泊まってしまうんですか?

同僚のF先生と話す機会があった。F先生はSFCの研究室にベッドを持ち込み、毎週水曜日から金曜日の2泊3日泊まり続けて研究するらしい(週3日はキャンパスに来なくてはいけないという約束がSFCにはある)。自宅がキャンパスから遠いからというのが理由だが、30歳を過ぎて(失礼)そのパワーはすごい。悩みはずっと研究室にいて運動不足になることだとか。学者も体力勝負だ。

土建屋とソフト屋

先日、某SI(システム・インテグレーション)会社の課長さんにお会いした。情報産業の将来をどう思うか意見を聞きたいとのことだった。彼の意味する情報産業は、デバイスというよりも、ソフトウェアを含めたSIの話だったので、私は門外漢だ。だから逆にこちらがいっぱい質問をする形になって申し訳なかったが、得るところが大きかった。

一番おもしろかったのが、土建屋とソフト屋のアナロジーだ。一円入札が話題になるなど、SI産業は土建産業に近い側面を持っている。政府が大規模な発注をするとそれに群がるという構図がよく似ているからだ。最近の電子政府がらみの動きは、公共事業的側面がよく出ていた。

しかし、ソフトの発注を受けて各社が入札するわけだが、ハードウェア・メーカーも兼ねているようなところは、SIで儲けずに、抱き合わせのハードウェアで儲けることができる。ハードウェアを持たない純粋SI会社だと、同じ条件では競争できない。仮に入札に勝ったとしても、いざシステム構築という段階ではハードウェア・メーカーの世話になる。そこのレイヤーが分離されていないから、とても平等な競争条件とはいえない。

さらに問題なのが、ソフトウェア開発をどう評価するかだ。ここでは土建屋のアナロジーはきかない。土建屋が造るものは、道路にせよ建物にせよ、はっきりと目に見える形で残る。そこで誰がどれだけの時間と労力を掛けて作業したかがよく見える。しかし、ソフトウェア開発においてその工程とアウトプットがそこまではっきりと見えることはない。

ソフトウェアの価格はいわゆる人月で決まる(『人月の神話』で論じられた問題だ)。何人がどれだけの時間をかけたかを積み重ね、人件費単価で掛けるわけだ。このルールに従えば、ダラダラと無駄なプログラムをゆっくり時間をかけて作ればいいことになる。しかし、優秀なプログラマーは短時間で美しいプログラムを書いてさっさと仕事を終わらせてしまう。なのに彼の給料は安いままになるだろう。

産業の発展形態としてみれば、(1)土建産業のように、現在の工房的ソフトハウスの段階を脱して大量生産型のマス・ソフトハウスが登場するという見方と、(2)プログラミングは芸術的産物としてプログラマーのカリスマ化が進むという見方を考えることができる。しかし、現在のところ、大手ソフトハウスや大手SI会社が会社を飛び出して自立するという例はほとんどない。カリスマが存在しないのだ。建築家がやがて独り立ちするのとは大きく異なる。

結局のところ、ソフトウェア開発の仕事をどうやって評価するのかというメソドロジーが確立していないのが問題だ。ここが確立しなければ、SI産業は成熟へ向かうことはできない。なかなか悩みは深いのだと教えてもらった。

RFID反対運動

RFIDに対する反対運動をしているCASPIANがふたたび動き出した。中心人物のキャサリン・アルブレヒトが出産のためしばらく活動休止だったが、5月11日付でプレスリリースが出た。

Wal-Mart Tries New PR Spin to Accompany Item-level RFID Tagging

それによると、ウォルマートがHPの製品にRFIDを付けてテキサス州の七つの店に置いているという。

残念ながら先日の出張では彼女に会えなかったが、CFPでも多くの人が彼女に言及していた。反対運動の中心的な人物である。

しかし、CFP以外の場所で聞くと、反対運動は大した影響力がないともいう。つまり、技術的・コスト的な問題の方が深刻だというわけだ。

その中でもウォルマートと国防総省の動向は注目されている。来年1月までに納入業者は対応できるのだろうか。

若者たちの《政治革命》

若者たちの《政治革命》-組織からネットワークへ-』(中央公論新社)

