井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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SFCの履修選抜問題と、「実践を伴う授業先取り選抜課題」という方法

SFCでは、学年進行による科目履修制限がない。つまり、1年生から4年生まで好きなタイミングで取りたい科目を履修できる仕組みになっている。そんな仕組みは、他の大学・学部ではまずありえないし、自由度が高くて僕はよいと思っている。

しかし、そのため、取りたい科目の希望者が多ければ、履修選抜に勝ち残らなければならない。僕の授業はどれも(しっかり取り組むことを学生の間でも知られていることもあり)熾烈な履修選抜の状態にはない。思うに、履修選抜で学生の不満がたまっているのは、楽単科目についてではないかと思う。もちろん、なかには楽ではないが魅力的で人気の授業もある。そういうのは昔からあり、まあ、一定人数(それでも100人とか200人とか)しか取れないのは、仕方ない。それは最近始まったことではなく、以前からあることである。

抽選による選抜なんかは、よくない仕組みだと思うが、履修者500人の枠にたくさん来たら、現実的には、履修選抜課題を読むのも大変すぎて、現実的ではない。そんなこともあり、僕はそういう大人数すぎる科目はやめた方がいいと思っている。

それとは別の話として、学生の間で不満があるのは、履修選抜で通った人にも実際には履修しない人がいるということである。選抜で落ちる科目があるかもしれないリスクがあるので、多めに選抜課題を出すのは、ある意味合理的な判断だ。そこを責めるのは酷である。しかし、その結果、取りたいのに履修選抜で落ちた人がいる一方で、選抜に通ったのに実際には履修しないという人が出てしまう。

そういうことになれば、当然文句も言いたくなる。これは、僕は、履修選抜の仕方の問題だと思う。だいたい、慶応SFCの学生となれば、履修志望理由なんて、本心では思っていなくても、それなりに説得力のあるものを書いてくる。だから、履修選抜に、志望理由を書かせても、だいたいみんなよいという評価になる。そういうのは、よい履修選抜だとは言えないだろう。

もっと工夫をした履修選抜にする方がいいんじゃないかと思う。このあと、書くが、実践を伴う授業先取り選抜課題である。これは、授業の内容を理解することにも役立つし、授業でやることを楽しめそうかのセルフチェックにもなる。そして、そういう履修選抜は、本当にやる気がないとやろうと思えないという意味で、こちらがわざわざ選抜しなくても、自然淘汰型で履修選抜提出者がそこそこに減る。そういう方法だ。

僕の考えるソリューションは、「実践を伴う授業先取り選抜課題」というものだ。授業で行うことを、前出しで実践してもらい、それを履修選抜課題とするのだ。

授業の履修について、最も残念なのは、「こういう授業だったなんてわかってなかった」というミスマッチングで、これは学生はやる気はないし、教える側もそういう相手に教えるということで、よいことはない。シラバスにそう明記してあっても、そういう学生は少しいる。

この「実践を伴う授業先取り選抜課題」をやれば、そういう学生はいなくなるだろうと思う。なぜなら、授業でやることを先に少し経験してから履修することになるからだ。

しかも、指定された実践をしなければならないので、とりあえず志望理由をうまく書いて出しちゃう、みたいなことはできなくなる。実践しなければならなくなるからだ。これは、僕は、クックパッドのアーキテクチャから学んだ。クックパッドでは、「つくれぽ」というのがある。あれは、レシピに対して、自分が実践した報告を、そのレシピにつけるというものである。実践しなければ書けないため、冷やかしや誹謗中傷みたいなことにはなりにくい。これは、ブログのコメント欄やtwitterなどとは大きく異なるところだ。そういう場では、言葉上では何でも言えてしまうので、偉そうに語ったり、ひどいことを書いたりすることも簡単にできてしまう。そうならないための方法が、自らの実践を伴うコメントしか許さないというアーキテクチャだと、「つくれぽ」を見て僕は気づいた。

履修選抜も、さほど思ってもいないのにそれらしく書くということが、実践を伴う履修選抜課題であれば、しにくくなる。しかも、やってみて、面白ければ履修すればいいし、面白いと思えなければ、そもそも履修選抜課題を途中で放棄するか、出さなくなるだろう。

そういう意味で、このやり方であれば、こちらがわざわざ選抜しなくても、履修希望者側が、自分で取りやめるので、自然淘汰のように、そもそもの履修希望者数が減る。そうなれば、定員に最初から収まるか近づくということが実現できる。やるべきことは、あまりにもちゃんとやっていないものを取り除くのと、相対的に質のよくないものを抜くということだけだ。

