2012.06.22 Friday
22:17 | posted by
井庭 崇
今学期SFCで担当している
アントレプレナー寄付講座「起業と経営」(2012年度春学期,竹中平蔵・井庭崇 担当)で行われたゲスト講演をもとに、そこで語られた「問題発見・解決をしながら生きる」ことについてのパターン・ランゲージを作成した。
この授業で来ていただいたゲストスピーカーは、佐野陽光さん(クックパッド株式会社)、小林正忠さん(楽天株式会社)、山口絵理子さん(株式会社マザーハウス)、山崎大祐さん(株式会社マザーハウス)、宮治勇輔さん(株式会社みやじ豚、NPO法人農家のこせがれネットワーク)、青柳直樹さん(グリー株式会社)、駒崎弘樹さん(NPO法人フローレンス)、今村久美さん(NPO法人カタリバ)、佐藤輝英さん(株式会社ネットプライスドットコム)である。
全員、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス:総合政策学部・環境情報学部)で学び、卒業した若き起業家たちである。ゲストスピーカーの方々には、「問題発見・解決をしながら生きる」ための考え方・方法・秘訣について、経験談を交えて語っていただいた。
その講演内容を「パターン・ランゲージ」という形式でまとめたのが、今回制作したものである。パターン・ランゲージとは、「どのような状況において、どういう問題が生じやすく、それをどう解決するのか」という発想・秘訣を言語化し共有するための手法である。ひとつひとつの発想・秘訣は、
Context (状況) 、
Problem (問題)、
Solution(解決)という形式でまとめられる。それをパターンと呼び、各パターンには名前がつけられている。この名前が、発想・コツを考えたり語ったりする際の共通言語として用いることができる。各パターンは、次のような形式で書かれている。
パターン名 ←発想・コツを端的に表すための名前
…………。 ←このパターンを印象的に理解するための導入文
【Context】…………。←どういう状況で、次に示す問題が生じやすいのか
【Problem】…………。←上述の状況において、生じやすい問題は何か
【Solution】…………。←その問題をどのように解決するとよいのか
各パターンを読むときには、まず、パターン名と導入文を読んで、その内容を感覚的にイメージする。そのあと、それに続く詳細な記述を読んでいく。
「【Context】……の状況において、【Problem】……という問題が生じやすい。そこで、【Solution】……をするとよい。」
というふうに読んでいく。
「起業と経営」パターン:A Pattern Language for Entrepreneurship & Management は、36個のパターンで構成されている。パターンは、大きく分けて次の4つのカテゴリに分けられる。
このパターンについてまとめた資料のPDFは、以下からダウンロードできる。
●
「起業と経営」パターン:A Pattern Language for Entrepreneurship & Management
本パターンは、ゲスト講演の内容をもとに、井庭崇(総合政策学部准教授)と授業SA/井庭研メンバーの濱田正大・松本彩によって抽出・執筆された。
「起業と経営」パターン:A Patter Language for Entrepreneurship & Management
1. 挑戦する人生
2. 未来からの視点
3. 若いうちのリスク
4. 問題意識の芽
5. 問題発見の眼鏡
6. 当事者意識のアンテナ
7. やる/やらない
8. 時間をつくる
9. 手段としての起業
10. ユーザー視点のスタート
11. 仕組みをつくる
12. プロセスにも哲学
13. 直感判断
14. 「Why」を詰める
15. 絶対的な価値観
16. 小さな成功から
17. 魅力的なストーリー
18. 認識を生む言葉
19. 自我作古
20. 自分の信じる道
21. 自分なりのスタイル
22. 自分への投資
23. ベースとしての学問
24. 走り続ける体力
25. 成功するまで
