井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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「パターンランゲージ」(2010年度秋学期担当科目)

秋学期の僕の担当授業「パターンランゲージ」を紹介します。

「パターン・ランゲージ」というテーマ・内容だけで1学期間授業をするという、日本で唯一の授業です(おそらく世界でも?)。

今年は、日本におけるパターン・ランゲージ実践・研究のキーパーソンである 中埜博さんと 江渡浩一郎さんをゲストとしてお招きします。

さらに、竹中平蔵先生と「政策のパターン・ランゲージ」の制作に向けての初めての対談を行います。

履修者は学期を通じて、自分たちの興味・関心のあるテーマでパターン・ランゲージをつくる、というグループワークに取り組みます。

この授業を通じて、ぜひ「パターン・ランゲージを理解し、使うことができる人」ではなく、「パターン・ランゲージをつくることができる人」になってほしいと思います。




慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)総合政策学部・環境情報学部
「パターンランゲージ」(木曜日4時限, 担当:井庭 崇)

■主題と目標/授業の手法
この授業では、創造・実践のための言語として「パターンランゲージ」を取り上げ、その考え方と方法を学びます。パターンランゲージは、創造・実践の経験則を「パターン」という単位にまとめ、それを体系化したものです。かつて、建築家のクリストファー・アレグザンダーは、建物や街の形態に繰り返し現れる関係性をパターンとしてまとめました。その後この考え方は、ソフトウェア開発の分野に応用され、成功を収めました。SFCでは、「SFCらしい学び」のパターン・ランゲージとして、「学習パターン」(Learning Patterns)が制作・配布されています。この授業では、パターンランゲージの考え方を学びながら、創造的コラボレーションや社会デザイン、ものづくりなど、新しい分野において、自らパターン・ライティングできるようになることを目指します。

■授業計画

第1回 Introduction
この授業の内容と進め方について説明します。

第2回 Philosophy of Pattern Language
パターン・ランゲージの背景にある思想・哲学について学びます。

第3回 Pattern Forms / Case: Learning Patterns
パターンの形式について理解します。事例として、SFCで制作・配布されている「学習パターン」を取り上げます。

第4回 The Nature of Order
パターン・ランゲージを提唱したクリストファー・アレグザンダーの思想やその可能性について考えます。(ゲスト対談:中埜博氏)

第5回 Pattern Mining
対象のなかからパターンを見つける方法について学びます。

第6回 Pattern Writing
パターン・ランゲージを記述する方法について学びます。

第7回 Toward a Pattern Language for Policy Making
自生的な社会を実現するための「政策」をつくるパターン・ランゲージの可能性について考えます。(ゲスト対談:竹中平蔵氏)

第8回 Toward a Pattern Language for Policy Making
自生的な社会を実現するための「政策」をつくるパターン・ランゲージの可能性について考えます。(ゲスト対談:竹中平蔵氏)

第9回 Writer's Workshop (1)
グループワークで作成しているパターン・ランゲージを、履修者同士でレビューし合う「ライターズ・ワークショップ」を行います。

第10回 Media for Creation and Imagination
パターン・ランゲージや、そこから派生したツール/方法論について考えます。(ゲスト対談:江渡浩一郎氏)

第11回 Writer's Workshop (2)
グループワークで作成しているパターン・ランゲージを、履修者同士でレビューし合う「ライターズ・ワークショップ」を行います。

第12回 Writer's Workshop (3)
グループワークで作成しているパターン・ランゲージを、履修者同士でレビューし合う「ライターズ・ワークショップ」を行います。

第13回 Final Presentation
グループワークで作成してきたパターン・ランゲージの発表を行います。

■グループワークについて
興味・関心が近い3~5人でグループを組み、パターン・ランゲージをつくるグループワークを行います。作成したパターンは、Writer’s Workshopを通じて、グループメンバー以外の人からのコメントをもらい、ブラッシュアップしていきます。授業最終回に、グループワークの最終的な成果を発表してもらいます。

