井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(4)

2010年11月27日に行なった特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”の最後に触れた「政策言語が行なおうとしているのは “道具による革命”だ」という話について、補足しておきたい。


道具による革命(Tool-Driven Revolution)

かつて、物理学者フリーマン・ダイソンは、科学革命には「概念による革命」(Concept-Driven Revolution)と「道具による革命」(Tool-Driven Revolution)の二つがあると指摘した。トーマス・クーンが『科学革命の構造』で取り上げた科学革命は「概念による革命」の方であったが、ここ5世紀ほどは「道具による革命」も多いのだという。

科学者が世界を観察するとするとき、日常的な理解よりも深いレベルで理解しようとする。直観的に理解できることもあるが、多くの場合は何らかの道具=手段が必要となる。顕微鏡があればミクロの世界を観察することができ、望遠鏡があれば遥か彼方の星の姿を観察することができる。

同様に、世界に関わり、実験を行なうときにも、何らかの道具立てが必要になる。そのため、新しい実験道具が開発されれば新しい発見につながることがしばしばある(詳しくは、以前のエントリ「Thing Knowledge (物のかたちをした知識) その1」および「… その2」を参照してほしい)。

このように、道具というのは僕らの認識や発見を支えている。ダイソンは、このような道具によって科学革命が起きることを、「道具による革命」と言ったのである(詳しくは、以前のエントリ「Imagined Worlds (科学の未来)」を参照してほしい)。

政策言語が行なおうとしているのは、まさに「道具による革命」である。政策を理解し、つくり、実践するための道具として機能するために、僕らは政策言語をつくろうとしている。

もちろん、「道具」といっても、政策言語は機器・装置という意味での道具ではない。それは、コトバを用いた構成物だ。「Context」、「Problem」、「Solution」で構成される言語(パターン・ランゲージ)なのである。

政策言語が「言語」であることを強調するのは、そこで記述されたコトバによって思考やコミュニケーションを支えるからである。そのためには、政策言語が実際の政策デザインのコツをうまく表現しているだけでなく、コトバとして使いやすい/使いたいと思わせることも重要だ。だからこそ、単に実践知を記述するというだけでなく、わかりやすく魅力的なコトバで表現するということが求められるのである。

政策言語という道具によって、政策デザインのあり方、開き方、質を向上させることができるかどうか。挑戦はまだ始まったばかりである。
パターン・ランゲージ | - | -

竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(3)

2010年11月27日に行なった特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”の冒頭で、竹中平蔵先生が「小泉内閣が発足したとき、メールマガジンとタウンミーティングのアイデアを出してくれたのが井庭さんだった」と、当時のエピソードを紹介した。

今回の対談は、いわば「政策デザインのイノベーション」がテーマだったので、「政治的コミュニケーションのイノベーション」の話をする時間がとれなかった。そこで、対談の補足として、この「政治的コミュニケーションのイノベーション」について書きたいと思う。


まず、そもそもの背景だが、小泉内閣が発足した当時は、森内閣の直後で、政治への不信が高まり、かつ、人々の関心度が薄れている状況だった。そこで、「政治のコミュニケーション」を変える必要があるのではないか、と考えた。つまり、政治家と一般の人たちとのコミュニケーションの新しいカタチを考えることができないか、と。そして、その「政治家と一般の人たちとのコミュニケーションの新しいカタチ」として、「内閣メールマガジン」と「タウンミーティング」のアイデアを提案した(僕がまだ博士課程の大学院生だったときの話)。

もう少し具体的に説明していくことにしよう。


1. コミュニケーションの新しいカタチ

僕ら一般人にとっては、普段、政治家の発言や振る舞いは、TVや新聞、雑誌などのマスメディアを通じてしか触れることはない。つまりマスコミのフィルターを通した情報が、いくぶん強調されたかたちで届けられる。多くの人は、そういう情報であると心のどこかではわかりながらも、情報をそのまま受け入れたり、話半分に受け取って残りを自分の想像力で埋め合わせたりしている。【Context】

