井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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慶應義塾大学SFC「ワークショップデザイン」2020シラバス

ワークショップデザイン2020
慶應義塾大学SFC総合政策学部・環境情報学部(基盤科目-共通科目)
担当教員:井庭崇
開講:2020年度秋学期(後半)
曜日時限:金曜4・5限※
※ 学期前半には、同じ曜日時限に「創造社会論」(井庭)が開講されます。併せてどうぞ。
実施形態:完全オンライン開講(Zoom)

【科目概要:主題と目標/授業の手法など】

「対話による学び」や「つくることによる学び」の場をどのようにつくればよいのでしょうか? 本講義では、その場のひとつのかたちとして「ワークショップ」(workshop)の可能性を考えます。

現在、いろいろな種類のワークショップが開かれていますが、それらのワークショップの背後にはどのような設計意図や工夫があるのでしょうか? また、自分たちがワークショップをつくるときには、何をどのように考えればよいのでしょうか? そして、ワークショップのファシリテーションにおいては、何に気をつければよいのでしょうか?

これらのことを考え・学ぶために、授業と並行して、ワークショップを考案・設計するグループワークを行います。授業の後半では、他の履修者を対象に、自分たちの考案・設計したワークショップを実施します。これにより、「ワークショップデザイン」の感覚・スキルを実践的に高めたいと思います。最終的には、履修者ひとりひとりがつかんだワークショップ・デザインの秘訣を、パターン・ランゲージの形式でまとめ、自分たちの実践につなげる準備を行うことにします。

今年度は、完全オンライン開講のため、みんなでいろいろなツールを試しながら、オンラインでのワークショップ(広義の参加型オンライン授業やオンライン・イベント等)の可能性を探究します。

考えを深めてもらうために、授業と並行して文献を読む宿題を出すので、授業初回までに早めに、書籍『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』を入手しておいてください。


【授業計画】

第1回(11/13):イントロダクション
授業の内容、進め方について理解します。

第2回(11/13):「全体性のたまご」アプローチによるデザイン
全体性を考慮しながら、部分をつくり込んでいく「全体性のたまご」アプローチによるデザインについて学びます。

第3回 (11/20):構成主義の学びの理論
ピアジェ、ヴィゴツキー、デューイ、パパートによる構成主義の学習観について学びます。

第4回 (11/20):これまでのオンラインの経験を語り合う
自分がこれまでに経験したオンラインの授業やセミナーワークショップ、習い事、イベントなどで、よいと思ったやり方、仕組み、ツール、工夫について語り合います。

第5回 (11/27):オンラインのいろいろなツールを体験する#1
オンライン・ワークショップで使えそうなツールをいろいろ試してみます。

第6回 (11/27):オンラインのいろいろなツールを体験する#2
オンライン・ワークショップで使えそうなツールをいろいろ試してみます。

第7回 (12/4):ワークショップ実践 #1
グループで考案・設計したワークショップを、他の履修者を対象に実施します。

第8回 (12/4):振り返り・ディスカッション #1
実施したワークショップについて振り返り、議論します。

第9回 (12/11):ワークショップ実践 #2
グループで考案・設計したワークショップを、他の履修者を対象に実施します。

第10回 (12/11):振り返り・ディスカッション #2
実施したワークショップについて振り返り、議論します。

第11回 (12/18):ワークショップ実践 #3
グループで考案・設計したワークショップを、他の履修者を対象に実施します。

第12回 (12/18):振り返り・ディスカッション #3
実施したワークショップについて振り返り、議論します。

第13-15回 ワークショップ・デザインのパターン・ランゲージ作成 #1-3 (授業時間外)
授業でつかんだワークショップ・デザインのコツを、パターン・ランゲージの形式で記述していき、最終レポートを作成します。


【履修条件】
  • 授業外のグループワークと授業中の活動・議論にしっかり参加するつもりがあること。


    【履修選抜課題】
    受入学生数(予定):約60人

    選抜方法:課題提出による選抜

    以下の(1)(2)を合わせてA4で1ページに収め、PDFファイルにして提出してください。

    最初に、名前、学籍番号、SFCのメールアドレスを明記

    (1)これまでに自分が「経験」した(受けた・参加した・行った)オンラインの授業やセミナー、ワークショップ、習い事、イベントなどで、よいと思ったやり方、仕組み、ツール、工夫があれば教えてください(誰がいつ行った何の場だったのか、授業名やセミナー/ワークショップ/イベントの情報や、使用したツール名なども、わかる範囲で書いてください)。

    (2)オンラインで実施するワークショップのやり方、仕組み、ツール、工夫についての「アイデア」を考えて書いてください。複数思いついたら、すべて書いてください。

    提出の際には、必ず1ページPDFファイルを提出してください。


    【提出課題・試験・成績評価の方法など】

    成績評価は、グループワークへの貢献、授業中の演習・議論への参加、宿題、期末レポートから総合的に評価します。


    【履修上の注意】

  • 授業時間外にグループワークの活動をすることが求められます。

  • 毎週、授業から自分が学んだことをまとめる宿題とともに、文献(教科書)を読んでまとめを提出する文献読解宿題も出ます。


    【教材・参考文献】

    教科書

    参考文献
  • 授業関連 | - | -

    慶應義塾大学SFC「創造社会論」2020シラバス

    創造社会論2020
    慶應義塾大学SFC総合政策学部・環境情報学部(基盤科目-共通科目)
    担当教員:井庭崇
    開講:2020年度秋学期(前半)
    曜日時限:金曜4・5限※
    ※ 学期後半には、同じ曜日時限に「ワークショップデザイン」(井庭)が開講されます。併せてどうぞ。
    実施形態:完全オンライン開講(Zoomウェビナー+ミーティング)

    CreSoc2020.png


    【科目概要:主題と目標/授業の手法など】

    これからの社会は、どのような社会になるでしょうか? 本講義では、これからの社会を、一人ひとりが本来もっている創造性を十全に発揮する「創造社会」(Creative Society)になるという想定から出発します。創造社会では、誰もがさまざまな分野・領域で「つくる」ことをごく当たり前に行うようになります。そして何よりも、「つくる」ということが、生活・人生の豊かさや幸せを象徴するようになっていきます。

    かつてインターネットの登場によって始まった「情報社会」では、生活が変わり、組織が変わり、社会が変わりました。同様に、「創造社会」の到来においても、生活・組織・社会のあり方が大きく変わることになるでしょう。そこで、その変化とはどのようなものなのか、そして、それらの変化は何をもたらすのかを考えることは、これからの未来に向かうための重要な準備となります。

    今年は、特に、自然との関わりを深めた「ナチュラルな創造社会」について考えたいと思います。「自然(ナチュラル)」というとき、一方では、自然(森林や海山など)などの「外なる自然」(outer nature)の意味があり、他方では、素の自分らしさと自由度をもっていきいきと生きるという「内なる自然」(inner nature)の意味があります。これらは本来は別ものではなく、相互に関係する表裏一体のものです。しかし、この二つの「自然(ナチュラル)」が分離し、しかもそれぞれが「人工的」(自然に成り立ったものではない人為的・外的)なものに浸食されてしまっていることが、現代の諸問題の根源にあるように思われます。これら二つの意味の「自然(ナチュラル)」---「外なる自然」と「内なる自然」---がうまく重なり合うようことが可能な未来はいかにして実現できるのでしょうか?

    そのような未来に向け、本講義では、自然や創造にまつわる実践・研究に取り組んでいる方々をゲストにお招きし、対話を重ね、「ナチュラルな創造社会」の未来像を描き深めていきます。それぞれの対談で知り学んだ考え方や取り組み方を、履修者一人ひとりがパターン・ランゲージの形式でまとめ、自分たちのこれからの実践につなげていくことができるようにすることが、最終的にこの授業で取り組むことです。

    2020年度秋学期の各回のテーマは、次の通りです。

    • 未来をつくる意味の編集・デザイン
    • ナチュラル × ローカル × クリエイティブなまち・コミュニティをつくる
    • 働く喜び・生きがいを育む
    • 楽しさと面白さの体験をつくる
    • 自然のなかで自然に生きる
    • いとおしさのデザイン

    これらのテーマについて掘り下げるため、安西洋之さん、市川文子さん、小泉寛明さん、山崎満広さん、前田隆行さん、若野達也さん、小島希世子さん、上田信行さん、塚越暁さん、三田愛さん、五井野太志さん、山田貴子さん、鞍田崇さん、渡邉康太郎さんという、とても魅力的なみなさんに、ゲストとしてご参加いただいきます。

    また、過去にこの授業にゲスト登壇いただいた中川敬文さん、市川力さん、井上英之さん、瀬下翔太さん、鎌田安里紗さんにも「共鳴ゲスト」としてご参加いただき、さらに井庭研究室の学生や研究員にも「共鳴メンバー」として参加してもらいます。

    今年は、全回オンライン(Zoom)で行います。ゲスト登壇者も含めて完全オンライン参加という利点を活かし、イタリア、神戸、京都、奈良、長野などから遠隔登壇していただきます。

    この授業では、単に受け身で話を聞くというのではなく、想像力をフルに発揮して未来像を思い描くとともに、重要な考え方や実践のコツを自らつかみ取りにいく姿勢で参加することが期待されています。また、この授業では、Zoomのウェビナーとともに、Zoomミーティングのブレイクアウトルームで、履修者同士で話し合う時間も設ける予定ですので、そのようなときにも積極的に参加してください。

    授業と並行して文献を読む宿題を毎週出すので、授業初回までに早めに、書籍 『プロジェクト・デザイン・パターン:企画・プロデュース・新規事業に携わる人のための 企画のコツ32』を入手しておいてください。

    なお、これまで5年間の授業(対談映像)は、すべてインターネット上で公開されており、 「SFC「創造社会論」対談映像 2014〜2018」 から辿ることができます。今学期の授業以外にも、興味がある回があれば、見てみてください。特に、共鳴ゲストのみなさんの回を見ておくのはおすすめです。今年の授業も映像を公開する予定です。

    担当教員・井庭崇から学生のみんなへ:「時間が経てば「未来」はやってきます。でも、それは自分たちの望んでいる未来ではないかもしれません。いや、むしろ、何もしなければ、望む未来がやって来るなんてことはないでしょう。だから、僕たちは未来に向かって、理想・ヴィジョンと、それを実現する物事をつくり続けていかなければなりません。この授業は、よりよい未来に向けて自分にできることを精一杯(しかも創造的に、面白そうに)やっている大人たちがいることを、みんなにも知ってほしくて・感じてほしくて企画しました。「自分たちの未来を自分たちでつくる」という道へ、ようこそ!たくさん刺激を受けて、自分のエネルギーにしてもらえればと思います。」


    【授業計画】

    第1・2回(10/2):「未来をつくる意味の編集・デザイン」
    安西洋之 × 市川文子 × 井庭崇
    (× 瀬下翔太 × 木村紀彦 × 川邊悠紀)

    安西洋之さんと市川文子さんをゲストにお招きし、「未来をつくる意味の編集・デザイン」について語り合います。

    安西洋之さんは、欧州とアジアの企業間提携の提案、商品企画や販売戦略等に参画しているミラノ在住のビジネスプランナーで、『「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?:世界を魅了する〈意味〉の戦略的デザイン』『デザインの次に来るもの:これからの商品は「意味」を考える』などの著作があります。また、『突破するデザイン:あふれるビジョンから最高のヒットをつくる』(ロベルト・ベルガンティ著)の監訳・解説も手がけています。