■教科書
・『The Timeless Way of Building』 (Christopher Alexander, Oxford University Press, 1979)
※邦訳ではなく、英語原著を読みます。

■参考書
・『A Pattern Language: Towns, Buildings, Construction』(Christopher Alexander, Sara Ishikawa, Murray Silverstein, Oxford University Press, 1977)
・『パターン、Wiki、XP:時を超えた創造の原則』(江渡浩一郎, 技術評論社, 2009)
・『クリストファー・アレグザンダー:建築の新しいパラダイムを求めて』(スディーブン・グラボー, 工作舎, 1989)
・『Fearless Change: Patterns for Introducing New Ideas』(Mary Lynn Manns, Linda Rising, Addison-Wesley Professional, 2003)

■初回授業
2010年9月30日(木)4限。SFC Ω12教室。
授業関連 | - | -

2010年度春学期「シミュレーションデザイン」シラバス抜粋版

2010年度春学期の「シミュレーションデザイン」のシラバスの抜粋版を掲載します。履修に際しては、必ず公式の詳細なシラバスを参照してください。

「シミュレーションデザイン」(担当:井庭 崇, 古川園 智樹)

主題と目標
複雑で動的に変化するシステム———例えば生命や社会など———を理解するためには、それに見合う道具立てが必要になります。そのような「思考の道具」として、本科目では「コンピュータ・シミュレーション」に着目します。コンピュータ・シミュレーションとは、理解したい対象の仮説的なモデルをつくり、そのモデルをコンピュータ上で動かしてみることで、その理解を深めるという方法です。
 本科目では、どのようにモデル化を行い、どのようにプログラムを構築するのか、どのようにシミュレーション実験を計画し、どのように実行・分析するのか等を、講義と演習によって身につけていきます。最終的には、各自の学術的研究で活用できる力をつけることを目指します。なお、必要なことはすべて授業で取り上げるので、プログラミングの知識・スキルは前提としません。
 今年度取り上げるのは、「ネットワーク科学」(Network Science)の研究です。近年、自然や社会における物事の関係性の構造に共通の特徴があることがわかり、「スケールフリーネットワーク」として注目を集めています。授業では、スケールフリー・ネットワークの生成原理をめぐるシミュレーション研究を追体験します。

教材
  • "Linked" (Albert-Laszlo Barabasi, Plume, 2003)
  • 『すべての人のためのJavaプログラミング』(立木秀樹, 有賀妙子, 第2版, 共立出版, 2007)

    提出課題・試験・成績評価の方法
  • 授業中の演習への取り組み、宿題、ファイナルプロジェクトの発表/レポートから、総合的に評価します。
  • ファイナルプロジェクトでは、ペアもしくは個人で、簡単なシミュレーション研究に取り組みます。テーマは自ら決めるか、あるいはこちらで用意したものから選択できます。

    履修上の注意
  • 授業中の演習やファイナルプロジェクトにおいて、各自のノート型パソコンを用いたシミュレーションデザインを実践します。各自PCを用意してください(MacとWindowsのどちらでも構いません)。
  • この授業では、プログラミングや数学の事前知識・スキルは求めません。ただし、学期中に「シミュレーション研究に必要なプログラミング」についての知識やスキルを身につけてもらいます。授業スタッフも、できるかぎりサポートします。

    授業計画(詳細については、公式シラバス参照してください。)
    第1回 イントロダクション
    第2回 シミュレーションの基礎
    第3回 ネットワーク科学とシミュレーション(1)
    第4回 シミュレーションプログラミングの基礎
    第5回 ネットワーク科学とシミュレーション(2)
    第6回 ネットワーク科学とシミュレーション(3)
    第7回 ネットワーク科学とシミュレーション(4)
    第8回 ネットワーク科学とシミュレーション(5)
    第9回 ネットワーク科学とシミュレーション(6)
    第10回 ファイナルプロジェクトのテーマ発表会
    第11回 ネットワーク科学とシミュレーション(7)
    第12回 シミュレーション研究の実践技法
    第13回 ファイナルプロジェクト発表会
  • 授業関連 | - | -