そういう状況において、政治家が発言した言葉の全体や細部、意味やニュアンスなどを、僕らは本当には知らないまま、彼らへの印象や意見をもつことになってしまっている。これでは、政治に対してまっとうな評価などできないのではないか。【Problem】

そこで、政治家からの言葉を直接受け取れるようなメディア/場を設けるべきだと考えた。マスメディアを通さずに、直接に僕らに届くような、政治的コミュニケーションの新しいカタチ。こうすることで、政治に対する認識や関心を、取り戻すことができるのではないか。【Solution】

(その具体的なアイデアが、「内閣メールマガジン」と「タウンミーティング」ということである。)


2. 向こうからこちらに

それでは、「政治的コミュニケーションの新しいカタチ」を、どのように実現すればよいのだろうか? 当時、ブレア首相が政策についての自らの意見をホームページに書いているということで、話題になっていた。これも、首相の言葉が直接的に届く、政治的コミュニケーションのカタチだろう。【Context】

しかし、日本の場合は、そもそも政治への関心が薄まっているわけで、自分からわざわざホームページを見に行くというような積極性を期待することはできない。それではどうしたらよいのだろうか?【Problem】

「こちらから向こうに行く」のではなく、「向こうからこちらに来る」ような仕組みは実現できないだろうか。ITの言葉でいうならば、ユーザーが情報を取りに行くという「プル型」ではなく、向こうから情報が送られてくる「プッシュ型」の仕組みをつくる、ということである。こちらが向こうの世界に入って行くのではなく、向こうがこちらの世界に入ってくる。そうすることで、日常世界のなかに「政治」が視野に入ってきやすくなるだろう。【Solution】

(まさにこれこそが、「内閣メールマガジン」であり「タウンミーティング」であった。内閣メールマガジンでは、自分のEメールボックスに、友人からのメールや仕事のメールと同じように、首相からの(自分宛の)メールが届くことになる。タウンミーティングでは、自分が住んでいる町に首相や大臣が来て、それを家族や隣人と見に行くことになる。これが「向こうからこちらに」という意味である。)


3. 新しいメディアによる実現

こうして、「政治的コミュニケーションの新しいカタチ」を、「向こうからこちらに」という仕組みでつくるということまではわかったが、それは具体的にどのようなメディアで実現するのかを考える必要がある。【Context】

すでに書いたことだが、マスメディアというシステムは、話題性やニュース性があるものが取り上げられやすく、そうでないものはあまり取り上げられない。そうなると、せっかく新しい仕組みを実現したとしても、ほとんど普及しないということも十分あり得る。そういう状態に陥らずに、より多くの人に興味をもってもらうためにはどうしたらよいのだろうか?【Problem】

そのひとつの答えは、話題性があるような新しいメディアで実現するということだろう。まず、実現方法に話題性があれば、その情報はマスメディアに乗りやすい。その結果、多くの人に興味をもってもらい、広く普及すればするほど、その普及率は日々、ニュース性をもつことになるだろう。【Solution】

(このとき、企業などがユーザーに配信し始めていた「メールマガジン」というメディアを使うとよいのではないか、と考えた。今となっては、メールマガジンは新しくともなんともないが、2001年当時は、まさに「IT」(情報技術)に注目が集まり、ビジネス/生活の世界にどんどん拡大・普及している時代であった。ちょうど「IT立国」というような旗を掲げていたこともあり、ITを新しいカタチで使うというのは理にかなっている。「内閣メールマガジン」はこのような発想で生まれたのだ。)

以上のアイデアを、当時、大臣であった竹中先生に出し、それが間もなく実現することになった。僕自身は、アイデアを出しただけで、実装・運営等には関わってはいないのだけれども。(個人的には、メールマガジンの雰囲気が思ったよりもカタかったことと、タウンミーティングでヤラセ問題が出てきたりしたことが、少々残念ではある。)