    市川文子さん(SFC卒業生)は現在、株式会社リ・パブリックで、イノベーション・エコシステムについてグローバル研究・実践を行っています。また、あらゆる地域・分野を横断しながら新しい都市のあり方を探索する人たちのためのトランスローカルマガジン『MOMENT』に携わっているほか、『シリアル・イノベーター:「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀』(アビー・グリフィンほか)の監訳なども手がけています。

    この回では、SFC井庭研卒業生の瀬下翔太さんにも共鳴メンバーとして参加いただきます。瀬下さんは、NPO法人bootopia代表理事で、島根県で高校生向けの下宿屋を運営しながら、雑誌『Rhetorica』の編集も手がけています。ほかにも、井庭研の大学院生の木村紀彦さんと川邊悠紀さんが共鳴メンバーとして参加予定です。

    安西洋之さんから学生のみんなへ:「好きなことをせよ、と言われます。それはそれでいいですが、もっと大切なのは、嫌いなものを好きにすることではないでしょうか?好きな人と嫌いな料理を食べる、嫌いな人と好きな料理を食べる。どっちがいいですか?多分、好きな人と食べる嫌いな料理を食べた方が、未来が開けると思います。なんだ、こんなつまらないことで偏見を持っていたのか!という発見が多いでしょう。ぼく自身、嫌いなものがたくさん好きになりました。嫌いだったイタリアに来て、トリノのバロック建築が自分なりに解釈できてイタリアを好きになったとか。経営学視点からのデザインなんてつまらないと思っていたら、そういう本の監訳をして、その内容のエバンジェリストになってしまったとか。つまり、 ”今” を変えるヒントはたくさんありますが、一番手っ取り早いのは、自分の嫌いの理由を好きな人と一緒に見つけていくことかもしれません。」

    市川文子さんから学生のみんなへ:「みなさん、こんにちは、市川文子です。元SFC生で、藤沢にはたくさんの思い出が詰まっています。卒業してすぐフィンランドに飛び立ち、10年近くグローバルカンパニーに勤めましたが、思うところがあってリ・パブリックという会社を起業。7年が経とうとしています。今回みなさんと考えたいこと。それは「トランスフォーメーション」です。みなさんきっと「将来何になりたい?」と聞かれた経験は一度や二度ではないでしょう。そう、あの大人が聞くめんどくさいヤツです。でも実はこの質問、世の8割の人が答えを持っていないそうです。ではこう聞いたらどうでしょう。「あなたは将来どういう人間へと成長したいのか?」――私は毎年数百人の学生や起業家、社会人と出逢いますが、実はこの質問こそがすべてのスタート地点なのだと気がつきました。一人の人間の成長こそが、自分はもちろん、地域や世界の変化の起点だと言ったらみなさんはどう思われるでしょう。そんな視点で未来を一緒に考えていけたら、と思います。」


    第3・4回(10/9):「ナチュラル × ローカル × クリエイティブなまち・コミュニティをつくる」
    小泉寛明 × 山崎満広 × 井庭崇
    (× 中川敬文 × 山影実咲)

    小泉寛明さんと山崎満広さんをゲストにお招きし、「ナチュラル × ローカル × クリエイティブなまち・コミュニティをつくる」ということについて語り合います。

    小泉寛明さんは、神戸を中心に個性的なリノベーション物件を紹介・仲介する「神戸R不動産」の運営、EAT LOCAL KOBE FARMERS MARKET(朝市)やFARMSTAND(地産地消型グローサリーショップ)の運営、KITANOMAD(コワーキング)やケハレ(農業スクールと農泊)の運営をしながら、有志のメンバーで「神戸から顔の見える経済をつくる会」を結成し活動しています。小泉さんたちは、人口減少時代の始まりにおいて生じている問題・課題の局面を打開するのは「創造的な仕事」であり、今神戸でそういう取り組みが同時多発的に生まれていると言います。そこでは、都市と農業との近い関わり、あるものでつくる「スモールビジネス」、「顔の見える経済」「ローカルエコノミー」へのシフト、ポートランド、ヘルシンキ、ビルバオ、メルボルンなどの「ミッドサイズ・シティ」、ノウハウやお金が地域に残る仕組み、などこれからのまち・コミュニティを考える上でのヒントとなる考え・実践が展開されています。その考え・実践については、『ローカルエコノミーのつくり方:ミッドサイズの都市から変わる仕事と経済のしくみ』の本にまとめられています。

    山崎満広さんは、アメリカ・オレゴン州のポートランド市開発局で国際事業開発オフィサーをされた後、設立したCreative City Labの代表理事として、持続可能な社会の実現を目指し、日本でいろいろな企業やまちのアドバイザーやコンサルティングをされています。『ポートランド:世界で一番住みたい街をつくる』『ポートランド・メイカーズ:クリエイティブコミュニティのつくり方』などの著作があり、井庭研究室では、「ナチュラル × ローカル × クリエイティブなまち・コミュニティ」のパターン・ランゲージの作成の共同研究でご一緒させていただきました。

    この回には、地方の「人口減少の克服」「地域経済の活性化」に取り組んでいる中川敬文さんにも共鳴ゲストとして参加いただきます。中川さんは、キッザニアを始めとして、魅力的なホテルやレストランを多数、企画・設計・運営しているUDS株式会社の社長を早期退任後、宮崎県都農町のまちづくりを本格的、集中的に実施するため、東京から単身移住し、株式会社イツノマを設立し、取り組んでいます。井庭研と共同研究で『おもてなしデザイン・パターン』や『プロジェクト・デザイン・パターン』を作成・出版をしています。

    ほかにも、井庭研で「ナチュラル × ローカル × クリエイティブなまち・コミュニティ」のパターン・ランゲージの作成プロジェクトの学生リーダーをしていた山影実咲さんにも共鳴メンバーとして参加してもらい、パターンを紹介してもらう予定です。

    小泉寛明さんから学生のみんなへ:「大学を出てから20数年、引っ越しした回数は数えて30回になる引越魔です。興味本意で実験的なものもあれば、ライフチェンジで仕方なく引っ越ししたこと、良い物件をたまたま見つけて思わず引っ越ししてしまったこともあります。その間、社会は大きく変化しました。僕らが生きた過去の20年よりも、これから20年はより面白い変化があると思います。柔軟に生きることが大事な世の中、ぜひ好奇心を持っていろんなことを感じてもらえればと思います。」

    山崎満広さんから学生のみんなへ:「SFCの皆さん初めまして。20歳で単身アメリカに渡り、24年間いろんな町に住んで転職6回、起業も1回していて、日本でも有数のユニークなキャリアを持っていると自負してる山崎です。今回はすごいメンバーが登場する贅沢なセッションに呼んでもらえたので、是非いろいろ面白い質問を投げかけてほしいです!」


    第5・6回(10/16):「働く喜び・生きがいを育む」
    前田隆行 × 若野達也 × 小島希世子 × 井庭崇
    (× 金子智紀 × 岩田華林)

    前田隆行さんと若野達也さん、小島(おじま)希世子さんをゲストにお招きし、「働く喜び・生きがいを育む」ということについて語り合います。

    前田隆行さんは、高齢者が通うデイサービス「DAYS BLG!」で、認知症であっても、働くなかで自分の役割を見つけ、人の役に立っていると感じることができるという仕組みをつくられています。介護保険制度のもとサービスを利用しながら働くということができるように、行政や企業とも交渉を重ねた結果、実現したものです。これは、「ケアする/される」という構図ではなく、一人ひとりが「働く」ことを通じて達成感や、「人の役に立っている」という感覚、そして、居場所と仲間を得ることにつながる機会をつくっていると言えます。

    若野達也さんは、奈良を拠点として一般社団法人SPSラボ若年認知症サポートセンター「きずなや」で、若年性認知症の人たちの相談や就労支援などのサポート、新しい仕事づくりに取り組んでいます。若年性認知症は40才前後からなり得るもので、 10年くらい前のデータで約4万人いると言われています。「高齢者」よりも若く、まだ元気に動ける年齢です。若野さんは、若年性認知症の方々が仕事を失い、居場所を失うという現状に対して、一緒に「地域の困りごとの解決」に貢献するという道を開きました。閉鎖されたままになっていた梅林の草刈りから始め、梅の木を始めとして苗を植えるという福祉農業連携プロジェクトなどを行っています。

    小島希世子さん(SFC卒業生)は、藤沢で自ら農業をするとともに、体験農園・貸し農園「コトモファーム」を運営しています。そこまでであれば、地域に開かれた農家さんがやっていることかもしれませんが、小島さんの「農スクール」はその範囲を大きく超えた視野での取り組みです。小島さんの「農スクール」では、ホームレスやひきこもりの人たちが農作業を経て、自立していくということが起きています。人間関係や社会的なしがらみで精神的に疲れてしまった人たちが、土に触り、ゆるやかな協働作業、植物の生命力や成長の喜びを感じていくなかで、変わっていくのでしょう。これらのことは、『ホームレス農園:命をつなぐ「農」を作る! 若き女性起業家の挑戦』や『農で輝く!:ホームレスや引きこもりが人生を取り戻す奇跡の農園』の著作でも紹介されています。「都市主義の限界」を自然とのかかわりのなかで取り戻していく、という可能性を感じます。

    この回には、井庭研の大学院生の金子智紀さんと岩田華林さんも、共鳴メンバーとして参加してもらいます。金子智紀さんとは、『旅のことば:認知症とともによりよく生きるためのヒント』や最近の「ともに生きることば:最期までその人らしく生きる支援のためのヒント」を交え、岩田華林さんとは「幸せに生きることば(仮)」(幸せに生きるためのパターン・ランゲージ)を交えて、語っていきたいと思います。

    若野達也さんから学生のみんなへ:「思わぬ出来事がおき、孤立環境での生活や強い孤独感を感じ、生きることに悩みをもつ人たちがいる。その人たちの中で、誰かに助けて欲しいのではなく、自分の力で悩みを解決できる術を望む人たちがいる。しかし、その人たちの環境で、その術を1人で得ることは難しい。そのため多くの人は、さらに深い悩みを抱えてしまう。深い悩みになる前に、きずなやでは、悩みをもつ人たちと一緒に、この社会にない、その人たちの望む新しい居場所や仕組みを、本人が主体的につくるための応援をしています。」

    小島希世子さんから学生のみんなへ:「人生長くて100年。この与えられた時間を、どこで、どのように、誰のために使うか。これから皆さんは自分の意志でこの与えられた時間をどう使うか決めていかれるかと思いますが、私は、自分も含め、1人でも多くの人が餓死しない未来を目指して、作物をつくったり、作物の作り方を教えたり、作る人(生産者)を増やすような取り組みをして生きています。皆さんの倍近く生きていますが、まだまだ道半ばです。こんなOG(2002年環境情報卒)もいるんだなーと何かしらの参考にしてもらえると嬉しいです。」


    第7・8回(10/23):「楽しさと面白さの体験をつくる」
    上田信行 × 塚越暁 × 井庭崇
    (× 市川力 × 新田莉生 × 宗像このみ)

