土屋大洋「党国体制と情報社会——インターネット規制を事例に」加茂具樹、小嶋華津子、星野昌裕、武内宏樹編著『党国体制の現在——変容する社会と中国共産党の適応』慶應義塾大学出版会、2012年、235〜261ページ。
同僚の加茂さんたちと行ってきた共同研究の成果が出版された。「党国体制」をキーワードに現代の中国を考える本。
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土屋大洋「党国体制と情報社会——インターネット規制を事例に」加茂具樹、小嶋華津子、星野昌裕、武内宏樹編著『党国体制の現在——変容する社会と中国共産党の適応』慶應義塾大学出版会、2012年、235〜261ページ。
同僚の加茂さんたちと行ってきた共同研究の成果が出版された。「党国体制」をキーワードに現代の中国を考える本。
ハワイから戻り、翌日は博士課程の学生の発表が行われる日。私は副査を数人と主査が一人。いろいろあったけど、それぞれ無事に通過。
翌朝は5時半に起きて羽田へ。日米金沢会議に向かう。金沢は30年前に2年間住んでいたことがある。昭和55年頃で、ゴーゴー(55)豪雪というのがあり、街中が雪に埋もれて子供としてはとても楽しかった。
会議自体は前日の夜から始まっていて、夕食会はとてもおいしい料理で良かったらしい。一番良いところを逃した。朝のセッションに遅れて参加し、日米の若手の研究者・実務家の話を聞く。なかなかアンユージュアルな人たちで、日本側の参加者もどんどん発言する。
参加者の一人が、とっくに解決できていると思っていた日米間のさまざまな問題を解決してこなかった上の世代を強く批判しているのを聞き、この人はこんなことを考えていたのかと認識を新たにした。彼が学者としての研究活動よりも、政策的な貢献に力を入れているのはそういう背景があるからなのだろう。
私の出番は最終日の午前中のコメンテーター。またサイバーセキュリティの話。パネリストとの意見の違いは違いとして認識できておもしろかった。宇宙政策の話やトモダチ作戦の話もあった。
最終日は雪がチラチラとして一気に寒くなった。会議が解散になるとダッシュで家族から頼まれていた買い物へ。そのまま、東京から単身赴任しているHさんにお会いする。座ってお話しする時間もなかったが、近江町市場での土産物購入に大いに力を発揮してくださった。
小松空港でまた会議参加者数人と合流。Aさんと海鮮どんぶりをいただく。
機内では論文を一本読んだだけで着いた。国内線は短い。羽田に着いたら機内にコートを忘れてしまう。ちょっと手間取ったが京急に飛び乗り三田キャンパスへ。翌日の情報セキュリティ政策会議の打ち合わせを行う。
11月20日から12月1日まで、平和・安全保障研究所(RIPS)のプログラムで、欧州5都市を回るツアーに参加した。団長は高木誠一郎先生、他に政策研究大学院大学の道下徳成先生、一橋大学の秋山信将先生。コペンハーゲン、ダブリン、リスボン、ヘルシンキ、タリンと回ってきた。それぞれの都市で1〜2回の講演&パネル・ディスカッションを行った。
途中、リスボンの空港でストライキがあったため、ダブリンからロンドンで乗り換えてスペインのマドリードまで行き、そこから車をチャーターしてリスボンに行った。7時間ぐらいかかったが、途中、イベリア半島に沈む夕日を見て、満天の星空を見られたのは良い思い出になった。もうたぶんあんなことする機会はないだろう。
20年ぶりにヘルシンキに行って、うろ覚えのフィンランド語で挨拶してみたけど、相変わらずシャイな人たちで、反応が薄くて残念だった。ダブリンの学生たちは熱心に聞いてくれて良かった。
