井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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ルール/制度/やり方の再設計のメディアとしてのパターン・ランゲージ

僕が最近感じている、新しいパターン・ランゲージの意義は、(組織/コミュニティ/社会 における)「これまでの ルール/制度/やり方/こだわり を踏まえて再設計するための方法論」として使えるということ。


ある組織/コミュニティ/社会 において、既存のルール/制度/やり方/こだわり は、ふつうそれだけが継承されるが、その結果、後に(引き継いだ世代で)形骸化し、改変もできなくなることが多い。

世代を超えるときに形骸化しやすいのは、なぜそのような ルール/制度/やり方/こだわり になったのかという「設計意図」が、忘れ去られてしまうからである。

ルール/制度/やり方/こだわり は、本来コンティンジェントなものであり(別様でもあり得た)、そのなかのあるひとつの形(具体的なルール/制度/やり方/こだわり)になるのかは、なんらかの意思決定や経緯によって「選択」された結果である。

その選択に関わった人(意思決定をした人やその経緯を知っている人)が、その組織/コミュニティ/社会からいなくなってしまうと、ルール/制度/やり方/こだわり の設計意図がわからなくなる。こうやって、あとは、ただただそれらを継承するということになりがちになる。

そういう状況になると、その形骸化が問題だと考える人が出てきても、それを「捨てるか/残し続けるか」という二者択一になりがちで、実際には捨てることはできずに身動きがとれなくなる。そうして、形骸化した過去の ルール/制度/やり方/こだわり が残り続ける。

こういうことが、いま、日本でも広く起こっていることなのではないか。戦後、高度経済成長時代につくられてきたあらゆる ルール/制度/やり方/こだわり が形骸化し、おかしくなって、軋んでいるのに、それを変えるための適切な方法がない状態 のように思える。


このような現状において、組織/コミュニティ/社会 における ルール/制度/やり方/こだわり を、パターン・ランゲージとして書いていくと、これまでを踏まえた再設計ができるようになるのではないか。これが、最近僕が感じている、パターン・ランゲージの新しい意義。

つまり、ルール/制度/やり方/こだわり ごとに、それらが解決しようとしている「問題」を明文化し、そしてその問題が生じる「状況」や、問題の背後に働く力「フォース」を明らかにする(これらはパターン・ランゲージの主要要素)。

そうやって、パターン・ランゲージの形式で書いていくことによって、個々の ルール/制度/やり方/こだわり が何のためのものであるのか(設計意図)が明らかになり、それらについて議論したり、扱ったりするのが容易になる。

特に、パターン・ランゲージの強みである「記述単位の小ささ」(モジュール性)が重要で、再設計をする際に、これは捨てて、これを残し、この部分のここを変える、というような取捨選択が可能になる。また、個別の検証を並行してい行うことも可能になる。

日本社会、そしてあらゆる組織が、今後さらに、これまでの ルール/制度/やり方/こだわり を踏まえながらも、新しい ルール/制度/やり方/こだわり のデザイン(再設計)をするということに取り組まなければならなくなるだろう。それを、パターン・ランゲージという方法で支援したい。

それが、僕の考える(組織/コミュニティ/社会 における)「これまでの ルール/制度/やり方/こだわり を踏まえて再設計するための方法論」としてのパターン・ランゲージということ。


なお、これまでの話は、誰かが意図的に設計したもの(ルールや制度など)でなくても、自然発生的にそうなったもの(文化)も対象となり得る。つまり、結果としてうまくいっているから共有され、残ってきたものでも構わないということ。

そういった(組織/コミュニティ/社会)の「文化」についても、それがどのような機能を果たしているのか、ということを考えることで、パターン・ランゲージとして書くことができるはず。

建築家であり、アレグザンダーに師事した中埜博さんも、ルース・ベネディクトの『菊と刀』はパターン・ランゲージ的である、と言っている(パターン・ランゲージの形式やパターン名がついていないのでパターン・ランゲージではないが)。そして、パターン・ランゲージは、文化を記述するのに適している、とも。

このように、誰かが意図的に設計したものであっても、自生的に形成され残ってきたものであれ、パターン・ランゲージとして書き起すことができ、それらを並べて、今後どのように行くべきかを考える(再設計する)ことができるのではないか。


これらはすべて仮説だけれども、現在、動き始めているいくつかのプロジェクトで、このような発想の取り組みをし始めているので、そこでの実践を踏まえて、さらに考えていきたい。

このような発想は、現場との共同研究のための話し合いで生まれてきた。そして、あちこちで似たような感触を感じる。今後も、いろんな人と、話し、考え、つくっていきたい。
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