ネットワーク中立性

二人の友人がそれぞれネットワーク中立性について本を書いた。

一人目はChris Marsden。この本にはクリエイティブ・コモンズのライセンス(Attribution Non-Commercial)が付いていて、PDFで配布されている。長すぎて私はまだ読めていない。

Chris Marsden, Net Neutrality: Towards a Co-regulatory Solution, London: Bloomsbury Academic, 2010. (PDFファイルがダウンロードされます。)

彼のブログでアップデートも行われているそうだ。

もう一人は九州大学の実積寿也先生。一昨年のITSでの報告がベースになっており、本の中の1章として収録されるそうだ(5月刊行予定)。

Toshiya Jitsuzumi, “Efficiency and Sustainability of Network Neutrality Proposals,” Anastassios Gentzoglanis and Anders Henten, eds., Regulation And The Evolution Of The Global Telecommunications Industry, Cheltenham Glos: Edward Elgar, 2010.

私も頑張ろう。刺激になる。

グリーン

今日、総務省の会議に出たら、みんな「グリーン」「グリーン」と言っていた。2年前に産経新聞のコラムに書いたときは、そんなのおもしろくないと言われたのになあ。ちょっと悔しいからここに載せておこう。

土屋大洋「グリーン・ブロードバンド」『産経新聞』(2008年1月9日)。

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東アジアの国際関係

20091216east_asia.jpg大矢根聡編『東アジアの国際関係—多国間主義の地平—』有信堂、2009年12月16日、本体3900円+税、ISBN978-4-8420-5564-0

「第3章 世界情報社会サミットと中国外交——インターネット・ガバナンスをめぐる単独主義?」(72〜96頁)担当。

2006年10月に日本国際政治学会で発表したペーパーが本に収録されました。脱稿後に大きな動きがあり、追記という形になってしまったのが残念。

インターネットの話が国際政治学の枠組みですんなり取り入れてもらえるようになったのは時代の変化ですね。ありがたいことです。

他の執筆陣は以下のようになっています。

序章 東アジア地域協力の展開——多国間主義の視点による分析へ:大矢根聡

第1章 中国の多国間主義:現実的リベラリズム?——「中国の台頭」下における新たな役割の模索:浅野亮

第2章 貿易分野における中国の多国間主義——「協力と自主」の現れとしてのWTO対応:川島富士雄

第3章 世界情報社会サミットと中国外交——インターネット・ガバナンスをめぐる単独主義?:土屋大洋

第4章 多国間主義とインド外交——核保有と経済成長:竹中千春

第5章 大国化するインドにおける多国間主義の動揺——現代「実利」外交の展開:伊藤融

第6章 韓国におけるFTA戦略の変遷——多国間主義の推進と挫折:磯崎典世

第7章 タイの多国間主義外交——経済外交の変化と持続:永井史男

第8章 オーストラリア対外経済政策の転換——多国間主義から二国間主義へ:岡本次郎

第9章 ASEAN外交の改革と東アジア共同体の功罪——政府志向の多国間主義から市民志向の多国間主義へ:勝間田弘

第10章 アメリカの多国間主義をめぐるサイクル——消極的関与と急進的追求の振幅とその背景:大矢根聡

クラウドのジレンマ

Wikinomiksの中でDon TapscottとAnthony Williamsは、「つながったものだけが生き残るだろう(only the connected will survive)」と言っている。Anne-Marie Slaughterはフォーリン・アフェアーズに掲載された”America’s Edge: Power in the Networked Century”の中で政府も例外ではないとしている。

日本でも今年6月に発表された総務省の「ICTビジョン懇談会報告書」でも「霞が関クラウド」が提唱されている。

国においては、各府省の情報システムの最適化をさらに進めていく必要がある。情報システムの効率化・費用低廉化に向け、クラウドコンピューティング技術等の最新の技術を活用し、可能なものから順次システムの統合化・集約化などを図る「霞が関クラウド」の構築を進めるべきである