私の講演テーマであるサイバーセキュリティについては、各地で温度差が大きかったが、最後のタリンでは非常に強い反応があった。2007年に受けたサイバー攻撃のせいだろう。その際に問題になったブロンズ像も実際に見てくることができた。帰国便に乗る前にNATOのCCD COEに立ち寄って話を聞けたのも収穫だった。
土屋大洋「パワー行使の領域の拡大について—サイバースペースとアウタースペース(宇宙)への注目—」国際安全保障学会、拓殖大学、2011年12月11日。
1週間前、拓殖大学で開かれた国際安全保障学会で報告。会員ではないのでかなり不安な気持ちで参加した。自衛隊や防衛省などの実務家が多くて、かなり厳しい批判が来ると聞いていたからだ。幸い、それほどお叱りは受けなかったが、あまりおもしろくもなかったのかもしれない。
3人の報告者のうち、最初だったので、自分の報告が終わってからツイッターをのぞいてみたけれど、誰も関連したツイートをしていなかった。やはりちょっと堅めの学会なのか。
他の2人の報告者のうち1人は何度かお目にかかっているし、もう1人はさらに1週間前の結婚式で隣同士だったので、壇上では和やかな雰囲気だった。
セッション終了後、いろいろ声をかけてくださる方がおり、原稿依頼も一ついただいた。大学院生2人とランチを食べて、次の仕事へ。午後の報告が聞けなかったのが残念。
昨日、SFCでの補講を終えて、急いで三田へ行き、メディアコムの研究会に出席。大幅に遅刻したが、話の主要な部分は聞けた。講師は広島大学の小柏葉子先生。小柏先生の論文は夏から秋にかけてかなり読んだ。
タイトルは「変容する太平洋諸島フォーラム—フィジー紛争への対応にみるダイナミクス—」というもの。小柏先生はフィジーに留学していたことがあるらしい。
太平洋島嶼国のことは昨年まで何も知らなかったし、フィジーには行ったこともないが、この国はかなりドロドロとした政治をしているのがよく分かった。南の小さな島だからといって平和ということはない。PIF(太平洋諸島フォーラム)の参加資格を停止されても独裁政権が続いており、憲法は停止されたままだ。しかし、フィジーはこの地域での有力国であり、オーストラリアやニュージーランドも含めた地域の不安定要因となっている。
そして、アメリカがアジアに帰ってきつつある現在、ここはかなりおもしろい国際政治の様相を示すことになりそうだ。特に、来年は太平洋・島サミットが開かれる年なので、おもしろくなりそうだ。
なお、これまでPIF(Pacific Islands Forum)を小柏先生は「太平洋島嶼フォーラム」と表記していたが、最近は外務省に合わせて「太平洋諸島フォーラム」とすることにしたそうだ。
福島康仁「宇宙空間で軍事的な挑戦を受ける米国—『暗黙の了解』の限界とオバマ政権の対応—」防衛研究所ニュース、159号、2011年11月号。
米ソ(露)の間にあった「暗黙の了解」が崩れてきているとの指摘。「暗黙の了解」を共有しないアクターが台頭してきているのと、対宇宙システムおよびその関連技術の拡散が進行しているからだという。
宇宙も面倒くさくなってきている。
ロバート・S・ロス(八木直人訳)「中国の海軍ナショナリズム:その起源と展望、米国の対応」『海幹校戦略研究』第1巻1号増刊、2011年8月、47〜85ページ。
ちょっと長いが、海軍力を増大させている中国が何を考えているか分かる。地政学的な考察をしている。著者はボストン・カレッジ教授。
Yan Xuetong, “How China Can Defeat America,” New York Times, November 20, 2011.
