井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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ORF2007における井庭研ポスター発表

2007年11月22日(木)・23日(金・祝)に六本木ヒルズで開催されるOpen Research Forum 2007 (ORF2007)において、井庭研では、以下の4つのポスター発表を行います。両日とも研究会メンバーが常駐し、説明いたします。ぜひお越しください。

Poster「新しい社会の捉え方 ―コミュニケーションの連鎖とそのメディア―」
最新の社会システム理論にもとづいて、「コミュニケーションの連鎖」という新しい社会の捉え方を提案します。その捉え方によって、不特定多数の人 が自由に出入りしながら協調的に創造活動を行う「オープン・コラボレーション」のメカニズムなどについて考えていきます。

Poster「パターン・ランゲージによる暗黙知・ノウハウの言語化」
組織内やオープンなコラボレーションの場において、創造や実践のノウハウを共有・継承していくための手法「パターン・ランゲージ」の考え方を説明し、私たちの具体的な実践について紹介します。

Poster「複雑系科学にもとづく新しい市場分析手法」
「複雑系科学」のフロンティア領域である「ネットワーク科学」と「経済物理学」の知見を活かした「新しい市場分析手法」について提案します。また、モデリング・シミュレーションのためのツールと方法論についても紹介します。

Poster「3次元ヴァーチャル世界への冒険」
3次元ヴァーチャル世界「Second Life」での私たちの実験的試み―――Second Life上での授業や研究会、ヴァーチャル・ミュージアムの構築―――を紹介します。

SFC Open Research Forum 2007
「toward eXtremes: 未来創造塾の挑戦」


日時:2007年11月22日(木)  10:00~21:00
    2007年11月23日(金・祝)10:00~19:00
会場:六本木アカデミーヒルズ40(六本木ヒルズ森タワー40階)
   入場無料(お名刺をご持参ください)
主催:慶應義塾大学SFC研究所
HP:http://orf.sfc.keio.ac.jp/
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「隠れた関係性の可視化」展を開催します!

2007年11月22日(木)・23日(金・祝)に六本木ヒルズで開催されるOpen Research Forum 2007 (ORF2007)において、「隠れた関係性の可視化」展を開催します。

NetworkImage近年さまざまな分野で、現象の背後に潜む「隠れた関係性の可視化」とその解析が行われています。物事の関係性を「ネットワーク」として捉え、その全体像を把握したり、関係性の特徴を理解したりするわけです。対象となる現象の詳細を省き、「ノード」(点)と「リンク」(線)に抽象化して捉えることで、関係性そのものに注目した分析が可能になります。現在SFCにおいても、先端生命科学、情報社会学、国際関係論などのさまざまな分野において、このような「隠れた関係性の可視化」と解析が行われています。ORF2007では、その取り組みについて、展示・デモンストレーションを行います。「組織化」や「秩序形成」に関する、分野を超えた議論・研究のきっかけとなれば幸いです。

「インタラクトーム統合解析プラットフォーム eXpanda」(斎藤輪太郎研究室)
「クックパッドのレシピの構造分析と料理創発支援ツールの開発」(熊坂賢次研究室)
「ウィキペディアの各種ジャンルの時系列解析」(熊坂賢次研究室)
「SFCから生まれた本のネットワーク: 共著者/書籍ネットワーク」(井庭崇研究室)
「SFCブックカフェ「知の生態系」のネットワーク形成の仕組み」(井庭崇研究室)
「同盟ネットワークの歴史的変化」(井庭崇研究室/草野厚研究室)
「国際テロ組織のネットワーク理論からの考察」(神保謙研究室)

DemoPlace
【展示場所】
A04区画
(40カフェ内の「ブックカフェ」前のスペース)

【展示日時】
11月22日(木)、23日(金・祝)ともに終日


SFC Open Research Forum 2007
「toward eXtremes: 未来創造塾の挑戦」


日時:2007年11月22日(木)  10:00~21:00
    2007年11月23日(金・祝)10:00~19:00
会場:六本木アカデミーヒルズ40(六本木ヒルズ森タワー40階)
   入場無料(お名刺をご持参ください)
主催:慶應義塾大学SFC研究所
HP:http://orf.sfc.keio.ac.jp/
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セカンドライフ関連の講演をします。

