授業シラバス「社会システム理論」(2013年度春学期@SFC)
今年の「社会システム理論」の授業では、ニクラス・ルーマンの『社会システム理論』を日本語でじっくり読み込みます。
「社会システム理論」(先端導入科目-総合政策-社会イノベーション)
2013年度 春学期 木曜日2時限(2単位)
担当教員 井庭 崇, 古川園 智樹
【主題と目標/授業の手法など】
本講義では、物事を「システム」として捉える視点を身につけることを目指します。
本講義で取り上げるのは、「社会システム理論」(オートポイエーシスの社会システム理論)です。その理論では、社会はコミュニケーションがコミュニケーションを連鎖的に引き起こすことで成り立つシステムであると捉えます。このような捉え方で、社会学者ニクラス・ルーマンは、次のような問題に答えようとしました。「社会的な秩序はいかにして可能なのだろうか?」と。個々人は別々の意識をもち、自由に振る舞っているにもかかわらず、社会が成り立つ(現に動いている)、この不思議に取り組むのが、社会システム理論です。
社会システム理論の捉え方によって、既存の社会諸科学では分析できない社会のダイナミックな側面を理解することができるようになります。また、個別の学問分野を超えた視点で社会を捉えることができるようになります。この理論を考案した社会学者ニクラス・ルーマンは、この社会システム理論を用いて、経済、政治、法、学術、教育、宗教、家族、愛などの幅広い対象を分析しました。この授業では、さらに、創造のシステム理論やパターン・ランゲージなど、新しい領域への展開方法についても取り上げたいと思います。
社会システム理論は非常に難解な理論ですが、授業ではできる限り噛み砕いてわかりやすく説明します。また、話し合いや演習の時間も設け、コミュニケーションの連鎖によって学ぶ場にしたいと思っています。前提知識等は必要ありません。学年も問いません。社会や物事のダイナミックな側面を捉えたいと思っている人は、ぜひ一緒に学びましょう。
【授業計画】
第1回 イントロダクション
ニクラス・ルーマンの提唱した「社会システム理論」の魅力はどこにあるのでしょうか? また、この理論はどのような可能性を秘めているのでしょうか? 授業では、ルーマンの社会システム理論について概観し、社会科学における「超領域的」(トランスディシプリナリ)なアプローチの基礎論としての可能性について考えていきます。
第2回 コラボレーションについての対話
コラボレーションとは、複数の人々が、ひとりでは決して到達できないような付加価値を生み出す協働作業のことです。創造的なコラボレーションが行われている組織やチームでは、そのコミュニケーションの流れに「勢い」が生まれ、連鎖的に共鳴・増幅していきます。このような流れに身を委ね、コミュニケーションのパスをつないでいくと、思いもかけない飛躍的なアイデアやイノベーションが生まれることがあります。自分たちのこれまでのコラボレーションの経験について、「コラボレーション・パターン」を用いて語り合います。
第3回 ダブル・コンティンジェンシーと社会形成
人は自由な意志にもとづいて考え、行動しています。それにもかかわらず、社会はある秩序をもって成り立っています。このようなことはいかにして可能なのでしょうか? 授業では、出来事や選択が「別様でもあり得る」(コンティンジェントである)ということ、そして、複数の人が集ると、お互いに相手を予測できないために自分の行為を決定できないという「ダブル・コンティンジェンシー」の問題が発生することを理解します。そして、「ノイズからの秩序」という考え方を用いて、社会形成の仕組みについて考えます。
第4回 行為とコミュニケーション
社会システム理論では、「コミュニケーション」は、従来の社会学でいう「行為」の延長線上にあるものではないと捉えます(つまり、単なる社会的行為や言語的行為ではないと捉えます)。それでは、いったいコミュニケーションとはどのような出来事なのでしょうか? 授業では、従来のような「情報の移転」という捉え方ではない新しい「コミュニケーション」の捉え方について理解します。そのうえで、「コミュニケーション」が「行為」とはどのように異なるのかについて考えていきます。
第5回 コミュニケーションの不確実性とメディア
コミュニケーションにはいろいろな不確実性が伴うため、本来は成立が困難なものです。それにもかかわらず、日常生活ではふつうにコミュニケーションが成り立っています。いったいどのような仕組みでコミュニケーションが実現できているのでしょうか? 授業では、コミュニケーションにまつわる三つの不確実性(他者理解の不確実性、到達の不確実性、コミュニケーション成果の不確実性)と、それらの不確実性を確実性へと変換するメディア(言語、拡充メディア、コミュニケーション・メディア)について理解します。
第6回 コミュニケーションの生成・連鎖としての社会システム