まとめると、次の3つのパターンが合わさって、「内閣メールマガジン」と「タウンミーティング」のアイデアが生まれたといえるだろう。

1. コミュニケーションの新しいカタチ
2. 向こうからこちらに
3. 新しいメディアによる実現

僕がみるところでは、実は、鳩山由紀夫 元首相は、この「1. コミュニケーションの新しいカタチ」、「2. 向こうからこちらに」、「3. 新しいメディアによる実現」を、 twitter でやろうとしたのではないか。メールマガジンはもはや新しいメディアではなく、別の新しいメディアが必要であったし、それだけでなく、「新しい公共」を掲げる鳩山さんだからこそ、本来は twitter というメディアとの親和性も高かったはずだ。残念ながら、twitterらしいメディアの活用はなされなかったけれども。

以上で示したように、「政治的コミュニケーションのデザイン」もしくは「そのためのメディアのデザイン」についても、このようなパターン・ランゲージ化はできそうだ。しかも、それらは、広義の「政策言語」の一部として捉えてもよいかもしれない。


SFC「パターンランゲージ」特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”
対談:竹中 平蔵 × 井庭 崇
日時:2010年11月27日(土)3・4限(13:00〜16:15)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ(タウ)12教室

※ 当日の資料/映像は、SFC Global Campus の「パターンランゲージ」授業ページで一般公開されます(無料)。
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竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(2)

2010年11月27日に「パターンランゲージ」の授業で行った特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて” では、竹中平蔵先生のもつ政策形成の実践知を、「政策言語」(Policy Language)としてまとめることを試みた。

※ この対談の概要と制作のプロセスについては、記事「竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング」を参照してほしい。また、この対談の映像が、SFC-GC(Global Campus)で公開されているので、そちらも参照してほしい(第07回と第08回のところ)。


以下では、この対談で作成した「政策言語」のプロトタイプの内容について、具体的に紹介していくことにしたい(これらは、あくまでも内容や表現を洗練する前のプロトタイプである)。

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今回作成したプロトタイプは、全部で18個。まず、全体像は、以下のとおり。

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A リーダーシップ
1. リーダーのパッション
2. 過去を問うな(今をベストに)
3. 舞台の上での印籠
4. リアクティブからプロアクティブへ

B 開かれた政策
5. もめごとをつくれ
6. Policy Windowをひらく
7. シンプルな政策

C 政策のつくり込み
8. 大きなところで間違えるな
9. 具体的アジェンダ
10. 戦略は細部に宿る

D. 複雑性の縮減
11. ゴミ箱をひっくり返す
12. CPU(Communication Policy Unit)
13. ポリシー・ウォッチャー

E. 自律分散型社会
14. 現場の重視
15. 民間でできることは民間で
16. 民間でリスクを
17. 受益と負担の一致
18. 自助自立


次に、各パターンの内容を紹介することにしよう。対談の時に書いた走り書きなので読みづらいと思うが、現段階の記録として写真を掲載することにしたい。

政策言語の各パターンは、現段階では、その本質的な要素である「Context」、「Problem」、「Solution」から成り立っている。つまり、どのような状況(Context)においてどのような問題(Problem)が生じるのか、また、その問題をどう解決(Solution)すればいいのかが、セットになって記述されている。加えて、その内容を示す象徴的で覚えやすい「名前」(Pattern Name)がつけられている。

Slide3.jpg

パターンの作成にあたっては、「Context」を青、「Problem」を緑、「Solution」を黄色の紙に書いて色分けしながら記述していった。Contextは、他のパターンとの関係で決まるものなので、現段階では空白のままのものが多い。


A リーダーシップ
1. リーダーのパッション
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2. 過去を問うな(今をベストに)
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3. 舞台の上での印籠
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4. リアクティブからプロアクティブへ
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B 開かれた政策
5. もめごとをつくれ
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6. Policy Windowをひらく
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7. シンプルな政策
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C 政策のつくり込み
8. 大きなところで間違えるな
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9. 具体的アジェンダ
PL2010_seed9.jpg