今週末、2007年11月17日(土)に、産業技術大学院大学の「AIITマンスリーフォーラム」で、セカンドライフ関連の講演をします。よかったら、来てください。

テーマ: 「仮想世界での創造と実験:セカンドライフの何が面白いのか?」
語り部: 井庭 崇 氏
日時: 平成19年11月17日(土)18:30~20:30
会場: 産業技術大学院大学265演習室(2階東棟)
進行: 中鉢 欣秀 (産業技術大学院大学准教授)
参加費: 無料(但し、飲物代として実費分500円をいただきま事前申込は不要です。また、当日はお名刺をご持参ください。)

詳しくは、「AIITマンスリーフォーラム」のページ(http://aiit.ac.jp/279.html)を参照してください。
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パターン・ランゲージに関するチュートリアルセッションを開催します!

来る2007年11月22日に、「パターン・ランゲージ」に関するチュートリアルセッションを行います。特に、組織やプロジェクトの遂行に関するノウハウを記述・共有する方法について取り上げます。

PatternLanguage
SFC Open Research Forum 2007
チュートリアルセッション

「ナレッジ・マネジメントの新潮流:
パターン・ランゲージによる暗黙知の言語化」



  日程: 2007年11月22日(木)
  時間: 18:40~19:40
  会場: 六本木アカデミーヒルズ40(六本木ヒルズ森タワー40階)
  費用: 無料 (事前登録をお願いします)
  定員: 約100名
  締切: 2007年11月21日(水)
     (締め切り延長しました!ただし、定員になり次第、締切となります。お早めにお申し込みください。)
  主催: 慶應義塾大学 井庭崇研究室
  問合せ先:orf2007-pattern@sfc.keio.ac.jp

チュートリアルセッションの概要

 近年、ひとりでは到達できないような付加価値を、複数の人々で生み出す「コラボレーション」(協働作業)が重要視されています。コラボレーションの実現にあたっては、各メンバーが創造・実践の力を発揮することが求められます。そのためにはまず、各メンバーに創造・実践のノウハウが共有・継承されていることが必要となります。しかし、ノウハウを共有・継承するためのナレッジ・マネジメント手法は、いまだ確立されていません。本セッションでは、ノウハウの共有・継承の方法として、「パターン・ランゲージ」の方法の可能性を探り、ビジネスや研究開発に活かすためのコツを紹介します。

●パターン・ランゲージとは?
 パターン・ランゲージは、創造・実践の経験則を「パターン」という単位にまとめ、それを体系化したものです。パターンは、「状況」、「問題点」、「解決策」という三つの観点で構成されるルールといえます。かつて、建築家のクリストファー・アレグザンダーは、建物や街の形態に繰り返し現れる関係性を「パターン・ランゲージ」としてまとめました。そして、そのパターン・ランゲージを用いれば、住人たちが自分たちの住む建物の建設や街づくりに参加できるようになる、と考えました。その後、この考え方はソフトウェア開発の分野に応用され、「デザイン・パターン」として成功を収めています。

●パターン・ランゲージの意義
 パターン・ランゲージを記述し、共有することの意義は、大きく分けて二つあります。一つは、熟練者の経験則を明文化しているので、初心者であってもよりよい方法で創造や実践ができるようになるということです。もう一つは、共通の語彙を提供することが出来るので、これまで直接指し示すことが出来なかった物事について言及できるようになるということです。つまり、パターン・ランゲージは、創造・実践の場面において、思考とコミュニケーションの両面を支援してく
れるのです。

●組織・プロジェクトへの応用
 最近では、建築やソフトウェアの設計以外にも、いろいろな分野・内容に対して、パターン・ランゲージが作成され始めています。そのなかでも、本チュートリアルセッションで取り上げるのは、組織やプロジェクトの遂行に関するパターン・ランゲージです。これまでに提案されてきたパターンのほか、私たち井庭研究室で開発したパターン・ランゲージについても紹介します。