26. 原点確認
27. 批判を力に
28. 時代の風
29. 奥深いテーマ
30. チャレンジングな目標
31. 創造し続けられるチーム
32. 成長のための循環
33. 刺激的な環境
34. 与えず引き出す
35. 次世代の育成
36. 日本を活かす
2012.06.15 Friday
09:49 | posted by
井庭 崇
2012年度春学期に開講されている授業「
起業と経営」(担当:竹中平蔵, 井庭崇)では、SFCを卒業した後さまざまな分野で起業され、活躍されている方々をゲストスピーカーとしてお呼びし、講演をしていただきました。
この授業の講演の特徴は、授業時間の半分以上を質疑応答にあてるということです。ゲストスピーカーの方には、どのようなことをやってきたのかということを30分強お話ししていただき、残りの多くの時間を、質問とその応答の時間にしました(初回の佐野さんは、なんと、講演無しですべて質疑応答でした)。
このスタイルで行ってよかったのは、活動の背景にある考え方や、当時の悩み、大学時代のことと現在のつながりなど、ふだんの講演ではあまり聞くことができないお話を聞くことができたことです。
あともうひとつ、この授業の特徴をあげるとすると、それは、履修者(参加者)がツイッターで実況や感想を流していることです。自然発生的にできたこの授業用のハッシュタグ「#起業と経営」は、毎週金曜日の夕方(授業がある時間)になるとtwitterトレンドにランクインするというほど、たくさんのツイートがありました。
それらのツイートを、ボランタリーに毎回 togetterでまとめてくれたのが、この春入学した1年生だというのも、実にSFCらしい感じがします。まとめてくれた土肥さん(
@RIEKO_D )、ありがとう!(最初のまとめは、SFC入学して最初の授業日でしたね。)
以下が、その実況・感想ツイートのまとめの一覧です。
● 佐野 陽光さん(クックパッド株式会社 代表執行役社長兼取締役, SFC 1997年卒)
http://togetter.com/li/284239
● 竹中 平蔵(グローバルセキュリティ研究所所長、総合政策学部教授) × 井庭 崇(総合政策学部准教授, SFC 1997年卒)講義
http://togetter.com/li/287478
● 小林 正忠さん(楽天株式会社 取締役 常務執行役員, SFC 1994年卒)
http://togetter.com/li/290672
● 山口 絵理子さん(株式会社マザーハウス 代表取締役社長 兼デザイナー, SFC 2004年卒)+山崎 大祐さん(株式会社マザーハウス 取締役副社長, SFC 2003年卒)
http://togetter.com/li/294215
● 宮治 勇輔さん(株式会社みやじ豚 代表取締役社長、NPO法人 農家のこせがれネットワーク 代表理事CEO, SFC 2001年卒)
http://togetter.com/li/301740
● 青柳 直樹さん(グリー株式会社 取締役執行役員CFO 国際事業本部長, SFC 2002年卒)
http://togetter.com/li/305653
● 駒崎 弘樹さん(NPO法人フローレンス 代表理事, SFC 2003年卒)
http://togetter.com/li/309667
● 今村 久美さん(NPO法人 カタリバ 代表理事, SFC 2002年卒)
http://togetter.com/li/313378
● 佐藤 輝英さん(株式会社ネットプライスドットコム 代表取締役社長兼グループCEO, SFC 1997年卒)
http://togetter.com/li/317428
※以上、所属・肩書きは講演当時のもの。
授業はまだ続きますが、ゲスト講演のシリーズは終わったので、ここで一度まとめておきます。
2012.03.16 Friday
12:03 | posted by
井庭 崇
2012年度春学期の「社会システム理論」(井庭 崇)のシラバスを書きました。開講曜日時限は、月曜 3限です。社会のリアリティを捉え、さらに未来をつくっていくための理論を学んでいきましょう!
