井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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「創造の知」の言語化 − なぜ僕はパターン・ランゲージをつくるのか?

僕は、個人・組織・社会の創造性(クリエイティビティ)に興味がある。創造的なプロセスと言ってもいい。そこで、創造性や創造的プロセスについてあれこれ考えたところ、創造という事態は、円環的なシステムとしてしか描けない、という結論に至る。こうして、オートポイエーシスのシステム概念を用いた 創造システム理論(Creative Systems Theory)を提唱することになる。心理学でも組織論でもない、創造性についてのまったく新しい捉え方である。

その理論の核心は、創造とは《発見》の生成・連鎖である、という点だ。生成した途端に消滅してしまう出来事としての《発見》。しかも、物理的世界とは異なり、《発見》はコンティンジェント(偶有的)な存在であり、別様でもあり得た可能性が絶えず伴っている。決定論的な因果関係で決められるのではなく、コンティンジェントな選択として、《発見》は生起するということだ。因果法則的でもなく、しかしでたらめでもないような事態 −−− このような事態を、我々はどのように “理論” 化することができるのだろうか?

この問いに対するひとつの答えとして、僕は、パターン・ランゲージによる記述に挑戦している。パターン・ランゲージには、ある状況においてどのような問題が生じるのか(と認識されているのか)と、それをどう解決するのか(とよいと考えられているのか)が記述される。これは、熟達者がそのドメインにおいて、どのように世界を見て、どのように思考・行動しているのか、ということを記述することに他ならない。

僕のみるところ、コンティンジェントな《発見》の生成には、それを下支えする「型」のようなものがある。しかも、型はひとつではなく、数多く存在する。ただし、それらがどの順番で生起するのかについては、かなり自由度が高く、それは生成の状況に委ねられている。それゆえ、法則としてきっちり示すことはできなくても、ゆるやかにつながり、ダイナミックに結合できるパターンとしてなら、記述することができるかもしれない。その可能性に賭けているのである。

そして、パターン・ランゲージで記述するメリットとしては、それが言語であることから、それを思考やコミュニケーションの手段として用いることで、他者と共有することができる点である。つくった “理論”(と呼びうるかは微妙だが)が、そのまま利用可能だということである。


もちろん、パターン・ランゲージの形式で、すべての《発見》の型が記述できるとは考えてはいない。というのは、すべての《発見》が、問題発見・問題解決型でなされるわけではないからだ。思考の癖やレトリック、思考スタイルの影響をうけながらの“自由”な想像によって《発見》に至ることもある。そうなると、問題発見・問題解決型のパターン・ランゲージ以外のランゲージも考えられそうである。

こうして僕は最近、パターン・ランゲージも含むより上位の概念として、「創造言語」(Creation Language)というレイヤーを考えるようになった。パターン・ランゲージは、《発見》の連鎖を促す創造言語の一種だが、創造言語には、パターン・ランゲージ以外の言語もあるというイメージだ(現在はまだ、その言語に適切な名前を見出せていない)。

CreationLanguage.jpg


いずれにしても、いろいろなドメイン(の熟達者の心/身体、そして道具/制度/文化)に埋もれている「創造の知」(knowledge of creation)を、次々と言語化していく −−− これが、僕が中長期的に取り組む活動・テーマになりそうだ。

社会システム理論を提唱したニクラス・ルーマンが、経済、政治、法、学術、教育、宗教、家族、愛など、様々な社会領域について一つの理論で記述していったように、僕も、芸術、科学、工学、経営、政策、教育、建築、自然など、様々な創造領域の創造の知を言語化していくことになるだろう。学習パターン政策言語探究型学習のためのパターンの作成というのは、その一環であるといえる。

また、FAB Lab のニール・ガーシェンフェルドが、「How to Make (Almost) Anything」という授業を展開しているように、僕も、いわば「How to Share the Knowledge of Creation in (Almost) Any Domains」というような授業を展開することになるだろう(僕の場合は特殊な機械は必要ない、いたってローテクなアプローチではあるが)。このような展開を見据えて、「パターンランゲージ」の授業を現在、開講・担当している。

今回は、今僕がみている方向性について、ざっくりと書いてみた。このような方向性に興味がある方、一緒に取り組みたいという方は、連絡をいただければと思う。具体的な活動は未定だが、ネットワークづくりは徐々に始めていきたいと思う。
「創造性」の探究 | - | -

世界でも珍しい「パターンランゲージ」の授業、講義映像&資料公開

2010年度秋学期に慶應義塾大学SFC(総合政策学部/環境情報学部)で僕が行った授業「パターンランゲージ」の講義映像と資料が、全回分ネットで公開されている。パターンランゲージについての授業ということで、世界でもかなり珍しい授業だと思う。中埜博 氏、竹中平蔵 氏、江渡浩一郎 氏との対談も必見。興味がある方は、ぜひどうぞ。


「パターンランゲージ」@SFC-GC (Global Campus)
2010年度秋学期(担当:井庭 崇)

http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/class/class_top.cgi?2010_25136

この授業では、創造・実践のための言語として「パターンランゲージ」を取り上げ、その考え方と方法を学びます。パターンランゲージは、創造・実践の経験則 を「パターン」という単位にまとめ、それを体系化したものです。かつて、建築家のクリストファー・アレグザンダーは、建物や街の形態に繰り返し現れる関係性をパターンとしてまとめました。その後この考え方は、ソフトウェア開発の分野に応用され、成功を収めました。SFCでは、「SFCらしい学び」のパターン・ランゲージとして、「学習パターン」(Learning Patterns)が制作・配布されています。この授業では、パターンランゲージの考え方を学びながら、創造的コラボレーションや社会デザイン、ものづくりなど、新しい分野において、自らパターン・ライティングできるようになることを目指します。


授業内容

第01回 Introduction
この授業の内容と進め方について説明します。

第02回 Philosophy of Pattern Language
パターン・ランゲージの背景にある思想・哲学について学びます。

第03回 Pattern Forms / Case: Learning Patterns
パターンの形式について理解します。事例として、SFCで制作・配布されてい る「学習パターン」を取り上げます。

第04回 The Nature of Order
パターン・ランゲージを提唱したクリストファー・アレグザンダーの思想や その可能性について考えます。(ゲスト対談:中埜博 氏)

第05回 Pattern Mining
対象のなかからパターンを見つける方法について学びます。

第06回 Pattern Writing (1)
パターン・ランゲージを記述する方法について学び、作成演習を行いま す。

第07回 Toward a Pattern Language for Policy Making (1)
自生的な社会を実現するための「政策」をつくるパターン・ランゲージの可 能性について考えます。(ゲスト対談:竹中平蔵 氏)

第08回 Toward a Pattern Language for Policy Making (2)
自生的な社会を実現するための「政策」をつくるパターン・ランゲージの可 能性について考えます。(ゲスト対談:竹中平蔵 氏)

第09回 Pattern Writing (2)
パターン・ランゲージを記述する方法について学び、作成演習を行いま す。

第10回 Media for Creation and Imagination
パターン・ランゲージや、そこから派生したツール/方法論について考えま す。(ゲスト対談:江渡浩一郎 氏)

第11回 Writer’s Workshop
グループワークで作成しているパターン・ランゲージを、履修者同士でレビ ューし合う「ライターズ・ワークショップ」を行います。

第12回6 Final Presentation
グループワークで作成してきたパターン・ランゲージの発表を行います。

第13回 Final Dialogue Workshop
すべてのグループのパターン・ランゲージを用いて、対話ワークショップを行います。
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