2012.03.31 Saturday
14:32 | posted by
井庭 崇
先日、井庭研の卒業合宿に行ってきた。
井庭研の卒業合宿というのは、卒業する4年生を送り出す「追いコン」合宿のことで、井庭研恒例の行事。毎年春休みに、お世話になった4年生にプレゼントするつもりで、在校生と僕で(密かに)準備をする。
井庭研では普段から相当な時間を研究につぎ込んでいる分、こういう遊びの時間も大切にしていて、存分に楽しみたい。そう思っている。そうしないとバランスがとれないものね。
今年の卒業合宿の1日目は、Yetiでスキー&スノボ。Yetiはゲレンデの数は少ないけれども、半日くらい楽しむのにはちょうどよい規模だった。
僕はショートスキー。ショートスキーというのは、かなり短いスキー板のことで、ストック無しで滑る。足の取り回しが楽だし、両手が自由になるのでいろいろなことができる。今回は、滑りながら、みんなが滑っている映像を撮影したり、一眼レフで写真を撮りまくったりした。
こういうときって、結構性格がでるもので、お昼も食べずにずっと滑っている人もいれば、早々に休憩に入って、お昼やおやつを食べてくつろぐ人もいる(僕は前者のタイプ)。こういう遊び企画は、そういうのがわかるから面白いよね。
そして、合宿の1日目の夜は、「井庭研卒業式」と「人生プレゼン」。
井庭研卒業式では、まず、井庭研卒業証書の授与。これは、在校生たちが、卒業する4年生ひとりひとりに個別に文面を考え、きちんとした賞状の紙に印刷してつくる。この文面が結構面白くて、素敵。それを僕が読み上げ、井庭研を卒業する卒業証書の授与する。そして、4年生へのプレゼントも、それぞれの人に合わせて考えて用意する。これがまた、いい。
僕は、この数年間かなりの時間をともに過ごし、活動してきたメンバーへの思いを込めて、「思い出ビデオ」映像を制作して上映する。そんな感じで、笑いあり、(ちょこっと)涙ありの卒業式となる。
「人生プレゼン」は、卒業する4年生が、各自のこれまでの人生を振り返り、今後を語るというものだ。みんな写真をたくさん載せた、魅力的なスライドをつくってくる。それを、研究室から持って来たプロジェクターでスクリーンに映して、人生についてのプレゼンをする。
子どものときからどんなことをしてきたのかや、研究室で見る姿とはまた異なる一面を見ることができ、その人の理解が深まる。そして、今後、どのような人生を歩んでいきたいかなど、なかなか普段は聞くことができない深い話も出てくる。いつものとおり、質疑応答やコメントの時間もしっかりある。真面目な内容だけでなく、みんないろんな手を使って笑わせてくるので、楽しくて、あっという間に時間が流れていく。
合宿2日目は、富士サファリパークへ行った。みんなで動物をみながら、「うぉー、ライオンだ!」とか「あれ、かわいい!」とかいいながら、車でワイワイ。大人になっても楽しいものだね。
こんなふうにして、卒業する4年生との最後の時間を過ごした。
今年井庭研を卒業した4年生は3人。
それぞれの道を、しっかりと歩いていってほしい。
卒業おめでとう。
2012.03.30 Friday
22:18 | posted by
井庭 崇
井庭研究室では、2012年度春学期の新規メンバーの追加募集を行ないます。
井庭研究会B2
2012年4月3日(火):追加エントリー〆切
2012年 4月5日(木):面接予定
今回、追加募集を行なうのは、井庭研B2(火曜5限)です。井庭研B2「創造社会の理論・方法・実践プロジェクト」についての詳細は、
研究会シラバスをご覧ください。
今回の追加募集では、「EC(ネットショップ)」、「政策」、「教育」のそれぞれの領域におけるパターン・ランゲージの制作に興味がある人を募集します。
1. [EC] ネットショップのパターン・ランゲージ制作
2012年度春学期から1年間かけて、インターネットサービス(ECサイト、ネットショップ)のパターン・ランゲージの制作にとりくむプロジェクトを開始します。ビジネスのデザイン、サイトのデザイン、ヴィジュアルのデザイン、マーケティングのデザイン等に興味がある人、または、パターン・ランゲージの制作に興味がある人のエントリーをお待ちしています。
参考資料 ●
「Patterns: Design Insights Emerging and Converging」(IDEO)
参考資料 ●
「Yahoo! Design Pattern Library」(Yahoo!)