しかし、政府が本格的にクラウド・コンピューティングに乗り出すとなると、セキュリティの問題がどうしても浮かび上がってくる。情報は共有されればされるほどブリーチのリスクにさらされる。

21世紀を生き残るためには政府もまたネットワークの中で生き残らなくては行けない一方で、そのネットワークが政府の業務をリスクにさらす。これは「クラウドのジレンマ」と言ってもいいだろう。

無論、このジレンマは政府だけではなく、プライバシー情報などを扱う企業にもある。しかし、国家機密が流出する危機ほど大きなインパクトはないだろう。単純に国家機密はネットワークに載せないというのが正解だろうが、情報の仕分けは新たな業務を作り出すことになり、業務改善に逆行する。

政府はすべてを縦割りにし、階層構造にすることで成立してきた。ネットワークの導入は政府の組織に変更を迫ることになる。霞が関クラウドはそうした長期的インパクトを作り出すことになるのだろうか。そこまで深遠な意図を持って構築されるのだろうか。

League of Cyberspace Nations

ドメイン・ネームとIPアドレスを管理するICANNが、米国政府(だけ)の手を離れて、各国政府との関係を結ぶという決定を下した。これはインターネットの歴史の中では大きな出来事で、きっと年表に中には書かれることになるだろう。

インドの友人がわかりやすいコラムを書いたので紹介。

Subimal Bhattacharjee, “League of Cyberspace Nations,” livemint.com (October 7, 2009).

民主主義の同盟なんて言葉がはやっているけど、サイバースペース国家の同盟だそうだ。

【追記】前村さんのエントリーも参考になりますね。

GLOCOMフォーラム

前の職場でもあり、客員研究員をさせてもらってもいるGLOCOMのフォーラムが久しぶりに開かれる。

もう残席わずからしいので、お申し込みはお早めに。

http://sites.google.com/site/glocomforum09/

私はこの日、どうしても参加できない。とても残念。

私がGLOCOMに入った年は確か軽井沢でGLOCOMフォーラムがあり、刺激的な議論があったのを覚えている。今年は都内なのでアクセスが良い。行きたいなあ。

ICPC

2004年から秘密結社のように開かれてきたICPCですが(別に秘密じゃありませんが)、今年もやります。まだプログラムが固まっていません。もうすぐ固まると思います。

http://www.icpc.gr.jp/meetings/200905.html

春の会合はどなたでも参加しやすいように都内でやるようにしています。ご興味のある方はウェブから申し込んでください。今回は慶應の三田キャンパスで開催です。

http://www.icpc.gr.jp/meetings/200905form.html

インターネットの未来

インターネットの未来に関する議論が世界中で始まっている。IPアドレスの枯渇の話はいうまでもなく、セキュリティやフィルタリングなどいろいろなトピックが出てきているし、キルナム・チョン先生のようにあと40億人つなぎましょうという人も出てきている。

そんな流れの中で私もヨーロッパのプロジェクトに参加することになった。ウェブ(ブログ)も少し前から立ち上がっている。私も世界の人たちに向けて日本やアジアのニュースを投稿することが期待されている。自分のブログも定期的に書けないのだから、できるかどうか不安だが前向きにやってみよう。

Towards a Future Internet

このプロジェクト、この秋から来年にかけて、ベルギーのブリュッセル、アメリカのボストン、そして東京で次々にワークショップを開催しながら、インターネットの未来に向けたシナリオ作りをする予定。楽しみだ。

残り数十億人のための未来のインターネット

3月16日(月)に情報通信学会のソーシャル・イノベーション研究会の今年度最終回を開催します。

スピーカーは韓国のインターネットの父といわれるキルナム・チョン教授です。幸い、日本語で講演してくださる予定です。

チョン教授はアフリカとアジアで取り残されている人々にインターネット・アクセスを提供するためのプロジェクトを開始しておられます。その概要と意気込みを伺う予定です。

ようやく私も出席の見込みです。


【日時】2009年3月16日(月)18:30〜20:30

【発表者】キルナム・チョン氏(韓国KAIST教授、慶應義塾大学特別研究教授)

