井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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「Blue Man Gourp: Tubes」

ニューヨークで行われている、僕のお気に入りのショーを紹介しよう。それは、「Blue Man Group: Tubes」というものだ。

BlueMan
 ニューヨークと言えばブロードウェイのミュージカルが有名だけど、これはオフ・ブロードウェイいわれる類のもの。オフ・ブロードウェイというのは、ブロードウェイの劇場に比べて小さい劇場で行われているショーのことだ。日本でいうならば、下北沢にあるようなサイズの劇場のイメージといっていいかもしれない。実験的なユニークな作品が上演されることが多く、ここで絶賛されてブロードウェイに進出するものもある(例えば『シカゴ』や『レント』など)。
 Blue Manは、まさにそんな実験的な雰囲気が漂う、ビジュアル&リズムパフォーマンスだ。全身が真っ青の宇宙人らしき3人が、まったくしゃべらずに、いろいろなパフォーマンスを見せてくれる。かっこいいし、かなり笑えるのだ。一時期、3M社のCMに出ていたので、見たことがある人もいるかもしれない。
 で、僕は、ニューヨークに行くたびに、一緒に行った人をいつも連れていってしまう。たぶんもう5、6回は見たと思う。いつも笑えるし刺激もうける。最近は、旅行ガイドブックにも載っているようなので、うれしいような悲しいような……。

    「Blue Man Group: Tubes」
    @アスター・プレイス劇場 (Astor Place Theatre) 434 Lafayette St.
    「Blue Man Group」Webサイト
    ネット上でもチケット予約ができる。人気のショーなので、早めに予約しておくとよい。
マイブーム・お気に入り | - | -

NetworkScience ニューヨーク学会旅行

5月下旬にニューヨークで行われた国際学会に参加・発表するため、井庭研メンバーとニューヨーク学会旅行に行ってきた。今回はワークショップとカンファレンスあわせて5日間の学会だった。その前後もつけると7泊8日(+機中泊1)という、結構長い旅行となった。終わってみるとあっという間だったけどね。
 今回泊まったところは、ニューヨークといってもマンハッタンではなく、コロナ地区というところ。マンハッタンから地下鉄で3、40分くらいの地域。夕方に学会が終わったら、マンハッタンに地下鉄で向かう。おいしいものを食べたり観光したりと、短くとも充実した時間をすごす。ということの繰り返し。デリバリー中華から始まり、オイスターバー、コリアン、メキシカン、イタリアンなどなど、振り返ればいろいろおいしいものを食べたなぁ、という感じ。それだけでなく、ソーホーの素敵なカフェを見つけたり、かわいいチョコレート屋さん(Marie Belle)やカラフルなキャンディーショップ(Dylan's Candy Bar)にも行きました。
 学会自体がとても刺激的で、それだけでもかなり価値があったのだけど、こういう付加価値もついて、今回の旅はかなり充実したものだったと思う。

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学校のデザインに関するパターン・ランゲージ

学校のデザインに関するパターン・ランゲージの本をみつけた。

SchoolDesignPattern
Prakash Nair and Randall Fielding, "The Language of School Design: Design Patterns for 21st Century Schools", Designshare, Inc., 2005


クリストファー・アレグザンダーの紹介をしながら、よりよい教育学習環境の設計に関する25のパターンを提案している。具体的に新しいパターンを提案している本というのは、なかなかないので貴重だし、教育・学習の場づくりのパターンということで、興味深い。

 本文のフォントが丸文字で読みにくいが、カラフルな絵や写真をふんだんに使っていて、楽しく読めそうだ。この本では、以下の25のパターンが提案されている。それぞれの概略はオンライン上で読むこともできる。⇒Online Pattern Browser

