井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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ライティング・パターン「流れのチェック」(Water-Flow Check)

論文等を書くときのコツを、ライティング・パターン(Writing Patterns)としてまとめていきたい。今回は、書いている論文をブラッシュアップするときのコツである。


「流れのチェック」(Water-Flow Check)

上から下へ水を流して、最後まで流れきるかを調べよう。

Context: いま書いている論文で、書くべきことはとりあえずすべて書けた。
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Problem: 書かれた文章の部分と部分のつなぎ方が不自然だったり飛んでいたりして、説得的でなかったり信頼に欠ける論文になってしまう。
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Solution: 読者と同じように、論文の内容を知らないという想定で、論文を上から下へ読んでいき、流れに強引さや飛びがないかをチェックする。これは執筆の後半戦で何度も行う。PCの画面上だけでなく、プリントアウトして紙で読むと効果的である。


これは基本中の基本だが、僕が赤入れする論文は、たいていこれができていない。たぶんやってないのだろう。せいぜい部分と部分の順番が正しいかの確認だけ。sectionの順番は気にするのに、文章の順番はあまり気にならないものらしい。

しかし、それでは足りない。このパターンで言いたいのは、水を流してどう流れるのかをみるくらいの精度でチェックするということ。順番の確認レベルではない。途中で、穴があったり、強引なカーブがあったりすると、水はちゃんと流れず、こぼれてしまう。

ポイントは「読者の気持ちで読む」ということへの本気度だろう。部分の順番の確認というのは、あくまでも著者の視点。そうではなく、ロールプレイ的に読者になりきり、上から下へ「言葉を拾い」ながら、それまでに出てきた情報だけで「理解」してみる。文章の上でただ目を動かすのではなく、読者としての「理解」までをシミュレートすることが大切。おそらく多くの人が、それをきちんとやっていないのではないのだと思う。

もちろん、この著者から読者への切り替えは、慣れないうちは難しい。最初のうちは、時間的に切断してしまうといい。プリントアウトされるまで待つ時間にも意味がある。あるいは、トイレに行く、コーヒーを入れる、軽くストレッチをするなどして、著者としての集中状態から一度離れる。

もうひとつのコツは、プリントアウトしたものを手に持ち、ぶつぶつ声に出して読む。そうすると、部分のつながりではなく、必ず言葉のレベルでの移動を余儀なくされる。しかも、言葉の音のリズムもチェックできる。

このようなチェックをするとき、僕は立って部屋のなかや廊下をぶらぶらしながらやることが多い。読者モードへの身体的な転換の方法である。論文執筆時は、座ってパソコンに向かうという姿勢が長くなるので、違う体勢になるという意味でもおすすめである。(僕が研究室で論文の赤入れをしているとき、プリントアウトした原稿とペンをもってどこかに行ってしまうのは、このため。廊下にいることが多い。)
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「構造とつながり」(第二言語によるライティング・パターン)

「第二言語によるライティング・パターン」(Second Language Writing Patterns: A Pattern Language for Writing in a Second Language)プロトタイプ Ver. 0.1のなかのパターンのひとつ。


「構造とつながり」

複数の文が集まってパラグラフ(段落)となる。
パラグラフのメッセージを示すために、個々の文がある。


Context: 複数の文からなる文章を書いた。

Problem: 相互に関係が読み取れない文が並んでいるだけのバラバラな文章になってしまっている。これは、母語で書いたものを訳したときや、第二言語で書き下ろしたときになりやすい。母語で書く場合には、自然と身についている文章力のおかげで、本来はプツプツ切れてしまっている文章の流れが、それなりのつながりをもって書かれているように見えてしまう。しかし、それを他の言語に翻訳しようとすると、本来の切れている状態が露呈することになる。また、第二言語で書き下ろした場合には、個々の文を書くことに一生懸命になってしまい、文と文の関係性にまで意識が及ばないことが多い。

Solution: 一度、ひとまとまりの文を書いたら、それらの文が属するパラグラフ(段落)の構造と、個々の文のつながりを再考する。文は単体で存在しているわけではなく、他の文とともにパラグラフのなかに存在しているおり、逆に、パラグラフで言いたいこと(キー)を支えるために、そこに文が存在している。そこで、一度部分(文)が出来上がった段階で全体(パラグラフ)を見直し、その関係性を再考することが不可欠である。パラグラフの構造とは、例えば、あるテーマについての3つの具体例を示すパラグラフの場合には、単に3つの具体例の文を並べるのではなく、まず冒頭でそのテーマの具体例に「○○」「△△」「××」という3つがあることを述べ、その後にそれぞれを説明する文をもってくる。このようにパラグラフ全体における文の関係を考えるわけである。その上で、個々の文と文の「つながり」は、必要な箇所に適切な「接続詞」を用いて明示する。文と文の間の流れが切れていないかのチェックは、一度頭のなかを白紙に戻して、文章を上から順に読んでいくとよい。口に出して読んでみると、より効果的である。なお、パラグラフをどのように構成すればよいのかについては、『考える技術・書く技術:問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(バーバラ・ミント, 新版, ダイヤモンド社, 1999)第I部が詳しく、おすすめである。

Consequence: 論理的で読みやすい文章になる。ただし、構造化を徹底してやりすぎると、文章としての魅力が損なわれる場合もある。そのため、全体として論理的にまとめられていることを前提として、一部が崩れていてもよし、とすることもある。
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「その言語で考え直す」(第二言語によるライティング・パターン)

「第二言語によるライティング・パターン」(Second Language Writing Patterns: A Pattern Language for Writing in a Second Language)プロトタイプ Ver. 0.1のなかのパターンのひとつ。