社会システム理論では、社会の構成要素は人ではなく「コミュニケーション」であるといいます。ここに、社会の捉え方に関する理論的革新があります。それでは、コミュニケーションを中心として社会を捉えると、どのように捉えることができるのでしょうか? 授業では、社会をコミュニケーションの生成・連鎖として捉える視点を身につけます。また、自分で自分を生み出し続けるシステムを理解するうえで重要な「自己言及」(自己準拠)や「オートポイエーシス」(自己生成)の概念についても学びます。
第7回 社会システムの閉鎖性/開放性と環境
自分で自分を生み出すオートポイエーシス(自己生成)のシステムは、ある種の閉鎖性と、ある種の開放性を併せ持っています。システムの閉鎖性と開放性は本来、対をなす概念でしたが、その両方をもつとはどういうことなのでしょうか? 授業では、システムの作動上の閉鎖性と、そのうえでの開放性について理解します。また、「環境」の概念や、システムと環境の関係についても理解します。
第8回 意識の連鎖としての心的システム
社会システム理論では、人間の思考も、オートポイエーシス(自己生成)のシステムとして捉えられます。それはどのようなシステムなのでしょうか? また、社会システムとの関係はどうなっているのでしょうか? 授業では、意識が意識を生み出し連鎖することで成り立つ「心的システム」について考えます。そして、複数の心的システムはお互いに到達することができないことから、コミュニケーションが不可欠となるということを理解します。また、心的システムと社会システムとの関係についても考えていきます。
第9回 近代社会の機能システム
社会システム理論では、近代社会は、経済、法、学問、宗教など、機能的な分化が起こったと捉えます。つまり近代社会では、経済システム、法システム、学問システム、宗教システムなどがそれぞれ自律的に動いているということです。それぞれの機能システムは、どのようなコードで動いているのか、そして、近代社会とはいかなる時代なのかについて考えます。
第10回 システム間の構造的カップリング
それでは、機能分化したシステムは、お互いにどのような関係性にあるのでしょうか? 授業では、全体と機能分化したシステムの関係を理解し、さらに、機能分化したシステム同士の関係性を捉えるための「構造的カップリング」の概念を学びます。
第11回 オートポイエーシス
ルーマンは社会を、自分で自分自身を生み出す「オートポイエーシス」の特徴をもつシステムだと捉えましたが、その「オートポイエーシス」の概念は、もともとは生命システムの理論として提唱されました。この回では、システム理論の観点から、オートポイエーシスの概念についてさらに深く理解します。
第12回 創造システム
ルーマンのシステム理論を参考につくられた「創造システム理論」(井庭 崇)について取り上げます。その理論の内容とともに、その理論がどのようなプロセスによって構築されてきたのかについてもお話しします。
第13回 パターン・ランゲージはいかなるメディアか
「いきいきとした質」を生み出すための言語「パターン・ランゲージ」が、社会システム理論/創造システム理論では、どのようなメディアとして捉えられるのかについて考えます。
第14回 総括
これまでの授業を振り返り、総括をします。
第15回 質疑応答
授業に関する質疑応答を受けます。
【教材・参考文献】
教科書として以下の3冊の書籍を指定します。履修者は各自購入し、授業進行にあわせて読んでもらいます(サマリーを宿題として提出)。輪読の際に線を引きながら読むので、借りるのではなく購入するようにしてください。
『【リアリティ・プラス】社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』(井庭 崇 編著, 宮台 真司, 熊坂 賢次, 公文 俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011)
『社会システム理論〈上〉』(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1993)
『GLU:ニクラス・ルーマン社会システム理論用語集』(クラウディオ・バラルディ, ジャンカルロ・コルシ, エレーナ・エスポジト, 国文社, 2013)
以下は、授業に関連する参考文献です。
「コラボレーション・パターン」(井庭研究室 コラボレーション・パターン プロジェクト) http://collabpatterns.sfc.keio.ac.jp
「自生的秩序の形成のための《メディア》デザイン──パターン・ランゲージは何をどのように支援するのか?」(井庭 崇, 『10+1 web site』, 2009年9月号) http://10plus1.jp/monthly/2009/09/post-2.php