10. 戦略は細部に宿る
PL2010_seed10.jpg


D. 複雑性の縮減
11. ゴミ箱をひっくり返す
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12. CPU(Communication Policy Unit)
PL2010_seed12.jpg

13. ポリシー・ウォッチャー
PL2010_seed13.jpg


E. 自律分散型社会
14. 現場の重視
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15. 民間でできることは民間で
PL2010_seed15.jpg

16. 民間でリスクを
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17. 受益と負担の一致
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18. 自助自立
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以上が、今回作成した政策言語のプロトタイプである。政策言語のイメージを少しでもつかんでいただけただろうか?


SFC「パターンランゲージ」特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”
対談:竹中 平蔵 × 井庭 崇
日時:2010年11月27日(土)3・4限(13:00〜16:15)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ(タウ)12教室

※ 当日の資料/映像は、SFC Global Campus の「パターンランゲージ」授業ページで一般公開されます(無料)。
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イベント告知「不可視のパターンランゲージ」(池上高志 × 岡瑞起 × 井庭崇)

来週の12月11日(土)の「複雑系の数理」の授業では、池上 高志さんと岡 瑞起さんをゲストにお呼びして、対談を行います。

池上 高志 × 岡 瑞起 × 井庭 崇 「不可視のパターンランゲージ」
日時:2010年12月11日(土)3・4限(13:00~16:15)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ(タウ)11教室


池上さんは、人工生命の研究に取り組む複雑系研究者で、『動きが生命をつくる:生命と意識への構成論的アプローチ』という知的刺激に満ちた本の著者でもあります。「つくって理解する」という構成的理解を、コンピュータ・シミュレーションや、実際の物質、芸術などを通じて実践しています。かつてから僕が刺激を受けてきた複雑系研究者のキーパーソンです。

岡 瑞起さんは、東京大学 知の構造化センターの pingpongプロジェクトのリーダーです。pingpongプロジェクトでは、行為の観点からデザインを構造化することを目指し、その手段として言語が用いられているようです。そして、人をセンサーにして環境を読み取ることで「動く地図をつくる」、ということに取り組んでいるそうです。

先日、pingpongプロジェクトの李明喜さんと、雑誌『思想地図β』創刊号の座談会でお話しする機会があったのですが、どうやら「パターン」や「パターンランゲージ」という概念の捉え方や取り込み方が、僕とは異なるようです。そして、僕の研究会では「動きの地図をつくる」(Mapping the Dynamics)というテーマで研究をしていますが、これは、pingpongの「動く地図をつくる」と一見近そうに見えるけれども、やはり根本的なところで目指すところが違うようです。

今回は、pingpongプロジェクトの紹介をしていただけるということなので、この機会にその差異がどこにあるのかを明らかにし、それぞれの特徴を理解したいと思います。

そして、池上さんには「パターンの不可視性」というテーマで語っていただけるということなので、どのような話になるのか、今から楽しみです。


この対談イベントは、授業の一環として行われますが、履修者以外の聴講も歓迎しますので、興味がある方はぜひお越し下さい。

なお、この対談については、現在のところ、映像配信の予定はありません(この対談は、タイトルに「パターンランゲージ」とありますが、「パターンランゲージ」の授業の一環ではなく、「複雑系の数理」の授業での開催となります)。

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イベント告知 「創造と想像のメディア」(江渡 浩一郎 × 井庭 崇 対談)

来週の12月9日(木)の「パターンランゲージ」の授業では、江渡浩一郎さんをゲストにお呼びして、対談を行います。

江渡 浩一郎 × 井庭 崇 「創造と想像のメディア」
日時:2010年12月9日(木)4限(14:45~16:15)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ(タウ)11教室