    2010年度春学期「社会システム理論」シラバス抜粋版

    2010年度春学期の「社会システム理論」のシラバスの抜粋版を掲載します。履修に際しては、必ず公式の詳細なシラバスを参照してください。

    「社会システム理論」(担当:井庭 崇)

    主題と目標
    この授業の目的は、社会を「システム」として捉える視点を身につけることです。ここで取り上げるのは、最新の「社会システム理論」(オートポイエーシスの社会システム理論)です。その理論では、社会はコミュニケーションがコミュニケーションを連鎖的に引き起こすことで成り立つシステムであると捉えます。このような捉え方で、社会学者ニクラス・ルーマンは、次のような問題に答えようとしました。「社会的な秩序はいかにして可能なのだろうか?」と。個々人は別々の意識をもち、自由に振る舞っているにもかかわらず、社会が成り立つ(現に動いている)、この不思議に取り組むのが、社会システム理論です。
     社会システム理論の捉え方によって、既存の社会諸科学では分析できない社会のダイナミックな側面を理解することができるようになります。また、個別の学問分野を超えた視点で社会を捉えることができるようになります。この理論を考案した社会学者ニクラス・ルーマンは、この社会システム理論を用いて、経済、政治、法、学術、教育、宗教、家族、愛などの幅広い対象を分析しています。総合政策学的な/超領域的なアプローチの新しい基礎論として、社会システム理論を一緒に探究しましょう。

    教材
  • 『Social Systems』(N. Luhmann, Stanford University Press, 1984)
    (邦訳として『社会システム理論(上)(下)』(N・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1995)が出版されていますが、いくつかの理由から今年度は英語版を用いることにします。)

    提出課題・試験・成績評価の方法
    成績評価は、授業での積極的な参加、宿題、学期末レポートから総合的に評価します。

    履修上の注意
    この授業では、授業と並行して各自『Social Systems』(Niklas Luhmann)を読み込んでもらいます。この本は難解であるため、じっくり時間をかけて理解することが求められます。難しいながらも理論書をじっくり読み、慣れ親しんでいくということを重視したいと思います。そこで、学期を通して、この文献読解と、レジュメ作成の宿題に取り組んでもらいます。

    授業計画(詳細については、公式シラバス参照してください。)
    第1回 イントロダクション
    第2回 社会システム理論の位置
    第3回 ダブル・コンティンジェンシーと社会形成
    第4回 行為とコミュニケーション
    第5回 コミュニケーションの不確実性とメディア
    第6回 コミュニケーションの生成・連鎖としての社会システム
    第7回 社会システムの閉鎖性/開放性と環境
    第8回 意識の連鎖としての心的システム
    第9回 近代社会の機能システム(1)
    第10回 近代社会の機能システム(2)
    第11回 システム間の構造的カップリング
    第12回 相互行為、組織、社会
    第13回 総括、および新しい領域への展開
  • 授業関連 | - | -

    2010年度春学期 担当科目

    2010年度春学期の僕の担当科目は、以下の通りです。

    学部科目
  • 「社会システム理論」(木曜1限)
  • 「シミュレーションデザイン」(木曜3・4限)

    学部研究会
  • 「研究会A」(火曜5限&木曜5限)

    大学院科目
  • 「概念構築(CB)」(火曜3限)の一部

    大学院プロジェクト
  • 「インターリアリティプロジェクト」
  • 「生活実践知プロジェクト」
  • 授業関連 | - | -

    井関利明先生をお呼びして、対談を行います。

    来る2008年12月13日(土)、元・慶應義塾大学総合政策学部長で、現在、慶應義塾大学名誉教授の井関利明先生をお招きして対談を行います。学問分野の枠を超えた、超領域的な研究・思想や、現代社会の潮流などについてのお話ししたいと思います。この対談は、授業「モデリング・シミュレーション技法」(担当:井庭崇)の一環として行われるものですが、聴講も歓迎ですので、興味がある方はぜひお越しください。