事前登録のお願い

 本チュートリアルセッション「ナレッジ・マネジメントの新潮流:パターン・ランゲージによる暗黙知の言語化」に参加をご希望の方は、事前登録をお願いいたします。定員になり次第締め切らせていただきますので、お早めにお申し込みください。
 事前登録は、電子メールにて次のアドレスに、以下の情報をお送りください。後日、こちらから当日の詳細情報が記載された「受講票」をお送りいたします。

宛先: orf2007-pattern@sfc.keio.ac.jp
件名: ORFチュートリアル参加希望

お名前:
ご所属:
メールアドレス:
このセッションをどこで知ったか:
参加理由・期待すること:

登録締切は、2007年11月21日(水)とさせていただきます。
なお、それ以前でも定員になり次第、締切となります。

お問い合わせ

 本チュートリアルセッションに関して不明な点・質問等がありましたら、セッションスタッフ宛て(orf2007-pattern@sfc.keio.ac.jp)にメールにてお願いいたします。
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『プロフェッショナル 仕事の流儀 13』―――(1) 大きなスケールの研究

ProfessionalBook13最近出た『プロフェッショナル仕事の流儀 13』(茂木 健一郎 & NHK「プロフェッショナル」制作班, 日本放送出版協会, 2007)を読んだ。

 この本は、NHKの同じタイトルの番組を書籍化したものだ。第13巻には、弁護士の村松謙一さん、漫画家の浦沢直樹さん、コンピュータ研究者の石井裕さんの話が紹介されている。どの方の話もとても面白く、おすすめの1冊だ。今回は、石井裕さんの話を取り上げることにしたい。


HiroshiIshii 石井裕さんは、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ教授で、メディアラボ初の日本人ファカルティ・メンバーだ。現在51歳。「タンジブル」(触れることができる、実体がある)というキーワードで、新しいコンピュータをつくっている(⇒ Tangible Media Group, MIT Media Lab)。

 この石井さんの話に、僕は研究者として、そして大学教員として、とても刺激を受けた。研究というのは、ともするとどんどん小さくまとまっていく傾向がある。研究には新規性が求められるから、いままでの先行研究との差異を絶えず意識することになる。そして、ただ差異があればいいわけではないので、どのくらいの差異ならばきちんと検証・論証できるだろうか、ということも計算する。しかし、そんなふうに差異ばかりに意識がいってしまうと、全体としてどこに向かっているのか、何を成し遂げようとしているのかが、あいまいになってしまいがちだ。

 そんな悩みに僕もいつも直面している。3年ほど前にSFCに着任したとき、僕に課されたのは「スケール感を出す」ということ。小さくまとまるな、ということだ。それまで「新しい思考の道具をつくる」というテーマで、複雑系とシミュレーションの分野の研究をしてきたが、そういう個別分野でのイノベーションではなく、もっと世界にインパクトをもたらすような研究をしろ、ということなのだ。そんなこともあって、ここ数年は社会学や社会哲学などの新しい領域にもどんどん踏み込んでいき、新しい視点と感覚を磨いてきた。学問分野の組み合わせでいうと、普通じゃない動きをしていると思う。それでも、個々の研究の話になると、着実に成果を出そうとして、どうしても小さくまとめがちだと思う。だめだなぁと思いながらも、なかなかそういうサイクルから抜け出せていない。

「現在あるインターネットを使ってちょっと工夫すれば、様々な価値を生み出すことが可能です。それはそれで素晴らしいことですよ。でも、今までになかった新しいものをつくり出すということは、それとは別物です。」(石井, p.141)

 そう、別物なのだ。そして、クリエイター志向だった僕が研究者になろうと思ったのは、まさにその別物の「今までになかった新しいものをつくり出す」ためだった。その意味で、今回の石井さんの話はとても魅力的で、僕の大きな一歩に向かって背中を押してくれるものだった。

「研究は本質的に、オリジナルでなければいけない。でも、ただほかと違っているだけではダメで、ユニークであり、なおかつそこに意味がなければならないんです。」(石井, p.140)

「今までの世界観が大きく変わるようなもの。新しい可能性が突然、目の前に現れてきて、楽しくて仕方がなくなったり、想像が止まらなくなったりするもの。そういったものをいっぱいつくっていきたいですね、命の続く限り。」(石井, p.161)

