井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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自ら「つくる」ことで経済から離れる「卒 資本主義」への創造社会ヴィジョン

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最近、井庭研の大学院生たちと『人新世の「資本論」』(斎藤 幸平, 集英社新書, 2020)や『日本の大転換』(中沢 新一, 集英社新書, 2011)などを読み、資本主義の外部である自然の搾取や、その結果としての環境問題について議論している。資本主義は貪欲に外部を内部に取り込み搾取しながらどんどん拡大していく。もともとそのような運動性を内在していたわけだが、原発という無尽蔵なエネルギー源をもつことで、その拡大はさらに歯止めが効かなくなり、「暴走」に近いような状態となった。このような資本主義に対し、「脱・資本主義」や「脱成長」という議論がしばしば聞かれる。僕らが1990年代に取り組んでいたような話が、再燃しているような印象を受ける。地球温暖化の話題とあいまって、喫緊の課題である危機感はより高い。そんなわけで、最近、昔、環境・エネルギー問題にともに取り組んでいた熱い友人と、どうしたらいいだろうという話をしたりしている。

このような話をしているなかで、僕が一つ不思議に思ったのは、なぜ経済システムだけがここまでの猛威を振るう存在となっているのか?ということだ。僕が依拠している社会学者ニクラス・ルーマンの機能分化した近代社会像で言うならば、経済システムは、並列して動くいくつもの機能システムの一つにすぎないはずだ(機能分化の近代社会像については『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』の序章で紹介しているので参照してほしい)。それにもかかわらず、これほど影響が大きいほど、大きな力を持っているのだろうか? まず、そのことが疑問に浮かんだ。そこから考えを深めていくと、社会の新しいあり方へのシフトの糸口がつかめてきた。まだ大雑把な段階ではあるが、そのヴィジョンの覚書として、ここに書き記しておきたい。


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まず、私たちが日常生活において経済から離れられない・依存してしまうのは、衣・食・住とエネルギーが経済的な調達によって得ているからであろう。つまり、経済に参加しないと、住むところ、着るもの、食べるもの、そして生活上必要となるエネルギーが調達できず、暮らせない・生きていけないのだ。だからこそ、私たちは日々働いてお金を稼ぎ、それで物やサービスを買うということしているわけで、それを止められない理由である。

科学システムや法システム、政治システム、芸術システムや宗教システムなどには、必ずしも参加しなくても生きていくことはできる(より精神的に豊かになるということはあっても、それらに参加しないと生存し続けることができない、というわけでは必ずしもない)。これに対し、一機能システムでしかないはずの経済システムは、人が暮らす・生きるためにべったりと寄り添いながら生きていくしかないという状態になっているのだ。経済から離れられない理由、資本主義を止められない理由は、衣食住やエネルギーを経済システムに依存して調達しているというところにある。

このような状態から脱するにはどうしたらよいのだろう? そのような「卒 資本主義」の可能性を考えてみたい。ここで、「卒 資本主義」というのは、「脱 資本主義」と似ているが、少しニュアンスの異なる言葉として提唱したい。この「卒」で表すということは、『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』のなかで、鈴木寛さんが「脱近代」ではなく「卒近代」という言葉をつかっていたのに着想を得ている。学校を「卒業」するように、「リスペクトをもちつつ、そこから離れ、次の段階にいく」というニュアンスが「卒」にはある。資本主義が可能にしてくれた恩恵や時期を否定せず認めつつも、そこから離れていくという意味で、「卒 資本主義」。あるいは、もっと身近なレベルの感覚で言うならば、「卒 経済依存」「卒 お金依存」と言ってもよいだろう。

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さて、「卒 資本主義」はどのように可能になるのだろうか? その鍵は、実はこれまで僕らが語って目指していたことにこそあった、と最近気づいた。それは、「つくる」ということへのフォーカスである。僕はこれからの社会は、「創造社会」(creative society)と呼び得る社会になると考え、そのことについてここ10年ほど言い続けてきた。その社会では、人々は自らの日常的な創造性を発揮しながら、いろいろなものを「つくる」。「つくっている」ということが生活や人生の豊さの象徴になるような時代だ。この「つくる」ということが、「卒 経済依存」、「卒 お金依存」、そして「卒 資本主義」を可能とする鍵なのだ。