【テーマ】残り数十億人のための未来のインターネット

【概要】未来のインターネットに関する研究が世界中で始まっている。その多くは最初の10億人、つまり、先進国の現在のインターネット利用者に焦点を絞っている。残り数十億のインターネット・アクセスを持たない人々、特に発展途上国の人々のための研究努力もまた非常に重要である。これは、世界中の多くの研究者、先進国および発展途上国の双方の研究者にとって良い研究機会となるだろう。

※講演は日本語で行われます(資料は英語のみになります)。

【会場】インテル株式会社内 会議室

     千代田区丸の内 3-1-1 国際ビル 5階

     (JR有楽町駅徒歩3分。東京駅徒歩6分。)

http://www.intel.co.jp/jp/intel/map_tokyo.htm

【申し込み】情報通信学会事務局研究会窓口(kenkyu2◆jotsugakkai.or.jp)にメールでお申し込み下さい(◆を@に代えてください)。

アナログ停波延期

昨日、アメリカ議会はテレビのアナログ放送停波の延期を決めた。計画では今月17日にアナログ波は止まり、テレビはデジタル化されるはずだった。

ノース・カロライナ州のウェルミントンというところでは昨年のうちに実験が行われ、マーチン前FCC委員長がイベントにも参加している。マーチン委員長はデジタル・テレビへの移行を成果の一つとして退任した。

しかし、今年に入ってから急に、停波は難しいのではないかという話が持ち上がり、大統領就任前のオバマ次期大統領も延期を支持したため、先週、上院が延期を決め、昨日、下院も続き、オバマ大統領が法案にサインすれば延期が確定する。

アメリカはケーブルテレビや衛星放送が主流なのでアナログ停波は大きな問題にならないといわれてきたが、実際には1400万世帯がラビット・アンテナと呼ばれるアナログ用のアンテナをテレビの上に置いて使っている。貧困層、高齢層、過疎地ではアナログ放送に頼っている世帯が多い。

こうした世帯を支援するため、連邦政府はクーポンを配り、60ドルほどのコンバーターが20ドル程度で買えるようにしていた。ところが、予想以上にこのクーポンを求めた人が多く、クーポンが全て無くなった上に、希望者の長いウェイティング・リストができている。クーポン自体は印刷すればよいのだが、補助金の予算が無くなってしまったのだ。議会はオバマ政権の景気刺激策の中にこの補助金の予算を組み込むことを認めることにした。

何ともお粗末といえばお粗末な話だ。

おととい、見たい番組があって夜の8時からテレビの前に陣取っていた。ところが、画面がギザギザになり、音声は途切れ途切れになって、全く意味をなさなくなった。ケーブルテレビだから問題ないはずなのだが、実際にはケーブルテレビの映りはかなりの頻度で悪くなる。おそらくこの日は雪のせいだったのだろう(やはりアメリカのインフラストラクチャは問題が多いのだ)。

アナログ放送では、天気が悪いと画面の中にザーッと雨が降ることがあるが、しかし、それでもある程度判別できる。しかし、デジタル放送になると十分な信号が届かない場合にはほとんど意味不明になる。デジタル放送の受信には高性能のアンテナを正確な方向に向けないと入らないくなる場合があるらしく、単にコンバーターを付けるだけではうまくいかないことが多いとウェルミントンでは報告されている。

デジタル放送は予想以上に問題が大きいかもしれない。テレビと政治の結びつきは強い。6月まで4ヵ月の延期の間に紆余曲折がある可能性が高い。

FCC委員長人事

CIA人事に触れたからにはFCC(連邦通信委員会)の人事にも触れておきたい。オバマ次期大統領は、年末に噂に出ていたとおり、ハーバード・ロースクールの同級生をFCC委員長に指名する見通しになった。Julius Genachowskiはベンチャー・キャピタリストで、オバマのキャンペーンに50万ドルの資金提供をしている(猟官制という言葉が懐かしい)。