 * Traditional Classroom
 * Welcoming Entry
 * Student Display Space
 * Home Base and Individual Storage
 * Science Labs, Art Labs, and Life Skills Areas
 * Art, Music, Performance
 * Physical Fitness
 * Casual Eating Areas
 * Transparency
 * Interior and Exterior Vistas
 * Dispersed Technology
 * Indoor-Outdoor Connection
 * Furniture: Soft Seating
 * Flexible Spaces
 * Campfire Space
 * Watering Hole Space
 * Cave Space
 * Designing for Multiple Intelligences
 * Daylight and Solar Energy
 * Natural Ventilation
 * Full Spectrum Lighting
 * Sustainable Elements and Building as 3-D Textbook
 * Local Signature
 * Connected to the Community
 * Bringing It All Together
 * Small Learning Communities
パターン・ランゲージ | - | -

『フューチャリスト宣言』(梅田望夫, 茂木健一郎)

『フューチャリスト宣言』(梅田望夫, 茂木健一郎, ちくま新書, 2007)を読んだ。

FuturistBook
この本は、シリコンバレー在住で『ウェブ進化論』の本で有名な梅田望夫さんと、脳と「クオリア」の観点からマルチに活躍する研究者 茂木健一郎さんの対談を収録した本だ。対談のなかでも言及されているように、とにかく未来に対して明るく行こうという、戦略的オプティミズムとでもいうべき、前向きな二人の対談である。このなかで、研究者や企業家の生き方として、印象に残ったところ、考えさせられたところがいくつかあった。

 まず、グーグルについて。梅田さんは、「『ネットって何なのか』ということを、グーグルが発見した」(p.19)と評価する。グーグルは、ご存知のようにウェブページ間の関係性から順位づけを行うPageRank(ページ・ランク)というアルゴリズムで検索結果を表示する点で革新的だった。WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)という巨大なネットワーク(グラフ)構造を、数学的な観点から捉え直し、まったく新しいWWWの世界をみせてくれた。
 だからこそ、「グーグルが出てこなかったら、おそらくいまもなんとなく『ネットって何なんだろうね』という模索状態が続いていたのだろうと思います。彼らが、インターネットとは何ぞや、というのを発見したんだと思います。」(梅田: p.20)と言うのである。
 確かにね、と思う。僕は以前から「検索して一覧表示するというだけではネットワークを巨大なブラックボックスのデータベース化するだけで、物足りない! もっとネットワーク性を活かした面白いことができるはず。」と言ってきたが、それでもやはりグーグルがやったことはかなり革新的だとも思う。単なるページ内の情報ではなく、ネットワークの構造自体に付加価値の源泉を見出したからだ。ここでの梅田さんの指摘のような、グーグルのすごさを一言で言い切った文章に出会ったことがなかったので、この部分は、なかなか印象的だった。

 次に、アップル社の話。マッキントッシュやiPodを生み出したアップルね。そのアップルを梅田さんが訪れたときに、メンバーが「アップルというのは世界史の中の三つ目のリンゴ」(梅田: p.38)なんだ、と語っていたというエピソードが紹介されている。それまでの2つのリンゴというのは、アダムとイブのリンゴと、ニュートンのリンゴだ。
 そういうふうに「世界を変えるのは自分たちだ」という自負でもって、自分たちは第三のリンゴだと言っていたそうだ。これもなかなかすごい。そこまで言えちゃうなんて、かっこいいなぁ。