    上田信行さんと塚越暁さんをゲストにお招きし、「楽しさと面白さの体験をつくる」ということについて語り合います。

    上田信行さんは、同志社女子大学名誉教授で、人と人が織りなすコミュニケーションから豊かな学びの場をつくる「プレイフル・ラーニング」の実践・研究に取り組んでいます。また、奈良県吉野川のほとりに実験的アトリエとして「ネオミュージアム」をつくり、館長として、さまざまな実験的ワークショップを手がけられています。『プレイフル・ラーニング』『プレイフル・シンキング』などの著作があります。

    塚越暁さんは、自然のなかで遊ぶことを大切にする「原っぱ大学」ガクチョーとして、子どもたちと一緒に楽しみながら、自然のなかで遊ぶ体験の組織づくりに取り組んでいます。また、一般社団法人みつかる+わかるにおいて、市川力さんや原尻淳一さんと僕の4人で、大人と子どもの関わりや「ジェネレーター」についてなどについて、一緒に探究しています。

    この回では、物事を面白がりながら好奇心をもって探究して学んでいくということの実践・研究に取り組んでいる市川力さんにも共鳴ゲストとして参加いただきます。市川さんは、大人と子どもがともに探究者となってミッションをたくらみ実践していくなかで柔軟かつ豊かな認識力が育まれるという学び方の機会を提供するとともに、それを広める活動をされています。特に「感度=Feel ℃」が上がるフィールドワーク「Feel℃ Walk」の機会を実践・普及させています。『探究する力』『英語を子どもに教えるな』などの著書があり、『科学が教える、子育て成功への道』(キャシー・ハーシュ=パセック, ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ)の訳を手がけているほか、井庭編著の『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』でも対談しています。

    またこの回には、井庭研の大学院生の新田莉生さんと、研究員の宗像このみさんが共鳴メンバーとして参加予定です。

    上田信行さんから学生のみんなへ:「みなさん、始めまして、上田信行です。奈良県の吉野というところで、世界一小さなプライベートミュージアムを運営しています。ネオミュージアム(neomuseum)という名前をつけて、1990年に誕生しました。みなさんがまだ生まれていない、そんな昔に、展示物のないミュージアムを創ろうと思ったのです。活動が展示物(事)になるようなミュージアムをつくっちゃおうと。当時、そんなのミュージアムじゃないといろんな方々から言われました。で、いつもこう答えていました。ミュージアムではありません、「ネオミュージアム」ですと。もし、みなさんが何か新しいことを始めたいと思ったら、それに名前をつけて、勇気を持って挑戦してください。そうすると、あなたは世界を変えることができます。さあ、みなさん、Rock to Change the World!」

    塚越暁さんから学生のみんなへ:「皆さん、こんにちは。原っぱ大学“ガクチョー”の塚越です。神奈川県逗子市、千葉県佐倉市、大阪府茨木市の3拠点で「大人と子どもが思い切り遊ぶ」場を作っています。遊ぶことに目的はいらない、理由もいらない、成果も求めない、学びもいらない。ただ、その瞬間にその人が感じるままに、興味の赴くままに過ごす。原っぱ大学はそんな場です。自分の中から湧き上がる言葉になる前の思いに身をゆだねる経験をたくさん積み重ねることが大人にとっても子どもにとってもとても大切なことです。「楽しさと面白さ」はそうやってぶわーーっと自分の内側から溢れてくるものだと信じています。この授業の時間そのものが僕らにとって、皆さん自身にとってそんな風に「楽しさと面白さ」があふれ出る時間になったらと思います。一緒に楽しみましょうー!」


    第9・10回(10/30):「自然のなかで自然に生きる」
    三田愛 × 五井野太志 × 山田貴子 × 井庭崇
    (× 井上英之 × 長井雅史)

    三田愛さん、五井野太志さん、山田貴子さんをゲストにお招きし、「自然のなかで自然に生きる」ということについて語り合います。

    「自然のなかで」は自然環境という「外なる自然」(outer nature)のなかで生きるということを表し、「自然に」は「内なる自然」(inner nature)に従い、生命としての人間らしく・自分らしく生きていくということを表しています。その両面が重なり合う「自然のなかで自然に生きていく」(natural living)ということを考えていきたいと思います。

    三田愛さんは、リクルート地域創造部じゃらんリサーチセンター研究員で、コクリ!プロジェクトを立ち上げ、コ・クリエーション(共創)によって地域・社会にシステム変容を起こしていくことを実践・研究しています。地域イノベーター・首長・経営者・官僚・農家・クリエイター・大学教授・社会起業家など多様な300名で構成されるコ・クリエーション(共創)コミュニティとなっています。現在は、人・社会におけるコ・クリエーションだけでなく、生態系全体が調和し、共生・共存・共創する「地球中心・生態系全体のコ・クリエーション」に向けて取り組んでいます。木や山など自然をこよなく愛し、葉山・東京の二拠点生活を経て、現在は千葉いすみに移住しています。

    五井野太志さんは、長野県の軽井沢町塩沢村に移住し、ソフトウェア開発、マルチメディア、映像制作などを手がける一方で、「軽井沢ネイチャークラブ」を主宰し、里山キャンパスプログラムを企画・実施しています。そこでは、不耕作農地と山林を10年かけて里山に戻す活動や、塩沢村エコミュージアム、そして、田んぼ、畑、道、古民家、昆虫、木こりなどの文化をクラブ活動化しています。移住者向け賃貸アパートHauskaの事業を手がけ、古民家をリノベーションして、サテライトオフィス、コワールーム、マクロビ食堂にリニューアルしています。また、最近は、世界一のコーヒー焙煎士を育成するアトリエ、Nakajiをオープンしました。井庭研も、田植えに参加したことがあり、これからも関わっていければと思っています。

    山田貴子さん(SFC卒業生)は、生まれた環境に関係なく、1人1人が自分の心のワクワクに正直に未来を選択でき、誰もが夢と自立を実現できる社会を目指し、フィリピンの貧困層の若者と一緒に事業を立ち上げ活動しています。大学院修士1年のときに、フィリピンの貧困層の若者が、日本人にオンラインで英語を教えるという「ワクワーク・イングリッシュ」を立ち上げました。それは、「援助する・される」という関係ではなく、プロフェッショナルに誇れる仕事を持って生きていくということを可能とする取り組みになっています。そのような活動をしている山田さんは、神奈川、軽井沢、フィリピン・セブ島の三拠点生活の経験があり、五井野太志さんの活動に参加している一人でもあります。

    この回には、マインドフルネスとソーシャル・イノベーションを組み合わせたリーダーシップ開発に取り組んでいる井上英之さんにも共鳴ゲストとして登壇いただきます。井上さんは、社会起業家の育成・輩出に取り組み、『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』、『社会起業家になりたいと思ったら読む本』、『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室 ―― Transform Your Results』の序文等でその重要性・意義を日本に広く紹介し、ソーシャル・イノベーションの分野を育成してきました。井上さんも五井野太志さんの活動に参加している一人です。

    ほかにも、SFC井庭研卒業生の長井雅史さんにも共鳴メンバーとして参加いただきます。コーチングを実践してきた長井さんは、井庭研でオープンダイアローグの対話を一緒に研究し、『対話のことば:オープンダイアローグに学ぶ問題解消のための対話の心得』をともに書きました。長井さんも現在、自然のなかでの暮らしをしています。

    五井野太志さんから学生のみんなへ:「27歳の時に、豊かな暮らしを求め、神奈川県から長野県に移住しました。夢を見るのが好きで気がついたら 48 歳です。夢は叶えるものとはよく言いますが 10年に一つ夢を叶えると人生で何回か夢が叶います。私は夢を見ることから全てが始まると信じています。行動力を大切にしています。行動するたびに未来の自分と出会い、過去の自分にありがとうと感謝を伝えてきました。生きながらして、より早く生まれ変わる唯一の方法ではないでしょうか。勝とうが負けようが他人に頼らない生き方を志しています。何でもいいのですが、守らなければならない大切なものがあるなら、自分の足で進む覚悟が必要だと思うのです。」

    山田貴子さんから学生のみんなへ:「みなさん、はじめまして!SFCの卒業生でもある、やまちゃんです。みなさんはいま、どんなことを感じて、どんなことを大切にして、毎日を生きていますか? 私は、神奈川県の小さな町、湯河原に生まれました。小さい頃からおばあちゃんっこで、おばあちゃんが90歳の時におばあちゃんのルーツをたどるドキュメンタリーを撮りました。小さい頃に好きだった食べ物を聞いたとき、「おかあさんがつくったカレー」と答えたおばあちゃん。ああ、そうか!おばあちゃんにも大切なお母さんがいたんだなぁ〜と、私の今の命にたどり着くまでの、大きな物語を感じました。私につながるこれまでのたくさんの奇跡のような物語、今、そしてこれからの未来。私はどんな未来を子どもたちに届けられるだろう?どんな世界をつくりたいんだろう?私はなにをしたいんだろう?そんなことを感じ、考えながら、自分の心の声に正直に、毎日を生きています。みなさんは今、なにを感じていますか?みなさんと授業でお会いできること、楽しみにしています!Be true to the voice in your heart ⭐︎」


    第11・12回(11/6):「いとおしさのデザイン」
    鞍田崇 × 渡邉康太郎 × 井庭崇
    (× 鎌田安里紗 × 梅若美和⾳ × 鈴木崚平)

    鞍田崇さんと渡邉康太郎さんをゲストにお招きし、「いとおしさのデザイン」ということについて語り合います。

    鞍田崇さんは、無名の職人が手がけた生活道具に注目する柳宗悦の「民藝」の現代的意義を問うことを呼びかけています。鞍田さんは、民藝に「用の美」だけでなく、「いとおしさ」(インティマシー)という価値を見出しています。『民藝のインティマシー:「いとおしさ」をデザインする』や〈民藝〉のレッスン:つたなさの技法』などの著作において、民藝における「いとおしさ」の感性・感受性こそが、これからの「人間らしい」社会と暮らしのあり方を考えるための重要な手がかりとなると語っています。単に「自然に帰れ」という自然回帰ではなく、生きること・存在することへのまなざしのなかで「いとおしさ」を感じることができる人間性を取り戻す、そのような未来に向けて、現代の私たちは民藝から学び、捉え直すぶことができるというわけです。

    渡邉康太郎さん(SFC卒業生)は、Takramのパートナー/ディレクターを務めるコンテクストデザイナーであり、J-WAVEのラジオ番組『TAKRAM RADIO』でナビゲータなどもされています。「一輪の花に言葉を添えて贈る」というコンセプトのISSEY MIYAKEの「FLORIOGRAPHY」、使い続けていくうちに中からメッセージが現れるラリトプールのギフト商品「Message Soap, in time」、一週間に一冊の本だけが置かれる書店「森岡書店」などを手がけてきました。著書の『コンテクストデザイン』は一般流通させず、トークイベントと連動して販売するなど、本の届け方にも工夫があります。「矛盾をはらむもの」「分類不可能なもの」に着目し、「幸せな誤読」を生むことに魅力を感じながら、触れた人にそれぞれの「ものがたり」が生まれるような「ものづくり」を、「コンテクストデザイン」として提唱・実践しています。

