情報セキュリティ政策会議

 10月7日に情報セキュリティ政策会議が開かれた。「何を今頃」という声が聞かれたし、新聞の報道でも情報セキュリティ政策会議やその事務局に当たる内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)の対応は不十分だという指摘もあった。

 私も当事者の一人(情報セキュリティ政策会議の構成員)だし、二つの新聞の取材を受けた側でもあるので、責任の一端を担っている。確かに、取材では、政策会議やNISCに問題ないと言ったわけではない。

 しかし、私が指摘したのは以下の三点。

(1)自民党時代と比べて民主党政権はこの問題にあまり関心を持っていない。少なくとも政策会議の開催頻度や時間設定は減ってしまっている。私が参加するようになってからは、政策会議が開かれるたびに議長である官房長官が代わっており、毎回議論をやり直さないといけない。

(2)総理大臣決定だけで設置されているNISCは他の官庁と比べて基盤がどうしても弱くなり、人材も生え抜きではなく出向組でできているので、強力なリーダーシップを発揮できるわけではない。

(3)各国のサイバーセキュリティ対策は、インテリジェンス機関(諜報機関、情報機関)が主導している。日本ではインテリジェンス活動が広く認知されているわけでもなく、政府・民間に覆い被さるセキュリティ・クリアランス(保秘制度)も整っていない。そのため、海外の政府との情報交換・共有がしにくい。

この三点が組み合わさると、どうしても政策会議とNISCにできることは限られてくる。特に、(3)について取り上げてくれた報道はたぶんなかったと思う。

 それでも、2005年からこれまで二十数回開催されてきている分けだし、政策会議とNISCは粛々とやるべきことをやってきている。三菱重工の報道があって慌てて対策を打ち出したわけではない。来るべきものが来たというだけだ。その三菱重工への攻撃も、これまでのものと特別違っているわけではなく、いろいろな企業に行われてきているものの一部に過ぎない。例えば、経済産業省が7月にとりまとめた「サイバーセキュリティと経済」研究会の中間とりまとめにはそれなりに詳しく書かれている。

 ジャーナリズムの機能は権力のチェックであるから、政府のやることにそれなりに厳しくなるのは分かる。しかし、これまでやってきたことに対する公平な評価があったかどうかという点ではやや不満だ。特に、クルクルと代わる政権側の陣容と、2年ごとのサイクルで代わる官僚側に比べて、政策会議の民間構成員はそれほど入れ替わりが激しくなく、安定している。そこがある程度の継続性を担保している。

 ともあれ、情報セキュリティ政策会議とNISCの認知が高まったことは良かったとしよう。これから何をするかが問われることになるだろう。

梅棹忠夫「情報産業論」

梅棹忠夫「情報産業論」梅棹忠夫『情報の文明学』中央公論新社、1988年、27〜52ページ。

 もともとは『放送朝日』および『中央公論』の載せられた先駆的論文。

 御本人によれば授業はひどいものだったらしいが、文章は分かりやすい。

松尾守之「情報が歴史を変える」

松尾守之「情報が歴史を変える  第118回望星講座」『無限』1993年1月25日。

 7月に東海大学の望星講座で講演させていただいた。その際、東海大学創設者である松前重義が海底ケーブルに大きく貢献したという話になり、何か資料はないかと聞いてみたところ、松尾守之東海大学工学部教授が講演されたときの講演録があるはずということで、わざわざ探して送ってくださった。

 松前は無装荷ケーブルを発明し、1932年に吉田正および篠原登と共著で「長距離電話回線として無装荷ケーブルを用ひたる実験」という論文を発表しているそうだ。1939年に実用化され、東京〜奉天間の3000キロに無装荷ケーブルの長距離電話が開通、ヨーロッパまで延長することを構想していたが、第二次世界大戦で実現しなかったようだ。

Daniel Miller, ”Secret army of 200 homegrown suicide bombers ’plotting to attack Britain’”

Daniel Miller, “Secret army of 200 homegrown suicide bombers ‘plotting to attack Britain,'” Mail Online, October 9, 2011, available at <http://www.dailymail.co.uk/news/article-2047069/200-suicide-bombers-planning-attacks-living-Britain-intelligence-chiefs-warn.html> (access October 13, 2011).

 ロンドン・オリンピックを狙って英国内に2000人の過激派がいて、200人の国産自爆テロリストがいるというのだが、本当かいな。狙われるのはスポーツ・イベント会場ではなく、地下鉄駅などだという。

岡久慶「英国の対国際テロリズム戦略:CONTEST」

岡久慶「英国の対国際テロリズム戦略:CONTEST」『外国の立法』第241号、2009年9月、198〜226ページ。

 英国の対テロ戦略についての解説。戦略的コミュニケーションという点でも興味深い。これは2009年版のCONTESTの解説だが、サイバーテロはまだ脅威ではないと書いてあるのもおもしろい。その後大きく転換している。

田村浩一「法規命令と行政命令」

田村浩一「法規命令と行政命令」大阪市立大学法学会編『法学雑誌』第11巻3・4号、1965年、116〜143ページ。

 かなり古い、日本国憲法下における行政命令を法規命令と対置させて論じている。

 大統領制の下で発せられる米国の行政命令とは位置づけが違うようだ。

Iwakoshi, Futami, and Hirota, ”Quantitative Analysis of Quantum Noise Masking in Quantum Stream Cipher by Intensity Modulation Operating at G bit/sec Data Rate”

Takehisa Iwakoshi, Fumio Futami, and Osamu Hirota, “Quantitative Analysis of Quantum Noise Masking in Quantum Stream Cipher by Intensity Modulation Operating at G bit/sec Data Rate,” SPIE, September 19, 2011.

