アラブ諸国の情報統制

山本達也『アラブ諸国の情報統制』慶應義塾大学出版会、2008年。

同門の山本達也君の本が出た。アラブ諸国のインターネット統制がどうやって行われているか3年かけてフィールド・ワークを行い、理論的に整理した力作だ。博士論文で読んだときよりもずっと読みやすくなっている。

おまけに、私には手厳しい。

残念ながら、土屋は、情報国家モデルの議論の中で、各モデル間の移行可能性や移行の条件など動的なダイナミズムについてはほとんど議論していない。(50ページ)

確かに私は理念型を出すところまではしたが、移行メカニズムについては論じなかった。それに、博論には書いたけれども、それをベースにした『情報とグローバル・ガバナンス』には載せないで隠しておいた表まで引っ張り出されてしまっている(48ページ)。まずい。

しかし、こういう建設的批判をもらえるのは良いことだ。

この本で一番おもしろいのは、アラブ諸国の独裁者たちがふんぞり返って国民の情報活動をコントロールしているわけではなく、グローバリゼーションが進展する中で、自国の経済発展をとるか、政治的な安定をとるかという独裁者のジレンマに直面していることを浮き彫りにしたことだ。

私は中国についてリサーチした後、中東についてもやってみたいと思ったことがある。しかし、山本君のようにアラビア語を習ってから3年も現地に行ってリサーチする機会も気力もなかった。外から見てアラブ諸国を批判するのは簡単だけれども、中に入って調べ上げてきた点は他に勝る。

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