2. [政策] 政策のパターン・ランゲージ(政策言語)の制作
政策をデザインするときの問題発見・解決の知を言語化した「政策言語」(PolicyLanguage)を作成します。政策言語をつくるひとつの目的は、政策をデザインする際の思考の要素を言語化し、明示化することです。もうひとつの目的は、政策のデザインに必要な考え方のビルディング・ブロックを明示することで、政策をつくるプロセスをひらくということです。これまでのように多くの人が政策を消費(Consumption)するのでなく、また政策について単にコミュニケート(Communication)するだけでもなく、政策の創造(Creation)に参加するための方法・道具を、パターン・ランゲージの考え方を応用して構築したいと思います。
参考資料 ●
「竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング」
参考資料 ●
「政策言語:政策デザインのパターン・ランゲージ向けて」
3. [教育] 創造的な学びのための教育のパターン・ランゲージの制作
変化が激しい現代社会では、あらゆる年代・立場の人にとって「学び」が重要になっています。そしてそこで求められている「学び」は、単なる詰め込み型ではなく、新しい関係性を発見し、自ら意味を編集・構成していくような「創造的な学び」です。しかしながら、教育の現場ではこれまで知識伝授型の教育が主に行なわれてきたため、「創造的な学び」の教育方法はまだまだ蓄積が少ないというのが現状です。そこで本研究では、創造的な学びを実現している先駆的な教員たちの発想や方法を、パターン・ランゲージと記述・共有することに取り組みます。
参考資料 ●
「探究型学習のためのパターン・ランゲージの制作」
参考資料 ●
「Learning 3.0: The Age of Creative Learning」
参考資料 ●
「Design Thinking for Educators」(IDEO)
【追加エントリー課題】
井庭研B2シラバスをしっかりと読んで内容を理解した上で、以下のエントリー情報を4月3日(火)までにメールで提出してください。
エントリーメールの提出先: ilab-entry2012 [at] sfc.keio.ac.jp
メールのサブジェクト(件名): 井庭研究会B2 履修希望
以下の内容を書いた文書ファイル(WordもしくはPDFファイル)を、メールに添付してください。
井庭研究会B2 履修希望
(1) 氏名(ふりがな), 学部, 学年, 学籍番号, ログイン名
(2) 「EC」「政策」「教育」のどのテーマに参加したいか、およびその志望理由
(3) 来学期、並行して所属する予定の研究会
(4) これまでに所属した研究会
(5) これまでに履修した授業のなかで、お気に入りのもの(複数可)
(6) これまでに履修した担当教員(井庭)の授業
(7) その他の自己紹介(やっていること、興味があること、将来の方向性、自己アピールなど)
※なお、井庭研では、研究会メンバーには全員、春学期に
「社会システム理論」(月曜3限)と
「シミュレーションデザイン」(火曜3・4限)も同時に履修してもらうことになっています。
2012.03.16 Friday
12:03 | posted by
井庭 崇
2012年度春学期の「社会システム理論」(井庭 崇)のシラバスを書きました。開講曜日時限は、月曜 3限です。社会のリアリティを捉え、さらに未来をつくっていくための理論を学んでいきましょう!