江渡さんは、産業技術総合研究所で研究員をされているメディア・アーティストで、最近は『パターン、Wiki、XP ̶ 時を超えた創造の原則』という本の著者としても有名です。この本は、パターンランゲージの考案者であるクリストファー・アレグザンダーの思想の変遷と、そこから影響を受けたWikiシステムやソフトウェア開発手法のXP(エクストリーム・プログラミング)との関係を初めて明解に説明したという点で、この分野に大きな貢献をしました。

今回は、江渡さんのこれまでの作品を振り返りながら、いろいろお話を伺いたいと思います。僕からも、現在構想中の「創造システム理論」(Creative Systems Theory)を紹介し、それらを踏まえて、オープンなコラボレーションによる創造や、創造を支援するメディアの構築について、一緒に考えていきたいと思います。

授業の一環として行われますが、履修者以外の聴講も歓迎しますので、興味がある方はぜひお越し下さい。なお、当日の映像/資料は、後日、SFC-GC上で公開予定です。(とはいえ、映像ではなく、その場を共有するということは、ひと味違う体験となると思うので、ぜひ会場でお会いしましょう!)

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竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング

先週の土曜日(2010年11月27日)、僕の授業「パターンランゲージ」に竹中平蔵先生をお呼びして、対談を行った。タイトルは「政策のパターンランゲージに向けて」。授業時間2コマぶち抜きの3時間対談だ。

対談といっても、何か具体的な社会・経済のイシューについて議論するタイプの対談ではない。その場でひとつの「創造」を行ってみよう、という実にユニークな形式の対談である。

もう少し具体的にいうと、竹中先生に政策デザインについて自らの経験や考えをお話ししていただき、僕がそれをまとめていく。つまり、竹中先生が「素材」を提供し、僕がそれを「料理」するという、即興的コラボレーションなのだ。オーディエンスは、その場に立ち会い、ときにその創造に参加する。

事前打ち合わせや準備なしで、本当にその場でつくっていく。だから、本当に時間内にできるかどうか、非常にチャレンジングな試みであった。


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この対談で、僕らは何をつくったのか?

それは、僕が「政策言語」(Policy Language)と呼ぶものだ。専門的な言葉で言うと、「政策デザインのパターンランゲージ」。政策をデザインするときの問題発見と問題解決の知を言語化したものである。

「政策言語」という言葉は、僕がつくった言葉である。「政策パターン」という略し方も考えられるが、いくつかの理由があって、「政策言語」と略すことにした。その理由とは、「パターン」という言葉が専門外の人には強すぎる(「ワン・パターン」とか「固定的」なイメージが強い)という理由と、ここで強調したいのが「言語」性だという理由である。


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政策言語という新しい言語をつくる動機は、何だろうか?

それは、政策のデザインに必要な考え方のビルディングブロックを明示することで、政策をつくるプロセスを開いていきたいということだ。

現在、日本では、政策をつくっているのは、ごく一部の人たちに限られている。それ以外の人々は、政策について評価し、批判したり肯定したりすることぐらいしかできない。

そのような状況に陥った理由はいろいろあるだろうが、ここで僕が注目したいのは、政策デザインのための「道具」(ツール)の不在である。

このような背景から、「政策言語」という「政策デザインのための新しい道具」を提案し、実際にそのプロトタイプをつくってみよう、と考えたわけだ。


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それでは、政策言語では、何を言語化するのだろうか?

政策言語における各要素(パターン)には、二つの知識が埋め込まれている。まず第一に、どのような状況(Context)において、どのような問題(Problem)が生じるのか、という知識。そして第二に、その問題(Problem)をどう解決(Solution)すればよいのか、という知識。

政策をデザインするとはどういうことかを突き詰めていくと、その本質は、状況から問題を発見をし、その問題を解決することであるとわかってくる。それゆえ、政策言語では、「状況→問題」と「問題→解決」の両方を記述することになる。


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今回の対談では、まず、竹中先生に小泉内閣での経験を振り返っていただき、どのようなことが重要なポイントであったかを自由に語ってもらった。それを、僕が、状況/問題/解決のフレームに落としながら、書き出していった。