著者は精華大学の教授。「どうやって中国はアメリカを打ち負かすか」という鷹派的なタイトルだが、中味は、中国は思想やモラルを重視しないとアメリカに勝てないというもの。アメリカは50カ国以上の同盟国を持ち、アフガニスタン、イラク、リビアと三つの戦争を同時に戦う能力があるが、中国は正式な同盟国は一つもなく(半同盟国として北朝鮮とパキスタンがあるのみ)、人民解放軍は近年戦争を経験していない。中国がグローバルなリーダーとなるには世界の人々のハーツ&マインズを勝ち取らなければならないという。
中国がこうした政策に最も成功したのは唐の時代だったという指摘もおもしろい。遣唐使があったように、日本もたくさんの留学生を唐に送っていた。経済や軍事にフォーカスした政策を改めよというのが著者の提言。
今日は日本国際政治学会の以下の部会で討論者をしてくる。お三方の論文を読んで、それぞれおもしろかった。
この部会、けっこう若い。前嶋先生が65年生まれ、中山先生が67年生まれ、私が70年生まれ、阿古先生が71年生まれ、山本先生が75年生まれ。でも10年の幅がある。本当のネット世代は74年生まれ以降というから、実はほとんどの人がネット・イミグラント。きっと聞きに来る人も若い人ばっかりなんだろうけど、どんな議論になるかな。
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部会 9 ソーシャルメディアと政治変動の国際比較
司会 中山俊宏(青山学院大学)
報告 前嶋和弘(文教大学)「アメリカの政治過程におけるソーシャルメディア―ティーパーティ運動と『インターネット・フリーダム』をめぐって」
山本達也(名古屋商科大学)「アラブ諸国における政治変動とソーシャルメディア」
阿古智子(早稲田大学)「ネット世論の高まりに見る中国の『民主』」
討論 土屋大洋(慶應義塾大学)
ラウル・ペドロゾ(高山裕司、石井浩一訳)「至近距離での遭遇—インペッカブル事件—」『海幹校戦略研究』第1巻1号増刊、2011年8月、35〜46ページ。
同じくインペッカブル事件を国際法的な観点から分析し、中国の主張には無理があるとしている。
季国興「『インペッカブル事件』の合法性」『海幹校戦略研究』第1巻1号増刊、2011年8月、28〜34ページ。
同じ雑誌(広報パンフレット)の中に掲載されている中国側の主張。中国は、米国海軍音響観測艦「インペッカブル(USNS Impeccable)」の排他的経済水域内でのインテリジェンス活動は、平和目的ではないから国連海洋法条約の規定に違反するという主張をしている。
そうだとすると、日本の領海内に潜水艦を潜らせてインテリジェンス活動をしている中国は何なんだろうね。
ピーター・A・ダットン(吉川尚徳訳)「中国の視点から見た南シナ海の管轄権」『海幹校戦略研究』第1巻1号増刊、2011年8月、19〜27ページ。
南シナ海は中国の主権が及ぶ海域であると中国は主張している。しかし、筆者はその四つの論拠がいずれも脆弱であると指摘している。
どうやら、中国は国連海洋法条約の規定を無視して、排他的経済水域にも安全保障上の主権が及ぶと解釈しているようだ。それはあまりにもムチャクチャだろう。
ところでこの『海幹校戦略研究』の海幹校とは海上自衛隊幹部候補生学校のことで、『海幹校戦略研究』は一見するとその紀要のように見える。しかし、ISBNが振られていなくて市販されてはいない。関係者に聞いたところ、これは広報用パンフレットなのだそうだ。新手の広報だ。
大庭三枝、山影進「アジア・太平洋地域主義における重層的構造の形成と変容」『国際問題』第415号、1994年10月、2〜29ページ。
こうしてみると、アジア・太平洋地域にもさまざまな国際機関・機構があるものだ。
福島康仁「宇宙利用の拡大と米国の安全保障—宇宙コントロールをめぐる議論と政策—」戦略研究学会編『戦略研究』第9号、2011年3月、23〜38ページ。
福島君は防衛研究所教官をしながら、政策・メディア研究科後期博士課程で博士論文を書いている。この論文は半年ぐらい前に抜き刷りでもらっていたけど、読む時間がなかった。宇宙は私の研究テリトリーではないけど、某学会で宇宙についても発表しなくてはいけなくなったので、出張の機内で読む。
ブッシュ政権からオバマ政権に代わって、宇宙コントロールという言葉は使われなくなっているらしい。グローバル・コモンズとしての宇宙を重視する姿勢が見えてきている。注がたくさん付いているので、後からたどるのに便利だ。
私に宇宙のことを学会で話せという依頼が来たのは、アウタースペース(宇宙)とサイバースペースという二つの空間(スペース)に米国が関心を示しているからで、それに共通する点があるのかないのか、これはちょっとした知的チャレンジだ。
Roger Thurow, “The Fertile Continent: Africa, Agriculture’s Final Frontier,” Foreign Affairs, November/December 2020.