科目:社会システム理論
担当:井庭 崇
開講:月曜 3限
【主題と目標/授業の手法など】
本講義では、社会を「システム」として捉える視点を身につけ、変化を生み出す力を身につけることを目指します。
本講義で取り上げるのは、「社会システム理論」(オートポイエーシスの社会システム理論)です。その理論では、社会はコミュニケーションがコミュニケーションを連鎖的に引き起こすことで成り立つシステムであると捉えます。このような捉え方で、社会学者ニクラス・ルーマンは、次のような問題に答えようとしました。「社会的な秩序はいかにして可能なのだろうか?」と。個々人は別々の意識をもち、自由に振る舞っているにもかかわらず、社会が成り立つ(現に動いている)、この不思議に取り組むのが、社会システム理論です。
社会システム理論の捉え方によって、既存の社会諸科学では分析できない社会のダイナミックな側面を理解することができるようになります。また、個別の学問分野を超えた視点で社会を捉えることができるようになります。この理論を考案した社会学者ニクラス・ルーマンは、この社会システム理論を用いて、経済、政治、法、学術、教育、宗教、家族、愛などの幅広い対象を分析しました。この授業では、さらに、組織学習やパターン・ランゲージ、オープン・コラボレーションなど、現代の新しい潮流の理解に、この理論を用いていきたいと思います。
社会システム理論は非常に難解な理論ですが、授業ではできる限り噛み砕いてわかりやすく説明します。また、映像や演習の時間なども設け、より楽しく実践的に学ぶ場にする予定です。前提知識等は必要ありません。学年も問いません。未来を切り拓いていきたいと思っている人は、ぜひ一緒に学びましょう。
【教材・参考文献】
教科書として以下の2冊の書籍を指定します。授業進行に合わせて読んでいきます。
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011)
●『Fearless Change: Patterns for Introducing New Ideas』(Mary Lynn Manns, Linda Rising, Addison-Wesley, 2005)
また、各回に使用する文献や関連する参考文献は、各回の説明のところで示してあります。必要なものについては適宜コピーを配布します。
【履修上の注意】
●毎週、英語で文献を読み、そのサマリーを提出するという宿題を出します。
●講義中のPCの使用を原則禁止とします。
【授業計画】
■■■ 第1回(4/9) イントロダクション
目的と内容、および進め方について説明します。ニクラス・ルーマンの提唱した「社会システム理論」の魅力はどこにあるのか? また、社会的創造の潮流や、創造的なコミュニケーションのメディアについて概観します。
■■■ 第2回(4/16) 創発的な出来事としてのコミュニケーション
社会システム理論では、社会の構成要素は人ではなく「コミュニケーション」であるといいます。ここに、社会の捉え方に関する理論的革新があります。しかも、その「コミュニケーション概念もこれまでとは異なる捉え方をします。それがどのような捉え方なのかを理解します。
【文献読解】
●『Social Systems』(N. Luhmann, Stanford University Press, 1996) [ ルーマン『社会システム理論〈上〉』(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1995)] 一部
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 序章
■■■ 第3回(4/23) コミュニケーションのメディアとコード
特定の種類のコミュニケーションが連鎖していくには、いろいろな不確実性が伴うため、本来は成立が困難なものです。それにもかかわらず、近代社会においては、安定的に生成・連鎖が生じている種類のコミュニケーションがあります。そこで、そのようなコミュニケーションの生成・連鎖がいかにして可能なのかという秘密に迫ります。
【文献読解】
●『Social Systems』(N. Luhmann, Stanford University Press, 1996) [ ルーマン『社会システム理論〈上〉』(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1995)] 一部
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 序章
■■■ 第4回(5/1) 近代社会とはいかなる時代か
社会システム理論では、近代社会は、経済、法、学問、宗教など、機能的な分化が起こったと捉えます。つまり近代社会では、経済システム、法システム、学問システム、宗教システムなどがそれぞれ自律的に動いているということです。それぞれの機能システムは、どのようなコードで動いているのか、そして、近代社会とはいかなる時代なのかについて考えます。
【文献読解】
●『Ecological Communication』(N. Luhmann, University Of Chicago Press, 1989) [『エコロジーのコミュニケーション:現代社会はエコロジーの危機に対応できるか?』(ニクラス・ルーマン, 新泉社, 2007)] 一部
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 序章、第1章
■■■ 第5回(5/7) オートポイエーシスと構造的カップリング
ルーマンは社会を、自分で自分自身を生み出す「オートポイエーシス」の特徴をもつシステムだと捉えました。一体、オートポイエーシスとはどのようなものなのでしょうか。また、オートポイエティック・システムは他のシステムや環境とどのような関係をもつのでしょうか。この授業では、社会システム理論における「システム」の考え方を詳しくみていきます。
