速水融「日本の資源、森を見失うことなかれ」

速水融「日本の資源、森を見失うことなかれ——林業についての近著に思うこと」『三田評論』2013年1月号、102〜105ページ。

 先日、前任地がドイツだったという外交官と話す機会があった。「もはやドイツから学ぶことはないと思っていたけど、ドイツの林業のマネジメントはすばらしかった」と言っていた。

 その話と符合する速水先生の林業解説。タイトルからして林業の本を書かれたのかと思ったがそうではなかった。他人の著作を紹介しながらの評論。

 日本の森林資源は減っていないものの、活用もされていない。林業の活性化には山勘ではなく、現代的なマネジメントが必要。しかし、数十年単位の投資みたいな林業は、数代にわたって継承していかないといけない。

 速水先生の専門は人口論。人口論と林業論は通じるところがあるそうだ。

 そういえば、近い専門の同僚がドイツに留学していることも思い出した。

 日本にとって森林は有利な資源。うまくマネジメントし続ければ再生可能。でも普通にしていては安い輸入木材に負けてしまう。

 常々、一次産業のIT化が必要だと思って来た。農業へのITの利用は進んできている。農業情報学会なんてのもある。林業のIT利用はどんな学会で議論しているのだろう。

嶋田晴行「アフガニスタンの治安安定への課題」

嶋田晴行「アフガニスタンの治安安定への課題—外部依存による治安部門の脆弱性—」『アジア研究』第56巻3号、2010年7月、45〜58頁。

 ボブ・ウッドワードの『ブッシュのホワイトハウス』や『オバマの戦争』を読むと、イラクとアフガニスタンにおいては、戦争よりも、大規模な戦闘が終わった後の治安維持にアメリカ政府が悩んでいることが分かる。ウッドワードは背景的な説明をほとんどしないでアクターに語らせるという書き方だから、背景が分かっていないと分かりにくい。

 2009年12月のオバマのアフガニスタン増派について、ウッドワードはものすごいページ数を使って解説しているが、この論文ではわずか1段落。しかし、その背景はこちらのほうがよく分かる。

春名幹男「米国のサイバー戦略」

春名幹男「米国のサイバー戦略」『海外事情』2011年7・8月号、109〜124頁。

 タイトルの内容は後半のみ。前半は尖閣のビデオ流出、警視庁公安部の情報流出、ウィキリークスの話。

中岡まり「中国地方人民代表大会選挙における『民主化』と限界」

中岡まり「中国地方人民代表大会選挙における『民主化』と限界—自薦候補と共産党のコントロール—」『アジア研究』第57巻2号、2011年4月、1〜18頁。

 中国の選挙というのは頭の中に「???」がいっぱい付いてしまう。

 それと、「工作」とか「工程」っていうのはどんな意味で使うのだろう。どうも日本語の語感と違う気がする。

ロナルド・ケスラー『FBI秘録』

ロナルド・ケスラー(中村佐千江訳)『FBI秘録』原書房、2012年。

 フーバー長官からビン・ラディン急襲まで、FBIの極秘捜査の手法がこれでもかと明らかにされていておもしろい。FBI長官にもインタビューし、その他の現場の人物たちから生の証言をとっている。

デイヴィッド・ワイズ『中国スパイ秘録』

デイヴィッド・ワイズ(石川京子、早川麻百合訳)『中国スパイ秘録—米中情報戦の真実—』原書房、2012年。

 どぎつくやっているなあというのが感想。

 FISA(Foreign Intelligence Surveillance Act)の実際の運用についていくつも記述があるのがとても参考になる。

 最終章はサイバーセキュリティを扱っているが、これはあっさりとしている。

ボブ・ウッドワード『ディープ・スロート―大統領を葬った男―』

ボブ・ウッドワード(伏見威蕃訳)『ディープ・スロート―大統領を葬った男―』文藝春秋、2005年。

 つい最近のことと記憶していたけれども、発行されたのは7年も前。7年間も「つん読」状態になっていた。

 「ディープ・スロート」は言うまでもなく、ウォーターゲート事件でワシントン・ポスト紙の情報源となった人物のこと。実際にはFBI副長官だったマーク・フェルトであった。彼は、長くFBI長官として君臨していたフーバーの後継をねらっていたが、そうはならなかったという事情がある。