    この回には、井庭研の大学院生の鎌田安里紗さん、梅若美和⾳さん、鈴木崚平さんにも共鳴メンバーとして登壇いただきます。鎌田さんは、エシカルファッションプランナーとして、ものがつくられる過程や使い終わったものの行く末にもまなざしを向け、ものとつきあっていくということを若い世代に伝え、実践を支援しています。梅若さんは能の家の出身として小さなときから能の世界で生きてきて、現在、「風姿花伝」の現代版パターン・ランゲージを作成中です。鈴木さんは音楽に潜む秩序・構造を研究中です。このような多彩な大学院生も交え、いとおしさのデザインということについて語り合っていければと思います。

    鞍田崇さんから学生のみんなへ:「十七歳の春、僕は家出した。午前四時、暗く、まだ肌寒い街をあとにした。行くあてなんてない。ここにはいられないという衝動のまま。『ここ』というのは、家であり、学校であり、日常のいっさいがっさい。つまり、ゲンジツトウヒ。ただ、あの時飛び出していなかったら、いまの自分はない。こう、なんだろうモヤモヤした感じ、心の中のノイズみたいなもの――たとえば、これが本当にしたいことなのかという問いかけ。そうしたものたちにはじめて、 愚直にも正面から向かい合ったのが、この家出だった。それでスッキリしたわけじゃなく、その後の人生では、さらに上手のモヤモヤに潰れそうになったこともあるけれど、結果、いつも自分のノイズに耳をそばだててきた気がする。いまだってそうだ。家出こそしないものの、あたりまえのままにスルーできない何かが僕を駆り立てる。土地へ、自然へ、手仕事へ。ひとのノイズに応じるのは得意ではないけれど、それをないがしろにしない、まだ見ぬ誰かと出会うのを楽しみにしながら。」――これは、以前、明治大学のパンフに寄せた文章ですが、同じ気持ちが、この授業で出会うだろうみなさんに対してもあるなあと思って。楽しみにしています。


    【履修選抜課題】
    受入学生数(予定):200人程度を想定
    ※200人としていますが、希望者が多ければ、最大900人まで受け入れる可能性があります。

    選抜方法:課題提出による選抜

    「自己紹介 × 未来ヴィジョン」シート

    担当教員とゲスト登壇者に向けて、自己紹介+自分の未来ヴィジョンを、1ページで魅力的に表現してまとめて提出してください。

    自分のこれまでと今の興味・やっていること等を紹介するとともに、これからの自分の方向性ややりたいこと・夢・挑戦などのヴィジョンを魅力的に表現してください。必ずジャスト1ページに収め(多すぎず少なすぎず)、そのなかに「名前」と「ふりがな」を入れ、自分の人となりを表す「写真」も含めるようにしてください(写真はアップでも遠景でも構いませんし、紙面が許すならば複数入れても構いません)。

    この「自己紹介 × 未来ヴィジョン」シートでは、文字だらけのいわゆる志望理由書やレポートのようなものを求めていません。紙面を文章で埋めるのではなく、パッと見て・読んで理解できるように、短めの文を配置したりして、わかりやすさを心がけてください。ビジュアル要素も入れて魅力的に表現してほしいと思います。また、アップできるファイル容量には制限があるということと、〆切直前はシステムが重くなるので、それらの点にも注意して早めの準備・提出をしてください。

    担当教員とゲスト登壇者が見て「履修者にはこういう人がいるんだ!」と魅力的に感じられるような1枚にしてほしいと思います(実際にゲスト登壇者に事前にファイルを共有します)。

    提出の際には、必ずPDFファイルで提出してください。

    今年は教室の制約もないことから、基本的にはより多くの人を受け入れたいと思っていますが、上記の内容や形式の要件を満たしていない人(内容が薄すぎる、文章ばかりのものになっている、分量的に少なすぎるか多すぎる、PDFではないファイル形式での提出など)は、授業中・課題等でも同様の可能性があるため、定員人数にかかわらず履修不許可とするので、注意してください。


    【提出課題・試験・成績評価の方法など】

    成績評価は、出席、授業中の議論への参加、宿題、期末レポート等から総合的に評価します。


    【履修上の注意】

  • 毎週、授業の直後1時間の間に、出席確認の提出物を出してもらいます。
  • 毎週、授業から自分が学んだことをまとめる宿題とともに、文献(教科書)を読んでまとめを提出する文献読解宿題も出ます。
  • 登壇者については、シラバス執筆時での予定・見通しのもと計画していますが、不確実な状況下ですので、止むを得ない事情で登壇できない方が出たり、変更が生じたりする場合もあります。その場合には授業中に、お知らせします。


    【教材・参考文献】
    教科書


    参考文献

    • 『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』(井庭 崇 編著, 宮台 真司, 熊坂 賢次, 公文 俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011年)
    • 『パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』(井庭 崇 編著, 中埜博, 江渡浩一郎, 中西泰人, 竹中平蔵, 羽生田栄一, 慶應義塾大学出版会, 2013年)
    • 『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』(井庭 崇 編著, 鈴木 寛, 岩瀬 直樹, 今井 むつみ, 市川 力, 慶應義塾大学出版会, 2019)
    • 『創造性とは何か』 (川喜田二郎, 詳伝社新書, 詳伝社, 2010年)
    • 『ハイ・コンセプト:「新しいこと」を考え出す人の時代』(ダニエル・ピンク, 三笠書房, 2006年)
    • 『「都市主義」の限界』(養老孟司, 中央公論新社, 2002)
    • 『エコロジーのコミュニケーション:現代社会はエコロジーの危機に対応できるか?』(ニクラス・ルーマン, 新泉社, 2007年)
    • 『未来を創るこころ』(石川 忠雄, 慶應義塾大学出版会, 1998)

    • 『「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?:世界を魅了する〈意味〉の戦略的デザイン』(安西 洋之, 晶文社, 2020)
    • 『デザインの次に来るもの:これからの商品は「意味」を考える』(安西洋之, 八重樫文, クロスメディア・パブリッシング, 2017)
    • 『突破するデザイン:あふれるビジョンから最高のヒットをつくる』(ロベルト・ベルガンティ 著, 八重樫 文, 安西 洋之 監訳・解説, 日経BP, 2017)
    • 『世界の伸びている中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』(安西洋之, クロスメディア・パブリッシング, 2014)
    • 『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?』(安西洋之, 中林鉄太郎, 日経BP, 2011)
    • 『ヨーロッパの目 日本の目』(安西洋之, 日本評論社, 2008)
    • 『MOMENT 1 : -able City / エイブルシティ』(リ・パブリック, 2019)
    • 『MOMENT 2:都市の変わらなさに戸惑うとき私たちのすること』(リ・パブリック, 2020)
    • 『シリアル・イノベーター:「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀』(アビー・グリフィン, レイモンド・L・プライス, ブルース・A・ボジャック, 市川文子、田村大 監訳)

    • 『ローカルエコノミーのつくり方:ミッドサイズの都市から変わる仕事と経済のしくみ』(神戸から顔の見える経済をつくる会, 学芸出版社, 2019)
    • 『ポートランド:世界で一番住みたい街をつくる』(山崎 満広, 学芸出版社, 2016)
    • 『ポートランド・メイカーズ:クリエイティブコミュニティのつくり方』(山崎 満広 編著, 学芸出版社, 2017)
    • 『おもてなしデザイン・パターン:インバウンド時代を生き抜くための「創造的おもてなし」の心得28』(井庭崇, 中川敬文, 翔泳社, 2019)

    • 『ホームレス農園:命をつなぐ「農」を作る! 若き女性起業家の挑戦』(小島希世子, 河出書房新社, 2014)
    • 『農で輝く!:ホームレスや引きこもりが人生を取り戻す奇跡の農園』(小島希世子, 河出書房新社, 2019)
    • 『旅のことば:認知症とともによりよく生きるためのヒント』(井庭 崇, 岡田 誠 編著, 慶應義塾大学 井庭崇研究室, 認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ, 丸善出版, 2015)

    • 『プレイフル・ラーニング』(上田信行, 中原淳, 三省堂, 2012)
    • 『プレイフルシンキング[決定版]:働く人と場を楽しくする思考法』(上田信行, 宣伝会議, 2020)
    • 『探究する力』(市川力, 知の探究社, 2009)
    • 『科学が教える、子育て成功への道』(キャシー・ハーシュ=パセック, ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ 著, 今井 むつみ, 市川力 訳, 扶桑社, 2017)
    • 『英語を子どもに教えるな』(市川力, 中央公論新社, 2004)

    • 『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室 ―― Transform Your Results』(ジェレミー・ハンター, 稲墻 聡一郎 著, 井上英之(序文), プレジデント社, 2020)
    • 『社会変革のためのシステム思考実践ガイド:共に解決策を見出し、コレクティブ・インパクトを創造する』(デイヴィッド ・ピーター・ストロー著, 井上英之(日本語版まえがき), 英治出版, 2018)
    • 『社会起業家になりたいと思ったら読む本:未来に何ができるのか、いまなぜ必要なのか』(デービッド・ボーンステイン, スーザン・デイヴィス著, 井上英之(序文), ダイヤモンド社, 2012)
    • 『対話のことば:オープンダイアローグに学ぶ問題解消のための対話の心得』(井庭 崇, 長井 雅史, 丸善出版, 2018年)

    • 『民藝のインティマシー:「いとおしさ」をデザインする』(鞍田 崇, 明治大学出版会, 2015)
    • 『〈民藝〉のレッスン:つたなさの技法』(鞍田崇+フィルムアート社編集部 編, フィルムアート社, 2012)
    • 『コンテクストデザイン』(渡邉康太郎, Takram, 2019)
    • 『ストーリー・ウィーヴィング』(渡邉康太郎, ダイヤモンド社, 2011)
    • 『enjoy the little things: Fashion, Beauty, Private and more!』(鎌田 安里紗, 宝島社, 2015)
  • 授業関連 | - | -

    Seminar Syllabus: Iba Lab B, 2020 Fall

    Iba Lab B
    Translating Pattern Languages into Various Languages

    (Thursday 2nd period, 2020 Fall semester)
    Entry submission deadline: July 19

    We live in a complex and changing society, and the future will be determined by and based on our current actions and experiences. Therefore, methodologies and tools regarding the creation of a future where we can live well are significant. The research conducted in Iba lab consists of creating and sharing “pattern languages” throughout the world as these sorts of methodologies and tools.

    Pattern language is the method of and the tool for identifying common patterns of good practices embedded in specific domains and sharing this wisdom with others. It was originally proposed in the domain of architecture in the 1970s and has since been applied to various other domains such as software development, education and organizations.

    For the past 10 years, Iba Lab has created over 70 pattern languages on diverse topics that provide tacit practical knowledge of creative human actions, comprising over 1700 patterns in total. Topics include the following: learning, collaboration, presentation, project design, open dialogue, education, reading, cooking, living well with dementia, living well with working and parenting, employment of people with disabilities, welfare innovation, management of child care, social entrepreneurs, value-creation marketing, change making, community innovation, hospitality, life transition, beauty in everyday life, natural living, disaster prevention and public policy design. These pattern languages have been practically utilized to improve practices and generate dialogues among people in various organizations and communities.

