熊坂賢次、山崎由佳「おしゃべりなロングテールの時代」

熊坂賢次、山崎由佳「おしゃべりなロングテールの時代—東京ガールズのネットコミュニティ解析—」慶應義塾大学法学研究会編『法学研究』第84巻6号、2011年6月、501〜530ページ。

 この論文はスキャンダルだと思う。よく『法学研究』が載せたなと。法学部の先生たちの苦虫を噛み潰したような顔が目に浮かぶ。

 媒体選びが間違っているんじゃないかと思ったが、著者たちによれば十時嚴周先生追悼論文集の一環なのだとか。CiNiiで見てみると、比較的柔らかいタイトルが並んでいるので、この号が法学研究としては例外的なのかな。

 案外、「柔らかい構造化手法」を参照するための論文として多々引用されるかもしれない。

宇高衛「開発途上国における競争環境下での電気通信インフラ整備資金調達」

宇高衛「開発途上国における競争環境下での電気通信インフラ整備資金調達—ユニバーサル・サービス基金の可能性について—」『海外電気通信』2005年1月号、34〜49ページ。

 開発途上国が通信インフラの整備を進める場合、内部相互補助、免許条件による地域網整備の義務づけ、赤字補填負担金、ユニバーサル・サービス基金の四つの方法があると指摘。ペルーとマレーシアを事例に検証している。

 国内インフラの整備にはその通りだと思うのだが、海底ケーブルを引く際にはどれも使えないような気がする。どうだろう。

佐賀健二「太平洋島嶼国・地域のICT政策・戦略計画」

佐賀健二「太平洋島嶼国・地域のICT政策・戦略計画」『海外電気通信』2003年2月号、28〜33ページ。

論文というほどの分量はなく、最初のページに著者の解説があり、残りは文書の要約(翻訳?)になっている。

太平洋地域組織協議会(CROP:Council of Regional Organizations of the Pacific)という組織があるらしい。まったくもってこういう地域機構は多すぎてよく分からない。このCROPは、22の太平洋島嶼国・地域が加盟する8地域組織(太平洋島嶼開発計画、太平洋島嶼フォーラム、太平洋島嶼電気通信協会、南太平洋観光機構、南太平洋地域環境計画、南太平洋大学など)の連合体だという。

このCROPが太平洋島嶼国・地域共同のICT政策・戦略計画を合意し、発表した。その内容の紹介になっている。

おそらく、米国議会図書館で見つけたパラオのICT戦略というのは、これを契機に作られたものなのだろう。二つの文書の内容は似ている気がする。

インフラ開発についてもやはりあっさりしていて、戦略2.1.1での行動計画で「太平洋島嶼国地域をループ上に結ぶブロードバンド海底ケーブル敷設の調査」と書いてあるだけである。「調査」で、敷設そのものではない。及び腰だなあ。

平野義太郎「南進據點としての南洋群島」

平野義太郎「南進據點としての南洋群島—最近の南洋・フィリピッン情況を視察して—」『太平洋』第4巻8号、1941年、2〜17ページ。

 これも同じような趣旨のもの。

南洋群島の外南洋とは、セレベス以東の南太平洋である。パラオに南洋廳を置いた先覺は確かに明があった。濱田中將の「成長の尖端」がすなはちパラオである。

 平野義太郎はマルクス主義法学者だったそうな。

 濱田中將とは何者だろう。

平野義太郎「太平洋制覇戰におけるハワイ・グアム・比島攻撃の意義」

平野義太郎「太平洋制覇戰におけるハワイ・グアム・比島攻撃の意義—故加藤寛治大将を憶ふ—」『太平洋』第5巻1号、1942年、37〜49ページ。

 戦時中、日本が太平洋をどう考えていたかが分かる。

アメリカは支那・蘭印を支配せんがために、太平洋を制覇せんとする野望を懐き、ハワイ、ミッドウェー、ウェーク、グァムから比島に出る中央侵略路線、アラスカのダチハーバー、アリューシャン列島キスカよりする北方路線[、]ハワイ、パルミラ、フェニックス、サモア、ニューギニアよりする南方路線上に莫大な經費を使つて軍事根據地を構築し、われら大東亜共榮圏の建設を破壞せんとした。だから、この米國攻勢に對して、我が日本は自存自衞、そして大東亜共同防衞のために、決然、蹶起してこの米英の侵攻據點と軍事基地とを撃滅しつゝある。

