混乱してきていて、先日は政府との会合をすっぽかしてしまった。スケジュール帳には入っていたのだが、他のことに気をとられていたのと、キャンセルになっていたと勝手に思い込んでいたのとで、すっかり頭から抜けていた。別の会合はどう見ても間に合わない時間に設定していた。まずい。

そんな中で楽しかったのが、1月20日〜23日にホノルルで開かれたPTC(Pacific Telecommunications Council)。昨年も行って楽しかったのだが、なんだか日本のプレゼンスが小さいなあと残念に思っていた。

ところが、今年は急に日本のプレゼンスが大きくなっていてびっくりした。元総務省の坂巻政明さんが中心になって企画を練られたらしく、日本からは我らの村井純学部長や総務省情報通信政策研究所の仲矢徹さんらもプレナリーに登場した。

それと、キーノートでTubes: Behind the Scenes at the Internetの著者Andrew Blumが来ていたのが良かった。この本は12月にハーバードに行ったとき本屋で見つけていて、読みたいと思っていた。彼のキーノートで日本語版も出ると紹介されたのでその場で注文した。

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こういう仕事、いいなあ。自分で書いてみたかった! 海底ケーブルのことも書いてあっておもしろい本。キーノートの後にたまたま彼を見つけたので挨拶して名刺をもらえた。ミーハーな気分だ。

今回のPTCでは自分もワークショップで報告。

Motohiro Tsuchiya, “International Politics of Submarine Cables,” presented at Research Workshop: Bridging the Digital Divide in the Pacific, Pacific Telecommunications Council, Honolulu, HI, United States, January 20, 2013.

PTCは通信事業者の会合で、アカデミックな会議ではない。しかし、アカデミックな研究者をもっと呼ぼうという声もあり、そうしたニーズに応えるワークショップやセッションもある。私としては業界の動向、特に海底ケーブルや人工衛星の最新動向がつかめるので、それだけで楽しい。

アカデミックなワークショップは例年あまり人が集まらないらしいが、今回は太平洋島嶼国がテーマということもあって、それなりに人が集まってくれた。なんと、10年ぐらい前にとてもお世話になっていた元FCCで今はシスコにいるロバート・ペッパーさんもフロアに来て鋭い質問をしてくれた。GLOCOM時代の資産だ。

東京での用事があって、PTC全部には出られなかったけど、PTCをバックアップしているPTC日本委員会の食事会にも参加させてもらって楽しかった。

今回のワークショップは慶應のメディアコムの菅谷実先生から声をかけていただいて実現した。先日の長崎のシンポジウムでも菅谷先生にはお世話になっている。この一連のプロジェクトの成果は、まもなく、菅谷実編著『太平洋島嶼地域における情報通信政策と国際協力』(慶應義塾大学出版会)として公刊される見通しだ。私はパラオのことを書いた。

ついでに、久保文明/高畑昭男/東京財団「現代アメリカ」プロジェクト編著『アジア回帰するアメリカ—外交安全保障政策の検証—』(NTT出版)という本ももうすぐ出る。こちらは相変わらずのサイバーセキュリティ。

どちらの本も、なかなかゲラを返さない人がいるらしく、年度内に出るかどうか微妙みたいだ。

夏頃までにはもう一冊共著本が出るはず。こちらではハワイにフォーカスした海底ケーブルの話を書いている。昨年後半苦しんで書いていたものが成果になるのはうれしい。