さきほど見たように、衣・食・住とエネルギーをお金を払って購入して調達することで私たちの暮らし・生きることが成り立っている。この現状に対して、これからの創造社会では、衣・食・住やエネルギーも、自分で「つくる」(ことができる)ことにより、経済システム経由で衣・食・住とエネルギーを調達する必要性を減らすことができる

たとえば、トマトを食べるために、それを「買う」からお金がかかるのであり、自分で「育てる」(つくる)のであればそれだけのお金はかからない(もちろん種や苗、肥料は入手する必要があるが)。経済システムを経由してトマトを調達するのではなく、自分で育てて収穫することで調達することができる、この視点の転換が、ここで言いたいことの要である。洋服を自分でつくれば、買って調達する必要はなくなる。つくればつくるほど、経済的に購入して調達する必要性が下がり、それゆえ、ライフコストは低くなる。お金を多く必要としない暮らしへとシフトできる。四角大輔さんは、ニュージーランドで自給自足生活を送る実験を自ら実践中で、彼のような生き方をすると、「ミニマムライフコスト」はかなり低い。完全時給自足は大変で難しいかもしれないが、ここで言いたいことの本質は、自分で「つくる」ということは、「経済」から自由になるということなのだということだ。

これらのことは、現在の時点から見ると、難しそうに聴こえるかもしれない。自分に野菜を育てられるだろうか、あるいは服をつくれるだろうか、と。しかし、それが簡単にできるようになり、多くの人がやるようになる社会が、創造社会なのだ。1990年代の初めのまだインターネットが普及していない段階で、ネット上でお金を振り込むことができたり、ネット経由でテレビを見ることができたり、オンラインで授業ができるということは、難しいことだと思っただろう。それと同じように、なんでも自分でつくることができる世界というのは、いまの段階では、信じにくいかもしれない。しかし、FAB(デジタル・ファブリケーション)の技術や装置も開発されていて、かなりの度合いで可能になっている。太陽光パネルなどの自然エネルギー装置により自分たちのところでつくることができる。そして、それぞれの領域における創造実践の経験則を言語化したパターン・ランゲージも、日々の「つくる」の下支えをしてくれる。

そのような「つくる」ことへのシフトは、単につくる喜びやそれに付随する学びを得られるだけではなく、「卒 経済依存」「卒 資本主義」の道を進むことなのだ、と最近気づいた。自分で「つくる」暮らし・生き方をすることで、経済システムから離れることが可能になる。これが、創造社会の姿であろう。人は、自ら「つくる」ことで、経済システムから自由になることができるのである。

もちろん、経済がまったく不要になるということではない。完全自給自足にこだわってしまうと、それはそれで不自由になるし、経済によって成り立つよいこともいろいろある。その価値を認めた上で、経済から適度な距離をもって関わることができるようにすることを目指すのが、「卒 資本主義」への創造社会ヴィジョンである。


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そのような「つくる」ことや「つくる」ことに関するコミュニケーションが展開される社会では、「共創システム」(Co-Creation System)と呼び得るコミュニケーションの連鎖が安定的に生じることになるだろう。そうして、いま以上に、「つくる」ことが継続的に発生しやすい状況になるだろう。そのようなことを促すメディアがパターン・ランゲージである(その点については、以前、次の論文で論じたので、ご覧いただければと思う)。

  • Takashi Iba, “Sociological Perspective of the Creative Society” in Matth us P. Zylka, Hauke Fuehres, Andrea Fronzetti Colladon, Peter A. Gloor (eds.), Designing Networks for Innovation and Improvisation (Springer Proceedings in Complexity), Springer International Publishing, 2016, pp.29-428


