安全保障という幕

アメリカ議会図書館はジェファーソン、マジソン、アダムズの3人の名前が付いた三つのビルで成り立っている。1997年に初めて英語のスピーチをしたのがマジソン・ビルの6階だ。まだ大学院生だった。10年以上経ったのに雰囲気は変わらない。

20080509LOC.JPGこの3日間、隣のジェファーソン・ビル(左の写真)のメイン・リーディング・ルームにこもった。この閲覧室はとてもきれいだが(残念ながら写真撮影は禁止)、円形になっているので方向感覚を失ってしまう。外は嵐だったが、ここは別世界だ。山のようにある資料に絶望的な気になるが、宝の山が眠っていると思ってコピーをとった。宝探しといえば、映画『ナショナル・トレジャー2―リンカーン暗殺者の日記―』では、この閲覧室の真ん中の扉を開けてから地下に逃げるシーンがある。通り抜けてみたいけど無理だ。

木曜日の夜は若手のMさん、Kさん、Oさんと会食。安全保障問題をざっくばらんに話すことができてとても良かった。昨晩は旧知の夫妻と食事に出かける。奥さんはロシア人なのだが、その友達がようやく出産を終えてパーティーに出かけ、妊娠中に我慢していたタバコとウォッカをついがんがんやってしまったらしい。帰ってきて授乳をすると、赤ちゃんが二日間目を覚まさなくなった。慌てたおばあちゃんが病院に連れて行こうとしたが、お母さんは気まずくてタバコとウォッカのことを口に出せない。母乳を通じて赤ちゃんは酔っぱらってしまったのだ。今では立派なウォッカのみに成長したという。

いくつか気になる新聞記事。

アナログ・テレビからデジタル・テレビへの移行実験が、ノース・カロライナ州で、初めて行われる。

テレビのデジタル移行は各国で問題になっているが、アメリカも例外ではない。特に低所得者層が移行できないと見積もられている。うまくいくかどうかの最初のテストが始まる。

ホワイトハウスが2003年のイラク開戦時の電子メール記録を失う。

ブッシュ政権というのはやはりどうかしているとしか言いようがない。開戦という一番大事な時期の情報を失うというのはどういう神経なのだろう。

FBIがインターネット・アーカイブにNational Security Letterを出す(後に撤回)。

NSLは非常に大きな問題のある手法で、このレターを受け取った人は、配偶者にもそのことを話してはいけない。話せるのは自分の弁護士だけだ。今回レターを受け取ったのは、ブリュースター・ケールというインターネット・アーカイブの共同創設者で、すばらしいビジョンの持ち主だ。この人の講演を聴いてとても感銘を受けたことがある。情報を全ての人にという精神を体現している人だ。ケールは、レターに疑問を持ち、撤回訴訟を起こした。FBIがあっさり撤回したために公表できるようになったが、NSLを使って強圧的な情報収集が行われているのは異常な事態だ。

今回、議会図書館で調べていたテーマの一つであるCALEA(Communications Assistance for Law Enforcement Act of 1994)も、クリントン政権時代の話なのだが、似たようなところがある。大きな影響を与える法律なのに、議会はほとんど審議せずに可決させている。少なくとも委員会レベルの公聴会を開いていない。小委員会レベルの公聴会では、内容の公式記録が出てこない。成立に際してホワイトハウスも何もコメントを出していない。

安全保障という幕の向こうでいろいろなことが行われてしまう。ブッシュ政権が行ったことは、後の歴史的な検証に耐えるのだろうか。今のままだと、政権終了後もどんどん変な話が出てきてしまうのではないだろうか。5月10日付のワシントン・ポストはチェイニー副大統領のトップ・アドバイザーであるDavid Addington氏を公聴会に呼べと社説で述べている。歴史的な評価というのはえてして逆転するものだけど、ブッシュ大統領はアメリカを救った偉大な大統領という評価を受けることになるのだろうか。

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