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    Some of these pattern languages have been translated to languages such as Traditional Chinese, Korean and German and published as books overseas. An even larger number of these pattern languages have been published in English and are being used in other countries, with one even being written about in a newspaper in the UK. Our pattern languages are known throughout the world and have gathered many fans. However, with the majority of our pattern languages only available in Japanese or English, we are not yet able to reach out to the ordinary people of many countries.
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    In Iba Lab B we plan to work on improving this current situation by translating Iba Lab’s existing pattern languages. The translating of works of art are fundamentally considered to be “re-creations,” a work in one language re-created into a different language. García Márquez, the prominent novelist who received the Nobel Prize in Literature 1982, said “A good translation is always a re-creation in another language.” Because pattern languages are “languages,” this concept of “re-creating” the language is even more significant.

    In Iba Lab B, students will learn the knowledge necessary for creating pattern languages (which are essential in re-creation as well) and in addition, work on actually translating pattern languages. There are two main types translating that will take place: (1) Translating from English (or Japanese) to Another Language, and (2) Translating from Japanese to English.

    (1) Translating from English (or Japanese) to Another Language
    This is for students whose native tongue is neither Japanese nor English. You will translate pattern languages written in English (or Japanese) to languages such as Chinese, Korean, Vietnamese, Malay, Indonesian, Thai, German, French, Spanish, Russian, etc. and gather the finished translation into a booklet. We will then continue by sharing and using these translations in countries or regions that use that language and, if possible, publishing them overseas. Additionally, we would like to hold dialogue workshops both in Japan and overseas using these translated pattern languages.

    (2) Translating from Japanese to English
    This is for students who can fluently read Japanese. You will translate pattern languages written in Japanese to English. We will aim to publish these English translations as books. Additionally, we would like to hold dialogue workshops both in Japan and overseas using these translated pattern languages.

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    Iba Lab puts an emphasis of a learning style we call “Creative Learning,” in other words, “learning by creating” and “learning through creating.” This is a learning style in which, by taking part in a creative practice where one makes something, one can construct knowledge within themselves while deepening their understanding of things and gaining new ideas. In Iba Lab B, we will deepen our understandings of what pattern languages are and what is important in making them by translating (re-creating).

    If anyone would like to create their own original pattern language after gaining experiences re-creating with translations, you can consult with Prof. Iba about when and how that can be done.

    Number of Students
    15

    Requirement
    The theme for our lab is creativity. We are looking for prospective lab members who are willing to commit creatively to the future!

    Class Schedule
  • Official meeting will be on 2nd period of Thursday.
  • Members are required to work on their projects outside of class time.

    Screening Schedule
    Entry submission deadline: July 19

    Entry Assignment
    After reading through this syllabus thoroughly, please submit the entry assignment described below via email by July 19.

    Email to: ilab-entry [at] sfc.keio.ac.jp (Please change [at] to @)
    Subject: Iba Lab B (2020 Fall) Entry

    Please attach your entry assignment in a Word, Pages or PDF file.

    Iba Lab B (2020 Fall) Entry
    1. Name, Faculty, Grade, Student ID, e-mail address
    2. Profile photo
    3. introduction of yourself (interests, future visions, Circles, activities, any other points to sell)
    4. Reason for your entry into Iba Lab, and your enthusiasm towards the research activity in Iba Lab
    5. Your native language and languages you can write well
    6. Skills/ things you are good at (graphic design, film editing, programming, music, etc.)
    7. Courses by Prof. Iba which you have taken before (if any)
    8. Favorite classes you've taken so far (Multiple answers are welcome)
    9. Labs (Kenkyukai) you have been a part of (if any)
    10. Other Labs (Kenkyukai) you are planning on joining next semester (if any)

    Assesment Method
    Grading will be based on participation, project, and final product.

    Materials & Reading List
    References

  • Pattern Languages Iba Lab created and published in English

  • Pattern Languages Iba Lab created and published in other languages

  • Important Introductory Papers from Iba Lab
    Other papers and information is provided at this page.

    Related Courses
    PATTERN LANGUAGE (GIGA)
    DESIGNING SFC SPIRITS (GIGA)
    Iba Lab A

    Contact
    ilab-entry [at] sfc.keio.ac.jp

    Iba Lab B - Translating Pattern Languages into Various Languages
  • 井庭研だより | - | -

    新規メンバー募集!井庭研A「ナチュラルにクリエイティブに生きる未来に向けて」シラバス

    井庭研Aシラバス(2020年度秋学期)

    ナチュラルにクリエイティブに生きる未来に向けて:未来をつくる言葉をつくる(ことで、本当に未来をかたちづくる)

    [ライフスタイル & ワークスタイル / 音楽(作曲) / 地球温暖化 / 教育(オンライン授業) / 伝統芸能(能) / スタートアップ経営 / キャリア & 生き方]

    担当:井庭 崇(総合政策学部教授)
    研究会タイプ:A型(4単位)

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    2020年7⽉8日(水)・9⽇(木)午後:井庭研 見学@オンライン ※
    2020年7⽉9⽇(木)5限:井庭研説明会@オンライン
    2020年7⽉19⽇(日):エントリー〆切
    2020年7⽉23日(木)・24日(金):面接@オンライン
    2020年7月26日(日):学期末発表会(履修希望者は原則参加)@オンライン

    ※見学や説明会に参加希望の人は、「井庭研に興味があるSFC生の連絡先登録」に登録してください。Zoomのアドレスなど情報をメールで送ります。見学日や説明会後に登録してくれた人には、録画映像のリンクを送ります。


    2020年度秋学期は、以下の7プロジェクトのメンバーを募集します。

    (A) ナチュラルにクリエイティブに生きることのパターン・ランゲージの作成
    (B) 音楽の構造分析と、作曲に向けたパターン・ランゲージの作成
    (C) Earth Lifestyle(地球を守る暮らしのデザイン)のパターン・ランゲージの作成
    (D) オンライン授業のパターン・ランゲージの作成
    (E) 風姿花伝 現代版のパターン・ランゲージ(能の考え方・知恵を現代に活かす)の作成
    (F) スタートアップの成長のパターン・ランゲージ作成(若干名)
    (G) 自分らしく突き抜ける生き方のパターン・ランゲージ作成(若干名)


    ☆      ☆      ☆


    井庭研究室では、より自然で創造的な暮らし・生き方・社会へのシフトを目指して、一緒に研究・実践に取り組む仲間を募集します。

    井庭研では、これからの社会を「創造社会」(クリエイティブ・ソサエティ:Creative Society)だと考え、特に、自然とつながり人間らしく豊かに生きる「ナチュラルな創造社会」へのシフトを目指し、それが可能となるための支援メディア(パターン・ランゲージ)をつくるとともに、そのベースとなる理論・方法論を含む新しい学問の構築に取り組んでいます。

    研究・教育は「未来に向けての取り組み」であるため、まずは僕(井庭)が「これからの未来をどう見据えているのか」について語ることが不可欠だと思います。そこで、まず、そのことについて簡単に述べておきたいと思います(のちのVisionのところで、より詳しく紹介します)。

    僕が見ている・目指している未来社会は、「創造社会」と呼び得る社会です。しかも、自然との関わりを深めた「ナチュラルな創造社会」です。

    自然(ナチュラル)」というとき、そこには、(突き詰めると表裏一体となる)2つの意味を持っていることに気づきます。一つには、自然(森林や海山など)などの「外なる自然」のことを意味しており、もう一つは、素の自分らしさと自由度をもっていきいきと生きるという「内なる自然」の意味です。これらは別ものではなく、相互に関係しており、理想的な状態では、これらは調和的に重なり合って、ひとつの「自然(ナチュラル)に生きる」ということに収斂します。

    この二つの「自然(ナチュラル)」が分離してしまっていることが、現代の諸問題の根源にあると、僕は見ています。「外なる自然」と「内なる自然」のつながり抜きに、どんなに人工的に別の手をつくしても、限界があると思うのです。ですので、これら2つの意味の「自然(ナチュラル)」---「外なる自然」と「内なる自然」---がうまく重なり合うようことが可能な未来を目指したいと思っています。

    そして、実は、その意味での「自然(ナチュラル)」は、「創造的(クリエイティブ)」であるということにも重なります。かつて、作家のミヒャエル・エンデは、「創造的であるというのは、要するに、人間的であるということにほかならない」と語りました。一人ひとり創造的に生きるということは、誰かがつくった(社会的に与えられた)「人工的」な人生ではなく、その人らしく(「内なる自然」の意味での)自然で人間的な人生を生きるということにほかなりません。そして、そういうことが可能なのは、人工的な環境のなかではなく、深く美しい自然(「外なる自然」)の秩序との触れ合いがある生のなかで、本当に実現できると考えているのです。

    その意味で、井庭研が目指す「創造的(クリエイティブ)」というのは、何らかのメソッドやテクノロジーを用いて「人工的」に飛躍的な思考を実現するというようなものではなく、一人ひとりが本来もっている創造性を十全に発揮するということなのです。この一人ひとりがもつ創造性は、人工的なものではなく、自然(ナチュラル)なものなので、それを僕は、「ナチュラル・クリエイティビティ」(Natural Creativity:自然な創造性)と呼んでいます。世の中的にはAI(人工知能)が全盛ですが、だからこそ、僕らは人間が本来持っている「ナチュラル・クリエイティビティ」の方に着目したいのです。

    ナチュラルにクリエイティブに生きる」とは、一人ひとりがもつナチュラル・クリエイティビティを発揮して生きていくということです。そして、それが最も高まるのは、「外なる自然」とつながり調和し共鳴するときである、と考えているわけなのです。このような考えのもと、井庭研では、一人ひとりが自身のナチュラル・クリエイティビティを発揮し、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことができる社会、すなわち「ナチュラルな創造社会」を実現することを目指して、研究・実践に取り組んでいます。

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    以下では、井庭研が目指している未来像(Vision)、それに向かう研究・活動の根底にある「問い」(Mission)とアプローチ(Approach)、そして、その研究の学問的な位置づけ・野望に対する考え(Academic)、そして、そのための教育・育成の方針(Education)について説明します。


    ■Vision - 「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことができる「ナチュラルな創造社会」へ

    僕は、ここ一世紀の社会の変化として、3つのCの重点のシフト --- Consumption → Communication → Creation --- が起きていると見ています。「消費社会」から「情報社会」、そして「創造社会」へのシフトです。

    欧米では一世紀ほど前に、日本では戦後に「消費社会」が始まり、物やサービスを享受するということに人々の関心が集まり、それこそが生活・人生の豊かさの象徴となる時代でした。その後、1990年代から始まった「コミュニケーション社会」(いわゆる情報社会)では、インターネットと携帯電話が普及するにつれて、人間関係やコミュケーションに意識がより向けられるようになり、オンライン/オフラインを問わず、よい関係やよいコミュニケーションを持つことが生活・人生の豊かさを象徴するものになりました。そして、これからの「創造社会」の時代においては、自分(たち)を取り巻く世界や自分の暮らし・人生を構成するものを、どれだけ自分(たち)でつくっているのか、ということが生活・人生の豊かさを表すようになっていくと思われます。