「その言語で考え直す」

言葉の置き換えではなく、内容の考え直し。


Context: 自分が深く慣れ親しんでいるわけではない第二言語で、文章を書いている。

Problem: 母語で考えたものを第二言語に翻訳するかたちで書くと、第二言語の文章が理解できない/困難なものになってしまう。それは、言語によって省略の度合いや、曖昧さの許容度が異なるからである。特に日本語は、省略が多く、曖昧なままでも意味がとりやすいため、それをベースにして他の言語に訳すと、そのままでは意味をなさないということが多い。

Solution: 母語で考えた文章を第二言語に翻訳するのではなく、言いたいことの意味・内容を第二言語で考え直し、それを第二言語で表現するようにする。つまり、二つの言語間での「言葉の置き換え」ではなく、執筆する言語で「内容の考え直し」をして、その内容を書くということである。

Consequence: 第二言語で読んだときに、意味が通る、より自然な文章になる。
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「その言語でのニュアンス」(第二言語によるライティング・パターン)

「第二言語によるライティング・パターン」(Second Language Writing Patterns: A Pattern Language for Writing in a Second Language)プロトタイプ Ver. 0.1のなかのパターンのひとつ。


「その言語でのニュアンス」

対応する言葉を充てるのではなく、その言語でのニュアンスを踏まえた言葉を選ぶ。


Context: 自分が深く慣れ親しんでいるわけではない第二言語で、文章を書いている。

Problem: 個々の部分では、自分が言いたいことに対応する言葉が一応使われているが、その言語でのニュアンスからするとズレた奇妙な文章になってしまう。こういうことが起きやすいのは、たいてい、母語の言葉に対応する第二言語の言葉を、辞書で調べて書いたときである。それが奇妙な文章になってしまうのは、第二言語におけるニュアンスを踏まえない言葉の選び方をしてしまうからである。言語をつなぐ辞典(例えば、和英辞典や英和辞典)で書かれているのは、意味を極端にシンプル化して対応関係を示してくれているにすぎない、と考えた方がよい。

Solution: 第二言語だけで書かれている辞典(例えば、英英辞典)を用いて、使う言葉のニュアンスを理解して、より適切な言葉を選ぶようにする。そのような辞典では、言葉の意味をその言語の別の言葉で「説明」してくれている。つまり、第二言語のなかでの言葉の意味的ネットワークを示してくれている。その関係性をつかむことが、第二言語での言葉のニュアンスを学ぶことにつながる。複数の辞典に目を通すと、より効果的である。

Consequence: 第二言語でのニュアンスを踏まえた、より自然な文章になる。また、その言語で考えるための概念のネットワークを自分のなかにもち、それを成長させることができる。
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「学びながら書く」(第二言語によるライティング・パターン)

「第二言語によるライティング・パターン」(Second Language Writing Patterns: A Pattern Language for Writing in a Second Language)プロトタイプ Ver. 0.1のなかのパターンのひとつ。


「学びながら書く」

文章を書いているときこそが、表現のストックを溜めるチャンスである。


Context: 自分が深く慣れ親しんでいるわけではない第二言語(外国語)で、文章を書いている。

Problem: いま書こうとしていることを、どのように表現すればよいのかわからず、なかなか筆が進まない。それは、第二言語でどのような言葉で表現するのが適切なのかや、どのような言い回しがよく用いられているのかについての知識が欠けていることに原因がある。

Solution: 自分で文章を書いているときにこそ、その言語で書かれていて、かつ、自分が書く内容・分野に近い本/Webページに目を通して、適切な単語やよく使われている言い回しを学ぶ。そのとき、著者独特の言い回しを中和するため、著者が異なる複数の文献に目を通すようにするとよい。「学んでから」書くのではなく、「学びながら」書くという点が重要なので、最初から最後までいつも表現のストックを溜めながら書き進めるようにする。現段階で表現ストックが少ないことを悔やむのではなく、「目的がはっきりしている分、効率的に学ぶことができる」と前向きに考えよう。

Consequence: 読めば読むほど、その分野・内容での言葉の使い方をつかむことができ、その言語における自然な文章に近づいていくだろう。ただし、表現を学ぶことを楽しみすぎて、書く手がながく止まることがないように注意しよう。また、ひとつの文献から長めのフレーズをそのままコピーしてしまうと「盗用」になってしまうので、注意が必要である。その意味でも、複数の文献から学ぶということが大切である。
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第二言語によるライティング・パターン

最近、学生と英語でパターン・ランゲージや論文を書いているときに、英語でのライティングについてアドバイスしたり、自分で重要性を再認識したりしたコツを、パターン・ランゲージの形式でまとめてみた。


第二言語によるライティング・パターン
Second Language Writing Patterns: A Pattern Language for Writing in a Second Language

プロトタイプ Ver.0.1(井庭 崇, 2012年5月17日)


これは、第二言語(母語ではない言語、外国語)での文章執筆のコツを、パターン・ランゲージの形式でまとめたものである。それぞれのコツは、どのような状況(Context)、どのような問題(Problem)が生じやすく、うまくできている人はどうやっているのか(Solution)、そして、その結果どうなるのか(Consequence)という項目で、ひとつのパターンとしてまとめられている。

これらのパターンは、文章を書くためのパターンとして書かれているが、別の面から見ると、第二言語習得のためのパターンでもある。その意味で、以下に示すのは、「第二言語によるライティングを通したクリエイティブ・ラーニング」のパターン・ランゲージだということもできるだろう。

今回は、次の4つのパターンのプロトタイプ Ver.0.1を書いたので紹介したい。

「学びながら書く」

「その言語でのニュアンス」

「その言語で考え直す」

「構造とつながり」
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