 当時と2000年以降の裏事情を説明した本。

 しかし、晩年のフェルトが記憶をかなり失ってしまい、2008年に亡くなってしまったので、全容は分からなくなってしまった。

ボブ・ウッドワード『ディープ・スロート―大統領を葬った男―』

ボブ・ウッドワード(伏見威蕃訳)『ディープ・スロート―大統領を葬った男―』文藝春秋、2005年。

 つい最近のことと記憶していたけれども、発行されたのは7年も前。7年間も「つん読」状態になっていた。

 「ディープ・スロート」は言うまでもなく、ウォーターゲート事件でワシントン・ポスト紙の情報源となった人物のこと。実際にはFBI副長官だったマーク・フェルトであった。彼は、長くFBI長官として君臨していたフーバーの後継をねらっていたが、そうはならなかったという事情がある。

 当時と2000年以降の裏事情を説明した本。

 しかし、晩年のフェルトが記憶をかなり失ってしまい、2008年に亡くなってしまったので、全容は分からなくなってしまった。

ジョージ・W・ブッシュ『決断のとき』

ジョージ・W・ブッシュ(伏見威蕃訳)『決断のとき』(上・下)日本経済新聞社、2011年。

 ウッドワードの一連のブッシュ政権内幕ものと内容は一致しているところが多いが、強弱の付け方や記述の厚みの付け方はずいぶん違う。意外なところが詳しく書いてあり、興味深い。私が知りたいFISA(Foreign Intelligence Seruveilannce Act)についてもそれなりに書いてある。

 それにしても、キリスト教への信仰によって政治が動かされていたということが印象に残る。

ウッドワードもの

ボブ・ウッドワード(伏見威蕃訳)『ブッシュのホワイトハウス(上・下)』日本経済新聞社、2007年。

ボブ・ウッドワード(伏見威蕃訳)『オバマの戦争』日本経済新聞社、2011年。

 できれば毎日一本は専門の論文を読みたいと思っていて、なるべくこのブログで記録しようと思っている。それなりに読んでいるけど、記録する手間を惜しんでしまう。

 論文ではないけれども、最近は気分を変えたくて、仕事帰りのバスと電車の中で上記の3冊を読んでいた。『ブッシュのホワイトハウス』はかなり評判が良くて、原著発売直後に買っていたけれども、どこかに行ってしまい、そのうち翻訳が出るからいいやと思っていたら読み損ねていた。

 評判通り、『ブッシュのホワイトハウス』はおもしろい。さんざんインタビューに応じたと思われるラムズフェルド国防長官がぼろくそに書かれていて気の毒でもある。同じ著者による『ブッシュの戦争』や『攻撃計画』と重なる部分もあり、つながっている本でもある。

 ただ、『ブッシュの戦争』と『攻撃計画』でブッシュ政権がぼろくそに書かれたこともあり、『ブッシュのホワイトハウス』についてはブッシュ大統領はインタビューに応じなかったようだ。

 その後、『オバマの戦争』を読み始めたら、ラムズフェルド国防長官が解任されたシーンが出てこない。翻訳されていないけれども、『ブッシュのホワイトハウス』と『オバマの戦争』の間には、

Bob Woodward, The War Within: A Secret White House History 2006-2008, New York: Simon & Schuster, 2008.