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    創造社会はいま徐々に始まりつつあるのですが、その萌芽的な事例としては、ファブ(FAB)による「ものづくりの民主化」、社会問題を解決する独自のモデル・仕組みを試みる「社会起業家」、地域における「住民参加型のまちづくり」、自分たちでの新しいライフスタイルやワークスタイルの構築、自分らしい人生キャリアをつくる、などがわかりやすいでしょう。このような、自分(たち)でつくるという「創造化」は、これから、教育、ビジネス、組織、行政、地域、家庭などあらゆる場を変えていくことになるでしょう(情報化によっていろいろなことが変わったように)。

    このような創造社会では、一人ひとりがもつナチュラル・クリエイティビティを発揮しながら、日常や仕事上の問題を解決したり、これまでにないものを生み出したりしていくことになります。これには、そういうことができるという自由度・可能性が高まるという希望に満ちた素晴らしい面と、そうやって各自が自分で問題解決や創造をしていかないと、誰も代わりにはやってくれない(すなわち、自分たちでなんとかしなければ生き残れない)というシビアで過酷な面もあります。複雑多様化した社会を動的に維持・生成し続けるためには、一人ひとりがもつナチュラル・クリエイティビティを発揮することが求められるのです。

    「創造社会」に重なる未来ヴィジョンを早くから描き伝えてきたダニエル・ピンクは、ロジカルで分析的な「情報化」の時代に対して、これからの時代は、創作力や共感、喜び、意義というものが、より重要になってくると指摘しています。まず、「パターンやチャンスを見出す能力、芸術的で感情面に訴える美を生み出す能力、人を納得させる話のできる能力、一見ばらばらな概念を組み合わせて何か新しい構想や概念を生み出す能力」が発揮される機会が増え、求められるようになります(ダニエル・ピンク『ハイコンセプト:「新しいこと」を考え出す人の時代』)。そして、「他人と共感する能力、人間関係の機微を感じ取る能力、自らに喜びを見出し、また、他の人々が喜びを見つける手助けをする能力、そしてごく日常的な出来事についてもその目的や意義を追求する能力」も重要になると言います。

    このように、一人ひとりが、自分の自然な創造性を発揮する「創造社会」では、このような力とセンス(感性)を磨いていく必要があり、それらをうまく発揮することそのための教育・支援が重要となります。さらに、一人ひとりが創造性を発揮するとともに、チームでのコラボレーションや、より広い他者との連鎖・増幅を通じて共創していくことができれば、自分たちで自分たちの社会をアップデートしていく「自己革新的な社会」になるでしょう。そうなれば、現在、すでに限界が感じられているような「一部の人が考え、それを承認して受け入れるだけの民主主義」から、誰もがその具体的なアイデア生成に寄与することで社会を形成していく「創造的民主主義」(クリエイティブ・デモクラシー:Creative Democracy)の世界へとシフトしていくでしょう。

    しかも、それは単に「創造的」であればよいだけではありません。現代社会が抱える諸問題を解決していくためには、「ナチュラル(自然)」という側面が欠かせないと思うのです。ここ一世紀の間に、日本をはじめ世界中の多くの人々が、自然から離れた暮らしをするようになりました。改めて、自然との関わり方自分たちの暮らし方について再考しなければならない時期に来ていると思います。

    解剖学者の養老孟司は『都市主義の限界』という本のなかで、「戦後社会の変革を、私は都市化と定義してきた」と述べています。都市化においては「なにごとも人間の意識、考えること」が重要だとされ、「排除されるのは、意識が作らなかったもの、すなわち自然」であると言います。そして、「排除された自然は、やがて都会人のなかでは現実ではなくなる」のだと指摘しました。そして、「人間を構成するもう一つの重大な要素」である「無意識」も、意識化できないがゆえに排除されてしまうと指摘しました。まさに現代社会で起きていることだと思います。

    さらに、「都市とはすべてが人間の所行で生じたものであるから、そこで起こる不祥事はすべて『他人の所為』なのである」ため、すべてのことが行為・思考に帰せられる「人工的」な世界になるわけです。養老孟司との対談のなかで宮崎駿が「視線の矛先が、いまの時代、人間にばかり向いているというのは、ドキリとさせられます」(『虫眼とアニ眼』)と語っているのですが、同感です。このように、人工的な環境のなかで、意識化された物事と人間同士の関係のなかで生きているために、現在のようなとても息苦しく、閉塞感を感じるようになってしまっているのではないでしょうか。

    そして、現代では、あまりにも人々が自然から離れてしまっています。哲学者ミシェル・セールは、現在のフランスでは農家の人口は全体の約10%に過ぎないけれども、一世紀前には80%が農民だったと言い、「われわれの子どもたち、いや、私以降の世代の大半が都会育ちで、農業の経験も動物や植物の生に触れるような体験も非常に少ない」(『惑星の風景 中沢新一対談集』)と憂いていたことがあるのですが、これは日本も同様でしょう。これからの「ナチュラルにクリエイティブに生きる」時代においては、もっと多くの人が、自然のなかに入り、農にも多少関わり、自分たちの身体をつくる「食」のこと、そして、「暮らしの環境」について考えていくことが重要になるでしょう。そして、そういうことに関わることが、生活・人生の豊かさを考えるということになるのです。

    これまでの近代の人工的な社会から「ナチュラルな創造社会」にシフトし、人々がより「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ようになる --- このような未来ヴィジョンのもと、井庭研では、そのような未来に向かうための研究・実践・教育を行っています。

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    ■Mission - 研究の根底にある問い

    井庭研での研究の根底にある問いは、「どうしたら一人ひとりのよりよい創造実践が可能になるのか」と「どうしたら組織的・社会的によりよい創造実践が可能になるのか」ということです。その背景には、「一人ひとりのよりよい創造実践」や「組織的・社会的なよりよい創造実践」の実現は簡単ではなく、蓋然性が低い(起きやすさが低い)ということがあります。その蓋然性の低さを乗り越えて、「よりよい創造実践」が可能になるのは、いかにしてなのか、そのことを根源的に問うています。

    この問いに答えるためには、そもそも「創造実践とは一体どういうことなのか」ということを理解しなければなりません。その上で、「どのような方法・メディアがあれば、人は自らの自然な創造性を発揮して、他者ともに協働的に創造実践することができるのか」ということを考える必要もあります。そして、それが具体的にどのようなものであるのかを研究で明らかにしていくことも不可欠です(その成果が個々のパターン・ランゲージとして表現されます)。さらに、「ナチュラル(自然)であることとクリエイティブ(創造的)であることはどのように関係し、重なり合い、融合させていくことができるのか」ということについても考えることが重要になります。

    井庭研で取り組んでいるすべての研究は、それぞれのプロジェクト目標を達成するだけでなく、今挙げたような根本的な問いに答えるための研究になります。

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    ■Approach - 創造実践のための言葉をつくる

    井庭研では、個人の思考・実践を支えるとともに、組織・社会のなかでのコミュニケーションを変えるメディアとして、「パターン・ランゲージ」の作成と研究に取り組んでいます。パターン・ランゲージが、僕らがつくっている「未来をつくる言葉」なのです。

    パターン・ランゲージ(Pattern Language)は、もともとは、人間的な自然な質を生む設計(デザイン)の知を共有するための方法として、建築分野で生まれたものでした。その後、ソフトウェアの設計(デザイン)に応用され、さらには教育や組織におけるやり方・型の共有にも応用されました。井庭研では、そこからさらに領域を広げ、暮らしや仕事、生き方のパターン・ランゲージをつくってきました。これまで十数年間で、70種類を超えるいろいろな領域の1700以上のパターンをつくってきました。それらは書籍として出版されたほか、パターン・カードは全国で使われています。

    それぞれの領域のパターン・ランゲージは、それぞれの領域での実践を支え、それについて思考したり、コミュニケーションしたりすることを支援します。それがあることで、多くの人が、起こりがちな問題(落とし穴)に陥ることなく実践したり、問題を解決したりできるようになります。また、今後のことを予期・計画できるようになったり、振り返り、改善していったりすることもできるようになります。さらに、パターン・ランゲージで提供されている新しい「言葉」を語彙(ボキャブラリー)として、実践について語ったり問いを投げたりしやすくなります。このように、パターン・ランゲージは、パターンに支えられた実践を通して、それを使う人たちの「未来をつくる」ことを支援します。

    井庭研では、いろいろな領域に関するプロジェクトを行っています。それぞれのプロジェクトは、自然、創造、暮らし、生き方、仕事、組織、教育、芸術、芸能などの個別領域における課題・目標を持っており、これらのプロジェクトは、個別の目標を持ちながらも、その根底には、すでに紹介した「どうしたら一人ひとりがよりよい創造実践を実践できるのか」と「どうしたらチームや社会的によりよい創造実践ができるのか」という問いへ答えようとしているのです。また、ワークショップを設計・実施したり、日常の環境に埋め込むための新しいメディアのデザインなども行うことで、「ナチュラルでクリエイティブに生きる」ことを支援することに取り組んでいます。

    さらに、井庭研でつくるパターン・ランゲージは、「ナチュラルな創造社会」という「未来をつくる」ことにも寄与します。パターン・ランゲージがいろいろな領域でつくられていくことで、多くの人々がその人にとっての新しい領域の創造実践を始めやすくなる状況が生まれます。つまり、人々の創造実践の自由度が高まるのです。井庭研が目指しているのは、あらゆる領域でパターン・ランゲージが創造実践の下支えをしている世界であり、僕たちの研究・実践は「ソフトな社会インフラ」をつくることの一翼を担っていると言うことができます。

    このように、井庭研では、個々のパターン・ランゲージによって、各人がパターンに支えられた実践によってその人の「未来をつくる」ことを支援するとともに、さまざまな領域でパターン・ランゲージの「ソフトな社会インフラ」を整備していくことで、「ナチュラルな創造社会」という「未来をつくる」--- その二重の意味で「未来をつくる言葉をつくる」ことに取り組んでいるのです。


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    ■Academic - 今の実学、未来への実学、未来の実学となる「新しい学問」をつくる

    井庭研が取り組んでいるのは、社会的な意義をもつ極めて「実学的」な研究です。しかしながら、現在の問題を解決するというだけでなく、将来起きる問題を解決することにも寄与し、未来をかたちづくるということにつながっています。つまり、「今の実学」であるとともに、「未来への実学」「未来の実学」でもあるのです。

    学問的に見たときに、実は、上記のような問いに直球で答えてくれる学問分野は、現在ありません。そのため、既存の学問的枠組みや方法論を超えた「新しい学問」を構築しながら取り組むことが必要となります。それゆえ、井庭研では、新しい学問の土台をつくりながら、その上で具体的な研究を進め、そのことによってさらに土台が固まっていくというような、大胆で実験的なやり方で研究に取り組んでいます。

    その「新しい学問」を、僕は仮に「創造実践学」と名づけています。まだその全貌は見えていませんが、おぼろげに主要な骨格が見えてきているところです。もちろん、いまやっている研究のベースとなり、指針が得られるくらいに固まってきている部分もあります。その点は安心してください。「創造実践学」という名称には、創造実践を研究する学問だという「創造実践・学」(Study on Creative Practice)という意味と、創造の実践と学術的研究の両方に取り組む「創造の実践 / 創造の学」(Practice and Study of Creation)でもあります。