 勇ましい。旧字体は面倒くさい。

鈴木經勳「明治十七年マーシャルに使して」

鈴木經勳「外交秘話 明治十七年マーシャルに使して—ヤルート三十二島占領の思ひ出—」『南洋群島』第2巻4号、1936年、32〜39ページ。

 後藤象二郎の息子である後藤猛太郎と一緒にマーシャル諸島に行った外務省翻訳官のインタビューを再構成したもの。なかなかおもしろい逸話が盛り込まれている。

佐賀健二「アジア太平洋地域における電気通信政策の現状と課題」

佐賀健二「アジア太平洋地域における電気通信政策の現状と課題」『亜細亜大学国際関係紀要』第1巻1号、1991年、117〜149ページ。

 まだインターネットが世の中に普及する前の論文なので、インターネットは一言も出てこない。また、「太平洋地域」とあるが、取り上げられているのはニュージーランドとオーストラリアで、太平洋島嶼国は出てこない。パラオはまだ独立もしていない。

 メイトランド委員会によるThe Missing Linkの背景が書いてあるのはありがたい。この報告書はもう一度読み直したい。

 また、結論部分で、BOT(Build, Operation and Transfer)方式を活用せよと提言してある。この論文後の20年間で実際にどうなったかは検証に値するだろう。

 「先進国の電気通信市場にますます民間資金が集中し、開発途上国に資金が回らないこと」が懸念されているが、この傾向はいまでも続いている。

佐賀健二「わが国のIT国際協力」

佐賀健二「わが国のIT国際協力—戦略の動向と展望—」『ITUジャーナル』第34巻3号、2004年3月、43〜47ページ。

 2000年の沖縄サミットの際に日本政府は150億ドルの支援を明言したが、実際にはそれほどの規模で行われることはなかった。

問題は、包括的協力策を発表して以来、わが国が具体的なIT国際協力戦略と行動計画を持っていないところにあるのではないか。

 これ以降もどんどん日本のIT国際協力は減少してしまっている。得意分野のはずなんだけどなあ。さらに、

わが国の伝統的なODAの枠組みは、ODAやOOFを活用したIT分野の国際協力の実施に適合しないものがある。

という指摘もされている。

Republic of Palau, 5-Year ICT Plan

Republic of Palau Communication Information Technical Advisory Group (CITAG), 5-Year ICT Plan, January 2003. (LOC Call Number: HC 79.I55 P35 2003 Copy 1)

 オンラインで見つからなかったので、TPRCの合間に米国議会図書館でコピーしてきた。閉架式なので出てくるのに2時間半もかかった。

 海底ケーブルについては

Review, make recommendation and identify potential funding sources for connecting the Republic of Palau to an appropriate international fiber optic cable (p. 2)

としか書いてない。私が考えすぎなのか、パラオの認識が甘いのか。国際回線を確保しないで国内の話をいくらしても意味ないんじゃないだろうか。これを書いた人にインタビューしてみたい。S先生はアドバイザーだったのだろうか。

比較ガバナンス

20110926161703p:image

土屋大洋「グローバル・ガバナンスとインターネット・ガバナンス—プラットフォーム化する国家—」大山耕輔編『比較ガバナンス』おうふう、2011年、121〜140ページ。

 ようやく出ました。

廣瀬淳子「アメリカ連邦公務員の天下り規制」

廣瀬淳子「アメリカ連邦公務員の天下り規制―オバマ政権の倫理制約に関する大統領令―」国立国会図書館調査及び立法考査局編『外国の立法』第241号、2009年9月、3〜7ページ。

 これも大統領令に関する論文。オバマ大統領が就任初日に出した大統領令について。

Missing In the Midst of Abundance

Mito Akiyoshi, Motohiro Tsuchiya, Takako Sano, “Missing In the Midst of Abundance: The Case of Broadband Adoption in Japan,” The 39th Research Conference on Communication, Information and Internet Policy, Arlington VA, United States, September 24, 2011.

 TPRCで発表。TPRCはもともとは、Telecommunications Policy Research Conferenceの略だったのだけど、最近はResearch Conference on Communication, Information and Internet Policyになった。しかし、通称はいまだにTPRCのまま。

 総務省情報通信政策研究所から支援を受けた行った共同研究の成果発表。なぜ安いブロードバンドが使えるようになっているのに、日本のブロードバンド利用率はそれほど高くないのか(OECDで16番目)について分析。

廣瀬淳子「大統領記録の公開」

廣瀬淳子「大統領記録の公開―大統領記録法とオバマ政権の大統領記録に関する大統領令―」国立国会図書館調査及び立法考査局編『外国の立法』第240号、2009年6月、76〜79ページ。