丸楠恭一/坂田顕一/山下利恵子 著

旧知の丸楠先生と坂田さんが本を出したそうだ。

インターネット元年(1995年)、インターネット政治元年(2000年)を機に、ふつうの若者の中から、政治を面白がる「ネットワーク族」が現れた。彼らは統制を嫌い、NPOやボランティア通じて公共空間を遊泳する。無党派知事の誕生も、小泉現象も、この地殻変動の上に成り立つ。本書はこの静かな《政治革命》の来歴と構造、今後の展望を分析する。また急増する若手議員たちの論理と心理に斬り込む。「若者の政治離れ」論が虚像であることが明らかになることだろう。

オンラインの政策誌『政策空間』をベースに生まれたという。

映画の中のマック

http://web.sfc.keio.ac.jp/~taiyo/weblog/2004/05/somethings-gotta-give.html

> ヒロイン(?)のエリカは劇作家という設定。

> 海辺の豪邸で執筆に励む。アップルのパワー

> ブックG4(15インチ?)を使っている。欲

> しい。なぜ映画に出てくるパソコンはアップ

> ルが多いのだろう。アップルが強力にプロモー

> ションしているか、映画関係者がアップル好き

> か。

YT氏からタレコミがあった。

> あ、余談ですが、映画でマックの登場率が高いのは、

> 「映像にする際の使用料が安いため」とも聞いたこ

> とがあります。真相はよくわかりませんが。。。

なるほど。やっぱりプロモーションなんですな。

フレンズ

「フレンズ」最終回放映、10年のロングランに幕」(CNN.co.jp)

『フレンズ』最終回見たかった。アメリカ出張がもう少しずれていれば見られたのに。アメリカにいた頃はあまり見なかったが、日本に帰ってきてからCSでよく見ていた。『Xファイル』の英語は難しいが、『フレンズ』の英語は比較的分かりやすいしユーモアもある。

引き際

日米でまたもや引き際が問題になっている。福田官房長官は突然やめた。民主党の菅代表を引きずりおろす計算だろうか。福田さんには次の可能性がある。官房長官の在任記録まで更新した後だから、ちょうどいいといえばいい時期かもしれない。しかし、菅代表には後がない。ここでおろされてしまえば、つらい立場に置かれる。

ただ、民主党が一枚岩でないことも背景にはあるだろう。菅代表の「未納三兄弟」という批判が行き過ぎであったとしても、「菅代表で政権をとる」という一致した思いがあれば、民主党内からも辞任を求める声は出ないはずだ。

アメリカでもラムズフェルド国防長官が集中砲火を浴びている。一年前に戦闘終結を宣言した頃が絶頂だったのかもしれない。

林紘一郎先生が書いている「「引き際」を「科学」する」という文章が参考になる。「自分の引退は自分で決められる」という仮説が虚構だというのは手厳しい。

創発

創発に関する研究プロジェクトを進めている。機中で読んだジョンソンの本の抜き書き(文中太字は原文のママ)。

=====

スティーブン・ジョンソン(山形浩生訳)『創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク―』(ソフトバンクパブリッシング、2004年)。

p. 10

[アラン・]チューリングが一九五四年に死亡する前の、最後の刊行論文の一つは、「形態形成」の謎を取りあげたものだった。形態形成とは、あらゆる生命形態が、とんでもなく単純な出発点から、すさまじくバロックで複雑な体を発展させる能力のことだ。

p. 12

チューリングの形態形成に関する研究は、単純なエージェントが単純な規則にしたがうだけで、とんでもなく複雑な構造が生成できるような数学モデルの概略を述べていた。

p. 16

それは複数のエージェント同士が、複数の形でダイナミックに相互作用して、ローカルなルールにはしたがうけれど、高次の命令などまったく認識していないシステムだ。でも、これが本当に創発的なものとして認められるのは、こうしたローカルな相互作用が、何かはっきり見えるマクロ行動につながった場合だけだ。(中略)つまり、ローカルなエージェント同士の複雑な並列相互作用で、高次のパターンが生じるということだ。

p. 68

アメリカ企業でも、流行り言葉は「品質管理」から「ボトムアップ知性」になりつつあり、ラディカルな反グローバリズム抗議運動は、意識的に自分たちのペースメーカーなしの分散組織をアリの巣や粘菌にしたがってモデル化している。

p. 74

そもそもデボラ・ゴードンがアリに興味を持ったのも、このミクロ組織とマクロ組織との結びつきのためだった。「個体が全体的な状況を判断できないにもかかわらず、協調して働くようなシステムに興味があったんです。そしてアリは、局所的な情報だけを使ってそれを実現しています」と彼女は今日語る。

