サイバーセキュリティに関する日米協力

 サイバーセキュリティに関する日米協力についての未公刊論文を読ませてもらった(英語)。インタビューを受けたので先に読ませてもらった。

 ところで、この年齢になるとだんだん情報が自分に向かって集まってくるんだなと最近気がついた。

 学生の頃は、どこに情報があるのかも分からず、手に入れた情報の価値も分からなかったけど、今はパズルのようにその情報の位置づけが分かるようになりつつある。

 無論、まだ瞬時に判断できないものもあるし、間違えるものもある。後から、あれはそういう意味だったのかと気づく。

 社会科学ってこういう経験値の高さが重要だって気がする。専門家と見なされている人に情報は集まってくるし、情報を処理すればするほど経験値が高まる。

 無論、自然科学にもあるんだろうけど、自然科学者のピークが30歳から40歳の間に来るのに対し、社会科学者は年の功が大きい。大御所の先生はやはりその分だけすごい。社会の変化に対する差分を理解しやすいというのもあるんだろうな。

 首都圏にいると、政府関連の情報も入りやすい。逆にそれに頼りすぎる傾向も出てくる。関西の人たち、特に京都の研究者たちは、そうした現場の情報が入りにくい分、理論的に考え、おもしろい発想が出てくる。

太平洋国家アメリカ-国境を越える統治機構と文明-

 3月27日(火)14時から、三田でシンポジウムを開催。

 たぶん、ほとんどの人がシンポジウムのテーマにピンと来ないと思うのだけど、言うまでもなくパラオのような太平洋島嶼国やアジア諸国はアメリカ合衆国の影響を強く受けている。しかし、その内容については漠たるイメージで語られていて、ちゃんと議論されていないのではないだろうか。

 憲法のような統治機構と、各種の技術のような文明という視点からそれを捉え直してみようという企画。

 基調講演をしてくださる加藤良三・元駐米大使は、沖縄の統治システムについてアメリカが与えた影響を論じてくださる予定。パネリストの3人は打ち合わせ段階から異常に盛り上がっているので、私はちゃんと司会ができるかどうか不安。

■アメリカ研究プロジェクト年次シンポジウム

  「太平洋国家アメリカ -国境を越える統治機構と文明-」

  今年度開始となりましたG-SECアメリカ研究プロジェクトの

  年次シンポジウムを開催いたします。ぜひご参加ください。

  

日 時 2012年3月27日(火) 14:00〜17:00(13:30 開場)

  会 場 慶應義塾大学三田キャンパス 東館6階G-SEC Lab. 

【基調講演】

加藤 良三(元駐米大使)

【パネルディスカッション】

待鳥 聡史(京都大学大学院法学研究科教授)

阿川 尚之(慶應義塾常任理事)

駒村 圭吾(慶應義塾大学法学部教授)

<司会>

土屋 大洋(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授、

       グローバルセキュリティ研究所副所長)

【概要】

「太平洋大統領」を自認するオバマ大統領のもとで、米国はアジア太平洋地域へ転換あるいは回帰しつつある。しかし、歴史を見れば、これまで何度も米国はアジア太平洋地域に、憲法、法制度、行政機構、金融・経済体制、教育、科学技術、さらには広く文明や文化のさまざまな側面において、大きな影響を与えてきている。アジア太平洋地域重視を進める米国の動きを、特に第二次世界大戦終了後から振り返り、米国の統治機構と文明が日本をふくむこの地域にどのような影響を残してきたかをさまざまな角度から検討する。

【お申込方法】

お申込情報登録フォームより、必要情報を入力の上、お申込ください。

http://www1.gsec.keio.ac.jp/text/workshop/index

パラオ共和国の各州憲法

矢崎幸生「パラオ共和国の各州憲法—比較法的考察—」矢崎幸生編『現代先端法学の展開 田島裕教授記念』信山社、2001年、3〜29ページ。

 これも機内で読んだ。こういう研究をしている人がいるのかあとびっくり。

 パラオの人口は2万人程度なのに、16も州があり、それぞれが憲法を持っているので、共和国憲法と合わせて17も憲法があることになる!