    対談「新しい時代の知と方法の原理を探る」
    2008年12月13日(土)3・4限 @大学院棟τ11教室

    井関 利明先生 (慶應義塾大学名誉教授, 元・総合政策学部長)
      ×
    井庭 崇 (慶應義塾大学総合政策学部専任講師)

    IzekiToshiaki.jpg ibatakashi100.jpg


    井関 利明先生 略歴
    1959年慶應義塾大学経済学部卒業、1964年同大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士(慶應義塾大学,1979年)。米国イリノイ大学留学、慶應義塾大学産業研究所所員、同文学部教授を経て、1990年より同総合政策学部教授。同総合政策学部長、千葉商科大学政策情報学部学部長を歴任。慶應義塾大学名誉教授。専門分野は、行動科学、科学方法論、政策論、マーケティング論。
    主な著書に、『消費者行動の理論』(共編著,1969),『消費者行動の分析モデル』(1969),『消費者行動の調査技法』(1969),『ライフスタイル発想法』(1975),『福祉志向の論理』(1976),『労働移動の研究: 就業選択の行動科学』(1977),『ライフスタイル全書』(1979),『生活起点発想とマーケティング革新』
    (1991)、『ワインは時を語る:アート、ビジネス、思想をめぐる6つの対話』(対談, 2001)など多数。


    本対談に関係が深い論考には、以下のものがあります。

  • 井関 利明, 「ディジタル・メディア時代における「知の原理」を探る: 知のStrategic Obscurantism」(『メディアが変わる知が変わる:ネットワーク環境と知のコラボレーション』, 1998)

  • 井関 利明, 「『創発社会』の到来とビジネス・パラダイムの転換」(『創発するマーケティング』, 2008)
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    コラボレーションの原理(コラボレーション技法ワークショップ第2回)

    今日は、僕の担当する授業「コラボレーション技法ワークショップ」の第2回目であった。今日のテーマは、コラボレーションの原理についてである。

    CollaborationImage200.jpg最初の問いは、「コラボレーション」とは何だろうか?ということだ。僕なりの説明をすると、コラボレーションとは、複数の人々が、ひとりでは決して到達できないような付加価値を生み出す協同作業(協働作業)のことだ。有効なコラボレーションが行われている組織やグループでは、単なるコミュニケーションや分担ではなく、発見や創造の「勢い」がメンバーの間で共鳴し、増幅する。その結果、飛躍的なアイデアやイノベーションを生み出すことができ、メンバーの満足感も高まることになる。

    コラボレーションは、「分業」とは異なる。分業というのは、タスクを分けてそれぞれががんばり、調整・集約するものである。その結果、1+1+1が3になる。そうではなく、コラボレーションでは、コミュニケーションの連鎖が起き、相乗効果があり、1+1+1が、10とか100になってしまうようなことをいう。グループワークというのは、分業的にもなり得るし、コラボ的にもなり得る。

    それでは、どうしたらグループワークにおいてコラボレーションを行うことができるのだろうか。言い換えると、どうしたら複数人で新しい付加価値を創造することができるのだろうか。この点を考えるために、「創造する」ということについて、一歩踏み込んで考えてみることにしたい。

    ふつう私たちは、何かを「創造する」(つくる)というとき、「思考」や「行為」による創造について考えるのが一般的だ。この考え方は、個人による創造を考える場合には十分であるが、複数人で行うコラボレーションについて考える場合には、すぐさま困難に行き当たる。もし創造性が、個人の思考や行為にのみ宿るのであれば、コラボレーションの結果というものは、個々人の思考・行為の結果を足し合わせたものに過ぎなくなる。そのような捉え方では、コラボレーションの本質である相互作用のダイナミズムが抜け落ちてしまう。もしコラボレーションが、目標を分割して各人に振り分ける「分業」とは異なるものであるならば、「思考・行為を寄せ集めた集合」ではない捉え方が必要になる。