  • 来年度の井庭研では、このヴィジョンの解像度を上げ、さらに「卒 資本主義」を実現するための戦略も構築するプロジェクトを立ち上げる。みなさんとも、建設的な語り合いができればと思うし、応援をお願いします!
    創造社会論 | - | -

    SFC「創造社会論」対談映像 2014〜2018

    慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の授業「創造社会論」(担当:井庭 崇)では、毎週、これからの社会をつくる創造的な活動・生き方をしているゲストをお呼びして、対談をしてきました。

    この授業は、教員やゲストのモノローグではなく、その場で生成される「ダイアローグ」(対話)を聞き、参加するなかで学ぶという授業。そして、最後にはそれを、今後自分が実践したり語ったりしやすいパターン・ランゲージの形式でまとめるという授業です。

    2014年から始まり、5年行い、34回 計38人のゲストの方と語り合いました。

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    この授業は、すべての回の映像が公開されています。

    興味があるところから、ぜひご覧ください。

  • 「創造社会とパターン・ランゲージ」
    
井庭 崇 レクチャー (2017年4月)【映像:前半/ 後半】


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  • 「デザイン」
    水野 大二郎 × 井庭 崇 対談 (2014年4月)【映像:前半/ 後半

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  • 「空間」
    中川 敬文 × 井庭 崇 対談(2014年4月)【映像:前半/ 後半

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  • 「商い」
    小阪 裕司 × 井庭 崇 対談 (2014年4月)【映像:前半/ 後半

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  • 「教育」
    市川 力 × 井庭 崇 対談 (2014年5月)【映像:前半/ 後半

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  • 「地域」
    飯盛 義徳 × 井庭 崇 対談 (2014年5月 【映像:前半/ 後半

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  • 「文化」
    ドミニク・チェン × 井庭 崇 対談(2014年5月) 【映像:前半/ 後半

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  • 「生き方」
    四角 大輔 × 井庭 崇 対談(2014年5月)【映像:前半/ 後半

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  • 「Fab」
    田中 浩也 × 井庭 崇 対談 (2015年4月)【映像:前半/ 後半

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  • 「Algorithmic Design」
    松川 昌平 × 井庭 崇 対談 (2015年4月)【映像:前半/ 後半

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  • 「Internet」
    村井 純 × 井庭 崇 対談 (2015年4月) 【映像:前半/ 後半

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  • 「Community」
    加藤 文俊 × 井庭 崇 対談 (2015年4月)【映像:前半/ 後半

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  • 「Self-Build」
    小林 博人 × 井庭 崇 対談 (2015年4月)【映像:前半/ 後半

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  • 「Learning & Expertise」
    今井 むつみ × 井庭 崇 対談 (2015年5月) 【映像:前半/ 後半

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  • 「Mindfulness & Self-Management」
    井上 英之 × 井庭 崇 対談 (2015年5月) 【映像:前半/ 後半

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  • 「エネルギー・デザイン」
    オオニシ タクヤ × 井庭 崇 対談 (2016年4月)【映像:前半/後半

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  • 「高齢化社会の生き方」
    下河原 忠道 × 井庭 崇 対談 (2016年4月)【映像:前半/後半

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  • 「ソーシャル・ビジネス」
    山崎 大祐 × 井庭 崇 対談 (2016年4月)【映像:前半/後半

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  • 「ナチュラル & クッキング」
    鎌田 安里紗 × 伊作 太一 × 井庭 崇 鼎談 (2016年5月)【映像:前半/後半

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  • 「教育改革」
    鈴木 寛 × 井庭 崇 対談 (2016年5月)【映像:前半/後半

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  • 「学びの場づくり」
    岩瀬 直樹 × 井庭 崇 対談 (2016年5月)【映像:前半/後半

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  • 「超福祉とFab看護」
    須藤 シンジ × 宮川 祥子 × 井庭 崇 鼎談 (2016年6月)【映像:前半/後半

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  • 「ゆるい創発」
    若新 雄純 × 熊坂 賢次 × 井庭 崇 鼎談(2017年4月)【映像:前半/後半