 先月のジム・ルイス講演会の際に、聴衆の方からいただいた論文。いただいたのはおそらく会議提出版で、まだジャーナル等にはパブリッシュされていないのだと思う。

 その内容については私は評価できる能力にないが、一緒にいただいた玉川大学量子情報科学研究所のプレスリリースを併せて見ると、クラウド・コンピューティングでデータを分散させても、通信中に読み取られては意味がないから、そこを暗号化できるようにしたということらしい。

 暗号通信の利用の拡大が必要という問題意識はずっと持っていて、10月7日に開かれた情報セキュリティ政策会議でも言おうと思っていた。結局、限られた時間(ひとり2分!)の中では言い切れないので別の話をしたが、この点は非公式な場ではずっと言っている。

 暗号通信の開発・利用はこれからも論点の一つとして持っておこう。

佐賀健二「e-APEC Strategy」

佐賀健二「e-APEC Strategy—APEC(アジア太平洋経済協力)の共同IT戦略—」『海外電気通信』2002年9月号、7〜26ページ。

 デジタル・デバイドについてはデジタル・ディビデンド(デジタルの配当)に転換するという議論があったそうだ。

 APECだと枠組みとしては大きすぎるかなあという印象。

横大道聡「国家の安全と市民の自由」

横大道聡「国家の安全と市民の自由—G・W・ブッシュ大統領の大統領命令による軍事委員会の憲法上の問題を中心に—」『法学政治学論究』第66号、2005年9月、355〜388ページ。

 久しぶりに大統領令(大統領命令、行政命令)についての論文。

 慶應の法学研究科の大学院生のための紀要である『法学政治学論究』。私も昔書いたことがある。

 ここで取り上げられている大統領令(DETENTION, TREATMENT, AND TRIAL OF CERTAIN NON-CITIZENS IN THE WAR AGAINST TERRORISM)は、なぜか番号が振られていないようだ(普通はEO12345というような番号が振られる)。

http://www.fas.org/irp/offdocs/eo/index.html

(2001年11月13日のところを参照)

 なぜなんだろう。

 大統領令よりも軍事委員会のほうに力点があるようなので、後半は流し読み。

佐賀健二「アジアにおけるICTを利用した人材育成」

佐賀健二「アジアにおけるICTを利用した人材育成」『海外電気通信』2006年7月号、7〜50ページ。

 人材育成という視点からアジア太平洋島嶼国における国際機関や各国政府の政策を紹介。

 太平洋島嶼国関連では、フィジーの南太平洋大学の取り組みが紹介されている。

佐賀健二「アジア開発途上国のICTインフラ整備の課題と展望」

佐賀健二「アジア開発途上国のICTインフラ整備の課題と展望—アジア・ブロードバンド計画実施に向けての提言—」『海外電気通信』2005年1月号、7〜33ページ。

 太平洋島嶼国も含めたアジアにどうやってブロードバンド・ハイウェーを作るか。

カンボジャ、バングラデシュのように海に面していながらどの光海底ケーブルも陸揚げされていない国や、太平洋島嶼国のように数ある太平洋横断海底ケーブルが、フィジーを除いて全てバイパスし、約20カ国・地域がブロードバンドの幹線網を構成する国際光海底ケーブルを利用できない状況にあり、ブロードバンド接続のボトルネックとなっている。

 パラオについても書いてある。

パラオからヤップを経てグアムに至る光海底ケーブルの敷設提案が提出されているが、建設コストと運用コストが高くパラオの電気通信事業者は敷設に踏み切れない状況にある。

 誰が提案したのだろう。

パラオでは、現在、全ての国際通信回線をインテルサット衛星にアクセスする1基の地球局のみに依存している。

 人工衛星を使った日本のWINDS(Wiredeband InterNetworking engineering test and Demonstration Satellite)への期待も書かれている。

大川恵子「SOI-ASIA Project」

大川恵子「SOI-ASIA Project—インターネットによるアジア諸国の高等教育推進プロジェクト—」『海外電気通信』2006年7月号、51〜60ページ。

 SFCにいるとSOI(School on the Internet Project)の話はしょっちゅう出てくるんだけど、その仕組みはよく知らなかった。

衛星回線は、周囲のインフラ整備レベルに左右されず、比較的短期間で場所を選ばず回線を構築できるという特徴を有したインフラである。衛星回線を利用することにより、地上線の有無に関わらず、島嶼や山間部でもインターネット環境を構築することができ、学生はどのような地域にいても、広帯域なインターネット環境を利用して授業を受けることが可能となる。