 この中でアンガウル州の憲法で日本語が公用語となっていると書いてあったので、アンガウル州の憲法を人づてで確認してもらうと、確かに書いてあった。

 その方がこの憲法を80年代に書いた人にも確認してくださったのだが、書いた本人も忘れていて、実質的に日本語で公文書が書かれている事実はもはやなく、話せる人もアンガウル州にはほとんどいないらしい(ただし、少なくとも観光客の多いコロール州には日本語を話せる人がたくさんいる)。

パラオ共和国憲法

紺谷浩司、藤本凡子(解説・訳)「パラオ共和国」荻野芳夫、畑博行、畑中和夫編『アジア憲法集【第2版】』明石書店、2007年、665〜687ページ。

 これも機内で読んだ。論文ではなく、憲法の翻訳に解説を付けたもの。しかし、こういうのがあると便利だ。

 パラオはアメリカとの関係を前提として国作りをしているのが分かる。例えば第15条(経過規定)の第11節は、アメリカとの自由連合協定(コンパクト)についてわざわざ書き込んでいる。

太平洋島嶼国におけるデジタル・デバイド

土屋大洋「太平洋島嶼国におけるデジタル・デバイド―パラオにおける海底ケーブル敷説の可能性―」慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所編『メディア・コミュニケーション』第62号、2012年3月、161〜171ページ。

 慶應のメディア・コミュニケーション研究所の菅谷先生のプロジェクトの成果(正確には慶應の東アジア研究所が支出しているプロジェクト)。

 一時期、やたらと太平洋島嶼国に関する論文を読んでいたのは、これを書くため。なかなか海底ケーブル関連の話はなかったが、それでもこの論文を書くのは楽しかった。

パラオ再訪

 1年半ぶりにパラオを訪問してきた。1日目の夜に到着し、2日目の夜(正確には3日目の未明)に帰る便だったので、実質1日しかなかったが、おもしろかった。

 主たる目的は、Caroline Cable Projectというパラオとヤップをつなぐ海底ケーブルプロジェクトの進捗を聞きに行くため。

 2010年8月に初めてパラオを訪れたとき、インターネットのあまりの遅さにびっくりして調べ始め、光ファイバの海底ケーブル敷設の有無が太平洋島嶼国を勝ち組と負け組に分けていることに気がついた。

 パラオももちろん分かっていて、海底ケーブルをつなげたいと思っていたが、さまざまな要因でできなかった。

 ところが、2011年春になって、フィリピンとグアムを結ぶケーブルが用済みになったという話が伝わり、パラオとミクロネシア連邦が提携してそれをパラオとヤップ島に引き込もうというプロジェクトが動き出した。パラオでは大統領が率先してこのプロジェクトを動かしている。

 ここまでの話は実は、慶應のメディア・コミュニケーション研究所の紀要に書いた。

 それがその後どうなったのかと聞きに行ったわけだ。やはりインターネットの時代でも、現場に行って話を聞くことには意味がある。パラオではマスコミもそれほど発達していないし、そもそもネットが遅いから、ネットにもたくさんの情報は載ってこない。現場で情報は埋もれている。

 聞いてきた話はまたどこかに書くとして、感激したのは、パラオ・コミュニティ・カレッジの看板。写真のように日本の震災のことを大きく掲げてくれている。パラオはやはり日本の味方なんだなと再認識した。パラオの皆さん、ありがとう。今日はあの日からちょうど1年だ。

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Cybersecurity

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Motohiro Tsuchiya, “Cybersecurity in East Asia: Japan and the 2009 Attacks on South Korea and the United States,” Kim Andreasson, ed., Cybersecurity: Public Sector Threats and Responses, Boca Raton, FL: CRC Press, 2012, pp. 55-76.

 ずいぶん久しぶりに英語の本が出た。もっと英語で書かないとね。しかし、英語での出版というのはやたらと時間がかかる。これに声がかかったのは2010年9月初旬。書いている内容は2009年の話。時間を超えても残る内容を書かないといけない。「緊急出版!」みたいな本の出し方はあまりないのかもしれない。