"An Autopoietic Systems Theory for Creativity" (Takashi Iba, Procedia - Social and Behavioral Sciences, Vol.2, Issue 4, 2010, pp.6610-6625) http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1877042810011298
『プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』(井庭崇, 井庭研究室, 慶應義塾大学出版会, 2013)
【履修上の注意】
●毎週、文献を読み、そのサマリーを提出するという宿題を出します。
●この授業で読む文献は、とても難解な文章・理論です。それに食らいついて理解しようというガッツがある人だけ履修してください。
【提出課題・試験・成績評価の方法など】
成績評価は、授業中の議論への参加、宿題、期末レポートから総合的に評価します。
【履修者制限】
履修人数を制限する。受入学生数(予定):約 150 人
選抜方法と時期:初回に履修志望を書いてもらいます。
「社会システム理論」(先端導入科目-総合政策-社会イノベーション)
2013年度 春学期 木曜日2時限(2単位)
担当教員 井庭 崇, 古川園 智樹
【主題と目標/授業の手法など】
本講義では、物事を「システム」として捉える視点を身につけることを目指します。
本講義で取り上げるのは、「社会システム理論」(オートポイエーシスの社会システム理論)です。その理論では、社会はコミュニケーションがコミュニケーションを連鎖的に引き起こすことで成り立つシステムであると捉えます。このような捉え方で、社会学者ニクラス・ルーマンは、次のような問題に答えようとしました。「社会的な秩序はいかにして可能なのだろうか?」と。個々人は別々の意識をもち、自由に振る舞っているにもかかわらず、社会が成り立つ(現に動いている)、この不思議に取り組むのが、社会システム理論です。
社会システム理論の捉え方によって、既存の社会諸科学では分析できない社会のダイナミックな側面を理解することができるようになります。また、個別の学問分野を超えた視点で社会を捉えることができるようになります。この理論を考案した社会学者ニクラス・ルーマンは、この社会システム理論を用いて、経済、政治、法、学術、教育、宗教、家族、愛などの幅広い対象を分析しました。この授業では、さらに、創造のシステム理論やパターン・ランゲージなど、新しい領域への展開方法についても取り上げたいと思います。
社会システム理論は非常に難解な理論ですが、授業ではできる限り噛み砕いてわかりやすく説明します。また、話し合いや演習の時間も設け、コミュニケーションの連鎖によって学ぶ場にしたいと思っています。前提知識等は必要ありません。学年も問いません。社会や物事のダイナミックな側面を捉えたいと思っている人は、ぜひ一緒に学びましょう。
【授業計画】
第1回 イントロダクション
ニクラス・ルーマンの提唱した「社会システム理論」の魅力はどこにあるのでしょうか? また、この理論はどのような可能性を秘めているのでしょうか? 授業では、ルーマンの社会システム理論について概観し、社会科学における「超領域的」(トランスディシプリナリ)なアプローチの基礎論としての可能性について考えていきます。
第2回 コラボレーションについての対話
コラボレーションとは、複数の人々が、ひとりでは決して到達できないような付加価値を生み出す協働作業のことです。創造的なコラボレーションが行われている組織やチームでは、そのコミュニケーションの流れに「勢い」が生まれ、連鎖的に共鳴・増幅していきます。このような流れに身を委ね、コミュニケーションのパスをつないでいくと、思いもかけない飛躍的なアイデアやイノベーションが生まれることがあります。自分たちのこれまでのコラボレーションの経験について、「コラボレーション・パターン」を用いて語り合います。
第3回 ダブル・コンティンジェンシーと社会形成
人は自由な意志にもとづいて考え、行動しています。それにもかかわらず、社会はある秩序をもって成り立っています。このようなことはいかにして可能なのでしょうか? 授業では、出来事や選択が「別様でもあり得る」(コンティンジェントである)ということ、そして、複数の人が集ると、お互いに相手を予測できないために自分の行為を決定できないという「ダブル・コンティンジェンシー」の問題が発生することを理解します。そして、「ノイズからの秩序」という考え方を用いて、社会形成の仕組みについて考えます。
第4回 行為とコミュニケーション
社会システム理論では、「コミュニケーション」は、従来の社会学でいう「行為」の延長線上にあるものではないと捉えます(つまり、単なる社会的行為や言語的行為ではないと捉えます)。それでは、いったいコミュニケーションとはどのような出来事なのでしょうか? 授業では、従来のような「情報の移転」という捉え方ではない新しい「コミュニケーション」の捉え方について理解します。そのうえで、「コミュニケーション」が「行為」とはどのように異なるのかについて考えていきます。