そして、現職のマーチン委員長は辞職し、アスペン・インスティチュートに行くという。ワシントン・ポストは、「スペクトラム・オークションの勝者に対してそのネットワークを外部の技術にオープンにすることを強いたとしてマーチンは記憶されるだろう。そして彼はまた、ネットワークで特定のインターネット・トラフィックをスローダウンさせる行為においてコムキャストに不利な裁定を下した」と記事をしめくくっている。

1996年通信法から12年経ち、ようやくもってFCCはインターネットに焦点を絞った政策・規制にシフトすると見られている。規制撤廃と言いつつ、これまでのFCCは細かいルールをやたらと作り、それが意味不明で裁判・裁定がたくさん必要になり、ブロードバンドが普及しないという事態になっていた。オバマ政権がブロードバンド普及に力を入れると言った以上、FCCの方向転換は不可欠だ。

ところで、これまでアメリカのインフラやサービスの悪口を書いてきたが、そうそうと思う記事がワイアード・ビジョンに出ていた。アメリカのトイレは紀元前と変わらない。紀元前でも別にいいのだけど、それでは世界一とは言えない。

アメリカのブロードバンドはダメなんだと日本で言うと信じてくれない人が多いが、FCCのブロードバンドの定義は768kbpsである。これでは世界一とは言えない。

オバマ政権で変わるFCC

MITは年内の授業と試験が終わり、大学は休みモードに入っているが、ワシントンは賑やかだ。情報通信政策でおもしろい動きが出てきている。

まず、12月6日にオバマ次期大統領が、大規模なインフラストラクチャ投資計画をラジオ演説とYouTubeでのビデオで発表した。アイゼンハワーが州際ハイウェーに投資して以来の規模になるという。ブッシュ政権の乱費と昨今の金融救済案もあって今年度の連邦政府の財政赤字は1兆ドルを超えると見られ、これまでの最高額の2倍以上になっている。それでもやるというのだ。

景気刺激策という意味ももちろんあるが、古くなり、世界的に見ても遅れ始めているアメリカのインフラを何とかしなければ、ますます競争力が低下するという危機感もあるようだ。

ブロードバンドへの投資も大きな柱となっている。オバマはインターネットの威力を分かっているだけに、力を入れたいところだろう。

As we renew our schools and highways, we’ll also renew our information superhighway. It is unacceptable that the United States ranks 15th in the world in broadband adoption. Here, in the country that invented the internet, every child should have the chance to get online, and they’ll get that chance when I’m President – because that’s how we’ll strengthen America’s competitiveness in the world. (引用元

そうなると、連邦通信委員会(FCC)の人事が焦点となるが、おそらくブッシュ政権退場とともに辞任するであろうケビン・マーチンFCC委員長に対する批判が吹き出てきている。下院のエネルギー・商業委員会の多数派スタッフがレポートを出し、そのタイトルは「欺瞞と不信:ケビン・マーチン委員長下の連邦通信委員会(PDF)」である。

タイトルほどには中身はすごくなくて、マーチン委員長が自分でマイクロコントロールしたがるので、他の4人の委員や部下たちがやってられないとこぼし、業者たちがぶつぶつ言っているということだろう。最大の問題とされているのは、視聴覚障害者のための資金を集めすぎていて、一般利用者の料金が(わずかに)上がっているということのようだ。

しかし、以前からマーチン委員長は議会の問いかけに応じないなど、問題が積もり積もった結果としてこうした批判が出ていると見た方がいい。FCCは独立委員会なので、行政府の一部のように見えながら、報告義務があるのは議会である。委員を指名するのは大統領だが、議会に対して説明責任を負っている。議会の問いかけに応じないのはやはり問題だ。