    WhatIsCreation100.jpgそこで、「創造」というものを「創造的思考」、「創造的行為」、「創造的コミュニケーション」の3つに分けて考えてみることにしたい ※。そのうえで、「コラボレーションによる創造」では、創造的思考、創造的行為だけでなく、創造的コミュニケーションが不可欠である、ということを主張したい。

    まず、創造的思考とは、心的システムにおける意識の連鎖によって、創造が行われることを意味している。例えば、いろいろなイメージを思い描いたり、アイデアを考えたりすることである。創造的行為とは、行為として創造が行われるということである。例えば、絵を描いたり彫刻を掘ったり、文章を書き記したりするのが、これにあたる。これら創造的思考と創造的行為は、基本的には、ひとりで行う個人レベルの話である。これに対し、創造的コミュニケーションとは、コミュニケーションを行うことで創造が行われるということである。例えば、複数の人で、アイデアや企画、デザインを議論・検討しながら練り上げていくということが、これにあたる。

    以上のように「創造」を分類すると、「コラボレーション」と「分業」の違いは、創造的思考や創造的行為の存在の有無ではなく、創造的コミュニケーションの連鎖があるかないか、という違いだということがわかる。コラボレーションでは、創造的コミュニケーションが連鎖しなければならない。そのための工夫が、コラボレーション技法の本質なのだ。


    ※ 創造的思考/創造的行為/創造的コミュニケーションという分類については、以下の論文が初出。「コミュニケーションの連鎖による創造とパターン・ランゲージ」(井庭 崇, 社会・経済システム, Vol.28, 社会・経済システム学会, 2007年)。
    「創造性」の探究 | - | -

    パターン・ランゲージの授業(1)

    PatternLecture僕はいま、「パターンランゲージ」という授業を担当している。慶應義塾大学 総合政策学部・環境情報学部(SFC)において、今年度から隔年開講されることになった科目である。今回のカリキュラムで新しくできた授業だ。

     この授業は、クリストファー・アレグザンダーが提唱した「パターン・ランゲージ」の考え方を学び、自らパターン・ランゲージを記述できるようになることを目的としている。パターン・ランゲージといっても、この授業では建築の構造を対象にしているわけではなく、この手法を他分野に応用することに主眼が置かれている。

     授業は、僕のレクチャーと演習、そしてグループワークで構成されており、履修者は約60人いる。この授業は、パターン・ランゲージについて教えるという点で非常に珍しい授業であるが、それだけでなくユニークな試みをいくつも行なっている。その試みについて、何回かに分けて紹介したいと思う。

     まずは、授業の全体像をつかんでもらうために、授業シラバスから、重要なところを抜粋しておく。



    創造技法科目-デザインと情報スキル
    「パターンランゲージ」

    担当:井庭崇
    単位:2単位
    開講:火曜日3時限(週1コマ)

    主題と目標/授業の手法
     この授業では、「創造性」(クリエイティビティ)の秘密に迫ります。ここでの基本的なスタンスは、創造性にはひらめきと感性が必要だが、同時に論理的な思考もまた不可欠だ、というものです。特に、継続的に創造性を発揮していくためには、感覚的側面と論理的側面の連携が重要となります。この授業では、創造性の感覚的側面については作家の方法論から学び、創造性の論理的側面については「パターンランゲージ」の思想・手法から学びます。
     この授業で注目する「パターンランゲージ」は、創造・実践のための言語というべきものです。かつて、建築家のクリストファー・アレグザンダーは、建物や街の形態に繰り返し現れる関係性をパターンとしてまとめました。そして、そのパターンランゲージを用いれば、住人たちが自分たちの住む建物の建設や街づくりに参加できるようになる、と考えました。その後、この考え方はソフトウェア開発の分野に応用され、成功を収めています。
     パターンランゲージを記述し、共有することの意義は、大きく分けて二つあります。一つは、熟練者の経験則を明文化しているので、初心者であってもよりよい方法で創造や実践ができるようになるということです。もう一つは、共通の語彙を提供することが出来るので、これまで直接指し示すことが出来なかった物事について言及できるようになるということです。組織においてもオープンなコミュニティにおいても、創造や実践のノウハウをどのように共有・継承していくのかということは、いまだ解決されていない重要な問題であり、そのための手法として「パターンランゲージ」は大きな可能性をもっているのです。
     この授業では、パターンランゲージの考え方を、創造的コラボレーションや社会デザイン、ものづくりなど、これまで適用されてこなかった分野に応用することを考えます。学期の後半には、実際に、グループワークによって新しいパターンランゲージの作成を試みます。そして、各グループが作成したパターンを持ち寄り、クラス全体でひとつの体系をつくりあげたいと思います。今年度のテーマは、「創造性を発揮する」ためのノウハウです。ひらめきという偶然的な出来事を誘発するための必然的なプロセスについて、一緒に考えていきましょう。