【文献読解】
●『Autopoiesis and Cognition: The Realization of the Living』(H. R. Maturana, F. J. Varela, Springer, 1980) [『オートポイエーシス:生命システムとはなにか』(H.R. マトゥラーナ, F.J.ヴァレラ, 国文社, 1991)] 一部
●『Social Systems』(N. Luhmann, Stanford University Press, 1996) [ ルーマン『社会システム理論〈上〉』(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1995)] 一部
■■■ 第6回(5/14) 社会に変化をもたらすVoiceとExit
アルバート・ハーシュマンは、世の中を変えるには、Voice(発言)と Exit(退出)という二つの選択肢があるといいました。Voice(発言)は直接意見を言うことで変えていくということ、Exitはそこからいなくなることで間接的にシグナルを送るということです。この授業では、Voice/Exit論を、コミュニケーションの生成・連鎖の観点から捉え直します。
【文献読解】
●『Exit, Voice, and Loyalty: Responses to Decline in Firms, Organizations, and States』(Albert O. Hirschman, Harvard University Press, 1970) [『離脱・発言・忠誠:企業・組織・国家における衰退への反応』(A.O.ハーシュマン, ミネルヴァ書房, 2005)] 一部
■■■ 第7回(5/21) シナリオ・プランニング:未来の物語をつくって学ぶ
組織学習の方法のひとつに、「シナリオ・プランニング」というものがあります。プランニングという名前ですが、よい計画を立てることが目的なのではなく、複数人で未来像について語り合うプロセスのなかで、各人が学ぶ、あるいは組織が学ぶということが目指されます。シナリオ・プラニングとはどのようなものであり、実際にどうやるのかを理解し、実際に演習で体験してみます。
【文献読解】
● 『The Art of the Long View: Planning for the Future in an Uncertain World』(Peter Schwartz, Crown Business, 1996) [『シナリオ・プランニングの技法』(ピーター・シュワルツ, 東洋経済新報社, 2000)] 一部
■■■ 第8回(5/28) パターン・ランゲージ 1:ユーザー参加のメディア
建築家のクリストファー・アレグザンダーは、住民参加型のまちづくりを行なうために、「パターン・ランゲージ」という方法を考案しました。パターン・ランゲージは、設計者がもつ創造の経験則 を「パターン」という単位にまとめ、それを体系化したものです。現在では、パターン・ランゲージは、ソフトウェアデザインや組織デザイン、コミュニケーション・デザインなど、幅広い分野で使われるようになっています。この授業では、そのパターン・ランゲージの社会的機能について考えてみたいと思います。
【文献読解】
●『The Production of Houses』(C. Alexander, Oxford University Press, 1985) [『パタンランゲージによる住宅の建設』(C.アレグザンダー他, 鹿島出版会, 1991)] 一部
■■■ 第9回(6/4) パターン・ランゲージ 2:組織変革の方法論
組織やコミュニティに新しいアイデアを導入するのはなかなか難しいものです。そのアイデアが革新的なアイデアであるほど、理解されるのは困難になります。また、それまでのやり方と異なることから、恐怖心や疑念も生まれてくるでしょう。しかしながら、そのようなイノベーションを引き起こしている人たちは、現に存在します。その人たちはどのように変革を進めているのでしょうか。この授業では、組織変革のパターン・ランゲージとして有名な『Fearless Change』のパターンを用いて、自らの経験を語り合う対話ワークショップを行ないます。
【文献読解】
●『Fearless Change: Patterns for Introducing New Ideas』(Mary Lynn Manns, Linda Rising, Addison-Wesley, 2005)
■■■ 第10回(6/11) 創造的コラボレーション:コミュニケーションの連鎖で生み出す
コラボレーションとは、複数の人々が、ひとりでは決して到達できないような付加価値を生み出す協働作業のことです。創造的なコラボレーションが行われている組織やチームでは、そのコミュニケーションの流れに「勢い」が生まれ、連鎖的に共鳴・増幅していきます。このような流れに身を委ね、コミュニケーションのパスをつないでいくと、思いもかけない飛躍的なアイデアやイノベーションが生まれることがあります。そのような創造的コラボレーションで、一体何が起きているのかを考えたいと思います。
【文献読解】
●『Group Genius: The Creative Power of Collaboration』(Keith Sawyer, Basic Books, 2008) 一部
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 第2章
●「コラボでつくる!―― コミュニケーションの連鎖による創発」(井庭 崇, 『創発する社会』, 国領二郎 編著, 日経BP企画, 2006年)pp.68-85
■■■ 第11回(6/18) オープン・コラボレーション 1:Collaborative Innovation Networks (COINs)