科目:社会システム理論
担当:井庭 崇
開講:月曜 3限
【主題と目標/授業の手法など】
本講義では、社会を「システム」として捉える視点を身につけ、変化を生み出す力を身につけることを目指します。
本講義で取り上げるのは、「社会システム理論」(オートポイエーシスの社会システム理論)です。その理論では、社会はコミュニケーションがコミュニケーションを連鎖的に引き起こすことで成り立つシステムであると捉えます。このような捉え方で、社会学者ニクラス・ルーマンは、次のような問題に答えようとしました。「社会的な秩序はいかにして可能なのだろうか?」と。個々人は別々の意識をもち、自由に振る舞っているにもかかわらず、社会が成り立つ(現に動いている)、この不思議に取り組むのが、社会システム理論です。
社会システム理論の捉え方によって、既存の社会諸科学では分析できない社会のダイナミックな側面を理解することができるようになります。また、個別の学問分野を超えた視点で社会を捉えることができるようになります。この理論を考案した社会学者ニクラス・ルーマンは、この社会システム理論を用いて、経済、政治、法、学術、教育、宗教、家族、愛などの幅広い対象を分析しました。この授業では、さらに、組織学習やパターン・ランゲージ、オープン・コラボレーションなど、現代の新しい潮流の理解に、この理論を用いていきたいと思います。
社会システム理論は非常に難解な理論ですが、授業ではできる限り噛み砕いてわかりやすく説明します。また、映像や演習の時間なども設け、より楽しく実践的に学ぶ場にする予定です。前提知識等は必要ありません。学年も問いません。未来を切り拓いていきたいと思っている人は、ぜひ一緒に学びましょう。
【教材・参考文献】
教科書として以下の2冊の書籍を指定します。授業進行に合わせて読んでいきます。
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011)
●『Fearless Change: Patterns for Introducing New Ideas』(Mary Lynn Manns, Linda Rising, Addison-Wesley, 2005)
また、各回に使用する文献や関連する参考文献は、各回の説明のところで示してあります。必要なものについては適宜コピーを配布します。
【履修上の注意】
●毎週、英語で文献を読み、そのサマリーを提出するという宿題を出します。
●講義中のPCの使用を原則禁止とします。
【授業計画】
■■■ 第1回(4/9) イントロダクション
目的と内容、および進め方について説明します。ニクラス・ルーマンの提唱した「社会システム理論」の魅力はどこにあるのか? また、社会的創造の潮流や、創造的なコミュニケーションのメディアについて概観します。
■■■ 第2回(4/16) 創発的な出来事としてのコミュニケーション
社会システム理論では、社会の構成要素は人ではなく「コミュニケーション」であるといいます。ここに、社会の捉え方に関する理論的革新があります。しかも、その「コミュニケーション概念もこれまでとは異なる捉え方をします。それがどのような捉え方なのかを理解します。
【文献読解】
●『Social Systems』(N. Luhmann, Stanford University Press, 1996) [ ルーマン『社会システム理論〈上〉』(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1995)] 一部
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 序章
■■■ 第3回(4/23) コミュニケーションのメディアとコード
特定の種類のコミュニケーションが連鎖していくには、いろいろな不確実性が伴うため、本来は成立が困難なものです。それにもかかわらず、近代社会においては、安定的に生成・連鎖が生じている種類のコミュニケーションがあります。そこで、そのようなコミュニケーションの生成・連鎖がいかにして可能なのかという秘密に迫ります。
【文献読解】
●『Social Systems』(N. Luhmann, Stanford University Press, 1996) [ ルーマン『社会システム理論〈上〉』(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1995)] 一部
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 序章
■■■ 第4回(5/1) 近代社会とはいかなる時代か
社会システム理論では、近代社会は、経済、法、学問、宗教など、機能的な分化が起こったと捉えます。つまり近代社会では、経済システム、法システム、学問システム、宗教システムなどがそれぞれ自律的に動いているということです。それぞれの機能システムは、どのようなコードで動いているのか、そして、近代社会とはいかなる時代なのかについて考えます。
【文献読解】
●『Ecological Communication』(N. Luhmann, University Of Chicago Press, 1989) [『エコロジーのコミュニケーション:現代社会はエコロジーの危機に対応できるか?』(ニクラス・ルーマン, 新泉社, 2007)] 一部
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 序章、第1章
■■■ 第5回(5/7) オートポイエーシスと構造的カップリング
ルーマンは社会を、自分で自分自身を生み出す「オートポイエーシス」の特徴をもつシステムだと捉えました。一体、オートポイエーシスとはどのようなものなのでしょうか。また、オートポイエティック・システムは他のシステムや環境とどのような関係をもつのでしょうか。この授業では、社会システム理論における「システム」の考え方を詳しくみていきます。