 これも大統領令に関するもの。

紙野健二「アメリカにおける総合調整の法的検討」

紙野健二「アメリカにおける総合調整の法的検討—大統領命令12291号をめぐって・1—」『法律時報』第59巻3号、1987年、65〜70ページ。

紙野健二「アメリカにおける総合調整の法的検討—大統領命令12291号をめぐって・2—」『法律時報』第59巻5号、1987年、83〜92ページ。

紙野健二「アメリカにおける総合調整の法的検討—大統領命令12291号をめぐって・3完—」『法律時報』第59巻7号、1987年、60〜64ページ。

 アメリカの大統領令(大統領命令、行政命令)についての論文。レーガン大統領が出した12291号について検討。

 その1論文の67ページが大統領令の理解に役立つ。

 大統領は憲法または制定法にもとづいて一定の立法的作用を行う。通常これらは、大統領命令と大統領布告(Presidential Proclamation)とに大別されるが、要するに大統領命令とは、大統領がそのようなものとして制定公布するものをいうにすぎない。右のいずれも1935年の連邦公事録法により連邦公事録に記載される。大統領命令は、号数によって呼ばれるが、それは1907年以降のことにすぎず、またその数字すら右以降の正確な件数を示しているわけでもない。また、後者が大統領の政策表明の際の規範形式であるのに対して、前者は法的拘束力を有するものといわれることがあるが、実際には大統領命令の内容と法的性格は多岐にわたり、両者の区別は画然とはしていない。

 あの番号はいい加減だったのか。

 しかし、法律の論文というのは長いよなあ。

中露等が国連に情報セキュリティ国際行動規範案を提出

 北京に行ってヒアリングをしたとき、相手側から3枚の紙を渡された。9月12日に中国、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンの4カ国が国連に提出した情報セキュリティ国際行動規範の案である。

http://news.xinhuanet.com/english2010/china/2011-09/13/c_131134484.htm

(新華網)

http://www.wired.co.uk/news/archive/2011-09/21/code-of-conduct

(Wired UK)

原文は各国にある中国大使館のウェブに載っている。

http://www.chinaembassy.nl/eng/zgyw/t858978.htm

(在オランダ中国大使館)

中露が敵対的行為に情報技術を使うなというのは、ちょっと常識的にはおかしな感じがするが、政治的なポーズなんだろうか。ロシアが数年前から国連で何かを作ろうとしていたのは確かだ。採択はされるのだろうか。

https://web.sfc.keio.ac.jp/~taiyo/wordpress/?p=4562

(ジュネーブのセミナーの話)

ふるまいよしこ『中国新声代』

ふるまいよしこ『中国新声代』集広舎、2010年。

 ふるまいさんにはずいぶん前に北京でお会いしたことがあり、ツイッターで大活躍されているのを見て(GLOCOMの庄司さんや猪狩さんとも親しくされている)、またお会いしようと思った。久しぶりにお会いしてみて、前回お会いしたのは10年前の2001年11月だと分かり、とてもびっくり。

 最近いろいろ言われるそうだが、「ふるまいよしこ」というのは本名をひらがなにしただけとのこと。ご両親も意識していたわけではないらしい。

 北京行きの飛行機の中で読み始めたが、かなり分厚くて、お会いするまでに全部は読めなかったが、その後も読み続けた。内容は18人の中国・台湾・香港のとんがった人たちとのインタビュー。ふるまいさんの強烈な個性で切り込んでいったり、うまく波長が合ったり、あるいはずれてしまったりしているのがおもしろい。いずれの人たちも、単純化されたマスコミの報道では分からない中国の新しいメッセージを伝えている。

 なんと出版社のウェブサイトでまるまる一人分が読める。

http://www.shukousha.com/free/pdf/400/

廣瀬淳子「オバマ政権の大統領行政府とホワイトハウスの機構」

廣瀬淳子「オバマ政権の大統領行政府とホワイトハウスの機構—アメリカにおける行政機関の再編—」国立国会図書館調査及び立法考査局編『外国の立法』第246号、2010年12月、3〜6ページ。

 アメリカ大統領は立法に頼らず大統領令によって勝手にいろいろなことをやってしまうのが不思議で、関連する論文をいくつか集めた。その最初。

 論文としては短いが、後ろに関連法規の訳文が載せられているので便利。

 大統領はかなりホワイトハウスの機構については裁量権を持っているようだ。

福島康仁「宇宙利用の拡大と米国の安全保障」

福島康仁「宇宙利用の拡大と米国の安全保障—宇宙コントロールをめぐる議論と政策—」戦略研究学会編『戦略研究』第9号、2011年3月、23〜38ページ。

 福島君は防衛研究所教官をしながら、政策・メディア研究科後期博士課程で博士論文を書いている。この論文は半年ぐらい前に抜き刷りでもらっていたけど、読む時間がなかった。宇宙は私の研究テリトリーではないけど、某学会で宇宙についても発表しなくてはいけなくなったので、出張の機内で読む。

 ブッシュ政権からオバマ政権に代わって、宇宙コントロールという言葉は使われなくなっているらしい。グローバル・コモンズとしての宇宙を重視する姿勢が見えてきている。注がたくさん付いているので、後からたどるのに便利だ。

 私に宇宙のことを学会で話せという依頼が来たのは、アウタースペース(宇宙)とサイバースペースという二つの空間(スペース)に米国が関心を示しているからで、それに共通する点があるのかないのか、これはちょっとした知的チャレンジだ。