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  • 「越境する生き方」
    蛭間 芳樹 × 三浦 英雄 × 井庭 崇 鼎談 (2017年5月)【映像:前半/後半

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  • 「組織と働き方のKAIZEN」
    須藤 憲司 × 井庭 崇 対談(2017年4月)【映像:前半/後半

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  • 「マインドフルネスと仏教3.0」

    山下 良道 × 井庭 崇 対談(2017年5月)【映像:前半/後半

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  • 「ひとりひとりが生きる介護」
    加藤 忠相 × 井庭 崇 対談(2017年5月)【映像:前半/後半

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  • 「これからの食とエネルギー」
    大津 愛梨 × 井庭 崇 対談(2017年6月)【映像:前半/後半

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  • 「日本中を楽しみ尽くす」
    加藤 史子 × 井庭 崇 対談(2018年4月)【映像:前半/後半

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  • 「これからの教育の哲学」
    苫野 一徳 × 井庭 崇 対談(2018年4月)【映像:前半/後半

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  • 「言葉を編む、世界をつくる」
    山本 貴光 × 井庭 崇 対談(2018年4月)【映像:前半/後半

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  • 「下宿 = 地方から考える教育の未来」
    瀬下 翔太 × 井庭 崇 対談(2018年5月)【映像:前半/後半

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  • 「これからの生き方・働き方」
    尾原 和啓 × 井庭 崇 対談(2018年5月)【映像:前半/後半
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  • 「新しい普通をつくる」
    本城 慎之介 × 井庭 崇 対談(2018年5月)【映像:前半/後半

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  • 「音楽をめぐる創造性」
    渡邊 崇 × 井庭 崇 対談(2018年5月)【映像:前半/後半

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  • 創造社会論2014 【授業ページ
  • 創造社会論2015 【授業ページ
  • 創造社会論2016 【授業ページ
  • 創造社会論2017 【授業ページ
  • 創造社会論2018 【授業ページ
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    「創造性資源の枯渇」の時代から「ナチュラル・クリエイティビティ」へ

    これまであちこちで語ってきたように、僕はこれからの時代は「創造社会」(creative society)と呼び得る時代であると考えている。以前(1998年〜)は「自己革新的な社会」と呼んでいたが、その後(2010年頃〜)「創造社会」という言い方で表現してきた。Consumptionの「消費社会」から、Communicationの「情報社会」へ移り、Creationの「創造社会」に移行していく、というように3つのCの変化で時代の流れを論じてきた。

    自分たちで自分たちのモノや環境、仕組み、意味、価値、生き方などをつくっていく時代。誰かにつくってもらったものを消費するというだけではなく、誰もが「つくり手」側にまわることができる時代。すべてを自分でつくるわけではないが、つくろうと思えばつくることが可能な時代。そのような時代を「創造社会」(クリエイティブ・ソサエティ)という言葉で表現しているのである。

    この創造社会について、最近違う角度から考えているので、そのことを書き留めておきたい。

    社会が多様化・複雑化・流動化するにつれて、新しい状況に対応したり、問題を解決したり、新しいものを生み出したりすることが求められ、これからますますそれに見合う創造性が求められるようになる。しかしながら、これまでのように一部の人が創造性を発揮して、それを多くの人が享受するというやり方ではうまくいかなくなっている。それにも関わらず、多くの人が、誰か天才が現れて一気に解決してくれるというような、ヒーロー待望論のようなものを漠然と抱いているように思う。

    20世紀は、エネルギーの時代であった。エネルギーによって産業が栄え、エネルギー資源をめぐり国家間の戦争が起きた。我々の住む21世紀は、クリエイティビティの時代となる。僕は、エネルギー資源のように「創造性資源」(Creativity Resource)と呼んでいるが、創造性資源こそが鍵を握ることになる。エネルギーの獲得と同様に、クリエイティビティをいかに発掘し、調達し、確保するのかは、個人の生活の意味でも、経済における生き残りにおいても、国家戦略的にも、重要なイシューであり、不可避な課題である。しかしながら、これまでのようなやり方では、「創造性資源の枯渇」(Exhaustion of Creativity Resource)は不可避である。いや、現に枯渇により、問題が生じていると言えるだろう。