 確かに、衛星がすでに打ち上がっていて使えればそれに越したことはない。SOIは衛星を受信のみで使うようにしていて、アジア各国のパートナー校からの発信は128kbps以上の既存のインターネット回線を使うようにしている。例えば、コンテンツをダウンロードしようとするとき、IETFで標準化しているUDLR(UniDirectional Link Routing)を使って、有線でリクエストを出し、衛星経由でコンテンツが落ちてくるようにできる。

 しかし、そもそも有線アクセスのない島嶼国ではやはりこのシステムも難しいのだろうか。

Transformacje

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Motohiro Tsuchiya, “Defense against Cyber Terrorism: Head War and Body War,” Transformacje, Special Issue 2010, pp. 259-267.

2009年2月にニューヨークのISAで発表した際、ポーランドの先生に原稿をくれと言われ、発表原稿をそのまま送ったところ、校正も何も無く、忘れた頃に送られてきた。先生が各所から集めたと思われる多様な論文が収録されていて、けっこう分厚い。

ゼロ年代 日本の重大論点

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土屋大洋「第10章 日本とサイバー安全保障」簑原俊洋編『ゼロ年代 日本の重大論点—外交・安全保障で読み解く—』柏書房、2011年、214〜230ページ。

 こちらも出ました。こちらは夏に原稿締切だったので、比較的早かったですね。

熊坂賢次、山崎由佳「おしゃべりなロングテールの時代」

熊坂賢次、山崎由佳「おしゃべりなロングテールの時代—東京ガールズのネットコミュニティ解析—」慶應義塾大学法学研究会編『法学研究』第84巻6号、2011年6月、501〜530ページ。

 この論文はスキャンダルだと思う。よく『法学研究』が載せたなと。法学部の先生たちの苦虫を噛み潰したような顔が目に浮かぶ。

 媒体選びが間違っているんじゃないかと思ったが、著者たちによれば十時嚴周先生追悼論文集の一環なのだとか。CiNiiで見てみると、比較的柔らかいタイトルが並んでいるので、この号が法学研究としては例外的なのかな。

 案外、「柔らかい構造化手法」を参照するための論文として多々引用されるかもしれない。

宇高衛「開発途上国における競争環境下での電気通信インフラ整備資金調達」

宇高衛「開発途上国における競争環境下での電気通信インフラ整備資金調達—ユニバーサル・サービス基金の可能性について—」『海外電気通信』2005年1月号、34〜49ページ。

 開発途上国が通信インフラの整備を進める場合、内部相互補助、免許条件による地域網整備の義務づけ、赤字補填負担金、ユニバーサル・サービス基金の四つの方法があると指摘。ペルーとマレーシアを事例に検証している。

 国内インフラの整備にはその通りだと思うのだが、海底ケーブルを引く際にはどれも使えないような気がする。どうだろう。

佐賀健二「太平洋島嶼国・地域のICT政策・戦略計画」

佐賀健二「太平洋島嶼国・地域のICT政策・戦略計画」『海外電気通信』2003年2月号、28〜33ページ。

論文というほどの分量はなく、最初のページに著者の解説があり、残りは文書の要約(翻訳?)になっている。

太平洋地域組織協議会(CROP:Council of Regional Organizations of the Pacific)という組織があるらしい。まったくもってこういう地域機構は多すぎてよく分からない。このCROPは、22の太平洋島嶼国・地域が加盟する8地域組織(太平洋島嶼開発計画、太平洋島嶼フォーラム、太平洋島嶼電気通信協会、南太平洋観光機構、南太平洋地域環境計画、南太平洋大学など)の連合体だという。

このCROPが太平洋島嶼国・地域共同のICT政策・戦略計画を合意し、発表した。その内容の紹介になっている。

おそらく、米国議会図書館で見つけたパラオのICT戦略というのは、これを契機に作られたものなのだろう。二つの文書の内容は似ている気がする。

インフラ開発についてもやはりあっさりしていて、戦略2.1.1での行動計画で「太平洋島嶼国地域をループ上に結ぶブロードバンド海底ケーブル敷設の調査」と書いてあるだけである。「調査」で、敷設そのものではない。及び腰だなあ。

平野義太郎「南進據點としての南洋群島」

平野義太郎「南進據點としての南洋群島—最近の南洋・フィリピッン情況を視察して—」『太平洋』第4巻8号、1941年、2〜17ページ。

 これも同じような趣旨のもの。

南洋群島の外南洋とは、セレベス以東の南太平洋である。パラオに南洋廳を置いた先覺は確かに明があった。濱田中將の「成長の尖端」がすなはちパラオである。

 平野義太郎はマルクス主義法学者だったそうな。

 濱田中將とは何者だろう。