 そして、なるほど!と思ったのが、茂木さんの方針転換に関する話。最近、茂木さんは、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』のキャスターをやったり、小説を書いたり、文芸評論をやったりと、脳科学の研究をはるかに超えたマルチな活躍をしている。
 このような多分野にわたる活動は、真面目な研究者からするといかにも軽い行動に見え、批判的な声もあるのは事実だ。僕からするとなかなか魅力的にも見えるが、その僕でも、脳科学から離れて一体どこまでいくつもりなんだろう、という疑問を多少なりとも感じていた。
 そんななか、今回の梅田さんの指摘・解説で、茂木さんの目指すところが少し理解できた気がした。茂木さんは「いま自分が目指すべきは、アインシュタインではなくてダーウィンなのだ」という発見から、方針転換をしたというのだ。つまり、脳科学において、意識や心の問題をアインシュタインのように理論的にきれいな形で定式化するというのではなく、ダーウィンがビーグル号でやったようにいろいろな現場を見てまわり、「突然変異」と「自然選択」のような、大雑把でもいいからリアリティをうまく捉える概念を提案する、ということだ。そういう方針転換をして、いままさにそれを実践しているのだという。
 実は僕は10年くらい前に、複雑系の関係で茂木さんと飲んだことがあったのだけど、そのときも、クオリアの問題を考えているとなかなかサイエンスにならない、と困っていた記憶がある。そのころは、学術論文ではオーソドックスな脳科学の研究をやって、本ではサイエンスから離れて自由に好きなことを書くという、二重生活を送っていたようだ。その後、特に最近は、そのようなことを考えて、ふつうの脳科学ではないアプローチで、脳と創造性の問題に取り組んでいるんだな、ということがわかり、なんだか少しすっきりした。
 それにしても、茂木さんは多忙で人並みならぬ生活を送っているようだが、梅田さんもネットに重きを置いた相当めずらしい生活を送っているようだ(詳しくは本の方で読んでほしい)。ストイックな感じ。

 梅田さんも茂木さんも、僕が好きな方向性の先にいる感じの人たちだ。いろいろな分野に興味があって、全体的に考えながら、世界の捉え方を提供したいと思っている人たち。梅田さん自身、「好きなことを一つずっと深堀りするというよりも、世の中を俯瞰して理解したいという気持ちがある」(梅田, p.110)とか、「異質なものと異質なものを結びつけるとか、歴史との比較で未来を考えるとか」(梅田, p.111)、そういうことが好きだと語っている。茂木さんも、旧来の枠組みに当てはまらないような進み方で、いろいろなことを考え、言及していく。
 しかし、それと同時に、僕は最近考えてしまう。そういった俯瞰的な思考で、本当に新しいものを生み出せるのだろうか、と。新しい世界の解説者として、また面白くてわかりやすい教育者として成功する姿は、イメージできる。でも、さっき紹介したグーグルやアップルのように、本当に新しいことを成し遂げられるのだろうか。そこが最近、とても気になる。きっと、もう1つ、何かもう1つ、足りないんだと思うのだ。
 やはり、どこで勝負するのか、という実践領域が必要だ。「T字型」とはうまく言ったものだ。ジェネラリストだけではだめで、一部に深い専門性を持たなければ、という。これは勉強の仕方として言われていることがあるが、活動領域の話として捉え直すと、ふたたび注目に値する話だ。そういうことを考えている今日この頃だからこそ、僕にとって、この本はなかなか刺激的だった。

 最後に、茂木さんが紹介しているエピソードを取り上げて終わりたいと思う。MITはこれまでに63人のノーベル賞学者を輩出しているらしいが、そこで教員がテニュア(終身教授資格)をとるには、次のような審査基準があるそうだ。

「それまで誰も手をつけていない分野を切り拓いたかどうか」

この基準のすごさと魅力。ううむ。。。実に考えさせられる。
最近読んだ本・面白そうな本 | - | -

MPS大阪学会旅行

5月16・17日、大阪大学で行われた学会で発表するため、井庭研メンバーとともに1泊2日の大阪出張に行ってきた。
 学会発表前日は、やはりホテルで発表スライドの最終確認を行う。これがあると、やっぱり学会旅行だなぁ、という感じ。どの学会旅行でも、たいてい夜にはこうやって発表の最終調整や練習、研究に関するいろいろな話をする。途中からお酒も入って、たいてい夜更けまで話しあうことになる。新幹線やホテルなどで、意外とたくさん話せるのが、学会旅行のいいところ。ふだんの大学生活よりも密なコミュニケーションができるのだ。
 当日は、発表が最後の方だったので、最後まで気が抜けなかったが、無事発表も終わった。なかなか好評だったようだ。よかった、よかった。
 あとはせっかく大阪に来たのだからということで、たこ焼きでプチ打ち上げをして、新幹線に飛び乗りました。もう一泊できればよかったけれど、次の日が授業だったのでね。短いながらも充実した学会旅行だった。