    石油資源を輸入していたように、多くの人が海外から創造的人材の輸入に熱心である。自分のところに資源がないからと、よそから買うしかないという感覚である。これでは、石油資源の限界が成長の限界を定めたように、創造人的材の限界が成長の限界であると予言される日は近いだろう。

    昨年くらいから流行的な話題となっている人工知能(AI: Artificial Intelligence)は、今後研究開発が加速し、人間を超えるレベルに到達するシンギュラリティの段階の恐怖が、よく聞かれるようになった。それは、アーティフィシャルな(人工的な)創造性といえる。その段階での人工知能は、エネルギーでいうと原子力発電にあたる技術であると言える。人間や社会にとって便利で効率的である一方、人類を滅ぼすほどの強烈なパワーをもった危ういものでもあり、私たちの社会・組織はそれをきちんとコントロール・管理できるのかというと、実に怪しいという意味においてである(AIは原発のようなものであるということは、テスラのイーロン・マスクも同様の発言をしているようである)。

    このような人工的な創造性の世界はこれからも研究・開発は止まらずに加速していくと思われるが、僕が重視したいのは、アーティフィシャル(人工的)な方の創造性ではなく、より人間的で自然な創造性である。これを、「ナチュラル・クリエイティビティ」(自然クリエイティビティNatural Creativity)と呼びたい。「ナチュラル・クリエイティビティ」は、人間が持っている創造性のことであり、エネルギーで言うならば、太陽光や風力、水力などの「自然エネルギー」(natural energy)に対応するものである。

    一部の希少な資源(石油や天才)に頼るのではなく、強力だが危うい技術(原子力や人工知能)に頼るのでもなく、各地域や組織のそれぞれの人が身の丈に合った小さな力(自然エネルギーやナチュラル・クリエイティビティ)を集めて活かしていくことこそが、これからの未来を切り拓く道である。

    自分たちで「つくる」時代である創造社会は、各人のナチュラル・クリエイティビティを高め、それを活かしていく方法や組織、文化が重要となる。そのためには、現状の考え方ややり方から変化させなければならない。創造的なシフト、すなわち「クリエイティブシフト」が不可欠である(これが僕の会社「クリエイティブシフト」の名前の由来である)。僕は、パターン・ランゲージを始めとする言語化・共有の方法を駆使して、このナチュラル・クリエイティビティの支援を行なっていきたい。

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    SFC「創造社会論2014」対談まとめ(全回 映像公開中!)

    この春から新しくSFCに設置された科目「創造社会論」では、毎回ゲストの方をお呼びして、創造的な社会のあり方や生き方について語り合いました。

    今年度は「デザイン」「空間」「商い」「教育」「地域」「文化」「生き方」をテーマに掲げ、以下の方々にお越しいただきました。

    【デザイン】水野 大二郎さん(慶應義塾大学環境情報学部専任講師)
    【空間】中川 敬文さん(UDS株式会社 代表取締役社長)
    【商い】小阪 裕司さん(オラクルひと・しくみ研究所代表 / ワクワク系マーケティング実践会主宰)
    【教育】市川 力さん(東京コミュニティスクール 校長)
    【地域】飯盛 義徳さん(慶應義塾大学総合政策学部教授 / 特定非営利活動法人鳳雛塾ファウンダー)
    【文化】ドミニク・チェンさん(株式会社ディヴィデュアル / コモンスフィア理事)
    【生き方】四角 大輔さん(Lake Edge Nomad Inc.代表)


    各対談の詳細や写真、対談映像などは、以下のページに掲載されています。

  • 水野大二郎×井庭崇 対談「デザイン」
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  • 中川敬文×井庭崇 対談「空間」
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  • 小阪裕司×井庭崇 対談「商い」
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  • 市川力×井庭崇 対談「教育」
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  • 飯盛義徳×井庭崇 対談「地域」
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  • ドミニク・チェン×井庭崇 対談「文化」
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  • 四角大輔×井庭崇 対談「生き方」
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  • 創造社会論 | - | -

    【映像公開】四角大輔×井庭崇対談「創造社会論:生き方」

    創造社会論」の7人目のゲストは、四角大輔さん(Lake Edge Nomad Inc.代表)でした。

    最終かにあたる今回は、四角大輔さんと「創造的に生きる」ということについて語り合いました。とても刺激的でクリエイティブな対談でした!