第5回 コミュニケーションの不確実性とメディア
コミュニケーションにはいろいろな不確実性が伴うため、本来は成立が困難なものです。それにもかかわらず、日常生活ではふつうにコミュニケーションが成り立っています。いったいどのような仕組みでコミュニケーションが実現できているのでしょうか? 授業では、コミュニケーションにまつわる三つの不確実性(他者理解の不確実性、到達の不確実性、コミュニケーション成果の不確実性)と、それらの不確実性を確実性へと変換するメディア(言語、拡充メディア、コミュニケーション・メディア)について理解します。
第6回 コミュニケーションの生成・連鎖としての社会システム
社会システム理論では、社会の構成要素は人ではなく「コミュニケーション」であるといいます。ここに、社会の捉え方に関する理論的革新があります。それでは、コミュニケーションを中心として社会を捉えると、どのように捉えることができるのでしょうか? 授業では、社会をコミュニケーションの生成・連鎖として捉える視点を身につけます。また、自分で自分を生み出し続けるシステムを理解するうえで重要な「自己言及」(自己準拠)や「オートポイエーシス」(自己生成)の概念についても学びます。
第7回 社会システムの閉鎖性/開放性と環境
自分で自分を生み出すオートポイエーシス(自己生成)のシステムは、ある種の閉鎖性と、ある種の開放性を併せ持っています。システムの閉鎖性と開放性は本来、対をなす概念でしたが、その両方をもつとはどういうことなのでしょうか? 授業では、システムの作動上の閉鎖性と、そのうえでの開放性について理解します。また、「環境」の概念や、システムと環境の関係についても理解します。
第8回 意識の連鎖としての心的システム
社会システム理論では、人間の思考も、オートポイエーシス(自己生成)のシステムとして捉えられます。それはどのようなシステムなのでしょうか? また、社会システムとの関係はどうなっているのでしょうか? 授業では、意識が意識を生み出し連鎖することで成り立つ「心的システム」について考えます。そして、複数の心的システムはお互いに到達することができないことから、コミュニケーションが不可欠となるということを理解します。また、心的システムと社会システムとの関係についても考えていきます。
第9回 近代社会の機能システム
社会システム理論では、近代社会は、経済、法、学問、宗教など、機能的な分化が起こったと捉えます。つまり近代社会では、経済システム、法システム、学問システム、宗教システムなどがそれぞれ自律的に動いているということです。それぞれの機能システムは、どのようなコードで動いているのか、そして、近代社会とはいかなる時代なのかについて考えます。
第10回 システム間の構造的カップリング
それでは、機能分化したシステムは、お互いにどのような関係性にあるのでしょうか? 授業では、全体と機能分化したシステムの関係を理解し、さらに、機能分化したシステム同士の関係性を捉えるための「構造的カップリング」の概念を学びます。
第11回 オートポイエーシス
ルーマンは社会を、自分で自分自身を生み出す「オートポイエーシス」の特徴をもつシステムだと捉えましたが、その「オートポイエーシス」の概念は、もともとは生命システムの理論として提唱されました。この回では、システム理論の観点から、オートポイエーシスの概念についてさらに深く理解します。
第12回 創造システム
ルーマンのシステム理論を参考につくられた「創造システム理論」(井庭 崇)について取り上げます。その理論の内容とともに、その理論がどのようなプロセスによって構築されてきたのかについてもお話しします。
第13回 パターン・ランゲージはいかなるメディアか
「いきいきとした質」を生み出すための言語「パターン・ランゲージ」が、社会システム理論/創造システム理論では、どのようなメディアとして捉えられるのかについて考えます。
第14回 総括
これまでの授業を振り返り、総括をします。
第15回 質疑応答
授業に関する質疑応答を受けます。
【教材・参考文献】
教科書として以下の3冊の書籍を指定します。履修者は各自購入し、授業進行にあわせて読んでもらいます(サマリーを宿題として提出)。輪読の際に線を引きながら読むので、借りるのではなく購入するようにしてください。
以下は、授業に関連する参考文献です。
【履修上の注意】
●毎週、文献を読み、そのサマリーを提出するという宿題を出します。
●この授業で読む文献は、とても難解な文章・理論です。それに食らいついて理解しようというガッツがある人だけ履修してください。
【提出課題・試験・成績評価の方法など】
成績評価は、授業中の議論への参加、宿題、期末レポートから総合的に評価します。
【履修者制限】
履修人数を制限する。受入学生数(予定):約 150 人
選抜方法と時期:初回に履修志望を書いてもらいます。
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