現在の履修選抜は、教員が履修許可の人を選ぶ、という向きが強すぎると思う。もっと、学生が本当に自分で選ぶということをやれるような課題にした方がいい。ちょっと大変でも、授業そのものが同じように大変なので、それを知った上で、履修希望を出した方がいい。

そんなわけで、僕は、「実践を伴う授業先取り選抜課題」となるような課題を設定している。

今年春学期の僕の授業の選抜課題は以下のような感じだ。

「創造社会論」では、授業で毎週出る宿題と同じようなものを体験してもらう課題にした。

【履修選抜課題】「創造社会論」
受入学生数(予定):約 100 人
選抜方法:課題提出による選抜

(1)次のページに、これまで4年間のこの授業の対談映像のリンクがあります。どれでもよいので、好きなテーマのどれか1回分(前半・後半)を見て、対談(ダイアローグ)型の授業というのはどういうものかを理解してください。その上で、自分がどの回を見たのかを明記して、それを見て考えたことや感想を書いてください(この授業では、これと同じように、その回の対談に参加して考えたことや感じたことを提出する宿題が、毎週出ます)。
http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/sb/log/eid500.html
(2)この授業を通じて学ぶことはどのようなことだと考えている(予想している)か、そして、それを自分の今の活動や今後にどのように活かしたいと考えているかを書いてください。

シラバス(http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/sb/log/eid533.html)より


「創造システム理論」は、次のように、授業で取り組む「ゆるい創造実践」とはどういうことかを体感してもらう履修選抜課題にした。

【履修選抜課題】「創造システム理論」
受入学生数(予定):約 100 人
選抜方法:課題提出による選抜

自分を表現する「自撮り動画」を撮影し、魅力的な自己紹介をしてください。動画は30秒以内とし、YouTubeに限定公開設定でアップし(各自アカウント取得が必要です)、そのURLを提出してください。
”魅力的”という表現の解釈は自由です。ただし、単に個人の容姿や声色を評価するものではありません。また、動画そのものの画質や編集・加工技術を評価するものではないので、 特別なカメラ機材などを仕様する必要もありません。スマホ撮影で十分です。
30秒という時間の中にどのような言葉、表情、しぐさ、背景、物語を織り込むと”魅力的”に自分を表現することができるのか、ぜひ工夫を凝らしてみてください。
これは履修選抜課題ですが、この課題を楽しむことができるということが一種の選抜(Natural Selection)になっていると言えるでしょう。ここから、あなたの「ゆるい創造実践」は始まっているのです。

シラバス(http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/sb/log/eid534.html)より


最後に、「パターンランゲージ」の授業。この授業の履修選抜の課題では、今年度のグループワークのテーマ(複数あり選択できる)を掲げ、具体的にどういうグループワークをやるのかをイメージできるようにしました。その上で、テーマを事前に選んでもらうことで、こちらがグループを組むのを早めることにしました。従来は、初回に表明してもらい、時間をかけてグループを決めましたが、授業時間がカツカツで7週間に収まり切らない悩みがずっとあったので、テーマ選択を前出しして、時間確保も重ねて狙いました。

【履修選抜課題】「パターンランゲージ」
受入学生数(予定):約 100 人
選抜方法:課題提出による選抜

この授業では、選んだテーマのパターン・ランゲージをつくるグループワークを行います。授業時間外にグループにメンバーでしっかりと時間をとって取り組む必要があります。そのことを十分理解した上で、以下の履修選抜課題に取り組んでください。
今年は、以下の9つのテーマでグループワークを行う予定です。

グループワークで作成するパターン・ランゲージのテーマ一覧
(1) グループワークをよりよくするリーダーシップ
(2) SFCのFab環境の活かし方・学び方
(3) SFCでうまく「研究」生活をおくる秘訣
(4) 数足のわらじの履き方(複数のコミュニティ・活動をしっかりやり抜く)
(5) 一人暮らしで料理をしつづけるコツ
(6) 好きなことの突き詰め方
(7) 研究会のよりよい選び方
(8) 外国語の習得と活かし方
(9) よりよいノートの取り方

【課題1】上記の9つのなかから、グループワークで自分が取り組みたいと思うテーマを選び、その番号とテーマ名を明記した上で、それにまつわる自らの経験・秘訣について、書いてください。テーマを選ぶ際には、自分がそのテーマの実践に日頃から親しんでいるか、ある程度知っているということが重要になります。興味があるものが複数ある場合には、「第一希望」、「第二希望」などを、明記してください。なお、このエントリーの情報に基づいて、こちらでグループを決め、初回に発表します。