【文献読解】
●『Autopoiesis and Cognition: The Realization of the Living』(H. R. Maturana, F. J. Varela, Springer, 1980) [『オートポイエーシス:生命システムとはなにか』(H.R. マトゥラーナ, F.J.ヴァレラ, 国文社, 1991)] 一部
●『Social Systems』(N. Luhmann, Stanford University Press, 1996) [ ルーマン『社会システム理論〈上〉』(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1995)] 一部
■■■ 第6回(5/14) 社会に変化をもたらすVoiceとExit
アルバート・ハーシュマンは、世の中を変えるには、Voice(発言)と Exit(退出)という二つの選択肢があるといいました。Voice(発言)は直接意見を言うことで変えていくということ、Exitはそこからいなくなることで間接的にシグナルを送るということです。この授業では、Voice/Exit論を、コミュニケーションの生成・連鎖の観点から捉え直します。
【文献読解】
●『Exit, Voice, and Loyalty: Responses to Decline in Firms, Organizations, and States』(Albert O. Hirschman, Harvard University Press, 1970) [『離脱・発言・忠誠:企業・組織・国家における衰退への反応』(A.O.ハーシュマン, ミネルヴァ書房, 2005)] 一部
■■■ 第7回(5/21) シナリオ・プランニング:未来の物語をつくって学ぶ
組織学習の方法のひとつに、「シナリオ・プランニング」というものがあります。プランニングという名前ですが、よい計画を立てることが目的なのではなく、複数人で未来像について語り合うプロセスのなかで、各人が学ぶ、あるいは組織が学ぶということが目指されます。シナリオ・プラニングとはどのようなものであり、実際にどうやるのかを理解し、実際に演習で体験してみます。
【文献読解】
● 『The Art of the Long View: Planning for the Future in an Uncertain World』(Peter Schwartz, Crown Business, 1996) [『シナリオ・プランニングの技法』(ピーター・シュワルツ, 東洋経済新報社, 2000)] 一部
■■■ 第8回(5/28) パターン・ランゲージ 1:ユーザー参加のメディア
建築家のクリストファー・アレグザンダーは、住民参加型のまちづくりを行なうために、「パターン・ランゲージ」という方法を考案しました。パターン・ランゲージは、設計者がもつ創造の経験則 を「パターン」という単位にまとめ、それを体系化したものです。現在では、パターン・ランゲージは、ソフトウェアデザインや組織デザイン、コミュニケーション・デザインなど、幅広い分野で使われるようになっています。この授業では、そのパターン・ランゲージの社会的機能について考えてみたいと思います。
【文献読解】
●『The Production of Houses』(C. Alexander, Oxford University Press, 1985) [『パタンランゲージによる住宅の建設』(C.アレグザンダー他, 鹿島出版会, 1991)] 一部
■■■ 第9回(6/4) パターン・ランゲージ 2:組織変革の方法論
組織やコミュニティに新しいアイデアを導入するのはなかなか難しいものです。そのアイデアが革新的なアイデアであるほど、理解されるのは困難になります。また、それまでのやり方と異なることから、恐怖心や疑念も生まれてくるでしょう。しかしながら、そのようなイノベーションを引き起こしている人たちは、現に存在します。その人たちはどのように変革を進めているのでしょうか。この授業では、組織変革のパターン・ランゲージとして有名な『Fearless Change』のパターンを用いて、自らの経験を語り合う対話ワークショップを行ないます。
【文献読解】
●『Fearless Change: Patterns for Introducing New Ideas』(Mary Lynn Manns, Linda Rising, Addison-Wesley, 2005)
■■■ 第10回(6/11) 創造的コラボレーション:コミュニケーションの連鎖で生み出す
コラボレーションとは、複数の人々が、ひとりでは決して到達できないような付加価値を生み出す協働作業のことです。創造的なコラボレーションが行われている組織やチームでは、そのコミュニケーションの流れに「勢い」が生まれ、連鎖的に共鳴・増幅していきます。このような流れに身を委ね、コミュニケーションのパスをつないでいくと、思いもかけない飛躍的なアイデアやイノベーションが生まれることがあります。そのような創造的コラボレーションで、一体何が起きているのかを考えたいと思います。
【文献読解】
●『Group Genius: The Creative Power of Collaboration』(Keith Sawyer, Basic Books, 2008) 一部
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 第2章
●「コラボでつくる!―― コミュニケーションの連鎖による創発」(井庭 崇, 『創発する社会』, 国領二郎 編著, 日経BP企画, 2006年)pp.68-85