書類整理をしていたらたまたま出てきたので、今日は気分を変えてアフリカの食糧問題についての論文。
といっても、今後の世界の人口増加と食糧不足を考えると気が重くなる。日本は人口が減るとしても、世界では90億人に達するかもしれない。それだけの人間を養うことができるのかは大きな挑戦だ。こうしたテーマは、ITのような「贅沢品」についての研究をしている身からすると、重大さの違いを感じる。
しかし、マイクロソフトのビル・ゲイツが、3000万ドルものお金をGAFSP(Global Agriculture and Food Security Program)をつぎ込んでいるという論文の中の記述には少し救われる。大金を得た人が賢明にそれを使ってくれるのはありがたいことだ。
小柏葉子「太平洋島嶼フォーラムと東アジア」関根政美、山本信人編『海域アジア 現代東アジアと日本4』慶應義塾大学出版会、2004年、261〜280ページ。
太平洋島嶼フォーラム(PIF)が日本、中国、台湾、ASEAN諸国との関係をどうやって発展しようとしてきたかが分析されている。その前提となるのは、旧宗主国であるヨーロッパとのロメ協定(第1次〜第4次)の終了が見えてきたことと、地域の大国であるオーストラリアとニュージーランドとの関係に変化が見えてきたこと。
日本との関係でいえば、PIFからの強い働きかけで、国際機関である太平洋島嶼センター(PIC)が明治大学の中に開設されているらしい。知らなかった。ウェブを見る限りは、誰が所長なのか分からない。外務省はどれくらいかんでいるのだろう。
小柏葉子「南太平洋フォーラムの軌跡—多元化への道—」百瀬宏編『下位地域協力と転換期国際関係』有信堂高文社、1996年、176〜193ページ。
南太平洋フォーラム(SPF)の発展過程を、形成期(1971〜70年代末)、変容期(80年代)、新たな展開期(90年代)に分けて論じてる。
80年代のメラネシアン・スピアヘッド・グループの動きが詳しい。
一連の小柏論文を読みながら、太平洋島嶼国は地域ガバナンスの事例としてけっこうおもしろいと思うようになる。
黒崎輝「日本の宇宙開発と米国—日米宇宙協力協定(1969年)締結に至る政治・外交過程を中心に—」『国際政治』第133号、2003年、141〜156ページ。
外交史的な観点から日本の宇宙開発の初期の様子を論じている。
米国がインテルサットによる世界的通信衛星体制に日本を取り込もうとしていたという指摘にへええと思う。まあ、確かに今でもそういって良い状態かもしれないが、光海底ケーブルに通信容量で負けるようになってからは、通信衛星の重要性は相対的に下がったかもしれない。
松島泰勝「ミクロネシアとアジア」『外務省調査月報』1999年度第1号、1999年、75〜104ページ。
「”帝国”の島 グアムと沖縄」と比べるとずいぶん落ち着いた筆致だが、問題意識は同じようだ(こちらのほうが古い論文)。執筆当時は在パラオ日本国大使館専門調査員。
政治力学的には米国に引き寄せられており、経済力学的にはアジアに引き寄せられているミクロネシアについて分析。
なお、松島先生はミクロネシアを中心とする北太平洋、小柏先生はメラネシア、ポリネシアをカバーする南太平洋をフィールドにしているという感じがする。松島先生は地域協力や国際組織には興味がなさそうだが、小柏先生はSPFやPIFに多大な関心を持っている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Pacific_Culture_Areas.jpg
松島泰勝「”帝国”の島 グアムと沖縄」『週刊金曜日』第354号、2001年3月9日、52〜55ページ。
媒体のせいか、学術論文ではなく、日米両政府と国民を糾弾する文章といった印象を受ける。『ミクロネシア』(早稲田大学出版部)の落ち着いた筆致とは違う。
沖縄出身の著者はグアムと沖縄が事実上の植民地であると訴える。どちらも両国の憲法で保障された理念が制限されている。それはマハンに始まる地政学の考え方により、島嶼を海洋戦略の中に位置づけているからだという。