 実は局所性こそが、群生理論の力を理解するにあたっての鍵となる用語なのだった。アリのコロニーのようなシステムに創発行動が見られるのは、システム内の個別エージェントが上からの命令を待つのではなく、その直近のご近所に関心を払うからだ。彼らは局所的に考えて、そして行動も局所的だけれど、その集合的な行動はグローバルな行動を生みだす。

p. 77

この局所的なフィードバックこそは、アリ世界の分散化した計画の秘密なのかもしれない。アリの個体は、その時点で何匹の食糧調達アリがいるか、巣作りアリがいるか、ゴミ集めアリがいるかを知るよしもない。でも自分が一日の行程でそれぞれ何匹に会ったかは記憶できる。その情報――フェロモン信号そのものと、その頻度――に基づいて、自分の行動を適切に調整できる。

p. 84

DNAの圧政は、創発の原理に反するように見える。もしすべての細胞が同じ台本を読んでいるなら、それはまるでボトムアップのシステムではない。究極の中央集権だ。それは、アリのコロニーでそれぞれのアリが一日の始めに慎重に計画された予定表を読むようなものだ。昼までゴミ出し作業、その後昼食、午後は片づけ、という具合。これは指令経済であって、ボトムアップシステムではない。

p. 85

細胞は、DNAの図面を選択的にしか参照しない。それぞれの細胞核は、人体すべてについてのゲノムを持っているけれど、個別の細胞が読むのはそのごく一部でしかない。

p. 85-86

細胞は近隣から学ぶことで、もっと複雑な構造に自己組織化する。

p. 87

でも細胞は自分を含む組織の俯瞰図は持っていないけれど、細胞連接経由で送信される分子信号を経由して、街路レベルでの評価を行うことができる。これが自己構成の秘密だ。細胞共同体は、各細胞が自分のふるまいについてご近所を見ることで生じる。

p. 100

エージェント間のフィードバックが必要なのだ。他のセルの変化に応じて他のセルも変化しなければならない。

p. 103

その速度で見ると――千年紀単位の高速度撮影で見ると――人間個人の自由意志はコロニーの一五年にわたる存在のうち、ごく一部しか生きて見届けられないゴードンの収穫アリとそんなに異なるようには思えない。今日の都市の歩道を歩く人々は、アリがコロニーの生命について無知なのと同じくらい、大都市の千年単位のスケールという長期的な視野については無知だ。このスケールで見てやると、都市という超有機体の成功こそは過去数世紀における唯一最大のグローバル現象かもしれない。

p. 117

ただしこうした住民たちは、別に居住地を大きくしようとして努力したわけではない。みんな、自分の畑の生産力を上げるにはどうしよう、とか、発達した都市の排泄物をどう処理しよう、といった局所的な問題を解決しようとしていただけだ。でも、こうした局所的な意思決定が組み合わさって、都市の爆発というマクロな行動が形成される。

p. 147

台風や竜巻もフィードバックの強いシステムだが、だからといってそれを裏庭に欲しいという人はいない。構成パーツや、その組み合わせに応じて、創発システムは多くの違った目的に向かうことができる。

p. 180

システム全体が、初期条件にきわめて敏感です。

p. 247

創発の進歩的な可能性が最もはっきり表れていたのは、反WTO抗議運動だった。これは意図的に、自己組織型システムの分散型細胞構造に基づいて自分たちを組織化していた。一九九九年のシアトルの抗議運動は、驚くほどの分散組織に特徴づけられていた。

Something’s Gotta Give

その3は「Something’s Gotta Give」(よく考えるとPaycheckを見たのはサンフランシスコからワシントンDCに行く機中だったかもしれない。帰りの機中は映画を2本見て、本を1冊読んだからほとんど眠っていなくて、おかげで時差ボケがひどい)。

「ええ加減にしろエロ親父」という感じのする映画。主人公のハリーは30歳以上の女性と交際したことがないという独身貴族。ジャック・ニコルソンは悪役顔なのに最近こういう役柄を好んでいるらしい。