■■■ 第11回(6/18) オープン・コラボレーション 1:Collaborative Innovation Networks (COINs)
不特定多数の人たちが出入りしながら協働的に付加価値を生み出していく「オープン・コラボレーション」は、どのように発展していくのでしょうか。Creatorのまわりにいる Collaborative Innovation Networks の人々が重要な役割を担っていることを理解します。
【文献読解】
●『Coolfarming: Turn Your Great Idea into the Next Big Thing』(Peter Gloor, AMACOM, 2010) 一部
■■■ 第12回(6/25) オープン・コラボレーション 2:オープンソース・ソフトウェア開発
不特定多数の人たちが出入りしながら協働的に付加価値を生み出していく「オープン・コラボレーション」の事例として、Linux OSのオープンソース・ソフトウェア開発について取り上げます。
【文献読解】
●『Just for Fun: The Story of an Accidental Revolutionary』(Linus Torvalds, David Diamond, HarperBusiness, 2002) [『それがぼくには楽しかったから』(リーナス・トーバルズ, デビッド・ダイヤモンド, 小学館プロダクション, 2001)] 一部
■■■ 第13回(7/2) オープン・コラボレーション 3:WikiとWikipedia
不特定多数の人たちが出入りしながら協働的に付加価値を生み出していく「オープン・コラボレーション」の事例として、Wikipediaについて取り上げます。また、Wikipediaのベースとなっている「Wiki」というシステムの発想を理解します。
【文献読解】
●『Wikinomics: How Mass Collaboration Changes Everything』(Don Tapscott, Anthony D. Williams, Portfolio Trade, Expanded ed., 2010) [『ウィキノミクス:マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ』, ドン・タプスコット, アンソニー・D・ウィリアムズ, 日経BP社, 2007)] 一部
●『パターン、Wiki、XP:時を超えた創造の原則』(江渡 浩一郎, 技術評論社, 2009)序章, 第15・17章、終章
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 第3章
■■■ 第14回(7/9) 社会に変化をもたらす
社会に深い変化をもたらすにはどうすればよいのでしょうか。精神的な側面と実践的な側面とを合わせもつ「U理論」(Theory U)を取り上げます。また、これまでの授業を振り返り、総括を行ないます。
【文献読解】
●『Presence: Human Purpose and the Field of the Future』(Peter M. Senge, et. al., Crown Business, Reprint ed., 2008) [『出現する未来』, ピーター・センゲ ほか, 講談社, 2006)] 一部
●『Theory U: Leading from the Future as It Emerges: The Social Technology of Presencing』(C. Otto Scharmer, Berrett-Koehler Pub, 2009) [『U理論:過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』, C・オットー・シャーマー, 英治出版, 2010)] 一部
【提出課題・試験・成績評価の方法など】
成績評価は、授業への参加、宿題、期末レポートから総合的に評価します。
【履修制限】
履修人数を制限する:100人程度。初回授業時に志望理由を書いてもらいます。
2012.03.16 Friday
12:03 | posted by
井庭 崇
2012年度春学期の「シミュレーションデザイン」(井庭 崇, 古川園智樹)のシラバスを書きました。開講曜日時限は、火曜 3・4限です。がっつり文献を読んで議論するので、やる気のある人はぜひどうぞ。
科目:シミュレーションデザイン
担当:井庭 崇, 古川園智樹
開講:火曜 3・4限
【主題と目標/授業の手法など】
複雑で動的に変化するシステム --- 例えば生命や社会など --- を理解するためには、それに見合う道具立てが必要になります。そのような「思考の道具」として、本科目では「シミュレーション」の考え方に着目します。ここでいう「シミュレーション」とは、最も広義の意味で捉え、「物事の関係性が設定された状態から、それらの時間発展を内生的な変化として展開し、その振る舞いを観察して対象への理解を深める」ことを指します。この授業では、そのように広義に定義されたシミュレーションについて、思想・手法・実践の面から理解することを目指します。
【教材・参考文献】
本授業では、毎回、指定文献を読んできてもらい、授業中に内容の確認や議論をします。その文献のうちの一部は、各自購入してもらうことになります。輪読の際に線を引きながら読むので、図書館で借りるのではなく購入するようにしてください。これらの本はどれも、今後みなさんの本棚を飾り、時に手に取るとよいと思われる本ばかりです。
●『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(井庭崇, 福原義久, NTT出版, 1998)¥1,890
●『創造性とは何か』(川喜田二郎, 詳伝社, 2010)¥798