    東京とニューヨークを行き来しながら、ニュージーランドの湖畔で自給自足の生活を送っている四角さん。バリバリのミュージシャンのプロデューサーから、そのような生活にシフトできたのはなぜ?

    場所の制約を受けない働き方はどういう感じ?

    自分が暮らすために必要な「ミニマムライフコスト」を知る大切さ。

    街の中でのクリエイティビティと、自然の中のクリエイティビティ。

    稼ぐ力とは違う、本当の意味で「生きていく力」。

    左脳はマーケティングの嵐にやられている。

    まず、心で感じることを大切にして、それから左脳ですごく考える。

    頭のなかでのシミュレーションは大切。

    未来イメージは、漠然としているもの。具体的であったなら、疑ったほうがよいかもしれない。

    Future Mining=未来イメージを自分の中から掘り出していく。

    みんなそれぞれいびつで、普通なんてない。

    人生は実験だ。

    一人になって静かに考える場所(シンキング・プレイス)、つまり、「ザ・フォース・プレイス(第四の
    場所)」が必要だ。

    一緒に仕事をする仲間、「ゆるギルド」。

    プロデュースで大切なこと。

    などなど、かなり面白い話がたくさんできました!
    (上のリストは、四角さんが話したものと僕が話したものが混じっています。)


    創造社会論 第13回(映像&スライド)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+13+1

    創造社会論 第14回(映像)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+14+1


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    【映像公開】ドミニク・チェン×井庭崇対談「創造社会論:文化」

    創造社会論」の6人目のゲストは、ドミニク・チェンさん(株式会社ディヴィデュアル / コモンスフィア理事)した。

    「クリエイティブ・コモンズ」(CC)の話から始まり、「TypeTrace」をはじめとした開発ソフトウェアの紹介へ。そこから、ドミニク・チェンさんが重視しているヴァレラらの「autopoiesis」(オートポイエーシス)や、ギブソンの「active touch」(能動触)、エリクソンらの「generativity」(世代継承性)の概念へと移り、「始まりもなければ終わりもない」「学習は終わらない」「読むことは書くこと」という話に。

    さらに、創造とはどういうことか、創造とコミュニケーションの関係はどうなっているのかについて、僕(井庭)の創造システム理論の紹介も交えながら語り合った。

    変えることが難しい既存の制度の上に新たなレイヤーを重ねてそこで創造の連鎖が起きる仕組みをつくるということ、そして、対象の内側に入ってシステムの改変するということについて、考察・議論のための重要な一歩を踏み出した対談でした。まだまだ語り合い足りないので、次の機会もぜひつくりたいと思います。


    創造社会論 第11回(映像&スライド)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+11+1

    創造社会論 第12回(映像)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+12+1

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    【映像公開】飯盛義徳×井庭崇対談「創造社会論:地域」

    創造社会論」の5人目のゲストは、飯盛 義徳さん(慶應義塾大学総合政策学部教授 / 特定非営利活動法人鳳雛塾ファウンダー)でした。

    飯盛(いさがい)さんは、1990年代後半から、「自分で考えて、自分で決めて、行動できる人」を育てる「鳳雛塾」を立ち上げ、ケースメソッドを中心に人材育成に取り組んできました。鳳雛(ほうすう)というのは、未来の英雄という意味で、地域のリーダーになるような人を育てていきたいという思いがあったといいます。