「われわれが世界で初めてそのアイデアを思いついたグループであればよし、そうでなければゴミなので捨てる。研究成果が世の中に喜んでもらえる、インパクトを与える、そういう方向にエネルギーを集中させる―――。それが僕の仕事です。」(石井, p.121)

 最後の、自分たちで考え出した真にオリジナルなものでなければ「ゴミなので捨てる」、ここまで言い切れるところがかっこいい。そしてこのくらいの気持ちでいなければ、本当の意味で「今までになかった新しいものをつくり出す」ことなんでできないのだ。納得。

「自分の研究がコンピュータの主流とは外れた方向に進んでいることを、とてもうれしく思っています。なぜなら、みんなが同じことをしたら、私の商売はあがったりでしょう。研究することの意味がどこにあるかといえば、世の中で誰もやっていないけれど価値のあるものを創造することです。その価値をわかる人はわかってくれる。」(石井, p.141)

「『誰も理解してくれない』ですって?最高じゃないですか。それは勲章ですよ。もしかしたら、誰も行ったことのない極致に到達できるかもしれないわけですからね。」(石井, p.159)

 僕は博士時代に、結構ここで言われているようなスタンスで研究をしていたと思っている。それに比べて最近は、あんまり理解されないような無謀な目標を立てなくなったなぁ。そんなことに気づいた今、自分を見つめなおし、次なるテーマを考えるチャンスなのかもしれない。そんなわけで、この本、刺激的でとてもおすすめだ。
最近読んだ本・面白そうな本 | - | -

学会発表「プロジェクト推進のパターン・ランゲージとその評価」

2007年8月17日から19日に開催された「日本ソフトウェア科学会 ネットワークが創発する知能研究会&情報処理学会 数理モデル化と問題解決研究会 合同ワークショップ」で、「プロジェクト推進のパターン・ランゲージとその評価」という研究発表をしてきた。

 プロジェクト推進のノウハウを「パターン・ランゲージ」としてまとめるという僕らの研究については、すでにこのブログでも紹介しているが(⇒学会発表「プロジェクトを推進するためのパターンの提案」)、今回の発表は、そのプロジェクト・パターンを実際に授業に導入し、その評価を行ったというもの。

 プロジェクト・パターンを導入した授業は、SFCで僕が担当している創造実践科目「コラボレーション技法ワークショップ」という授業だ。この授業では、履修者は学期を通じてグループワークに取り組んでいる。今回の研究では、その履修者に提出してもらった、プロジェクト・パターンについてのフィードバックを、定量的・定性的に解析した。僕らはこれまでにいろんなパターン・ランゲージを提案してきたが、開発したパターンをきちんと評価したのは、実は今回が初めて。その意味で、今回の研究は大きな前進だと思っている。

 さらに、フィードバックの解析においても工夫をしてみた。パターンの「選択ネットワーク」(Choice Network)というものの可視化を行ったのだ。パターンの「選択ネットワーク」では、それぞれのパターンをノードとし、一人ひとりが同時に選択したパターン同士をリンクで結んでいく。これは、先日、商品の選択ネットワークを描く方法として提案したものと同じやり方だ(⇒学会発表「商品ネットワークの成長モデル:市場の秩序形成の探究に向けて」)。

JWEIN-ChoiceNetwork

 この選択ネットワークの分析を通じて、今後、重みつきネットワーク(重みつきグラフ)を解析する手法を開発していくことがとても重要だと痛感した。これまでのネットワーク科学では、主にネットワークにおける「リンクがあるか/ないか」という構造面に注目が集まっていたが、実データの解析となると、リンクの重み(強さ)を考慮しなければならない。この点については、いろいろ考えていることがあるので、また近いうちに書きたいと思う。

JWEIN-Presentation
●井庭 崇, 湯村 洋平, 若松 孝次, 古市 奏文, 「プロジェクト推進のパターン・ランゲージとその評価」, 日本ソフトウェア科学会 ネットワークが創発する知能研究会&情報処理学会 数理モデル化と問題解決研究会 合同ワークショップ, 東京, 2007年8月
Paper 論文(PDF)
井庭研だより | - | -