●『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです:村上春樹インタビュー集 1997-2009』(村上春樹, 文藝春秋, 2010)¥1,890
●『メタファー思考:意味と認識のしくみ』(瀬戸 賢一, 講談社, 1995)¥735
●『科学革命の構造』(トーマス・クーン, みすず書房, 1971)¥2,730
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011)¥2,520
●『デカルトからベイトソンへ:世界の再魔術化』(モリス・バーマン, 国文社, 1989)¥4,725
●『方法序説』(ルネ・デカルト, ちくま学芸文庫, 筑摩書房, 2010)¥945
●『精神と自然:生きた世界の認識論』(グレゴリー・ベイトソン, 新思索社, 2006)¥2,100
●『クリストファー・アレグザンダー:建築の新しいパラダイムを求めて』(スティーブン・グラボー, 工作舎, 1989)¥3,873
これ以外の文献については、適宜コピーを配布します。
【履修上の注意】
毎回、かなりの分量の文献を読み込んでいきます。きちんと読んできてください。
【授業計画】
■■■ 第1回(4/10) イントロダクション Introduction
授業の内容、進め方について説明します。
■■■ 第2回(4/17) 構成的理解 Constructive Way of Understanding
複雑系科学では、生命や知能、社会を理解するために、コンピュータ・シミュレーションをつくることで理解することが行なわれます。この「つくることで理解する」というアプローチを、「構成的理解」といいます。この構成的理解を、学術的研究からアートまでのつながりを学びます。
【文献読解】
●『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(井庭崇, 福原義久, NTT出版, 1998) 序文、第1〜3章
●『Simulation for the Social Scientist』(Nigel Gilbert, Klaus Troitzsch, Open University Press, 1999) [『社会シミュレーションの技法』, ナイジェル・ギルバート, クラウス・G・トロイチュ, 日本評論社, 2003] 第1・2章
●『動きが生命をつくる:生命と意識への構成論的アプローチ』(池上高志, 青土社, 2007)
序章、第1〜3章、第8章
■■■ 第3回(4/24) 生成的プロセス Generative Processes
「つくることで理解する」という構成的理解が行なわれているのは、コンピュータ・シミュレーションによる学術的研究だけではありません。作家が物語をつくるときにも、ある種のシミュレーションを行いながら構成的な理解をしているようです。そのような作家の言葉をみてみましょう。
【文献読解】
●『創造性とは何か』(川喜田二郎, 詳伝社, 2010)
●『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです:村上春樹インタビュー集 1997-2009』(村上春樹, 文藝春秋, 2010)
●『ものがたりの余白:エンデが最後に話したこと』(ミヒャエル・エンデ, 岩波書店, 2000) 第I章
●『出発点 1979〜1996』(宮崎駿, 徳間書店, 1996)[『Starting Point 1979-1996』(Hayao Miyazaki, VIZ media, 2009)]
■■■ 第4回(5/8) アブダクション Abduction
新しいアイデアを「発想」するということはどういうことなのか。そのようなことに取り組んだ人に、チャールズ・S・パースという人がいます。彼は、これまでの論理学でいわれてきた「帰納」(induction)と「演繹」(deduction)に加えて、「アブダクション」(abduction)というものがあると考えました。アブダクションとはどのようなものか、そして、創造的思考とどのような関係があるのかについて学びます。
【文献読解】
●『アブダクション:仮説と発見の論理』(米盛 裕二, 勁草書房, 2007)まえがき、第1〜5章
● "Deduction, Induction, and Hypothesis" (Charles Sanders Peirce, in 『The Essential Peirce: Selected Philosophical Writings VOLUME 1 (1867-1893)』, Indiana University Press, 1992) p.186-199
■■■ 第5回(5/15) メタファー Metaphor
つかみどころがない物事を捉えるときに、私たちはよく「メタファー」(隠喩)を用いて理解します。例えば、「人生」とは「旅のようなもの」であるとか、「議論」とは「戦いのようなもの」であるというような理解の仕方です。このようなメタファーによる理解は、人間の認知の根本的な特徴であるとも言われています。そして、メタファー的な思考は、創造的思考や発想において重要な役割を果たしていると思われます。認識、思考、創造のレトリックとしてのメタファーについて学びます。
【文献読解】
●『メタファー思考:意味と認識のしくみ』(瀬戸 賢一, 講談社, 1995)
●『Metaphors We Live By』(George Lakoff, Mark Johnson, The University of Chicago Press, 1980) [『レトリックと人生』(ジョージ・レイコフ, マーク・ジョンソン, 大修館書店, 1986] 一部
●『走ることについて語るときに僕の語ること』(村上春樹, 文藝春秋, 2010)[『What I Talk about When I Talk about Running: A Memoir』(Haruki Murakami, Vintage Books, 2009) ] 一部