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その後、それらの要素(パターンの種)の関係性を考えていく。壁一面のホワイトボードをつかって、「感覚的に近い」要素同士を近くに配置していく。逆に「遠い」と思うものは遠ざける。何度も何度も貼り直しながら、要素間の関係をあぶり出していく(これらはKJ法の考え方/やり方に通じている)。

決して、トップダウンに「これは政策形成プロセスについてのもので、これは情報共有の話で・・・」というようなに既存の枠にはめていってはいけない。ここでやりたいのは、すでに持っているフレームに当てはめることではなく、今まで想像していなかったような、新しい関係性/新しいフレームワークを発見することなのだから。


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この関係性づくりのフェーズには、オーディエンスにも参加してもらい、一緒に悩み、考えた。要素が少ないこともあり、作業は難航したが、なんとかまとめることができた。

不思議なもので、関係性を考えるということは、全体像を模索しているように見えて、実は各要素の理解を深めるということでもある。そうなるのは、「全体は部分から成り立つが、部分は全体から影響を受ける」という循環構造があるからだ。だから、ここでやっている作業というのは、諸要素の空間的な配置替えをしながら、その循環構造に迫っていくということなのである。


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こうして、最終的には、政策言語の要素18個と、それらの関係性を紡ぎだすことができた。もちろん、これらは政策言語のほんの一部の要素にすぎず、しかもプロトタイプでしかない。今後、さらに要素を加えていくとともに、すでに出てきたものについてはブラッシュアップをしていきたい。


このようにして、今回の対談では、政策デザインのパターンランゲージである「政策言語」の考え方を提案し、そのプロトタイプをつくることができた。僕自身、かなり手応えがあったし、竹中先生にもかなり気に入っていただいたようだ。

今回の試みは、ステージでやっている本人としては「本当に時間内にできるのか」とドキドキであったが、無事できて本当によかった。竹中先生、どうもありがとうございました! そして、参加してくれたみんな、ありがとう!


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SFC「パターンランゲージ」特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”
対談:竹中 平蔵 × 井庭 崇
日時:2010年11月27日(土)3・4限(13:00〜16:15)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ(タウ)12教室

※ 当日の資料/映像は、SFC Global Campus の「パターンランゲージ」授業ページで一般公開されます(無料)。
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これから数ヶ月、ゲスト講演・対談が目白押し!

これから数ヶ月の間、僕の授業ではゲスト講演・対談が目白押し。知的な刺激をたくさん、どうぞ! (どれも授業の一環として開催しますが、履修者以外の聴講も歓迎です。)

以下に、その予定をまとめておきます。

■ 竹中 平蔵 × 井庭 崇 「政策のパターンランゲージに向けて」
日時:2010年11月27日(土)3・4限(13:00~16:15)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ(タウ)12教室
※SFC「パターンランゲージ」の一環。当日の映像はSFC-GCで後日公開予定。

■ 江渡 浩一郎 × 井庭 崇 「創造と想像のメディア」
日時:2010年12月9日(木)4限(14:45~16:15)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ(タウ)11教室
※SFC「パターンランゲージ」の一環。当日の映像はSFC-GCで後日公開予定。

■ 池上 高志 × 井庭 崇 「動きを捉える。動きをつくる。」
日時:2010年12月11日(土)3・4限(13:00~16:15)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ(タウ)11教室
※SFC「複雑系の数理」の一環。

■ 松川 昌平 × 井庭 崇 「計算可能性/不可能性とデザイン」(遠隔対談)
日時:2011年1月13日(木)2限(11:10~12:40)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) ε11教室
※SFC「複雑系の数理」の一環。
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特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”(竹中 平蔵 × 井庭 崇)

来る2010年11月27日(土)、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)にて、以下の特別対談を行います。

SFC「パターンランゲージ」特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”
対談:竹中 平蔵 × 井庭 崇
日時:2010年11月27日(土)3・4限(13:00〜16:15)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ(タウ)12教室