    授業スケジュール
    第1回:イントロダクション
    第2回:パターンランゲージとその思想的背景
    第3回:建築のパターンを探す
    第4回:創造性について考える(1)
    第5回:創造性について考える(2)
    第6回:パターンランゲージの形式
    第7回:パターンのブラッシュアップ
    第8回:創造パターンのブラッシュアップ(1)
    第9回:創造パターンのブラッシュアップ(2)
    第10回:創造パターンのブラッシュアップ(3)
    第11回:創造パターンカタログのレビュー
    第12回:総括


    パターン・ランゲージ | - | -

    ニクラス・ルーマンの著作歴

    LuhmannBookHistoryオートポイエーシスの社会システム理論の提唱者であるニクラス・ルーマン(1927-1998)の著作歴を、年表風にまとめたので紹介したい。

     「社会システム理論」の授業用に作成したものだが、あまりこのようなまとめ方をしたものを見たことがないと思うので、参考にどうぞ。取り上げた本は、基本的には邦訳があるものを中心に選んでいる。たしか、ルーマンは60冊くらい本を書いているという話。すごいなぁ。

    Paper 「ニクラス・ルーマンの著作歴」(PDF)
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    日本初 !? セカンドライフの世界を通したゲスト講演

    今学期、僕の授業「コラボレーション技法ワークショップ」では、セカンドライフに関するゲストスピーカー講演を行った(2007年6月19日)。ゲストスピーカーには、千葉 功太郎さんと秋山 剛さんをお迎えしたのだが、この講演が「普通」の講演ではなく、とてもユニークなものだったので、ここで紹介することにしたい。

    Collabo-Guest3 この講演のテーマは、「セカンドライフの紹介」と「セカンドライフ上でのモノづくりの方法」について。ゲストスピーカーの千葉さんは、先日各種メディアで話題になった参議院議員の鈴木寛さんのセカンドライフでの試み(日本の国会議員として初めてのセカンドライフ事務所開設や、そこでの演説会)をプロデュースした人だ。実はSFCの卒業生で、僕の昔からの友人でもある。もうひとりの秋山さんは、同じく鈴木寛さんのセカンドライフ事務所などを手がけているモデラーだ。

     セカンドライフとは何か、どのような可能性があるのか、そして、セカンドライフ上ではどのようにモノをつくることができるのか? この授業は2コマ連続開講(90分×2)なので、たっぷりと時間をかけてレクチャーをしてもらった。 履修者のなかには、セカンドライフを知っている人もいたが、知らなかった人がほとんどだった。

     実はこの講演中、二人のゲストスピーカーのうち、実際に教室に来たのは千葉さんだけで、秋山さんは教室には一切顔を出していない。秋山さんは沖縄在住で、この日も沖縄からネットワーク中継で講演をしてもらったのだ。こういう場合、よくあるのは「ポリコム」(Polycom)によって映像・音声の中継をするというものだが、今回はセカンドライフの世界を通して、遠隔講演をしてもらった。秋山さんの姿はセカンドライフ上のアバターとして、そして音声はSkypeを使って中継した。

