井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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MITの現状と Idea Bank

MITで行われたState of the Institute forumという会に参加してきた。教職員・関係者向けの集会だ。

MITの学長が現状と見通しを説明し、その後、理事らとともに対談をする。前半は、MITの最近の学術や政策への貢献というポジティブな話がほとんどだったが、後半は、やはり今の最大の問題である、金融危機の影響を受けたレイオフについても触れられた。質疑応答もそれに関することが多かった。しかし、全体的な運営状況としては、今年始めに発表したほど悪くはないらしい。

今のMITの学長は、Susan Hockfield。初めて話しているところを見たが、非常に頭が切れそうな感じの女性だった。テクノロジー系の大学のヘッドが女性というのは、象徴的な意味でもよいなぁと思った。

StatePhoto1 StatePhoto2

ところで、学長のまとめのスピーチで、"collective intelligence"という言葉が2回出てきた。みんなで知恵を合わせて取り組んでいこう、ということなんだけど、こういうふうに使えるんだ、と勉強になった。

それで、実際にどう進めるかというと、The Institute-wide Planning Task Forceというところが、MIT Idea Bankというのを開いている。日本で言う目安箱的なものであるが、意見・不満ではなく改善のアイデアを募集するという点でポジティブな仕組みだ。現在、200個近いアイデアが集まっているという。

IdeaBank



このIdea Bank話で、いまから10年くらい前に書いた「ボイスアブソーバー」の論文のことを思い出した。第四回読売論壇新人賞佳作(読売新聞社, 1998)をいただいた論文だ。

「自己変革能力のある社会システムへの道標:複雑系と無気力の心理学の視点から」(井庭 崇)

これを書いた当時は修士2年生で、『複雑系入門』の執筆時に考えていた政策的なアイデアを、本の出版直後に一気に書いたという論文だ。これを読み返すと、そのときからCollective Intelligence的な興味があったのだと気づく。当時は実現のメカニズムについての具体的なイメージはできていなかったら、あれから10年たち、情報インフラも情報技術も進化し、ようやく具体的な仕組みの実現や実験ができる時代になってきたということか。

詳しくは論文の方を読んでみてほしいけれど、どんな感じの話なのか、少しだけイントロダクションから引用。

本論で私は、複雑系と無気力の心理学の視点から、日本社会に自己変革能力を組み込むために以下の具体的な提言を行なう。

 (1)自律的なサブシステムへの分権化
 (2)ボイス・アブソーバーの設立、およびポリシー・インキュベーターの役割強化
 (3)効力感を育成する教育への改革
 (4)人々の心理コストを考慮したシステム設計の奨励


「創造的社会へ」ということを、もう10年も言っているのだ、ということに気づかされた。「10年ルール」でいうと、そろそろ煮詰まった成果が出ていい頃だ。引き続き、がんばります。
ボストン | - | -

『10+1 web site』に論文を書きました

建築系のオンライン雑誌『10+1 web site』に論文を書きました。

「自生的秩序の形成のための《メディア》デザイン──パターン・ランゲージは何をどのように支援するのか?」(井庭 崇)


TenPlusOne2009Sep.jpg



今回の論文は、僕らのつくった「学習パターン」(Learning Patterns)の話から、教育と建築における問題の共通性について、そして自生的秩序の形成についての話から始まります。そのうえで、自生的秩序の形成を支援するメディアとして、パターン・ランゲージを取り上げ、それがどのように秩序形成に寄与するのかを考察していきます。

社会と思考の自生的秩序については、ニクラス・ルーマンの社会システム理論にもとづいて考察します。そして、創造における自生的秩序については、現在僕が構想中の「創造システム理論」(Creative Systems Theory)にもとづいて考えます。自分が今構想している最中の理論によって考察するということで、とても大胆かつチャレンジングな試みです(笑)。

創造システム理論というのは、創造のプロセスをオートポイエーシスの概念で捉えるというものです。つまり、創造は、心理的ななにかではなく、ひとつのオートポイエティックなシステムだ、と捉えるわけです。ルーマンが、「社会」を主体から離して定義したように、僕は「創造」を主体から離して定義します。心理学や認知科学の観点からの研究が多い「創造性」(クリエイティビティ)研究のなかではかなりラディカルな理論だと言えるでしょう。分量の制限や文脈の制約で、まだ理論の一部しか示せていませんが、創造システム理論について書くのは初めてなので、この部分はひとつの目玉です。

もう一つの目玉としては、オートポイエーシスの概念について、わかりやすい図を交えて説明しているという点です。図も説明の仕方も、自分なりに今回新たにつくり出したものです。

このように、今回の論文は、全体的にオリジナリティの高い内容になっていると思います。みなさん、ぜひ読んでみてください(感想などお待ちしています)。


今回の特集テーマは「きたるべき秩序とはなにか──システム、パターン、アルゴリズム」ということで、ほかには、濱野智史さんと柄沢祐輔さんが書いています。濱野さんの論文は、彼がこれまで論じてきた内容とうまく絡んでいてなかなか面白い。柄沢さんの論文は、彼が最近アルゴリズム建築としてつくった住宅の話が紹介されています。可能性としての手法の提案ではなく、実際に建築物をつくっているところがすごい。

たまたまなのか、編集者の方の意図なのかはわかりませんが、3人とも慶應義塾大学SFCの出身です。それぞれ異なる方向性に進みながら、このような場でまた交わることができるというのは、うれしいことです。


『10+1 web site』(http://tenplusone.inax.co.jp/)
2009年9月号
特集:きたるべき秩序とはなにか──システム、パターン、アルゴリズム

  • 「自己組織化は設計可能か──スティグマジーの可能性」
    (濱野智史  株式会社日本技芸リサーチャー/情報環境研究者)

  • 「自生的秩序の形成のための《メディア》デザイン──パターン・ランゲージは何をどのように支援するのか?」
    (井庭崇 慶應義塾大学総合政策学部/MIT)

  • 「アルゴリズム的思考と新しい空間の表象」
    (柄沢祐輔 建築家)
  • イベント・出版の告知と報告 | - | -

    Twitterでのつぶやき

    実は、2ヶ月ほど前から、Twitterでつぶやいています。
    研究に関することやアメリカ生活のこと、MITのこと、思いつきやふとした感想などなど。

    どうも僕はブログだとかしこまってしまって、なかなか書けないのだけれども、Twitterでは快調につぶやきまくっています。最初は研究会のメンバーや同僚など、身近な(でも物理的距離は遠い)人とのシンクロ感をもつために始めたのですが、知らない方からのフォローもだいぶ増えました。

    ということで、このブログでも僕のTwitterのことを、お知らせしておきます。

    井庭 崇 on Twitter
    http://twitter.com/takashiiba


    この前書いた、学習パターン on Twitter (http://twitter.com/LPattern)の方もよろしく。
    このブログについて/近況 | - | -

    学習パターンのTwitter配信

    学びのパターン・ランゲージである「学習パターン」(Learning Patterns)のTwitter配信を始めます。ほぼ1日に1回、1つの学習パターンを取り上げて紹介していきます。

    変化が激しい現代社会では、学生のみならず、あらゆる年代の人にとって「学び」が重要になっています。そしてその「学び」は、単なる詰め込み型ではなく、新しい関係性を発見し、自ら意味を編集・構成していくような創造的な活動であるはずです。学習パターンは、そのような創造的な「学び」のためのコツをまとめた秘訣集です。

    毎日の生活における「学びのスパイス」として、学習パターンon Twitterをぜひフォローしてください。

    LearningPatterns



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