不特定多数の人たちが出入りしながら協働的に付加価値を生み出していく「オープン・コラボレーション」は、どのように発展していくのでしょうか。Creatorのまわりにいる Collaborative Innovation Networks の人々が重要な役割を担っていることを理解します。
【文献読解】
●『Coolfarming: Turn Your Great Idea into the Next Big Thing』(Peter Gloor, AMACOM, 2010) 一部
■■■ 第12回(6/25) オープン・コラボレーション 2:オープンソース・ソフトウェア開発
不特定多数の人たちが出入りしながら協働的に付加価値を生み出していく「オープン・コラボレーション」の事例として、Linux OSのオープンソース・ソフトウェア開発について取り上げます。
【文献読解】
●『Just for Fun: The Story of an Accidental Revolutionary』(Linus Torvalds, David Diamond, HarperBusiness, 2002) [『それがぼくには楽しかったから』(リーナス・トーバルズ, デビッド・ダイヤモンド, 小学館プロダクション, 2001)] 一部
■■■ 第13回(7/2) オープン・コラボレーション 3:WikiとWikipedia
不特定多数の人たちが出入りしながら協働的に付加価値を生み出していく「オープン・コラボレーション」の事例として、Wikipediaについて取り上げます。また、Wikipediaのベースとなっている「Wiki」というシステムの発想を理解します。
【文献読解】
●『Wikinomics: How Mass Collaboration Changes Everything』(Don Tapscott, Anthony D. Williams, Portfolio Trade, Expanded ed., 2010) [『ウィキノミクス:マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ』, ドン・タプスコット, アンソニー・D・ウィリアムズ, 日経BP社, 2007)] 一部
●『パターン、Wiki、XP:時を超えた創造の原則』(江渡 浩一郎, 技術評論社, 2009)序章, 第15・17章、終章
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 第3章
■■■ 第14回(7/9) 社会に変化をもたらす
社会に深い変化をもたらすにはどうすればよいのでしょうか。精神的な側面と実践的な側面とを合わせもつ「U理論」(Theory U)を取り上げます。また、これまでの授業を振り返り、総括を行ないます。
【文献読解】
●『Presence: Human Purpose and the Field of the Future』(Peter M. Senge, et. al., Crown Business, Reprint ed., 2008) [『出現する未来』, ピーター・センゲ ほか, 講談社, 2006)] 一部
●『Theory U: Leading from the Future as It Emerges: The Social Technology of Presencing』(C. Otto Scharmer, Berrett-Koehler Pub, 2009) [『U理論:過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』, C・オットー・シャーマー, 英治出版, 2010)] 一部
【提出課題・試験・成績評価の方法など】
成績評価は、授業への参加、宿題、期末レポートから総合的に評価します。
【履修制限】
履修人数を制限する:100人程度。初回授業時に志望理由を書いてもらいます。
2012.03.16 Friday
12:03 | posted by
井庭 崇
2012年度春学期の「シミュレーションデザイン」(井庭 崇, 古川園智樹)のシラバスを書きました。開講曜日時限は、火曜 3・4限です。がっつり文献を読んで議論するので、やる気のある人はぜひどうぞ。
科目:シミュレーションデザイン
担当:井庭 崇, 古川園智樹
開講:火曜 3・4限
【主題と目標/授業の手法など】
複雑で動的に変化するシステム --- 例えば生命や社会など --- を理解するためには、それに見合う道具立てが必要になります。そのような「思考の道具」として、本科目では「シミュレーション」の考え方に着目します。ここでいう「シミュレーション」とは、最も広義の意味で捉え、「物事の関係性が設定された状態から、それらの時間発展を内生的な変化として展開し、その振る舞いを観察して対象への理解を深める」ことを指します。この授業では、そのように広義に定義されたシミュレーションについて、思想・手法・実践の面から理解することを目指します。
【教材・参考文献】
本授業では、毎回、指定文献を読んできてもらい、授業中に内容の確認や議論をします。その文献のうちの一部は、各自購入してもらうことになります。輪読の際に線を引きながら読むので、図書館で借りるのではなく購入するようにしてください。これらの本はどれも、今後みなさんの本棚を飾り、時に手に取るとよいと思われる本ばかりです。
●『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(井庭崇, 福原義久, NTT出版, 1998)¥1,890
●『創造性とは何か』(川喜田二郎, 詳伝社, 2010)¥798
●『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです:村上春樹インタビュー集 1997-2009』(村上春樹, 文藝春秋, 2010)¥1,890
●『メタファー思考:意味と認識のしくみ』(瀬戸 賢一, 講談社, 1995)¥735