【課題2】自分が取り組むテーマ以外で、経験があり、自分が大事だと思うやり方・コツについて語ることができるテーマを、上記の9つのなかから挙げてください(該当するものすべて)。 履修選抜レポートでは、自分が語ることができるテーマの番号とテーマ名を挙げ、どのようなことが語れそうか(経験や秘訣)、ごく簡単に書いてください。ここで挙げてもらった情報を踏まえ、そのパターンをつくっているグループからインタビューを受けてもらう可能性があります。

以上、(1)と(2)を両方入れた履修選抜レポートを、PDFファイルで提出してください(WordやPagesでPDF保存・PDF出力で作成できます)。

シラバス(http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/sb/log/eid538.html)より
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「名づけ得ぬ質」と「巡回」と沈黙:『仏教が好き!』を読んで

河合 隼雄さんと中沢 新一さんの『仏教が好き!』、いまの僕には、めちゃくちゃ面白かった。
宗教を俯瞰してみたときに、仏教的な思考がこれからの世界にとって重要となるということがわかったし、自分がこれまで何をやってきて、これから何をやるべきなのかということを考えることができて、とても勉強になった。

なかでも最も「おおおおー!」となったのが、以下の部分。

「ブッダが『空』と言っていることは言語化不能であるというのが原則なんですね。密教だけではなくて、『般若経』でも、『言説不能、言葉で言うことは不能、だけどこれは確実に、肯定的に、ある』と言われます。」(中沢, p.185)

「ユングがよく使う言葉がありまして、英語で circum ambulation、『巡回』という意味です。僕の好きな言葉なのですが、結局、中心には入れないということなんですよ。われわれはまわりをめぐるだけ。まわりを何度も何度もめぐることによって、いわば中心に思いをいたすなり、中心を感じ取るなりということはできるけれども、中心に入ることはできない。僕もそのように思っているわけです。」(河合, p.186)

「すべて比喩で回転しつづけているけれども、その中心部には言葉の能力をもっては踏み込めない部分があるということなんでしょうね。」(中沢, p.187)

「おそらくぐるぐる回っているうちに体験としてはある、ということなんでしょう。」(河合, p.187)


これはまさに、アレグザンダーが目指した質が言語化不可能であるとして「名づけ得ぬ質」と呼んだことに通じるし、僕らがパターン・ランゲージをつくり実践知に対して言語を当てることは、「実践知を記述する」ことではなく、あくまでも、直接は表現できない実践知を指し示す言葉をもつことで意識して実践することができるきっかけをつくり、「巡回」するためである、という僕の感覚に通じる。

この箇所で、ヴィトゲンシュタインとハイデガーについて語られたところを読んで、興味深いことに気付いた。

「『言葉にならないものは沈黙しなさい』というヴィトゲンシュタインのような哲学者もいる。われわれのできることはせいぜい言葉でまわりをめぐることで、中心の言葉にならない領域に関してはもう『黙れ』と。そのとき、ヴィトゲンシュタインはどこにいるのでしょう。彼の心は、この中心にいまあす。ただ、そこについては黙ろうとしている、黙らなくてはいけないという認識をもたらすものがある。」(p.188)


「ハイデッガーが「存在」とか言うじゃないですか。『在る』とか。あれは言ってみれば真ん中のすぱんと抜けたところを『在る』と言っているわけですよね。」(中沢, p.187)

「ところがわれわれは『存在』ではなくて『存在者』だから、まわりをぐるぐる回っているに過ぎないものなのに、中心部には『在るが在る』というふうに彼は言うわけですね。何でそのことをみんな驚かないのかと。」(中沢, p.187)

「『私』はその『在る』の中心部にいる。彼は踏み込む。そこからいろいろな言葉が紡ぎだされて来る、その中心点から、あの独特の言葉と思考がつぎつぎと湧き出てくる。」(p.188)


クリストファー・アレグザンダーは、『時を超えた建設の道』では、質そのものについては沈黙した(質を生成するパターンについては語った)という意味でヴィトゲンシュタイン的であり、『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』では、その質に踏み込んで語った(センターとその関係性を捉えた15の基本特性)と言う意味で、ハイデガー的であるといえるだあろう。『時を超えた建設の道』から『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』へのアレグザンダーの変化は、ヴィトゲンシュタインからハイデガーへ、ということで捉えられるのかもしれない。

ヴィトゲンシュタインとハイデガーは、僕にとって、気になる存在ではあったが、なかなか切り口がつかめないでいたが、ひとつよい切り口を見つけたと思った。井筒俊彦やホワイトヘッド、ベイトソンなどとともに、読んだり、再読したりしたい。

ずっと気になってた中沢さんの他の本も読みたいし、発見と知的好奇心を刺激される一冊だった。

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河合 隼雄 ,‎ 中沢 新一, 『仏教が好き!』, 朝日文庫, 朝日新聞出版, 2008
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