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学会発表「書籍販売市場における上位タイトルの売上分析」

5月17日に行われた情報処理学会MPS(数理モデル化と問題解決)研究会で発表した研究の2つめは、「書籍販売市場における上位タイトルの売上分析」というものだ。

 これは、日本における書籍販売市場の実データを解析した研究だ。書籍販売市場は、売れているものは爆発的に売れているが、たいていのものはほとんど売れていないというのが現状だ。クリス・アンダーソンのロングテール論などでもこのような話は有名だが、それが実際にどのような分布になっているのかを実データで示した研究は国内外でもほとんどない。
 そのような分布を明らかにするために、僕らは日本全国の書店のPOSデータを用いて実証的に示したというわけだ。結果からいうと、販売冊数と順位の分布はほぼ「べき乗分布」に従っていた。このことは年間でみても、月間でみても当てはまる。
 分布がいつも一緒ということは、非常に興味深いこと。書籍販売市場では、毎年約7万7千点の新刊が出ており、書籍の顔ぶれは日々変わっている。しかも、ふつう同じ本を2冊以上買う人はいないので、買っている人の顔ぶれもどんどん入れ替わっている。しかし、それにもかかわらず、販売冊数と順位の分布はいつも同じ形をしているということは、実に不思議なことなのである。
 まとめると、個々の書籍、個々の購入者というレベルは絶えず入れ替わっているのに、販売冊数-順位分布という市場レベルでは、ある法則性が維持されている。これは、まさにこの法則性が、市場レベルの「創発」特性だということを示している。

 この研究では、その販売冊数-順位分布の特徴について解析したのだ。詳しくは論文を参照していただくとして、今回わかったことは、次の2点。
1)売上の上位1.5%の書籍が、市場の約半分のシェアを占めている。
2)売れるものがますます売れるという傾向がある。

どちらもなかなか興味深い。なぜこのような傾向が生じているのかについては、今後の研究で明らかにしていきたい。

MPS64-BookSales
●井庭 崇, 深見 嘉明, 吉田 真理子, 山下 耕平, 斉藤 優, 「書籍販売市場における上位タイトルの売上分析」, 情報処理学会 第64回数理モデル化と問題解決研究会, 大阪, 2007年
Paper 論文PDF


また、この市場レベルの創発特性ということについては、以下の雑誌にも書いた。オンラインで読めるので、こちらもご覧ください。

●井庭 崇, 「新しいシステム間にもとづく思考と実践」,『Mobile Society Review 未来心理』, vol.009, 2007年3月
Paper 論文PDF
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学会発表「プロジェクトを推進するためのパターンの提案」

5月17日に行われた情報処理学会MPS(数理モデル化と問題解決)研究会で、「プロジェクトを推進するためのパターンの提案」を発表した。

 この研究は、プロジェクトを遂行するためのノウハウを、「パターン・ランゲージ」として記述・体系化するというものだ。パターン・ランゲージというのは、建築家のクリストファー・アレグザンダーが提案した手法で、専門家が持つ暗黙知を言語化することで、共有・再利用できるようにしようという試みだ。この手法は、その後、ソフトウェア開発の分野で大成功をおさめている。
 これまで、井庭研でも、「ファシリテーション」のパターンや、「体験学習ゲームづくり」のパターン、マルチエージェントによる「モデリング」のパターンなどを提案してきた。今回はそれに続く、独自のパターンの提案だ。
 このプロジェクト・パターンは、現段階では提案しただけなので、今後は、これを評価・ブラッシュアップしていくことになる。

MPS64-PatternLanguage
●古市 奏文, 若松 孝次, 湯村 洋平, 井庭 崇, 「プロジェクトを推進するためのパターンの提案」, 情報処理学会 第64回数理モデル化と問題解決研究会, 大阪, 2007年
Paper 論文(PDF)
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