●『科学革命の構造』(トーマス・クーン, みすず書房, 1971)¥2,730
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011)¥2,520
●『デカルトからベイトソンへ:世界の再魔術化』(モリス・バーマン, 国文社, 1989)¥4,725
●『方法序説』(ルネ・デカルト, ちくま学芸文庫, 筑摩書房, 2010)¥945
●『精神と自然:生きた世界の認識論』(グレゴリー・ベイトソン, 新思索社, 2006)¥2,100
●『クリストファー・アレグザンダー:建築の新しいパラダイムを求めて』(スティーブン・グラボー, 工作舎, 1989)¥3,873
これ以外の文献については、適宜コピーを配布します。
【履修上の注意】
毎回、かなりの分量の文献を読み込んでいきます。きちんと読んできてください。
【授業計画】
■■■ 第1回(4/10) イントロダクション Introduction
授業の内容、進め方について説明します。
■■■ 第2回(4/17) 構成的理解 Constructive Way of Understanding
複雑系科学では、生命や知能、社会を理解するために、コンピュータ・シミュレーションをつくることで理解することが行なわれます。この「つくることで理解する」というアプローチを、「構成的理解」といいます。この構成的理解を、学術的研究からアートまでのつながりを学びます。
【文献読解】
●『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(井庭崇, 福原義久, NTT出版, 1998) 序文、第1〜3章
●『Simulation for the Social Scientist』(Nigel Gilbert, Klaus Troitzsch, Open University Press, 1999) [『社会シミュレーションの技法』, ナイジェル・ギルバート, クラウス・G・トロイチュ, 日本評論社, 2003] 第1・2章
●『動きが生命をつくる:生命と意識への構成論的アプローチ』(池上高志, 青土社, 2007)
序章、第1〜3章、第8章
■■■ 第3回(4/24) 生成的プロセス Generative Processes
「つくることで理解する」という構成的理解が行なわれているのは、コンピュータ・シミュレーションによる学術的研究だけではありません。作家が物語をつくるときにも、ある種のシミュレーションを行いながら構成的な理解をしているようです。そのような作家の言葉をみてみましょう。
【文献読解】
●『創造性とは何か』(川喜田二郎, 詳伝社, 2010)
●『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです:村上春樹インタビュー集 1997-2009』(村上春樹, 文藝春秋, 2010)
●『ものがたりの余白:エンデが最後に話したこと』(ミヒャエル・エンデ, 岩波書店, 2000) 第I章
●『出発点 1979〜1996』(宮崎駿, 徳間書店, 1996)[『Starting Point 1979-1996』(Hayao Miyazaki, VIZ media, 2009)]
■■■ 第4回(5/8) アブダクション Abduction
新しいアイデアを「発想」するということはどういうことなのか。そのようなことに取り組んだ人に、チャールズ・S・パースという人がいます。彼は、これまでの論理学でいわれてきた「帰納」(induction)と「演繹」(deduction)に加えて、「アブダクション」(abduction)というものがあると考えました。アブダクションとはどのようなものか、そして、創造的思考とどのような関係があるのかについて学びます。
【文献読解】
●『アブダクション:仮説と発見の論理』(米盛 裕二, 勁草書房, 2007)まえがき、第1〜5章
● "Deduction, Induction, and Hypothesis" (Charles Sanders Peirce, in 『The Essential Peirce: Selected Philosophical Writings VOLUME 1 (1867-1893)』, Indiana University Press, 1992) p.186-199
■■■ 第5回(5/15) メタファー Metaphor
つかみどころがない物事を捉えるときに、私たちはよく「メタファー」(隠喩)を用いて理解します。例えば、「人生」とは「旅のようなもの」であるとか、「議論」とは「戦いのようなもの」であるというような理解の仕方です。このようなメタファーによる理解は、人間の認知の根本的な特徴であるとも言われています。そして、メタファー的な思考は、創造的思考や発想において重要な役割を果たしていると思われます。認識、思考、創造のレトリックとしてのメタファーについて学びます。
【文献読解】
●『メタファー思考:意味と認識のしくみ』(瀬戸 賢一, 講談社, 1995)
●『Metaphors We Live By』(George Lakoff, Mark Johnson, The University of Chicago Press, 1980) [『レトリックと人生』(ジョージ・レイコフ, マーク・ジョンソン, 大修館書店, 1986] 一部
●『走ることについて語るときに僕の語ること』(村上春樹, 文藝春秋, 2010)[『What I Talk about When I Talk about Running: A Memoir』(Haruki Murakami, Vintage Books, 2009) ] 一部
■■■ 第6回(5/22) パラダイム・シフト Paradigm Shift