マトリックス』のキアヌ・リーブスが脇役で出ている。007シリーズのロジャー・ムーアのように、キアヌ・リーブスはマトリックスのネオしか演じられなくなるのではないかといわれていたけど、そうでもなかったようだ。

ヒロイン(?)のエリカは劇作家という設定。海辺の豪邸で執筆に励む。アップルのパワーブックG4(15インチ?)を使っている。欲しい。なぜ映画に出てくるパソコンはアップルが多いのだろう。アップルが強力にプロモーションしているか、映画関係者がアップル好きか。

Paycheck

その2は『Paycheck』。

ベン・アフレック扮するリバース・エンジニアが危険な発明に手を貸すのだけど、記憶を消されてしまう。おまけに命をねらわれてしまう。記憶が消される前に何があったのかを追いかけるというストーリー。タイトルのペイチェックは仕事の報酬でもらえる小切手のこと。

やや設定に無理があるかなあ。脳内に発射するレーザーで記憶のペプチド結合を破壊して記憶を消してしまったり、未来がのぞけるレンズなんてちょっと考えにくいなあ。

Chasing Liberty

帰りの飛行機で見た映画その1。「Chasing Liberty」。

現代版『ローマの休日』といったところ。しかし、お姫様はアメリカ大統領の娘になり、お姫様が旅するのはプラハ、ベネチア、ベルリンなど。そしてお姫様に身分を隠して旅をともにし、恋に落ちるのはなんとCIAエージェント。といっても切迫感はぜんぜん無くて、のほほんとした映画。それなりに楽しい。

大統領一家にはコード名が付く。シークレット・サービスは大統領のことを「イーグル」と呼ぶように、大統領の娘のことは「リバティ」と呼ぶ。主人公は権威的な大統領の目から逃れて自由(リバティ)が欲しくて仕方ない。主人公は自由を求めて(chasing liberty)旅に出て、追いかける側のシークレット・サービスはリバティ(大統領の娘)を探し求める(chasing liberty)という二重の意味がタイトルにはある。

『ローマの休日』のアイデアに従っているところからすると一種の二次著作物なんだろうけど、怒られないのだろうか。エンドロールにクレジットが入っていたりするのかな。

12日間で651通

出張から帰国。12日間の不在中、すべて電子メールはメール・サーバーに残しておく設定にしておいた(サーバー管理者の方すみません)。その間に届いたスパムやウイルスは約651通。1日50通以上。ほとんどはフィルタでゴミ箱に入るからそれほど気にならないとはいえ、やはり迷惑だ。

メールに返事を書いていない皆様、申し訳ありません。なるべく早く書きます。

学者の人生

ボストンのフリーダム・トレイルをたどっていたら、横にボーダーズ(本屋)があったので思わず入ってしまった。そうしたら、ジョセフ・ナイがこんな本を出していることにも気がついた。

Power in the Global Information Age: From Realism to Globalization (Amazon.com)

2004年5月発行とあるから出たばっかり。

内容は1970年代から書いてきた代表的な論文をテーマごとに並べなおしたもの。

おもしろいのは、一番最後の「Praxis and theory」という文章。ナイはよく知られているように、学者であるとともに、国務省や国防総省でも仕事をしてきた。生まれてから今までの自分の人生を振り返ってみて、二つの道を行き来したことが良かったと書いている。ただ、幼少時代は農業をやりたかったり、学部を卒業した後は海兵隊に入ろうとしたり、紆余曲折があったことも書いてある。博士課程での勉強は苦痛だったが、論文を書くのは楽しかったそうだ。学者の人生を考える上でとても興味深い文章。

RFIDとプライバシー

この問題はもうだいぶ議論されている。CFPでも話題になった。しかし、今日、MITのオートIDラボに行ったら、予想以上におもしろい話が聞けてびっくりした。CFPのプライバシー論者たちとは正反対といっていい。でもそういう考えもあるかと思わされた。帰りの飛行機の中でレポートを書いてみよう。

ソフト・パワー

Soft Power: The Means to Success in World Politics (Amazon.com)

ジョセフ・ナイの新著がいつの間にか出ていた。ソフトパワー論の総決算というところか。

序文にも書いてあるけど、ソフトパワーはどうも誤解されている気がする。本当は安全保障を論じるための概念で、コンテンツ産業育成のための議論ではない。