    この「新しい学問」を構築では、単に、既存学問同士を結びつけるというような「学際的」(インター・ディシプリナリー:inter-disciplinary)なものにはとどまりません。いろいろな学問領域を横断し、それらを超越して研究するという「超領域的」(トランス・ディシプリナリー:trans-disciplinary)な研究になります。つまり、すでに有効だと知っている方法や知識の「合わせ技」で戦うというのではなく、そもそもの根本から再考し、自分たちの方法や道具を自分たちでつくっていく必要があるのです。

    科学哲学者のトーマス・クーンは、パラダイムシフトが起きるような状況では、哲学に立ち戻ってそこから考えるということが重要になると述べました。「危機が認められる時代には、科学者たちは自らの分野の謎を解明する手段として、哲学的分析に立ち向かうことがある」(トーマス・クーン『科学革命の構造』)。同じように、井庭研では、ときに哲学にまで立ち戻り、自分たちの考えや方法を再構築するということをしています。そしてさらに、哲学のみならず、社会学、人類学、認知科学、心理学、教育学、建築学、デザイン論、芸術論、美学、数学、文学、経営学、思想史などを必要に応じて縦横無尽に飛び込み、学び、取り入れていきます。しかも、西洋の学問だけでなく、東洋哲学・思想とも積極的に関わり、西洋と東洋の知を融合させたこれからの学問をつくっていこうとしています。

    また、学問のあり方も「ナチュラルでクリエイティブ」なかたちに変わっていくことになります。すでに上でも取り上げた哲学者ミシェル・セールは、農業に関わる人口の減少について触れた文脈のなかで、次のように語っています。「作家であれ哲学者であれ社会学者であれ、今世紀初頭にはほとんど万人が農業を直接に体験していたのに、現在では誰もそんな体験をしていない。すなわち二〇世紀最大の問題、最重要の事件は、思想のモデルとしての農業の消失だとさえ言えると思います」。これは非常に興味深い指摘です。これからの学問は、物事を分解して分析する機械論的なアプローチや「工業的な製造」型の設計・制御の思想にもとづくものではなく、生命的な複雑さをまるごとつかみ、それを育てていくような「農業的な育成」型の学問になるのではないかと僕は考えています --- それがどういうことなのかは、正直まだはっきりとはわかりませんが。

    井庭研では「新しい学問」をつくるんだという話は、そういうことに興味が湧く人にとっては、その挑戦・議論に参加できるという魅力があると思いますが、必ずしも学生メンバーの一人ひとりに求めるものではありません。それでも、これから取り組む研究が、そのようなワクワクする知的な冒険の一部であるということを「なんだか、面白そう!」と思ってくれる人を歓迎します。

    なお、今年の夏休み期間中に、「新しい学問をつくる」ということについて直球で考える特別研究プロジェクトを実施します。秋学期から新しく入るメンバーも原則として参加してほしいと思っています。

    2020年度 夏の特別研究プロジェクト(井庭研)シラバス
    「新しい学問をつくる:西洋と東洋の知を融合させた、創造実践の学問を構想する」



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    ■Education - 本格的に「つくる」経験を積んでいくクリエイティブ・ラーニング

    井庭研では、以上のような研究において、本格的に「つくる」経験を積むクリエイティブ・ラーニング」(創造的な学びつくることによる学び)によって、物事への理解を深め、力を養っていきます。これからの創造的な未来を生きるみんなにとって、井庭研で「つくる」経験を徹底的に積むということは、人生における重要な"財産"を得ることになるはずです。井庭研での「つくる」経験を糧として、将来、自分たちで「未来をつくる」ことに寄与・貢献していってほしいと思っています。

    かつて、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)を構想した石川忠雄 元・塾長は、これからの社会で必要となる人を育てるために、慶應義塾に新しい学部(SFC)をつくることを提唱しました。これからの変化の時代においては、「豊かな発想で問題を発見し、分析し、推理し、判断して、実行をすること」が必要になり、それが「人間が経験のない新しい現象に対応する時に使う最も重要な能力」であるとして、「『ものを考える力』を強くするという教育をどうしてもしなければならない」(石川忠雄『未来を創るこころ』)と考えたのです。こうして、「未来を創る大学」として、SFCでは「個性を引き出し、優れた創造性を養い、考える力を強くする教育」が重視されてきました。井庭研では、この問題意識と方針をしっかり受け継ぎ、さらに創造(つくる)の面を強化して、教育・育成にあたっています。

    パターン・ランゲージという「未来をつくる言葉」をつくるという研究・実践のなかで、「パターンやチャンスを見出す能力、芸術的で感情面に訴える美を生み出す能力、人を納得させる話のできる能力、一見ばらばらな概念を組み合わせて何か新しい構想や概念を生み出す能力」および「他人と共感する能力、人間関係の機微を感じ取る能力、自らに喜びを見出し、また、他の人々が喜びを見つける手助けをする能力、そしてごく日常的な出来事についてもその目的や意義を追求する能力」を身につけてほしいと思います。

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    将来的には、なるべく大学院まで進み、しっかりと経験を積んでいくことを強く推奨しています。大学院への進学は、研究者になるためではなく自らの力を高め、センス(感性)を磨き、本当に「未来をつくる」ことができる人として、社会に巣立ち活躍するようになるためです。学部4年生で卒業する人がいても構いませんが、少なくとも修士までの「6年制一貫教育」だというくらいの心持ち・意気込みでいてくれると、本腰を入れて取り組み、大きく成長することができるのではないかと思います。そのくらい本格的に取り組んで初めて、日本や世界において実際に変化をもたらし、「未来をつくる」人になる道が開かれるのです。博士課程まで進み、その道の第一人者になるまで「突き抜け」、未来をつくることを先導していけるようになる人も歓迎します。

    僕は、井庭研で修士マスター:master)になるということは、「未来をつくる言葉」をつくることを自分の領域で経験し、ひととおりのことをマスターした人になるということであり、博士ドクター:doctor)は、社会の問題(病)が解消・治癒されるように治療するドクター(社会の問題を治す医者)になるということだと捉えています。そのためのマスター・コース、ドクター・コースであり、必ずしも研究者になるための場ということではありません(もちろん、「未来をつくる」一つの職業として、研究者という立ち位置は選択肢の一つになると思いますが)。これは、「21世紀の社会を担うプロフェッショナル」=「高度な職業人を育成する」というSFCの大学院(政策・メディア研究科)の趣旨にもずばり合う捉え方です。

    研究会に入る前から、そのように進路を決めたり、恐れおののいたりする必要はありません。ただ、井庭研で取り組んでいることや、そこで身につける力とセンス(感性)が、単に大学時代から就職に向かうための「通り道」なのではなく、自分の人生を自分でつくっていく(そして社会に貢献し、未来をよりよくしていく)ための力とセンス(感性)をしっかりと身につける重要なステップ=階段であると知っておいてもらえればと思います。一段上るだけでなく、何段も上っていかないと、新しい見通しの視野は開けてこないのです。

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    ■Project - 2020年秋学期のプロジェクト

    2020年秋学期は、以下の7つのプロジェクトを予定しています。井庭研のメンバーは、どれかひとつのプロジェクトに参加し、研究に取り組みます。 各プロジェクトは、複数人で構成され、成果を生み出すためのチームとして、ともに助け合い、高め合い、学び合いながら、研究に取り組みます。

    (A) ナチュラルにクリエイティブに生きることのパターン・ランゲージの作成
    「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ためには、どのようにすればよいのでしょうか? 「創造的な暮らし」、「自然(環境)との関わり」、「心身ともに健康に生きる」という3つの観点で、パターン・ランゲージをつくります。2020年度春学期の「パターンランゲージ」の授業で履修者全員で作成を始めたものを引き継ぎ、本格的につくり込んで仕上げていきます。これらのパターンの元となったのは、ニュージーランド湖畔の森に暮らす執筆家 四角大輔さんと、エシカルファッションプランナー 鎌田安里紗、そして、自然派研究者の井庭崇の実践・経験からマイニングしたものです。本プロジェクトでは、数人に追加インタビューを行い、それらも合わせて補強し、体系的なパターン・ランゲージとして仕上げていきます。「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ということや、これからの時代(ナチュラルな創造社会)におけるライフスタイル・ワークスタイルに興味がある人に参加してほしいと思います。

    (B) 音楽の構造分析と、作曲に向けたパターン・ランゲージの作成
    音楽の楽曲に潜む秩序・構造の分析と、作曲における発想・考え方を研究し、楽曲の設計のパターン・ランゲージとしてまとめていきます。特に、映画などの映像と組み合わされる音楽に内在する構造的な特徴(メロディやリズム、和声などといった音楽の構成)と、音楽における美の秩序がどのようなものか、また、それらはどのようにデザインされるのかについて探究していきます。パターン・ランゲージの分野のなかでは、芸術における創造に直球で向き合う珍しい、挑戦的なプロジェクトです。本研究は、映画やCMの映像音楽を手がける作曲家・音楽プロデューサーの渡邊崇さん(大阪音楽大学特任准教授)との共同研究です。作曲の経験はなくて構いませんが、何かの楽器をやっているなど音楽経験のある人を歓迎します。

    (C) Earth Lifestyle(地球を守る暮らしのデザイン)のパターン・ランゲージの作成
    世界全体の平均気温の上昇が産業革命以前に比べ1.5度を超えると、地球上のかなりの変化を引き起こし、人類・暮らしに大きな影響があると言われています。そして、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のレポートによれば、早ければ10年以内にその1.5度を超える可能性があるということです。この地球規模の環境危機に対して、私たちはどうしたらその進行を食い止めることができるでしょうか? そこでCO2を削減したり環境負荷を下げたりするための仕組み(制度、やり方、技術、工夫)を、世界各国の事例を調べて、パターン・ランゲージとしてまとめていきます。世界の一部でのみで行われ、一部にしか知られてない素晴らしい発想・考え方についての「言葉」をつくることで、そのことを多くの人が認識しやすくなり、その普及・実現に向けた「共通言語」をつくりたいと思います。地球環境問題に関心があり、解決のための変化を新しいアプローチで起こしたい人を歓迎します。

    (D) オンライン授業のパターン・ランゲージの作成
    新型コロナウィルスの影響で、SFCを含む世界の学校でオンライン授業が実施されています。しかし、教室での授業に比べ、多くの教職員も学生も、オンライン授業の経験はまだ少ない状況です。そこで、オンライン授業をよりよく実施するためのコツをパターン・ランゲージとしてまとめていきます。これまで Facebookグループ「オンライン授業のコツ・知恵・経験談の共有(よりよいオンライン授業を目指して)」で寄せられたコツが、ひとまずnote「オンライン授業の実践研究ノート」にまとめてあります。これらをベースとしながら、追加の調査も交えて、パターン・ランゲージを作成していきます。オンラインでの教育・学びがよいものになれば、人は都市に集約的に住む必要がなく、自然豊かな地域で暮らすという選択ができるようになるでしょう。その点において大きなスケールで「ナチュラルな創造社会」につながるテーマです。教育に関心がある人や、ウィズ・コロナ、アフター・コロナの社会のために何か貢献したいと思っている人の参加をお待ちしています。