再び、セカンドライフ上でゼミを実施(井庭研究会2)

以前このブログで、井庭研究会1のゼミをセカンドライフ上で実施した話をしたが、今回はもう一つのゼミ、井庭研究会2「新しい思考の道具をつくる」をセカンドライフ上で実施した話を紹介したい(2007年7月20日実施)。この研究会では、複雑系の考え方にもとづき、思考のための新しい方法や新しい道具をつくるという研究に取り組んでいる。現在17人が参加者している(学部生15人+大学院生2人)。

SeminarPanel

ゼミは今回も、パンダフル島の会議室で行った。学期末テストの時期だったこともあり、学校の研究室やコンピュータ室などで参加した人が多かった。さらに、自宅から参加した人もいた。 ゼミは、個人研究の進捗報告を簡単にした後、輪読に入った。このときの輪読文献は、高安秀樹さんの『経済物理学の発見』の後半部分だ。チャットで輪読発表と議論が進められた。今回も、輪読する文献やレジュメは、形だけのものを作成しておいた。

SeminarPresen BookAndHandout

 今回の参加者の感想からも、いくつか抜粋してみることにしよう。まずはやはり、「同じ空間にいる感覚がする」という点について言及している人が多い。

- 「今回みたいに時間を指定すれば、みんなRealLifeでは違う場所にいても、SecondLifeでは集まることができるんだなぁと、当たり前のことなんですが、なんだか不思議な気分でした。はじめはメッセと似たような感じなのかなぁと思っていたのですが、メッセと違ってそれぞれの顔や動きが分かるので面白いですね。三次元なので、「そこに人がいる」というのがはっきり分かりますし。」

- 「自分が思っていたよりも、同じ空間にいる感じはありました。それは、リアル世界でも同じ空間にいた人が数人いたからかもしれないですが、それでも、誰かが立って歩いたり、人が新しく入ってきたりすると、文字情報以外の視覚情報で得られる感覚の大きさを感じたりしました。」

- 「セカンドライフの利点は人の位置関係とかが分かるということと、画像とかがその場で見られるということだと思います。なので、位置関係で何かが変わるような取組みをすると、ただのチャットで終わらないものになるのではないでしょうか。」

- 「何をしているのかがキャラクターの動きで分かるというのは、メッセンジャーとは異なる興味深い特徴だと思いました。メッセンジャーでは過去の情報は見ることができるけど、話している瞬間に関しては予想しかできなかったのに対して、セカンドライフではある程度今何をしているのかを振る舞いから知ることができるのが面白く感じました。」


 興味深いことに、今回の取り組みでは、チャットにおいて顔文字が頻繁に使われた。チャットに慣れているからかわからないが、アバターの3次元表現があるにもかかわらず、笑いや苦笑が顔文字で表現されることが多かった。画面上でチャットのウィンドウに注目していると、アバターの動きが目に入りにくくなるため、ある意味自然な結果だったともいえる。チャットで顔文字が使われるというのは、こんな感じだ。↓

FaceCharacter

参加者の感想にも、その点について触れられていた。

- 「アバターが視覚情報として与えられているのに、顔文字を打たなければならない感覚は不思議でした。表情や抑揚って、会話において非常に重要な要素なのだと改めて感じました。」

- 「目が合うというか話してる人の顔が見れるともっと違った印象になるのかなと思いました。客観的に見ているだけだと、話してる内容と話してる人の姿があまり一致しないので、文字は文字、人は人という感じで、話の内容に注力していると普段のメッセとの違いはあまり感じませんでした。」

- 「セカンドライフで3Dの凝ったアバターがあるのに、メッセージで顔文字などを使って表情を表現していることが少し違和感を感じました。アバターの表情が読み取れるようになると良いですね。」

