船便の荷物が届いた。太平洋を渡ってきたというのに箱はほとんど汚れていない。ヤマトさん、ありがとうございます。これで生活も落ち着くだろう。そろそろちゃんと研究モードに入らないと。
John Maeda, The Laws of Simplicity, Cambridge: MIT Press, 2006.
ボストン・グローブ紙で何気なく読んだジョン・マエダ教授に関する記事が気になっていた。最初は日系の名前を持つMIT教授が気になっただけだが、「単純さ(simplicity)」にこだわる彼の考え方がおもしろい。マエダ教授はMITメディアラボのデザインの先生だが、6月にMITを去り、Rhode Island School of Designの学長になることが決まっている。SFCでデザインをやっているWさんに聞いたところ、良いデザイナーとして知られているとのこと。本の途中で別のSFCの同僚の名前が出てきた。世界は狭いなあ。
SIMPLICITYにはMITが隠されている。
この本は、彼が普段考えていることを10の法則にまとめたものだ。しかし、彼自身まだ思考の途中であることを認めている。ノウハウ本ほど実践的な役には立たない。しかし、考え方はとても参考になる。MITの人たちがどんな考え方をするのかを知る上でもおもしろい。特に、彼がMITでどうやって授業をしているかという話がおもしろい。
学生に勉強させるときに重要なのは、難しい課題を出して解かせることだと思っていたけど、10年間教師をしてみて分かったことは、BRAINなのだそうだ(次の五つの文章の頭文字)。そうかもしれないね。
- BASICS are the beginning.基礎が始まりである。
- REPEAT yourself often.何度も繰り返しやる。
- AVOID creating desperation.絶望を作り出さないようにする。
- INSPIRE with examples.例示でひらめかせる。
- NEVER forget to repeat yourself.繰り返すことを忘れない。
同じテーマにじっくり取り組み、プレゼンを繰り返して聴衆を説得しようとする学生はうまくなる。複雑なこと、新しいことにやたらと飛びつき、すぐに飽きてしまう学生は伸びない。
教師の側も同じだ。毎年同じ授業をやっている先生のことを最初は「飽きてしまわないのか」と思ったらしいが、しかし、よく見てみると、同じ話を毎年しながら少しずつ工夫して、単純にすることでエッセンスを伝える努力をしていることに気がついたという。基礎の基礎に焦点を絞ることで分かりやすくなる。繰り返すことによって重要なことが身につく。(ついでの話として、ブッシュ大統領が再選できたのは、「テロ、イラク、大量破壊兵器」を徹底的にスピーチで繰り返して、単純にしたからだという。みんなだまされたものね。)
また、メディアラボのニコラス・ネグロポンテ前所長がマエダ教授に、レーザー・ビームになるより電球になれと言われたそうだ。レーザーのような正確さで一点を明るくすることもできるが、電球で周りにあるものすべてを照らすこともできる。
MITでは何か複雑なシステムを学ぶとき、分からないことがあったら「RTFM」というのだそうだ。「Read The F*cking Manual」である。マック・ユーザーの私はマニュアルなしでコンピュータは使えなくてはいけないと思っているので、マニュアルを読むのが大嫌いだ。しかし、正しく、素早く理解するためにはやはりマニュアルが大事というわけだ。
一番良いなと思ったのは次のところ。
In the beginning of life we strive for independence, and at the end of life it is the same. At the core of the best rewards is this fundamental desire for freedom in thinking, living, and being. (p. 43)
以下は最初に読んだ記事。
Scott Kirsner,”Running a college on the avant garde,” Boston Globe, February 10, 2008.