    ケースメソッドのケースも、当初はビジネススクールで用いられるようなものを使っていたのですが、やはり自分たちと遠い大規模なビジネスのケースだとリアリティがないということで、自分たちの教材、しかも映像も駆使した新しいケース教材を開発してきたということです。

    現在、全国に「○○鳳雛塾」というのが広がっており、これから連携も進んでいくと思われます。対談では、ケースメソッドとパターン・ランゲージの類似点や違いなども多く語り合いました。


    創造社会論 第9回(映像&スライド)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+09+1

    創造社会論 第10回(映像)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+10+1


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    【映像公開】市川力×井庭崇対談「創造社会論:教育」

    創造社会論」の4人目のゲストは、市川力さん(東京コミュニティスクール校長)でした。

    「探究するコミュニティづくり」のために「自ら探究し続ける」「おっちゃん」市川さんと、これからの学びの場・教育のあり方についてアツく語り合いました。とても重要な話ばかりで、めちゃくちゃ面白かった!

    ●教育のWhat(何をやるのか)やHow(どうやるのか)ではなく、Why(なぜやるのか)を考えたい

    ●スクールフリー=脱『学校』的教育観

    ●みんなが頭グルグル、体イキイキ、心ワクワク

    ●「生成的な参加者」(Generative Participant, Generator)

    ●自己肯定感は、自己中から始まる

    ●ミッションの段階的発展「My Discovery」→「Your Discovery」→「Our Discovery」の My から
    Your にはどうやったら上がることができるのか?

    ●面白がる

    ●言葉の重なりから発想が広がる「だじゃれ発想法」

    ●キラキラワードの「個性」ではなく「変」が重要

    ●「みんなのそれぞれのマイノリティなところ」

    ●「偏差値」ではなく「変さ値」

    ●普通から差異をつくる

    ●ソクラテスのハチャメチャ感が重要

    ●挑発文化

    ●半教半X

    ●探究コミュニティ(TQ Community)

    ●探究者は偶然を必然にしていく


    創造社会論 第7回(映像&スライド)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+07+1

    創造社会論 第8回(映像)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+08+1


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    創造社会論 | - | -

    【映像公開】小阪裕司×井庭崇対談「創造社会論:商い」

    創造社会論」の三人目のゲストは、小阪裕司さん(オラクルひと・しくみ研究所代表/ワクワク系マーケティング実践会主宰)でした。

    町の商店やスーパーが客の心をつかんで感動を呼び、売り上げが劇的に伸び、仕事の楽しみを再発見したりするなんてことが、どうして可能なの?

    それが全国各地って本当?

    いわゆる「ふつうの人」がどうしたらそんなにクリエイティブなモードへ変化できるの?

    千数百社からなる実践コミュニティをどうやって運営・サポートしているの?

    そんな直球の質問をお聞きしながら、「心の時代」にものを売るとはどういうことなのかについて考えました。

    かなり面白い対談でした!


    創造社会論 第5回(映像&スライド)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+05+1

    創造社会論 第6回(映像)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+06+1



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    【映像公開】中川敬文×井庭崇対談「創造社会論:空間」

    創造社会論」の二人目のゲストは、中川敬文さん(UDS株式会社 代表取締役社長)でした。中川さんのUDS株式会社が手がけたコーポラティブ・ハウスやユニークなホテル、コワーキング・スペースなどの事例を交え、主体的な行動とゆるやかなつながりを誘発する場づくりについてお話をお聞きしました。

    複数の機能を重ね合わせるということ、企画・設計だけでなく運営やイベント開催までをも含めて引き受けること、そして、それを集客やビジネスにきちんとつなげていくこと。中川さんの「フライング気質」でスピード感のある行動の背後にある考え方とは? とても重要で興味深い対談でした!

    創造社会論 第3回(映像&スライド)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+03+1

    創造社会論 第4回(映像)
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/flv/flv_play_gc.cgi?2014_38368+04+1


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    Link
    Serendipity:創造社会論【空間】@慶応SFC「WHYを問う」
    (中川さんのブログ)
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