■■■ 第6回(5/22) パラダイム・シフト Paradigm Shift
物事に対する考え方・認識が根本から変わってしまうことがあります。これが「パラダイム・シフト」と呼ばれる事態です。科学哲学者トーマス・クーンは、科学における革命的な変化について研究し、パラダイム・シフトが起きる時にはどのようなことが起きるのかを明らかにしました。このパラダイム・シフトの考え方について学びます。
【文献読解】
●『The Structure of Scientific Revolution』(Thomas S. Kuhn, The University of Chicago Press, 1962) [『科学革命の構造』(トーマス・クーン, みすず書房, 1971)]
●『Imagined Worlds』(Freeman Dyson, Harvard University Press, 1997) [『科学の未来』(フリーマン・ダイソン, みすず書房, 2005)] 第2章
■■■ 第7回(5/29) 社会科学の歴史的形成 Historical Construction of the Social Sciences
社会科学はどのようにして分化し、発展してきたのでしょうか。また、これからの社会科学はどうなるのでしょうか。それらのことについて議論したいと思います。
【文献読解】
●『Open the Social Sciences』(Immanuel Wallerstein, Stanford University Press, 1996) [『社会科学をひらく』(ウォーラーステイン, 藤原書店, 1996)]
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 第1章
●「ディジタル・メディア時代における「知の原理」を探る: 知のStrategic Obscurantism」(井関 利明, 『メディアが変わる知が変わる:ネットワーク環境と知のコラボレーション』, 1998)
■■■ 第8回(6/5) デカルト的パラダイム Cartesian Paradigm
ルネ・デカルトは、現代の科学的世界観の基礎をつくりました。それは端的にいうと、精神と物質というものを分けるという二元論的なパラダイムです。この回は、デカルトの考えに触れるとともに、その可能性と限界について考えます。
【文献読解】
●『The Reenchantment of the World』(Morris Berman, Cornell University Press, 1984) [『デカルトからベイトソンへ:世界の再魔術化』(モリス・バーマン, 国文社, 1989)] 序章、第1〜4章
●『方法序説』(ルネ・デカルト, ちくま学芸文庫, 筑摩書房, 2010)
■■■ 第9回(6/12) ベイトソン的全体論 Batesonian Holism
デカルト流の二元論的パラダイムでは捉えられないものを捉える可能性として、グレゴリー・ベイトソンの全体論/サイバネティクスの考え方を学びます。
【文献読解】
●『The Reenchantment of the World』(Morris Berman, Cornell University Press, 1984) [『デカルトからベイトソンへ:世界の再魔術化』(モリス・バーマン, 国文社, 1989)] 第5〜9章
■■■ 第10回(6/19) パターンと学習 Patterns and Learning
グレゴリー・ベイトソンの考えについての理解を深めます。また、社会システム理論やパターン・ランゲージなどの考え方に通じる点について考えます。
【文献読解】
●『Mind and Nature: A Necessary Unity』(Gregory Bateson, Hampton Press, 2002) [『精神と自然:生きた世界の認識論』(グレゴリー・ベイトソン, 新思索社, 2006)]
●『Steps to an Ecology of Mind』(Gregory Bateson, The University of Chicago Press, 2000) [『精神の生態学』(G・ベイトソン, 新思索社, 2000)] "The Logical Categories of Learning and Communication" [「学習とコミュニケーションの階型論」] (p.382-419) & "Cybernetic Explanation" [「サイバネティックスの説明法」](p.532-548)
■■■ 第11回(6/26) オートポイエーシス Autopoiesis
生命や社会、創造を理解するための基礎理論として、オートポイエーシスのシステム理論について学びます。
【文献読解】
●『Autopoiesis and Cognition: The Realization of the Living』(H. R. Maturana, F. J. Varela, Springer, 1980) [『オートポイエーシス:生命システムとはなにか』(H.R. マトゥラーナ, F.J.ヴァレラ, 国文社, 1991)] 一部
●『オートポイエーシス:第三世代システム』(河本英夫, 青土社, 1995)第1〜3章
●『Social Systems』(N. Luhmann, Stanford University Press, 1996) [ ルーマン『社会システム理論』〈上〉 〈下〉(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1995)] 一部
