井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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『ネットワーク科学への招待』が出版されました!

Book-NetworkScience150.jpg僕も1章書いている本が出た。

『ネットワーク科学への招待:世界の“つながり”を知る科学と思考』(青山 秀明, 相馬 亘, 藤原 義久 (共編著), 臨時別冊・数理科学2008年7月号(SGCライブラリ 65), サイエンス社, 2008)

この本は、雑誌『数理科学』でリレー連載していた論文を、まとめたものだ。日本におけるネットワーク科学の著名な研究者たちも参加している。目次は以下のようになっている。

I 序論
 ネットワーク科学とは

II 物理・数理
 非線形科学と複雑ネットワーク
 振動子ネットワークの引き込みと体内時計
 複雑ネットワーク上のランダム・ウォーク
 複雑ネットワーク上のコンタクト・プロセスへ向けて
 6次の隔たり:ある計算

III 生物・生態
 毒性の進化と「小さな世界」
 遺伝子発現ダイナミクスの統計則
 生体ネットワークをどう研究するべきか
 生体内相互作用ネットワークの数理モデル
 複製細胞の反応ネットワークダイナミクス
 生態ネットワークのダイナミクス

IV 経済・社会
 社会ネットワーク分析とは何か?
 スモールワールドの検証とフラクタルモデル
 見えざる経済構造:企業ネットワークと企業ダイナミクス
 生産ネットワークの大規模構造と連鎖倒産
 イノベーションの創発ネットワーク:光触媒研究におけるコミュニティ形成とその機能
 イノベーションネットワークと地理モデル

V 情報
 情報通信ネットワークが持つべき特性
 ネットワーク科学とインターネット
 SNSという複雑ネットワーク
 P2Pネットワークと複雑ネットワーク
 ネットワークの可視化技術:大規模情報からの意味情報の抽出
 相関構造の有意成分とネットワーク推定

VI ネットワーク科学のゆくすえ
 ネットワーク科学の方法論と道具論
 ささやかな幻滅と大きな期待


この中で、僕が書いたのは、「ネットワーク科学の方法論と道具論」(井庭 崇)である。ここでまるごと引用するわけにはいかないので、その論文のイントロ部分のみ、紹介することにしたい。

「ネットワーク科学の方法論と道具論」(井庭 崇)

1. はじめに:概念・方法・道具

いまから十年ほど前、ネットワークに関する新しい概念がふたつ提唱された。「スモールワールド・ネットワーク」と「スケールフリー・ネットワーク」の概念である。これらの概念は、その後の研究を方向付け、ネットワーク科学の分野を切り拓くきっかけとなった。「概念」とは物事の捉え方であり、私たちに従来とは異なる現実を見せてくれる。かつて社会学者のタルコット・パーソンズが「概念とはサーチライトである」と表現したとおり、ネットワークの新しい概念も、その光によって、これまで見ることのできなかった現実を捉えることを可能にしてくれた。

このように、科学の営みを振り返るとき、概念の革新に注目が集まることが多いが、実は「方法」や「道具」の知識についても革新がおきているということを忘れてはならない。科学的研究では、「概念」と「方法」と「道具」を駆使して研究が行われている(図1)。そして、それらがお互いに影響しあいながら、それぞれの革新を誘発している。本稿では、このような観点から、ネットワーク科学について再考したい。これにより、いわばネットワーク科学の「科学哲学」を構想し、また、次なる十年を展望することを目指したい。
ResearchTriangle150.jpg


このような問題意識のもと、この論文では、「概念」、「方法」、「道具」の相互作用について、実際の事例を通して理解していく。論文で取り上げているのは、近年のネットワーク科学の立役者であるダンカン・ワッツとアルバート・ラズロ・バラバシの事例だ。それぞれスモールワールドネットワークとスケールフリーネットワークの概念を生み出し、この分野をリードしてきた立役者たちである。彼らがどのように、「概念」、「方法」、「道具」を生み出しながら、研究を進めてきたのかを読み解いていく。

本屋さんで見つけたら、ぜひ手にとってみてほしい。
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