井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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米国ボストン出張(2010年秋)

昨日まで1週間ほど、米国ボストンに出張してきた。今回は学会参加ではなく、現地の研究者とのミーティングと交流が目的。

最も大きなイベントは、ノースイースタン大学のバラバシ・ラボ(Center for Complex Network Research)での講演。講演タイトルは、"Hidden Order in Chaos: The Network-Analysis Approach to Dynamical Systems" (Takashi Iba) 。昨年取り組んでいた離散カオスのネットワーク分析の研究について、初めて人前で話したことになる。後半には、”Chaotic Walk"(「カオスの足あと」とも呼んでいる)研究の紹介もした。英語での講演(1時間)はまだたどたどしいが、手応えはあった。

発表の前後に、センターの若手の研究者たちとの交流もできた。つい先日 Nature に論文が掲載されたポスドクの Yong-Yeol Ahn や、人文・芸術系の分野でネットワーク分析の展開を推進している訪問研究者 Maximilian Schich、そのほか大学院生たちだ。ひとつ共同研究も始まりそうだ。

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また、MIT Media Labの Cesar Hidalgo のラボも訪問した。彼はネットワーク科学の国際学会つながりの友人。昨年度までHarvard Kennedy Schoolにいたが、今年からMIT Media Labに移り、「Macro Connections」というラボを立ち上げた。今年はMedia Labに、若手がリーダーのラボが3つ立ち上がったらしいが、これはそのうちの一つ。社会・経済のネットワーク分析の若手が、Media Labでどのように研究を展開するのか非常に楽しみだ。

あと、僕が昨年1年間過ごした MIT Center for Collective Intelligence も訪れ、最近の動向や研究上の話などをした。それ以外にも、現地にいる研究者/学生(日本人も含む)とたくさん交流ができ、非常に充実した1週間であった。

さらに、言語習得に関しても現状の確認と今後の目標が定まった。リスニングについては、それなりに聞けるようになっているのを確認した。次は、英語の発音とイントネーションをきちんと改善したいと強く思った。(今後、少しそちらのトレーニングをきちんとやることにしようと思う。)

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今回は、ホテルではなく、ウィークリーアパートメント(といっても戸建ての一部屋)に滞在した。その方がホテルに泊まるよりも安いし、町を満喫できる。行き慣れているスーパーで買い物をし、自分で朝食をつくり、Zipcar(時間貸しのレンタカーのようなもの)や地下鉄で町を移動し、いつもの店でランチを食べ、お気に入りの本屋で知的な休憩をする。やっぱり、僕はボストンの町並みと生活が好きだなぁ〜、と再認識。そして、空が広い。この自然のスケール感も好き。

研究の面でも、言語習得の面でも、精神的な面でも、たくさん刺激を受け、これからの秋冬の知的生活の原動力を得た。さあ、またがんばるぞ!


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※昨年住んでいたマンションの裏庭には、まだワイルドターキーちゃんがいた。思わず、"Wow! You are still here! How are you?"と声をかけた。いつもどおりマイペースで歩いていたので、元気なのだろう。
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MITの現状と Idea Bank

MITで行われたState of the Institute forumという会に参加してきた。教職員・関係者向けの集会だ。

MITの学長が現状と見通しを説明し、その後、理事らとともに対談をする。前半は、MITの最近の学術や政策への貢献というポジティブな話がほとんどだったが、後半は、やはり今の最大の問題である、金融危機の影響を受けたレイオフについても触れられた。質疑応答もそれに関することが多かった。しかし、全体的な運営状況としては、今年始めに発表したほど悪くはないらしい。

今のMITの学長は、Susan Hockfield。初めて話しているところを見たが、非常に頭が切れそうな感じの女性だった。テクノロジー系の大学のヘッドが女性というのは、象徴的な意味でもよいなぁと思った。

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ところで、学長のまとめのスピーチで、"collective intelligence"という言葉が2回出てきた。みんなで知恵を合わせて取り組んでいこう、ということなんだけど、こういうふうに使えるんだ、と勉強になった。

それで、実際にどう進めるかというと、The Institute-wide Planning Task Forceというところが、MIT Idea Bankというのを開いている。日本で言う目安箱的なものであるが、意見・不満ではなく改善のアイデアを募集するという点でポジティブな仕組みだ。現在、200個近いアイデアが集まっているという。

IdeaBank



このIdea Bank話で、いまから10年くらい前に書いた「ボイスアブソーバー」の論文のことを思い出した。第四回読売論壇新人賞佳作(読売新聞社, 1998)をいただいた論文だ。

「自己変革能力のある社会システムへの道標:複雑系と無気力の心理学の視点から」(井庭 崇)

これを書いた当時は修士2年生で、『複雑系入門』の執筆時に考えていた政策的なアイデアを、本の出版直後に一気に書いたという論文だ。これを読み返すと、そのときからCollective Intelligence的な興味があったのだと気づく。当時は実現のメカニズムについての具体的なイメージはできていなかったら、あれから10年たち、情報インフラも情報技術も進化し、ようやく具体的な仕組みの実現や実験ができる時代になってきたということか。

詳しくは論文の方を読んでみてほしいけれど、どんな感じの話なのか、少しだけイントロダクションから引用。

本論で私は、複雑系と無気力の心理学の視点から、日本社会に自己変革能力を組み込むために以下の具体的な提言を行なう。

 (1)自律的なサブシステムへの分権化
 (2)ボイス・アブソーバーの設立、およびポリシー・インキュベーターの役割強化
 (3)効力感を育成する教育への改革
 (4)人々の心理コストを考慮したシステム設計の奨励


「創造的社会へ」ということを、もう10年も言っているのだ、ということに気づかされた。「10年ルール」でいうと、そろそろ煮詰まった成果が出ていい頃だ。引き続き、がんばります。
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