    (E) 風姿花伝 現代版パターン・ランゲージ(能の考え方・知恵を現代に活かす)の作成
    650年近い歴史をもつ、日本の伝統芸能である「能」の世界には、能の大成者である世阿弥が書いた演劇書「風姿花伝」があります。それは、能の心得や演技論、美学などが書かれている秘伝書です。このプロジェクトでは、「風姿花伝」に埋め込まれている「観客を楽しませるための多角的な秘訣」を現代に活かすことができるようにパターン・ランゲージとして表現し直し、活用することを試みます。特に、「花(珍しき、面白き)」の思想から、「催し」(イベント)をつくるための知恵を抽出します。本研究のリーダーは能の世界の人なので、メンバーは能の世界に詳しい必要はありません。日本古来の伝統や考え方を現代に活かすという試みに一緒に取り組んでみようという人、また日本の伝統芸能から学ぶということに興味がある人に参加してもらえればと思います。

    (F) スタートアップの成長のパターン・ランゲージの作成
    スタートアップ(ベンチャー)の経営では、成長の過程に応じて、よく陥りがちな問題や解き難い難問に直面します。それらをどのように乗り越えていけばよいのか、どういう考えでどんなことをすることが大切なのか、その体系を実践者のインタビューをもとにパターン・ランゲージとしてまとめていきます。事業・プロジェクトを展開・成長させるため考え方・やり方が開かれることで、より多くの人が、社会をよりよくしていく活動・未来をつくる活動を立ち上げられるようになるでしょう。本研究は、SFC卒業生の投資家で、現在慶應義塾大学SFC特別招聘教授でもある千葉功太郎さんが 主宰する千葉道場株式会社との共同研究です。

    (G) 自分らしく突き抜ける生き方のパターン・ランゲージの作成
    社会の常識的・一般的なレールの上を生きていくという人生ではなく、自分なりの生き方をつくりながらいきいきと生きている人たちは、どのような考えで、何をして、そのような道を歩んでいくことができているのでしょうか? どうやらその背後には、人生における仕事の捉え方やワークスタイル、ライフワークや自分なりの哲学がありそうです。また、自分らしさを絶えず更新し続け、自らの選択が正解だった・成功だと事後的に思えるように努力したりもしているようです。このように、自分なりの生き方をつくりながらいきいきと生きていくための秘訣をパターン・ランゲージとしてまとめていきます。

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    【履修条件】

  • 知的な好奇心と、創造への情熱を持っている多様な人を募集します。
  • 井庭研での研究・活動に積極的かつ徹底的に取り組もうという気持ちがあること。
  • 「知的・創造的なコミュニティ」としての井庭研を、与えられたものとしてのではなく、一緒につくっていく意志があること。


    【その他・留意事項】

  • 井庭研では、たくさん本を読みます。難しいものもたくさん読みます。それは、知識を身につけるというだけでなく、考え方の型を知り、考える力をつけるためでもあります。さらに、他のメンバーとの共通認識を持ち、共通言語で話すことができるようになるためでもあります。創造の基盤となるのです。

  • 井庭研では、たくさん話して、たくさん手を動かします。文献を読んで考えるということはたくさんやりますが、それだけでは足りません。他のメンバーと議論し、ともに考え、一緒につくっていく、ということによって、一人ひとりの限界を超えることができます。こうして、ようやく《世界を変える力》をもつものをつくることができるのです。

  • 2020年度秋学期は、全活動をオンラインで行います。安定したネット環境で参加してください。

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    【授業スケジュール】

    井庭研では、どっぷりと浸かって日々一緒に活動に取り組むことが大切だと考えています。大学生活の・時間割上の一部の時間を井庭研の活動に当てるというよりは、 井庭研が大学生活のベースになるということです。井庭研に入るということは、SFCでの「ホーム」ができるということもあるのです。創造的な活動とその社会的な変革は、毎週数時間集まって作業するというだけでは成り立ちません。いつも、どこにいても考え、アンテナを張り、必要なときに必要なだけ手を動かすことが不可欠です。そのため、自分の生活の一部を埋めるような感覚ではなく、生活の全体に重なり、日々の土台となるようなイメージをもってもらえればと思います。

    そのなかでも、全員で集まって活動する時間も、しっかりとります。各自が準備をしたり勉強したりする時間とは別に、みんなで集まって話し合ったり、作業を進める時間が必要だからです。井庭研では、 水曜の3限から夜までと、木曜の4限から夜までの時間は、メンバー全員で集まって活動する 《まとまった時間》 としています。これらの時間は、授業や他の予定を入れないようにしてください。


    【評価方法】

    研究・実践活動への貢献度、および研究室に関する諸活動から総合的に評価します。


    【エントリー課題】

    このシラバスをよく読んだ上で、7月19日(日)までに、指定の内容を書いたメールを提出してください。

    エントリーメールの提出先: ilab-entry[at]sfc.keio.ac.jp ([at]を@に変えてください)

    メールのサブジェクト(件名): 井庭研A(2020秋) 履修希望

    以下の内容を書いたファイル(PDF)を、メールに添付してください。


    井庭研A(2020秋) 履修希望

    1. 名前(ふりがな), 学部, 学年, 学籍番号, ログイン名, 顔写真 (写真はスナップ写真等で構いません)
    2. 自己紹介と日頃の興味・関心(イメージしやすいように、適宜、写真や絵などを入れてください)
    3. 井庭研の志望理由
    4. この研究会シラバスを読んで、強く惹かれたところや共感・共鳴したところ
    5. 参加したいプロジェクト
    6. 持っているスキル/得意なこと(グラフィックス・デザイン, 映像編集, 外国語, プログラミング, 音楽, その他)
    7. これまでに履修した井庭担当の授業(あれば)
    8. これまでに履修した授業のなかで、お気に入りのもの(複数可)
    9. これまでに所属した研究会と、来学期、並行して所属することを考えている研究会(あれば)


    7⽉23日(木)か24日(金)に面接@オンラインを行う予定です。詳細の日時についてはエントリー〆切後に連絡します。また、2020年7月26日(日)に、オンラインで学期末発表会を開催します。新規履修予定者も原則参加としますので、予定に入れておいてください。

    なお、7⽉8日(水)3〜5限のプロジェクト活動と、9⽇(木)4限の研究会の時間、見学を受け付けます(オンライン)。また、7⽉9⽇(木)5限に、井庭研説明会をオンラインで実施します。参加希望の人は、「井庭研に興味があるSFC生の連絡先登録」に登録してください。Zoomのアドレスなど情報をメールで送ります。見学日や説明会後に登録した人には、録画映像のリンクを送ります。

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    【教材・参考文献】

  • クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』(井庭 崇 編著, 鈴木 寛, 岩瀬 直樹, 今井 むつみ, 市川 力, 慶應義塾大学出版会, 2019)
  • パターン・ランゲージ: 創造的な未来をつくるための言語』 (井庭 崇 編著, 中埜 博, 江渡 浩一郎, 中西 泰人, 竹中 平蔵, 羽生田 栄一, 慶應義塾大学出版会, 2013)
  • 社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』(井庭 崇 編著, 宮台 真司, 熊坂 賢次, 公文 俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011)
  • プロジェクト・デザイン・パターン:企画・プロデュース・新規事業に携わる人のための企画のコツ32』 (井庭 崇 , 梶原 文生, 翔泳社, 2016)
  • おもてなしデザイン・パターン:インバウンド時代を生き抜くための「創造的おもてなし」の心得28』(井庭 崇, 中川 敬文, 翔泳社, 2019)
  • 対話のことば:オープンダイアローグに学ぶ問題解消のための対話の心得』(井庭 崇, 長井 雅史, 丸善出版, 2018)
  • 旅のことば:認知症とともによりよく生きるためのヒント』 (井庭 崇, 岡田 誠 編著, 慶應義塾大学 井庭崇研究室, 認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ, 丸善出版, 2015)
    園づくりのことば:保育をつなぐミドルリーダーの秘訣』(井庭 崇, 秋田 喜代美 編著, 野澤 祥子, 天野 美和子, 宮田 まり子, 丸善出版, 2019年)
    探究パターン・カード(創造的な探究のためのパターン・ランゲージ)」(クリエイティブシフト, 2019)
    アクティブ・ラーニング支援パターン・カード(ALP)」(クリエイティブシフト, 2019)
  • プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』 (井庭崇, 井庭研究室, 慶應義塾大学出版会, 2013)
  • 時を超えた建設の道』 (クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 1993)
  • クリストファー・アレグザンダー:建築の新しいパラダイムを求めて』(スティーブン・グラボー, 工作舎, 1989)
  • ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質 ― 生命の現象』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 2013)
  • 創造性とは何か』 (川喜田二郎, 詳伝社新書, 詳伝社, 2010)
  • 哲学は対話する:プラトン、フッサールの〈共通了解をつくる方法〉』(西 研, 筑摩選書, 2019)
    人間科学におけるエヴィデンスとは何か:現象学と実践をつなぐ』(小林隆児, 西研 編著, 竹田青嗣, 山竹伸二, 鯨岡 峻, 新曜社, 2015)
  • 惑星の風景:中沢新一対談集』(中沢新一ほか, 青土社, 2014)
  • ハイコンセプト:「新しいこと」を考え出す人の時代』(ダニエル・ピンク, 大前研一 訳, 三笠書房, 2006)
  • 「都市主義」の限界』(養老孟司, 中央公論新社, 2002)
  • 虫眼とアニ眼』(養老 孟司, 宮崎 駿, 新潮社, 2008)
  • 夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです:村上春樹インタビュー集 1997-2011』 (村上春樹, 文春文庫,文藝春秋, 2011)
  • 感動をつくれますか?』 (久石 譲, 角川oneテーマ21, 角川書店, 2006)
  • 未来を創るこころ』(石川 忠雄, 慶應義塾大学出版会, 1998)
  • 創造的論文の書き方』 (伊丹 敬之, 有斐閣, 2001)
  • 考える技術・書く技術:問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(バーバラ・ミント, ダイヤモンド社, 1999)
  • 複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(井庭崇, 福原義久, NTT出版, 1998)
  • アブダクション:仮説と発見の論理』(米盛裕二, 勁草書房, 2007)
  • 科学革命の構造』(トーマス・クーン, みすず書房, 1971)
  • 科学の未来』(フリーマン・ダイソン, みすず書房, 2005)※
  • 社会科学をひらく』(イマニュエル・ウォーラーステイン+グルベンキアン委員会, 藤原書店, 1996)
  • 「ディジタル・メディア時代における「知の原理」を探る:知のStrategic Obscurantism」(井関 利明, 『メディアが変わる知が変わる:ネットワーク環境と知のコラボレーション』, 井上輝夫, 梅垣理郎 編, 有斐閣, 1998, p.3~p.40) ※
  • クリストファー・アレグザンダー:建築の新しいパラダイムを求めて』(スティーブン・グラボー, 工作舎, 1989)
  • 時を超えた建設の道』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 1993)
  • イメージの心理学』(河合隼雄, 新装版, 青土社, 2020)
  • 意味の深みへ:東洋哲学の水位』(井筒俊彦, 岩波文庫, 岩波書店, 2019)
  • レンマ学』(中沢新一, 講談社, 2019)
  • 東洋哲学の構造:エラノス会議講演集』(井筒俊彦, 慶應義塾大学出版会, 2019)


    【関連プロジェクト】
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