対談のテーマである「パターンランゲージ」は、“生き生き”とした町をボトムアップにつくるための実践知を把握・記述する手法として、建築デザインの分野で提唱された方法です。この方法は、後にソフトウェアデザインや組織デザイン等、さまざまな分野に応用されています。このような応用・展開が可能だったのは、パターンランゲージの方法が、広義の意味での 「デザイン」(問題発見+問題解決)の知 を扱う方法だったからです。

この対談では、「デザイン」(問題発見+問題解決)の知を把握・記述する「パターンランゲージ」の方法を、社会や政策のデザインに活かす道を模索します。つまり、自分たちで自分たちの“生き生き”とした社会をデザインするための方法として、あるいは、そのような社会状況を実現するための政策をデザインするための方法として、パターンランゲージの考え方を応用することの可能性を考えます。

対談では、パターンランゲージとはどのような方法なのかという説明から始め、その背後にある社会観や、政策づくりの実際、今後の社会・政策づくりにおいて考えるべきことについて、方法論者の井庭崇と、実践経験をもつ経済政策学者の竹中平蔵が、3時間じっくり話し合います。授業「パターンランゲージ」の一環として開催されますが、履修者以外の聴講も歓迎します(事前登録等はありません。当日定員オーバーの場合には、履修者優先とさせていただきます。ご了承ください)。

竹中 平蔵
慶應義塾大学総合政策学部教授。同大学グローバルセキュリティ研究所所長・大学院メディアデザイン研究科教授。専門は経済政策。小泉内閣時代に、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣を歴任。著書に『「改革」はどこへ行った』、『闘う経済学』、『構造改革の真実』、『経済ってそういうことだったのか会議』、『経世済民:経済戦略会議の180日』、『対外不均衡のマクロ分析』、『研究開発と設備投資の経済学』など多数。

井庭 崇
慶應義塾大学総合政策学部准教授。同大学院政策・メディア研究科委員。専門はシステム理論と方法論。創造性、複雑系、オートポイエーシス、パターン・ランゲージ、ネットワーク分析、シミュレーションの研究・教育に従事。 SFC発のパターン・ランゲージである「学習パターン」を制作。著書に『複雑系入門』、共著に『ised 情報社会の倫理と設計』、『創発する社会』、『総合政策学の最先端 第IV巻』等。


なお、今回の対談を含む授業の全回が、SFC-GC(Global Campus)にて映像配信されています。直接会場に来ることができない方は、後日こちらの映像をごらんください(中継ではなく、数日後からの配信となります)。

SFC-GC 「パターンランゲージ」授業ページ
http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/class/class_top.cgi?2010_25136

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『10+1 web site』に論文を書きました

建築系のオンライン雑誌『10+1 web site』に論文を書きました。

「自生的秩序の形成のための《メディア》デザイン──パターン・ランゲージは何をどのように支援するのか?」(井庭 崇)


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今回の論文は、僕らのつくった「学習パターン」(Learning Patterns)の話から、教育と建築における問題の共通性について、そして自生的秩序の形成についての話から始まります。そのうえで、自生的秩序の形成を支援するメディアとして、パターン・ランゲージを取り上げ、それがどのように秩序形成に寄与するのかを考察していきます。

社会と思考の自生的秩序については、ニクラス・ルーマンの社会システム理論にもとづいて考察します。そして、創造における自生的秩序については、現在僕が構想中の「創造システム理論」(Creative Systems Theory)にもとづいて考えます。自分が今構想している最中の理論によって考察するということで、とても大胆かつチャレンジングな試みです(笑)。

創造システム理論というのは、創造のプロセスをオートポイエーシスの概念で捉えるというものです。つまり、創造は、心理的ななにかではなく、ひとつのオートポイエティックなシステムだ、と捉えるわけです。ルーマンが、「社会」を主体から離して定義したように、僕は「創造」を主体から離して定義します。心理学や認知科学の観点からの研究が多い「創造性」(クリエイティビティ)研究のなかではかなりラディカルな理論だと言えるでしょう。分量の制限や文脈の制約で、まだ理論の一部しか示せていませんが、創造システム理論について書くのは初めてなので、この部分はひとつの目玉です。