マーチン委員長が就任したとき、確か30代後半で、今の私の年齢とさほど変わらなかったはずだ。そんな大役を任されるとしたらぞっとするが、若さ(そんなに若くはないが、政治的には若い?)ゆえに、マイクロコントロールし、成果を出したかったのだろうか。マーチン委員長下のFCCはソ連のKGBのようだという冗談まで出ている。

そのマーチン委員長、一月さかのぼって11月にはテレビの電波の隙間にあるホワイト・スペースと呼ばれる電波の解禁を認める決定をした。この話もよく調べるとおもしろくて、ブロードウェーのアーチストたちが反対に回り、賛成派のグーグルなどと対決していた。ブロードウェーのミュージカルではマイクを使用しているが、ホワイト・スペースが解禁されると干渉するから嫌だというのだ。電波は見えないだけにいろいろ変な話が出てくる。

オバマ次期政権の技術顧問にはケビン・ワーバックなど技術と政策に明るい人が入っている。FCC委員長が誰になるのか見物だ。

第3回 ソーシャル・イノベーション研究会

主査がいないまま行われている情報通信学会のソーシャル・イノベーション研究会の第3回研究会が開かれます。学会員以外でも参加可能ですので、お申し込みの上、ご参加ください。


ICTのイノベーションにより、選挙はどのように変わるのか―日米韓の比較討論会

開催日時 12月23日(火) 午後1時から3時

会場    国立情報学研究所(学術総合センター)12階講義室I・II

共催    国立情報学研究所

会場の準備の都合により、事前申込が必要になります。

12月19日(金)までに事務局(kenkyu3@jotsugakkai.or.jp)にお申込ください。

パネリスト

司会  上田昌史 国立情報学研究所助教

発表者 杉原佳尭 

インテル株式会社 渉外部長、 特定非営利活動法人 地域情報化推進機構 理事長

自民党本部勤務、長野県知事選挙の総括責任者、自身も芦屋市長選挙に出馬、残念ながら次点。著書に 『ソフトな政治(一世出版)、 民主主義は機能しているか?』(英治出版)

発表者 李洪千(り・ほんちょん)

慶應義塾グローバルCOE研究員、2002年韓国大統領選挙民主党候補演説秘書

発表者 清原聖子

情報通信総合研究所研究員、慶應義塾大学法学部・総合政策学部非常勤講師

著書に『現代アメリカのテレコミュニケーション政策過程 ユニバーサル・サービス基金の改革』(慶應義塾大学出版会)、情報通信総合研究所ホームページ記事「第4回:民主党オバマ候補の圧勝―Web2.0時代の大統領選挙戦」

http://www.icr.co.jp/newsletter/usvote/2008/uv2008004.html

講演題目と要旨

杉原

●タイトル 日本の選挙:その理想と現実

●要旨

アメリカやその他選挙戦をみているとメディア戦略、マーケット戦略など企業の戦略をとりいれて上手く生かしたものが、多い。また、当選している候補者は、メッセージをたくみに操り、国民への浸透に成功している。それに比べて、日本は、小泉選挙のときに、世耕参議院議員がその試みをしたものの、その後の展開は見受けられない。公職選挙法も含めて、実際の選挙現場でなにが行われているのかを紹介し、その理由を考えたい。

●タイトル:市民ジャーナリズムと大統領選挙に及ぼしたインターネットの影響

●要旨:選挙結果に与えるインターネットの影響は特に韓国において強いと言われている。特に2002年の大統領選挙は、オーマイニュースなどの市民ジャーナリズムが盧武鉉政権の誕生に大きな役割を果たしたという事が通説である。しかし、当時のメディア利用に関するアンケート調査を見るとインターネットから選挙情報を得ている人は少人数であり、年齢層においても20代〜30代に偏っており、多くの人は従来のオールドメディアを情報源としていた。また、盧武鉉氏への支持率も選挙告示前と選挙期間中に変化がなく、一環して野党の候補より優位であった。それにしても、インターネットの影響が強く語られていることを考えるとインターネットの影響が無かったとは言い切れない。従って、2002年の大統領選挙においては、インターネットから有権者という直接的な影響を考えるより、迂回または間接的な影響を考えることが妥当であろう。本報告では、その詳細を説明させていただきたい。