物事に対する考え方・認識が根本から変わってしまうことがあります。これが「パラダイム・シフト」と呼ばれる事態です。科学哲学者トーマス・クーンは、科学における革命的な変化について研究し、パラダイム・シフトが起きる時にはどのようなことが起きるのかを明らかにしました。このパラダイム・シフトの考え方について学びます。
【文献読解】
●『The Structure of Scientific Revolution』(Thomas S. Kuhn, The University of Chicago Press, 1962) [『科学革命の構造』(トーマス・クーン, みすず書房, 1971)]
●『Imagined Worlds』(Freeman Dyson, Harvard University Press, 1997) [『科学の未来』(フリーマン・ダイソン, みすず書房, 2005)] 第2章
■■■ 第7回(5/29) 社会科学の歴史的形成 Historical Construction of the Social Sciences
社会科学はどのようにして分化し、発展してきたのでしょうか。また、これからの社会科学はどうなるのでしょうか。それらのことについて議論したいと思います。
【文献読解】
●『Open the Social Sciences』(Immanuel Wallerstein, Stanford University Press, 1996) [『社会科学をひらく』(ウォーラーステイン, 藤原書店, 1996)]
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 第1章
●「ディジタル・メディア時代における「知の原理」を探る: 知のStrategic Obscurantism」(井関 利明, 『メディアが変わる知が変わる:ネットワーク環境と知のコラボレーション』, 1998)
■■■ 第8回(6/5) デカルト的パラダイム Cartesian Paradigm
ルネ・デカルトは、現代の科学的世界観の基礎をつくりました。それは端的にいうと、精神と物質というものを分けるという二元論的なパラダイムです。この回は、デカルトの考えに触れるとともに、その可能性と限界について考えます。
【文献読解】
●『The Reenchantment of the World』(Morris Berman, Cornell University Press, 1984) [『デカルトからベイトソンへ:世界の再魔術化』(モリス・バーマン, 国文社, 1989)] 序章、第1〜4章
●『方法序説』(ルネ・デカルト, ちくま学芸文庫, 筑摩書房, 2010)
■■■ 第9回(6/12) ベイトソン的全体論 Batesonian Holism
デカルト流の二元論的パラダイムでは捉えられないものを捉える可能性として、グレゴリー・ベイトソンの全体論/サイバネティクスの考え方を学びます。
【文献読解】
●『The Reenchantment of the World』(Morris Berman, Cornell University Press, 1984) [『デカルトからベイトソンへ:世界の再魔術化』(モリス・バーマン, 国文社, 1989)] 第5〜9章
■■■ 第10回(6/19) パターンと学習 Patterns and Learning
グレゴリー・ベイトソンの考えについての理解を深めます。また、社会システム理論やパターン・ランゲージなどの考え方に通じる点について考えます。
【文献読解】
●『Mind and Nature: A Necessary Unity』(Gregory Bateson, Hampton Press, 2002) [『精神と自然:生きた世界の認識論』(グレゴリー・ベイトソン, 新思索社, 2006)]
●『Steps to an Ecology of Mind』(Gregory Bateson, The University of Chicago Press, 2000) [『精神の生態学』(G・ベイトソン, 新思索社, 2000)] "The Logical Categories of Learning and Communication" [「学習とコミュニケーションの階型論」] (p.382-419) & "Cybernetic Explanation" [「サイバネティックスの説明法」](p.532-548)
■■■ 第11回(6/26) オートポイエーシス Autopoiesis
生命や社会、創造を理解するための基礎理論として、オートポイエーシスのシステム理論について学びます。
【文献読解】
●『Autopoiesis and Cognition: The Realization of the Living』(H. R. Maturana, F. J. Varela, Springer, 1980) [『オートポイエーシス:生命システムとはなにか』(H.R. マトゥラーナ, F.J.ヴァレラ, 国文社, 1991)] 一部
●『オートポイエーシス:第三世代システム』(河本英夫, 青土社, 1995)第1〜3章
●『Social Systems』(N. Luhmann, Stanford University Press, 1996) [ ルーマン『社会システム理論』〈上〉 〈下〉(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1995)] 一部
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 序章, 第2章
■■■ 第12回(7/3) 生成的構造 Generative Structure
デカルト的な二元論的パラダイムとは異なる見方で、建築の世界を捉え直し、建築のデザインを再考したクリストファー・アレグザンダーの考えと実践の遍歴を辿ります。
【文献読解】
●『パターン、Wiki、XP:時を超えた創造の原則』(江渡 浩一郎, 技術評論社, 2009)序章, 第1〜6章