- 「現実世界では聞いている人の反応をそのまま知ることができるけど、SL上では発言しないと参加している感が薄いと思いました。でも、SL上での新常識で、顔文字を使うとか「()」の中に入れるとちょっと言ってみた雰囲気になったりして、いろいろと新常識が誕生していくんだろうと思います。」


realwold さらに、フォーマルな会話とインフォーマルの会話が、リアルとヴァーチャルで入れ替わったという点も面白かった。どういうことかというと、通常のゼミでは、現実世界での会話がフォーマルで、PC上のチャットはインフォーマルな会話となる(井庭研は以前から、学生の提案により、ゼミ中のPC使用は禁止なので、そういうことはないけれど)。しかし、セカンドライフ上のゼミでは、PC上のチャットがフォーマルで、現実世界での会話がインフォーマルとなる。今回、研究室では僕を含め3人いたので、チャットでの発言に対し、口頭で突っ込みを入れたり、笑いあったりしていた。この入れ替えは、なかなか面白い感覚だった。

- 「授業中に友達とチャットしていることは本来ダメなことですが、昨日はパソコンの中の会話がすべきことで周りにいる人との会話はその時では余計なおしゃべり扱いでおもしろい感覚でした。」

- 「セカンドライフで集まって何かするというのは新しい取組だったので、楽しんで参加できました。ただ、自分は共同研究室で何人かと一緒にいたので、わいわいやっていられましたが、 一人で画面に向かっていたら鬱になりそうな感じはしました。」

- 「SLでは顔文字などで笑っていることを表現したりしても、現実の私は正直全く笑っていないので、こういう仮想空間が当たり前になると、今でも無表情なのにさらに無表情になっていくんだとうと少し不安です。」


 たしかに、ヴァーチャル世界におけるアバターが派手な動きや表情をしたとしても、操作している現実世界の自分は無表情だったりすると、精神的に分裂症気味になっていくかもしれない。チャットと異なり、画面上に「自分」がいるのだから、事はさらに深刻だ。

 むしろ、Webカメラの映像をもとに現実世界のユーザーの動きや表情をキャプチャして、それをアバターに反映してくれたらいいのにね。技術的にはある程度できそう。もしかしたら、そんな日も近いのかもしれない。

SeminarScreen

慶應義塾大学 SFC
総合政策学部/環境情報学部/政策・メディア研究科
井庭研究会2「新しい思考の道具をつくる:複雑系とシミュレーションによる社会研究」
担当:井庭 崇
ヴァーチャル世界の探険 | - | -

井庭研究会2007年度夏休みの宿題

井庭研の今年の夏休みの宿題は、「ウェブと社会の未来を考える。」がテーマだ。ここで紹介することにしたい。



井庭研究会 2007年度夏休みの宿題
「ウェブと社会の未来を考える。」


時代感覚をつかみ、未来を想像し、じっくり考え、自分なりのヴィジョンを生み出し、そしてそれを書き上げるという能力を身につけてもらうため、以下のような夏休みの宿題を設定します。よく読んで、しっかり取り組んでください。

Aさん「井庭研ってどんな研究をやってるんだろう?」
Bさん「調べてみようか。えっと、「井庭研」っと。」
    (Googleで「井庭研」をキーワードに検索。)
Bさん「研究室のホームページがあったよ。どれどれ。」
Aさん「へぇ、こういうことをやってるんだ!」
 ・・・

 このように、今日知りたいことがある場合には、まずウェブで調べるということが日常的に行われています。しかし、ほんの十数年前、このようなことはまったくありませんでした。というのは、WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)というものが存在しなかったからです。いまではごく当たり前の存在であるため、そのような時代は想像できないかもしれませんが、WWWは実はごく最近の社会技術なのです。
 ここ十数年で、世界は大きく変わりました。情報通信のひとつの技術にすぎなかったインターネットが、社会的なインフラとして不可欠なものになりました。そしてその上に、新しい社会が構築されているのです。そこではオープンなコラボレーションなど、従来では考えられなかった可能性も見え始めています。
 今後社会は、どのような方向に進んでいくのでしょうか? そこでの可能性や問題点はどのようなものでしょうか? そういったことを考えるためには、表層的で一時的な現象に囚われることなく、その本質を理解する必要があります。ウェブの登場で社会の何が変わったのか、変えつつあるのか、ということを踏まえて、「ウェブと社会の未来」について自由に論じてください。
 以下の3冊が、宿題に取り組むための基本文献です。これを軽く読みこなした上で、自分なりに「ウェブと社会の未来」について論じてください。論じるときには、たんなる本のまとめや一般論ではなく、「自分なりの視点・切り口」をもってオリジナルな論考を書き上げてください(授業のレポートのような浅い議論にならないように)。