      Collabo-Guest3 Collabo-Guest2

     セカンドライフでモノをつくるときには、外部のツールで作ったものをヴァーチャル世界に持ち込むのではなく、その世界内でモノをつくる。そして、その作業を、他のアバターが見ることもできる。今回はその仕組みを活かして、アバターによる実演をしてもらいながら、ものづくりの方法について語ってもらったのだ。そのときも、一人でしゃべり続けるというよりも、途中で千葉さんや僕がつっこんだり質問したりというコミュニケーションの連鎖を、履修者が見るというスタイルになった。これはなかなか面白かった。また、秋山さんも、体を張った(アバターの体だが)ギャグで、会場をわかせていた。最初に登場したときには床で倒れ込んでいたし(眠っている振り)、アバターはスターウォーズのStormtrooperの姿なのに頭にキャンディを乗せていたり、いろいろなアバターを着ぐるみを着てみたり、と、ヴァーチャルならではの新しい笑わせ方だった。

     講演を聞いた履修者の感想には、セカンドライフの世界と可能性に触れて「とても面白かった」、「興味深い内容で刺激的だった」、「感動した」というようなものが多かった。それに加えて、今回の実験的な講演スタイルについても刺激を受けてくれたようだ。

    item 「本日の講演は非常に刺激的なものでした。まず何よりも、セカンドライフ上のアバターとSkypeの音声を使って授業を行うというスタイル自体が画期的で、大変面白かったです。」(1年生・男)

    item 「画面に映っているものを動かしているのが、講演してくださっている方であるということで、どこからともなく親近感が湧き、通常の形態の講演よりも興味深く、そして楽しくお話を聞くことができたように思います。」(1年生・女)

    item 「アバターを用いて講演という奇抜なアイデアも、よりセカンドライフの面白さを引き出すと同時に、分かりやすくて全く飽きることなく聞くことが出来た。」(1年生・女)

    item 「今までにないもので興味深かったし、新鮮だった。そしてセカンドライフの先進性、創造性というのが全体を通してよく伝わってきた。」(1年生・男)

    item 「今までは遠隔講義といえば、別のところで行われている講義が映像で流れてくるだけであったが、SLでの別世界からの(そしてこちらの世界にはいないキャラクターからの)講義は新鮮かつ、なぜか映像講義より、より身近に感じた。これからSLの中にSFC(SL版)をつくり、GCなどはそこから見ることができるようにし、また特別な講義などもそこで行えたら今までより世界中に情報を発信できるかもしれない。世界各国の人と一緒にSFCの講義を受けて一緒にグループワークが行えるようになったらSFCの講義が本当の意味で生きてくると思う。」(2年生・女)


     大学の正規の授業で、セカンドライフを通してアバターで講演をしてもらったのは、初めての試みなのではないだろうか。少なくとも日本においては聞いたことがないと思う(国内外を問わず、先行事例を知っている方がいたら、ぜひ教えてください)。

    Collab-Guest1-2慶應義塾大学 SFC
    総合政策学部/環境情報学部
    創造実践科目:2007年度春学期開講
    「コラボレーション技法ワークショップ」
    担当:井庭 崇
    ヴァーチャル世界の探険 | - | -

    「コラボレーション技法ワークショップ」グループワーク最終発表会

    僕の担当授業、創造実践科目「コラボレーション技法ワークショップ」では、2007年6月16日(土)に、グループワーク最終発表会を行います。
     この授業では、学期を通じてグループワークによる議論・企画・表現など、コラボレーションを実践してきました。本発表会ではその集大成であるチームのアウトプットを凝縮してお見せしたいと思います。当日は、ゲストコメンテーターとしてSFCのOB/OGも参加します。聴講は自由ですので、斬新なアイデアのコラボレーションをぜひ味わいにきてください!

    ColWSposter
    「コラボレーション技法ワークショップ」
    グループワーク最終発表会
    テーマ:「新しいテーマパークを構想する!」
    日時: 2007年6月16日(土)
         12:30開場~夕方まで
    会場:慶應義塾大学SFC Θ館にて
    イベント・出版の告知と報告 | - | -
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