清原

●タイトル:2008年米国大統領選挙戦におけるインターネットの利用とその影響

●要旨:2008年米国大統領選挙戦は1年半の長期にわたったが、ついに民主党のオバマ候補の勝利により幕を閉じた。オバマ氏の勝利の要因の分析はこれから多くの政治学者の手により、様々な角度から行われるであろう。ここではインターネットを使った選挙運動戦略に焦点を当てたい。オバマ氏は予備選挙中からFacebookや携帯電話のテキストメッセージなど、新しいメディアを巧みに利用することで、選挙に関心の薄い若年層の掘り起こし、そして、多額の選挙資金を集めることに成功した。それは本選挙終盤での全国的なテレビCMを可能にする豊富な資金源ともなった。2008年の大統領選挙戦では、2000年や2004年の大統領選挙戦と比べても、インターネットが選挙戦において非常に大きな役割を果たしたと言えるだろう。今回の報告では、2008年大統領選挙戦を振り返り、特にオバマ陣営のインターネット選挙戦略を検討してみたい。

TPRC

先週末、TPRC(通信政策研究会議)に参加するため、ワシントンDCへ行ってきた。SFCに移ってからTPRCの時期は必ず授業初回と重なるため、参加するのは2003年以来ではないかと思う。ずいぶん久しぶりになってしまった。主催者の一人に日程を変えてくれないかと頼んだことがあるが、ユダヤ人の休みの関係で日程が決まるので仕方ないとのことだった。来年からまた当分出られないだろう(ちなみに日本ではICPCというのがある)。

会場では昔なじみがけっこういて懐かしい。2月に経団連のシンポジウムに呼んだChris MarsdenやThomas Hazlettも来ている。日本からの参加者も今年は多いような気がする。大阪学院大の鬼木先生がパネル発表された他、国立情報学研究所の上田さんたちがポスター発表。GLOCOMの渡辺さんと庄司さんが来ていた他、常連の中大の直江先生もいらっしゃる。

次期政権への通信政策の提言をするというセッションに期待していたのだが、地味でつまらない。これまで議論されてきた枠組みを乗り越えずに何となく継続を促すような議論が多い。その次のNGNのセッションも、相変わらずNGN(あるいはNGA)が何かということが定まらないまま議論が進んでいる。ものすごい時代遅れの話をしている人もいる。コムキャストがやる気満々なのが印象的だったが、それでも次世代と言えるほどではない。1ギガのアクセス網なんて夢の世界という感じだ。日本から誰か分かっている人が話すべきだっただろう。最後にChris Marsdenが日本のことをちょろっと触れただけで終わった。

金曜日は、大統領選挙討論会が夜の9時からあったので夜は早めにホテルに戻る。オバマは支持者に囲まれて演説するときとは顔つきが違った。何となく焦りというか、いらつきのようなものも感じた。しかし、私はひどい寝不足のせいで後半は集中できなかった。残念。翌朝、セットもしてない目覚まし時計に起こされた。くやしい。

土曜日の朝のセッションで九州大学の実積寿也先生が日本のネットワーク中立性議論も含めて非対称規制について発表された。ブロードバンド普及が遅れている米国から見ると日本はどうしても特殊事例に見えてしまうが、それでも日本の現状を説明してくださったことは重要だ。

TPRCは完成された議論というよりも、荒削りの議論が出てくるところがおもしろい。首をかしげたくなるようなものから、なるほどと思うものまで幅がある。少し変わったなと思うのは、政策の直接的なネタになるようなものよりも、アカデミックな論考が増えてきた点。毎年ぶれがあるのかもしれない。