『フラット化する世界』(上)(下)(トーマス・フリードマン, 日本経済新聞社, 2006)
『Google誕生:ガレージで生まれたサーチ・モンスター』(デビッド・ヴァイス, マーク・マルシード, イースト・プレス, 2006)
『ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ』(ドン・タプスコット, アンソニー・D・ウィリアムズ, 日経BP社, 2007)

WorldIsFlat1Book WorldIsFlat2Book GoogleBook WikinomicsBook

 今回の宿題は、文献を読むことではなく、文献を読んでから「考える」ことが重要なので、文献は早めに読んでしまってください。ポイントは、視点・切り口を工夫すること、しっかり考え、書いたものを推敲することです。また、誰がやっても同じというような、単なる「未来予測」にならないように、「自分」をうまく反映させてください。「The best way to predict the future is to invent it」(Alan Kay)ということを忘れずに。

【理解・発想の補助線】
 以上の本に加えて、深い理解や新しい発想を得るためのおすすめの本には、例えば、次のものがあります。
●『Webの創成:World Wide Webはいかにして生まれどこに向かうのか』(ティム・バーナーズ-リー, 毎日コミュニケーションズ, 2001)
●『リテラリーマシン:ハイパーテキスト原論』(テッド・ネルソン, アスキー, 1994)
●『ウェブ進化論:本当の大変化はこれから始まる』(梅田 望夫, 筑摩書房, 2006)
●『ロングテール:「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』(クリス アンダーソン, 早川書房, 2006)

このほかにも関係する本はいろいろあるので、各自本屋さんで探してみてください。
井庭研だより | - | -

ニクラス・ルーマンの著作歴

LuhmannBookHistoryオートポイエーシスの社会システム理論の提唱者であるニクラス・ルーマン(1927-1998)の著作歴を、年表風にまとめたので紹介したい。

 「社会システム理論」の授業用に作成したものだが、あまりこのようなまとめ方をしたものを見たことがないと思うので、参考にどうぞ。取り上げた本は、基本的には邦訳があるものを中心に選んでいる。たしか、ルーマンは60冊くらい本を書いているという話。すごいなぁ。

Paper 「ニクラス・ルーマンの著作歴」(PDF)
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セカンドライフ上でゼミを実施(井庭研究会1)

井庭研究会では、先日、正規のゼミをセカンドライフ上で実施した(2007年7月10日)。僕が担当する2つ研究会の両方で行ったのだが、まずは井庭研究会1「理論と実践の社会研究」での実践について紹介したい。この研究会では、社会学者ニクラス・ルーマンの社会システム理論をベースに、新しい捉え方で社会を理解し、新しい方法による実践を行うという研究に取り組んでいる。この研究会には、現在16人が参加者している(学部生14人+大学院生2人)。
ilab1-seminar

 セカンドライフ上でのゼミは、パンダフル島の会議室で行った。この会議室も、研究会のメンバーがつくったものだ。この場所に、ゼミが始まる時間の少し前から、研究会メンバーが集ってきた。この日は補講期間中でほとんど授業がなかったので、それぞれ家にいたり、カフェにいたり、学校で課題をやっていたりした。

 ゼミは、いつものように僕の話のあと、個人研究の進捗報告をそれぞれ行った。僕の話も進捗報告も、チャットで行う。いつもであればサッと終わる報告も、キー入力のスピードに引きずられて結構長い時間かかってしまった。チャットの世界というのは、キー入力のスピードが、コミュニケーション能力を規定する最初の要因になっているのだ。ある意味シビアな世界だ。

 SeminarRoom Seminar1

 その後、輪読に入った。このときの輪読文献は、リチャード・フロリダの『The Rise of Creative Class』の後半部分だ。チャットで輪読発表と議論が進められた。内容的に面白かったのは、創造性と「場所」についての議論だ。フロリダは創造的な活動のために実際の「場所」を重視するが、セカンドライフのような「場」を、僕らはどう捉えていけばいいのか? この点について、ゼミ方法と輪読内容が連動して、面白い議論が展開された。