●『Christopher Alexander: The Search for a New Paradigm in Architecture』(Stephen Grabow, Routledge Kegan & Paul, 1983) [『クリストファー・アレグザンダー:建築の新しいパラダイムを求めて』(スティーブン・グラボー, 工作舎, 1989)] 前書き, 序, 第1〜12章
●『Notes on the Synthesis of Form』(Christopher Alexander, Harvard University Press. 1964) [『形の合成に関するノート』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 1978)]
●"A city is not tree" (Christopher Alexander, Architectural Forum 122 April , 1965) [ 「都市はツリーではない」(クリストファー・アレグザンダー) ]
■■■ 第13回(7/10) ネットワーク科学 Network Science
近年、自然や社会における物事の関係性の構造に共通の特徴があることがわかり、「スモールワールド・ネットワーク」や「スケールフリー・ネットワーク」として注目を集めています。これらのネットワークの生成原理をめぐる研究がどのようにパラダイム・シフトを引き起こしたのかを学びます。
【文献読解】
●『Linked: How Everything is Connected to Everything Else and What It Means for Business, Science, and Everyday Life』(Albert-Laszlo Barabasi, Plume, 2003) [『新ネットワーク思考:世界のしくみを読み解く』(アルバート・ラズロ・バラバシ, NHK出版, 2002)]
●『Six Degrees: The Science of Connected Age』(Duncan J. Watts, W. W. Norton & Company, 2004) [『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』(ダンカン・ワッツ, 阪急コミュニケーションズ, 2004)] 第3章
●『Sync: How Order Emerges From Chaos In the Universe, Nature, and Daily Life』(Steven H. Strogatz, Hyperion, 2004) [『SYNC』(スティーヴン・ストロガッツ, 早川書房, 2005)] 第9章
●「ネットワーク科学の方法論と道具論」(井庭 崇, 『ネットワーク科学への招待:世界の“つながり”を知る科学と思考』, 青山 秀明, 相馬 亘, 藤原 義久 共編著, 臨時別冊・数理科学2008年7月号 SGCライブラリ 65, サイエンス社, 2008)
■■■ 第14回(7/17) 総括
これまでの内容を振り返り、総括をします。
【提出課題・試験・成績評価の方法など】
輪読や演習での授業への参加、宿題提出、最終レポート等から、総合的に評価します。
【履修制限】
履修人数を制限する:40人程度。初回授業時に志望理由を書いてもらいます。
2012.03.12 Monday
22:41 | posted by
井庭 崇
NHKの春からの新番組「スーパープレゼンテーション」という番組にレギュラー出演することになりました。
NHK Eテレ 毎週月曜日 23:00〜23:25
「スーパープレゼンテーション」
4月2日(月)より 放送開始
http://www.nhk.or.jp/superpresentation/
この番組では、あの有名なTEDカンファレンスから、毎週おすすめのプレゼンテーション(talk)を、解説つきで紹介していきます。
メインのMCは、伊藤 穣一さん(MITメディアラボ所長,
Joi Ito's Web)。
そして、英語ナビゲータ―は、 Kylee さん(アメリカ在住の女子高生シンガー,
Kylee OFFICIAL WEB)。
番組での僕の役目は、TEDトークを「
プレゼンテーション・パターン」で読み解くというもの。プレゼンテーション・パターンは、創造的プレゼンテーションの秘訣を34個まとめたもの(
慶應義塾大学井庭研究室 制作)。
このプレゼンテーション・パターンを見たディレクターの方から声をかけていただき、僕がプレゼン解説をすることになったというわけです。
そんなわけで、今日、初めての収録に行ってきました。
初めてのこと尽くしで緊張しましたが、なかなか面白かったです。
僕の出来としては、まあ、初めてだし、何ともお恥ずかしいかぎり。かみまくったり、恥ずかしくてニヤニヤしてしまったり……。笑
端的に重要なことを話す&かまずにきちんと話す、ということがいかに難しいかを痛感した1日でした。でも、スタッフの方も、対話相手のKyleeもとても親切で、なんとか乗り切れました。
プレゼンテーション・パターンでいうところの「
最善努力」はできたと思うので、よいことにしちゃいます。次の目標は、「
キャスト魂」ですかね。
今日の撮影スタジオでの写真を2枚ほど。
Presentation Tipsのコーナーで一緒に出演する Kylee と。とってもキュートでsmartな感じの子。話す言葉(英語)は、流石、聴いていて心地がいい。
Kylee、この番組でファンがますます増えるんじゃないかな。みんなで応援しよう。早速来週、初の全国ツアーがあるということ(詳しくは
こちら)。
スタジオの風景。照明もカメラもあちこちから。この写真を撮っているのは、ディレクターが見てる側。僕はこちらの方が落ち着くんだよねぇ。
TEDのトークはもちろん、Joiの話も Kyleeの話もとても素敵な感じなので、お楽しみに!