土曜日の昼休み、気分転換にクラレンドンまで歩くと、お祭りをやっていた。屋台がたくさん出ている。ジップカーが置いてあったり、オバマとマケインのブースもあったり、なかなか楽しい。子供たちのためのアトラクションには長い行列ができている。クラレンドンは7年前には何もなかったのに、今は世界各国のレストランと商店とマンションが並ぶ賑やかなところになって、街おこしに成功したんだなあと思う。

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オバマ陣営の様子

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マケイン陣営の様子

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1時間半のフライトでワシントンDCまで来られるのは良いなあ。東京にも1時間半で帰れたら良いのに……、と思っていたら、またもやナショナル空港で足止めを食らった。ゲートを離れてから機内で1時間半。疲れたけど、離陸までパソコン使って良いというので仕事が進んだ。

滑走路の向こうにかすかに見えるワシントン記念塔

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【再掲】第2回ソーシャル・イノベーション研究会

以前にもお知らせしたとおり、情報通信学会のソーシャル・イノベーション研究会第2回が9月18日に開催されます。総務省の情報流通行政局から追加ゲストが来てくださるそうです。

申し込みは学会のウェブページの載せられている電子メール・アドレスからどうぞ。軽食付きです。


日時:2008年9月18日(木)18時〜

場所:マルチメディア振興センター会議室

発表者:秋山美紀(慶應義塾大学総合政策学部専任講師)

題目:地域医療におけるコミュニケーションとICT

発表要旨:地域医療連携のためにICTを用いる関する各地の取り組み事例の中から、組織を越えて他職種が日常的にITを用いて情報共有している成功事例について、密度の濃いフィールドワークを行い、定量的・定性的に分析を行った結果を報告する。非同期で蓄積型という特徴を持つメディアが、医師と共同で医療を行う職種に対して、効果をもたらしていることが明らかになっている。

参考資料:秋山美紀『地域医療におけるコミュニケーションと情報技術―医療現場エンパワーメントの視点から』慶應義塾大学出版会、2008年。

ダイヤルアップ・キャンペーン

すごい勢いで時間が流れていくようになった。新学期が始まってキャンパスには人が溢れている。夏休み中はおみやげを買う観光客しかいなかったCOOPの売店には、教科書とノートを買いに来る学生が殺到している。

8月末から忙しくなってしまった私も久しぶりにオフィスに出てきたら席が変わっていた。早稲田の先生とインド系アメリカ人の博士課程の学生と相部屋だったのだが、今度は大広間のパーティションになった。開放感が増して居心地が良くなった感じ。博士課程の学生の乱雑な性格に閉口していたので、そこは改善された。周囲は研究員ではなく、研究所のサポート・スタッフなので、少し賑やかだ。

先週はボストンでAPSA(アメリカ政治学会)が開かれていたのに、ほとんどセッションには出られず、知り合いとご飯を食べただけで終わってしまった。そんな感じなので、せっかく共和党大会が開かれているのにテレビを見る暇がないが、オバマのキャンペーンがブロードバンドを駆使した「ブロードバンド・キャンペーン」なのに対し、マケインのキャンペーンは「ダイヤルアップ・キャンペーン」だと酷評されている。共和党政権ではブロードバンドの発展は期待できない。そう言えば2001年ぐらいにブロードバンド促進のための法案なんて出ていたけど、状況はあまり変わってないなあ。

Chloe Albanesius, “Democrats Criticize McCain’s ‘Dial-up Campaign,'” PC Magazine, August 26, 2008.

オバマがブログとYouTubeとFacebookでブロードバンドを駆使しているのに、マケインは昔ながらの電話攻勢で頑張っているのだろう。しかし、本選挙ではどちらが勝つか分からないというのだから、インターネットはまだ政治的なパワーとして弱いのだろうか。

以下のビデオはオバマの選挙事務所がネットを駆使している様子。

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マーチンFCC委員長とネットワーク中立性

ウォール・ストリート・ジャーナルの社説が連邦通信委員会(FCC)のケビン・マーチン委員長を徹底的にこき下ろしている。

FCC.politics.gov,” Wall Street Journal, June 30, 2008, Page A14.