もう一つの目玉としては、オートポイエーシスの概念について、わかりやすい図を交えて説明しているという点です。図も説明の仕方も、自分なりに今回新たにつくり出したものです。

このように、今回の論文は、全体的にオリジナリティの高い内容になっていると思います。みなさん、ぜひ読んでみてください(感想などお待ちしています)。


今回の特集テーマは「きたるべき秩序とはなにか──システム、パターン、アルゴリズム」ということで、ほかには、濱野智史さんと柄沢祐輔さんが書いています。濱野さんの論文は、彼がこれまで論じてきた内容とうまく絡んでいてなかなか面白い。柄沢さんの論文は、彼が最近アルゴリズム建築としてつくった住宅の話が紹介されています。可能性としての手法の提案ではなく、実際に建築物をつくっているところがすごい。

たまたまなのか、編集者の方の意図なのかはわかりませんが、3人とも慶應義塾大学SFCの出身です。それぞれ異なる方向性に進みながら、このような場でまた交わることができるというのは、うれしいことです。


『10+1 web site』(http://tenplusone.inax.co.jp/)
2009年9月号
特集:きたるべき秩序とはなにか──システム、パターン、アルゴリズム

  • 「自己組織化は設計可能か──スティグマジーの可能性」
    (濱野智史  株式会社日本技芸リサーチャー/情報環境研究者)

  • 「自生的秩序の形成のための《メディア》デザイン──パターン・ランゲージは何をどのように支援するのか?」
    (井庭崇 慶應義塾大学総合政策学部/MIT)

  • 「アルゴリズム的思考と新しい空間の表象」
    (柄沢祐輔 建築家)
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    井関利明先生をお呼びして、対談を行います。

    来る2008年12月13日(土)、元・慶應義塾大学総合政策学部長で、現在、慶應義塾大学名誉教授の井関利明先生をお招きして対談を行います。学問分野の枠を超えた、超領域的な研究・思想や、現代社会の潮流などについてのお話ししたいと思います。この対談は、授業「モデリング・シミュレーション技法」(担当:井庭崇)の一環として行われるものですが、聴講も歓迎ですので、興味がある方はぜひお越しください。

    対談「新しい時代の知と方法の原理を探る」
    2008年12月13日(土)3・4限 @大学院棟τ11教室

    井関 利明先生 (慶應義塾大学名誉教授, 元・総合政策学部長)
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    井庭 崇 (慶應義塾大学総合政策学部専任講師)

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    井関 利明先生 略歴
    1959年慶應義塾大学経済学部卒業、1964年同大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士(慶應義塾大学,1979年)。米国イリノイ大学留学、慶應義塾大学産業研究所所員、同文学部教授を経て、1990年より同総合政策学部教授。同総合政策学部長、千葉商科大学政策情報学部学部長を歴任。慶應義塾大学名誉教授。専門分野は、行動科学、科学方法論、政策論、マーケティング論。
    主な著書に、『消費者行動の理論』(共編著,1969),『消費者行動の分析モデル』(1969),『消費者行動の調査技法』(1969),『ライフスタイル発想法』(1975),『福祉志向の論理』(1976),『労働移動の研究: 就業選択の行動科学』(1977),『ライフスタイル全書』(1979),『生活起点発想とマーケティング革新』
    (1991)、『ワインは時を語る:アート、ビジネス、思想をめぐる6つの対話』(対談, 2001)など多数。


    本対談に関係が深い論考には、以下のものがあります。

  • 井関 利明, 「ディジタル・メディア時代における「知の原理」を探る: 知のStrategic Obscurantism」(『メディアが変わる知が変わる:ネットワーク環境と知のコラボレーション』, 1998)

  • 井関 利明, 「『創発社会』の到来とビジネス・パラダイムの転換」(『創発するマーケティング』, 2008)
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