BookAndHandout 輪読する文献やレジュメについても、形だけだが、セカンドライフ上にも作成しておいた。残念ながら、この本は開いて読むことはできない。参加者は、現実世界で手元にある本物の書籍をめくることになる。輪読レジュメについても、本物のレジュメがテクスチャとして貼られているが、読みづらいので、すでにメールで送られていたレジュメを読むことになる。

 結局3時間ほど、セカンドライフ上でゼミを行ったが、終わったあとは、どっと疲れが出た。参加者はそれぞれにいろんなことを考えたようだ。通常のゼミとは異なる雰囲気と異なるコミュニケーションの連鎖を生み出す。このことについて、いくつか参加者の感想を取り上げてみよう。

- 「みんなが沈黙する場面がなかった。・・・・・発言しやすいという雰囲気はやはりあると思う。」

- 「私は自宅から参加したのですが、自分の部屋だと気持ち的に楽で、思ったことが言えた気がします。」

- 「自分の家からやってたんでリラックスして出来るかなぁと思ったのですが、案外そこまででもなかったです。でも発言がしやすいというのは感じたので、(ブレストみたいな)立場を気にしないほうが効果を生むようなことには向いていると思いました。」

 これらは発言のしやすさという気持ちの問題だが、チャットで会話することの実質的なメリットもある。複数人が同時並行で書くことができるということと、ログが残るということだ。

- 「対面下では二人同時に別々の話題で会話をするということはありえないが、テキストでの会話ならそれも可能になる(発言のタイミングにこだわる必要性が低い)というのも、発言しやすい理由の一つだろう。」

- 「会話のやりとりがチャットで記憶されるため、何を言っていたか確認するのに便利だと感じました。」

SeminarChat しかし、セカンドライフでゼミを行うことの最も重要な点は、単なるチャットと違って、同じ場に「いる」という感覚があるということだ。チャットの場合は、しばらく文字を打っていない人の存在感はどんどん薄れていってしまうが、セカンドライフでは黙っているアバターの姿が見える。しばらく何も操作しないと、アバターはウトウトしだすので、メンバー間で「起きろ~」なんて発言があったりする。このようなヴァーチャルな存在感については、参加者の感想でも指摘されている。

- 「お互いにリアルでは同じ場所にはいないのに、セカンドライフ上では同じ場所にアバターが集まっていて、それが意外と「同じ場所にいる感覚」がするものだなぁ、というのが発見でした。この同じ場所にいる感覚、というのがただのチャットと違うところなんだなぁと思います。」

- 「会話に参加していない人も、アバターによって認識できるという点、そしてその場を共有しているという雰囲気が議論を有意義なものにするのかなと思いました。」

- 「ちょうど今朝、ポリコムのテストで3地点を結んだのですが、同じ画面上にいるという共通点はあるものの、Second Lifeでバーチャルでありながらも同じ場にいるのと、明らかに別の場所にいるのでは、会話をするときの距離感が違うと感じました。(SecondLifeのほうが近く感じて、同じ場にいるという感覚がありました)」

- 「一体のアバターが動くということが多くの可能性をもたらしてくれそうです。インターネットでは個人はあまり見ることができないので。」

 あとは、PCのスペックや通信速度の問題で、動きが粗く、反応も悪かったという感想もあった。それだけでなく、本体が異様に熱くなったりフリーズしてしまったりする人が数名いた。今後、このような場を設けるときには、参加者の参加環境についても意識しておくことが重要だということがわかった。

 このように、実際にセカンドライフ上でのゼミを行ってみると、いろいろなことを感じ、考えることができた。なかなか面白い試みだったと思う。

SeminarScreen


慶應義塾大学 SFC
総合政策学部/環境情報学部/政策・メディア研究科
井庭研究会1「理論と実践の社会研究:社会システム理論を究める」
担当:井庭 崇
ヴァーチャル世界の探険 | - | -
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