書き出しはこうだ。

悪い人事決定がブッシュ政権にはつきまとってきたが、最大の失望のうちの一つは連邦通信委員会委員長のケビン・マーチンである。メディア・ユニバースの主としての最後の半年で、彼はインターネットの政府規制を拡大しようとしているようだ。

ネットワーク中立性に関連してマーチン委員長は、「中立性を確保するための」規制を導入しようとしている。この中立性の議論はなかなかねじれているが、「ネットを中立にしておくために規制が必要」とする人たちと、「ネットを自由にしておくために規制は不要」という派に収斂しつつあるようだ。「ネットを中立にしておくために規制は不要」や、「ネットを自由にしておくために規制は必要」というオプションはなくなってきている(ややこしい上に、どれも議論としては成り立ちそうだ)。

伝統的に共和党は規制反対のはずなのに、マーチン委員長(共和党)は、他の4人の委員のうち民主党の2人と組んで規制を導入しようとしている。

この記事は、言うことを聞かないコムキャスト社をこらしめるためにマーチン委員長が規制を導入しようとしているという政治的な意図を示唆している。しかし、その結果として政府の規制が拡大するのはけしからんというのが同紙の立場だ。記事の最後はこう締めくくられている。

規制者たちは、通信市場全体を競争的にしておくことに集中することで良い仕事をするだろう。もしコムキャストの顧客が同社のネットワーク管理方針が気に入らないのなら、ベライゾンやAT&T、その他のインターネット・サービス・プロバイダーに乗り換えるのは自由だ。ケビン・マーチンと彼の政治的な友達が運営するワールド・ワイド・ウェブは、粗末の質の数少ない選択肢しかわれわれに残さないだろう。

マーチン委員長の本心がどこにあるかは分からないが、この議論はよく分かる。日本でネットワーク中立性の議論がそれほど盛り上がらなかったのは、ユーザーに選択肢があるからだ。NTTが変なネットワーク規制をしたなら、KDDIにでもソフトバンクにでも切り替えれば良い。ISPなら他にもたくさんある。問題は日本でもアメリカでも、選択肢の少ない過疎地で、そこでの選択肢を確保できるようにすることが政策的に必要なことだろう。

第2回ソーシャル・イノベーション研究会

情報通信学会のソーシャル・イノベーション研究会第2回が9月に開催されます。だいぶ先ですが、お知らせしておきます(私は物理的には出席できませんけど)。

ブロードバンドを使って何するのというのはよく言われることですが、地域医療は期待されている領域の一つであり、ソーシャル・イノベーションの実践例だと思います。

申し込みは学会のウェブページの載せられている電子メール・アドレスからどうぞ。軽食付きです。


日時:2008年9月18日(木)18時〜

場所:マルチメディア振興センター会議室

発表者:秋山美紀(慶應義塾大学総合政策学部専任講師)

題目:地域医療におけるコミュニケーションとICT

発表要旨:地域医療連携のためにICTを用いる関する各地の取り組み事例の中から、組織を越えて他職種が日常的にITを用いて情報共有している成功事例について、密度の濃いフィールドワークを行い、定量的・定性的に分析を行った結果を報告する。非同期で蓄積型という特徴を持つメディアが、医師と共同で医療を行う職種に対して、効果をもたらしていることが明らかになっている。

参考資料:秋山美紀『地域医療におけるコミュニケーションと情報技術―医療現場エンパワーメントの視点から』慶應義塾大学出版会、2008年。

政策過程分析の最前線

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草野厚編著『政策過程分析の最前線』慶應義塾大学出版会、2008年。

やっと手元に届いた。この本も昨年中に出したかったのだけど、時間がかかってしまった。

私は第6章「国際的な政策の『模倣』過程—情報通信政策を例に」を担当。このテーマは数年前から取り組んでいて、一冊本を書く予定だったのだけど、どうも行き詰まったのでひとまずこの一章で終わり。今取り組んでいる他のテーマが終わったら戻るつもり。