というのが出ていた。しまった。慌てて手に入れたが読めていない。

 翻訳されなかったのはおもしろくなかったからだろうか。

 そのまま『オバマの戦争』を読み終えたが、こちらはアフガニスタンへの米軍増派のプロセスが延々と書かれていて、いまいちおもしろくない。ラムズフェルドやコリン・パウエル国務長官、コンドリーザ・ライス安全保障担当補佐官、ジョージ・テネットといった役者が揃っていないからか。それに比べてオバマ政権の閣僚たちはいまいち小物だ。この本の出版時点ではオサマ・ビン・ラディン殺害も起きていない。

 オバマ大統領への直接のインタビューは1時間ほどだったようだ。ネタもとはジョーンズ補佐官や軍関係者なのだろうか。しかし、軍の将軍たちがどうしようもない存在として描かれている。

 ただ、この本の冒頭で描かれているブッシュ政権からオバマ政権への移行プロセスと、インテリジェンスの役割については非常におもしろいので、授業でも使おうと思う。

 The War Withinに戻らないで、今はブッシュ大統領の回顧録『決断のとき(上・下)』を読んでいる。当然ながらウッドワードの視点とは全然異なる。読み比べるとおもしろい。特に、ブッシュが信仰によって強く支えられているという点が印象的だ。

井出明「東日本大震災における東北地域の復興と観光について」

井出明「東日本大震災における東北地域の復興と観光について—イノベーションとダークツーリズムを手がかりに—」『運輸と経済』第72巻第1号(2012年1月)、24〜33ページ。

 誰かが手渡してくれた(誰だっけ?)井出先生の論文。いろいろ参考になる。キーワードはダークツーリズム。死や災害といった人間にとってつらい体験をあえて観光対象とする新しい観光のカテゴリーなのだそうだ。日本では広島の原爆ドームや沖縄のひめゆりの塔、水俣などがあてはまるらしい。福島など東北は、今回の経験を長期的にはダークツーリズムへと転換させてはどうかと提言している。

壊れた北京コンセンサス

Christopher K. Johnson, “Beijing’s Cracked Consensus: The Bo Scandal Exposes Flaws in China’s Leadership Model,” Foreign Affairs, April 18, 2012.

 著者は元CIAで現在はCSISの中国研究のチェア。今話題になっている中国のスキャンダルのインパクトを解説している。胡錦濤から周近平への政権移行とも密接に関連しているらしい。胡錦濤が北京とワシントンとの間に「戦略的不信」を生み出したという指摘はおもしろい。

薬師寺泰蔵「技術革新と国際システムの変容—動学分析へ向けて—」

薬師寺泰蔵「技術革新と国際システムの変容—動学分析へ向けて—」『国際問題』第274号(1983年1月)2〜20ページ。

 学部生、大学院生の頃に何度も読んだ論文だけど、来週の大学院のゼミ(SFCでは「大学院プロジェクト」と呼ぶ)で輪読文献にしたので、読み直す。今にも通じる論点があっておもしろい。でも、初めて読む人にはさっぱり分からないかもしれないなあ。

勇気のハック

Yochai Benkler, “Hacks of Valor: Why Anonymous Is Not a Threat to National Security,” Foreign Affairs, April 4, 2012.

 Wealth of Networksなどで知られる経済学者のヨーハイ・ベンクラーがForeign Affairsに書いている(彼のファースト・ネームは「ヨーハイ」だと思っていたけど、別の読み方をしているのもある。どうなんだろう)。クレイ・シャーキー(Clay Shirky)が書いたときも驚いたけど、ベンクラーまで書く時代になった。

 この論考でベンクラーは、米国にとって脅威とレッテルを貼られているアノニマスは、必ずしも悪ではなく、インターネットの自由を守ったり、政府や大企業のパワーの濫用に抗議するなど、彼らなりの正義を追求しているのであって、一概に責めるべきではないと論じている。