●『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法【リアリティ・プラス】』(井庭崇 編著, 宮台真司, 熊坂賢次, 公文俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011) 序章, 第2章
■■■ 第12回(7/3) 生成的構造 Generative Structure
デカルト的な二元論的パラダイムとは異なる見方で、建築の世界を捉え直し、建築のデザインを再考したクリストファー・アレグザンダーの考えと実践の遍歴を辿ります。
【文献読解】
●『パターン、Wiki、XP:時を超えた創造の原則』(江渡 浩一郎, 技術評論社, 2009)序章, 第1〜6章
●『Christopher Alexander: The Search for a New Paradigm in Architecture』(Stephen Grabow, Routledge Kegan & Paul, 1983) [『クリストファー・アレグザンダー:建築の新しいパラダイムを求めて』(スティーブン・グラボー, 工作舎, 1989)] 前書き, 序, 第1〜12章
●『Notes on the Synthesis of Form』(Christopher Alexander, Harvard University Press. 1964) [『形の合成に関するノート』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 1978)]
●"A city is not tree" (Christopher Alexander, Architectural Forum 122 April , 1965) [ 「都市はツリーではない」(クリストファー・アレグザンダー) ]
■■■ 第13回(7/10) ネットワーク科学 Network Science
近年、自然や社会における物事の関係性の構造に共通の特徴があることがわかり、「スモールワールド・ネットワーク」や「スケールフリー・ネットワーク」として注目を集めています。これらのネットワークの生成原理をめぐる研究がどのようにパラダイム・シフトを引き起こしたのかを学びます。
【文献読解】
●『Linked: How Everything is Connected to Everything Else and What It Means for Business, Science, and Everyday Life』(Albert-Laszlo Barabasi, Plume, 2003) [『新ネットワーク思考:世界のしくみを読み解く』(アルバート・ラズロ・バラバシ, NHK出版, 2002)]
●『Six Degrees: The Science of Connected Age』(Duncan J. Watts, W. W. Norton & Company, 2004) [『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』(ダンカン・ワッツ, 阪急コミュニケーションズ, 2004)] 第3章
●『Sync: How Order Emerges From Chaos In the Universe, Nature, and Daily Life』(Steven H. Strogatz, Hyperion, 2004) [『SYNC』(スティーヴン・ストロガッツ, 早川書房, 2005)] 第9章
●「ネットワーク科学の方法論と道具論」(井庭 崇, 『ネットワーク科学への招待:世界の“つながり”を知る科学と思考』, 青山 秀明, 相馬 亘, 藤原 義久 共編著, 臨時別冊・数理科学2008年7月号 SGCライブラリ 65, サイエンス社, 2008)
■■■ 第14回(7/17) 総括
これまでの内容を振り返り、総括をします。
【提出課題・試験・成績評価の方法など】
輪読や演習での授業への参加、宿題提出、最終レポート等から、総合的に評価します。
【履修制限】
履修人数を制限する:40人程度。初回授業時に志望理由を書いてもらいます。
2011.12.29 Thursday
20:10 | posted by
井庭 崇
今年もたくさんの対談・鼎談を行いました(おつきあいいただいたみなさん、ありがとうございました!)。
その対談・鼎談のうち、SFC Global Campus(SFC-GC)のサイトで映像が公開されているものをリストアップしました。どなたでも無料でご覧になれますので、興味がある回があれば、ぜひどうぞ。リンクをクリックすると、ブラウザ上で映像再生が開始します。
■「“自分”から始まる学びの場のデザイン」
(市川 力さん × 今村 久美さん × 井庭 崇 鼎談, 2011年5月21日, 3時間)
→ 鼎談映像
《前半》・
《後半》
■「学びと創造の場づくり」
(中原 淳さん × 井庭 崇 対談, 2011年7月9日, 3時間)
→ 対談映像
《前半》・
《後半》
■「カオスの生成力」
(合原 一幸先生 × 木本 圭子さん × 井庭崇 鼎談, 2011年11月5日, 3時間)
→ 鼎談映像
《前半》・
《後半》
■「社会を変える仕組みをつくる」
(井上 英之さん × 中室 牧子さん × 井庭 崇 鼎談, 2011年11月12日, 3時間)
→ 鼎談映像
《前半》・
《後半》
■「内からのことばを生み出す」
(山田 ズーニーさん × 井庭崇 対談, 2011年11月28日, 1時間半)
→
対談映像
■「ユーザーエクスペリエンスデザイン」
(長谷川 敦士 さん × 井庭崇 対談, 2011年12月12日, 1時間半)
→
対談映像
■「デジタル・ファブリケーション、パターン・ランゲージ、複雑系」
(田中 浩也 さん × 井庭崇 対談, 2011年12月13日&20日, 計3時間)
→ 対談映像
《前半》・
《後半》