 そして、アノニマスは、ネットワーク的、民主的な社会におけるパワーの新しい中核的な側面を見せているとも指摘している。

高田義久、藤田宜治「太平洋島嶼国におけるデジタル・デバイド解消に向けての方向性」

高田義久、藤田宜治「太平洋島嶼国におけるデジタル・デバイド解消に向けての方向性—基幹通信ネットワークの整備について—」『情報通信学会誌』第101号(第29巻4号)、2012年3月、87〜101ページ。

 太平洋島嶼国の課題についてまとめてある。この地域における衛星通信の現状について勉強になった。

伊藤孝治「国威の代償—世紀転換期のハワイをめぐる日米対立の一解釈—」

伊藤孝治「国威の代償—世紀転換期のハワイをめぐる日米対立の一解釈—」『アメリカ研究』第46号、2012年3月、33〜50ページ。

 『アメリカ研究』第46号に掲載されたいた論文。ちょうどハワイのこと、セオドア・ルーズベルトのことには興味があったので読む。日本はハワイを併合するつもりはなかったけれども、国威を傷つけられたのに憤慨してハワイに戦艦を送ってしまい、それが米国の疑念を呼び起こして、米国がハワイを併合してしまうという話。ストーリー自体は各所で書かれていると思うが、この論文は日米双方の資料に当たって裏をとっている。

 国威を傷つけられるのを嫌がるというのは今の中国と重なるなと思う。若い国家とはそのようなものなのだろうか。

 論文の本筋ではないのだけど、ハワイの人口に関する記述が気になる。

  • 34ページ 「1896年時点のハワイの全人口は約11万人だったが、そのうちのおよそ2万4000人が日本人であり、ハワイの全人口の約22パーセントを占めていた。」
  • 35ページ (1893年3月頃?)「ハワイの約9万5000人の全人口のうち約2万人を占める日本人」
  • 36〜37ページ (1897年3月から4月?)「ハワイの人口の約4分の1を占める2万6000人の日本人」

 時間順に並べれば増えているので、それほどおかしくないのだけど、1893年3月に約2万人だった日本人が3年後の1896年に2万4000人になるのは、移民が数千人規模で入っていたということなのだろうか。翌年にはさらに2000人増えて2万6000人になる。ハワイの総人口も3年で2万5000人増えている。これらの数字が正しいとすると、急激な社会変革がハワイで起きていたことになるだろう。それだけの移民が各国からやってきたらネイティブが受けるプレッシャーは大きかったに違いない。

矢口祐人『ハワイの歴史と文化』

矢口祐人『ハワイの歴史と文化』中公新書、2002年。

 これもハワイ本。日本からの移民の苦難の歴史、日本におけるハワイのイメージや、フラが単なるダンスではない点などを詳しく論じている。

山中速人『ハワイ』

山中速人『ハワイ』岩波書店、1993年。

 ハワイに行く際に読んだ。ハワイについての本としては定番のようだ。通俗的なハワイのイメージの背景にあるものを教えてくれておもしろい。アメリカによるハワイ併合についてもようやく理解した。海底ケーブルがハワイに接続されたのも併合と前後していて興味深い。

 執筆当時、著者は放送教育開発センター助教授だったが、現在は関西学院大学教授のようだ。

小林泉『ミクロネシアの小さな国々』

小林泉『ミクロネシアの小さな国々』中公新書、1982年。

 論文でもないし、今日読んだわけでもないがメモ。

 パラオを含めてミクロネシアの国々について書いてある。まだパラオは本書の執筆時点で独立していない。ヤップなど他の国々も、たぶんここで描かれているのとはずいぶん様子が変わったのではないだろうか。だからこそ、ここでの記述は貴重でおもしろい。

 今まで見過ごしていたけど、著者はミクロネシア研究、太平洋島嶼国研究の第一人者の一人(変な言い方だけど)なんだろうと思う。執筆当時は日本ミクロネシア協会常務理事とのことだが、現在は大阪学院大学教授のようだ。そして、同協会は太平洋諸島地域研究所に変わっている。ここには図書室があるようなので、今度訪問してみる。