井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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「社会システム理論」2011年度春学期シラバス

「社会システム理論」
(先端導入科目-総合政策-社会イノベーション:30080)
【開講】月曜日3時限@慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)
【担当】井庭 崇
※この授業の映像は、SFC-GC (Global Campus) で公開されます(各授業実施日の数日後にアップ予定)。
※東日本大震災の影響で、今年度春学期のSFCの授業は5月からの開始となります。そのため、授業が開講される曜日が一部変則的になっています。

■ 主題と目標/授業の手法など
この授業の目的は、社会を「システム」として捉える視点を身につけることです。ここで取り上げるのは、最新の「社会システム理論」(オートポイエーシスの社会システム理論)です。その理論では、社会はコミュニケーションがコミュニケーションを連鎖的に引き起こすことで成り立つシステムであると捉えます。このような捉え方で、社会学者ニクラス・ルーマンは、次のような問題に答えようとしました。「社会的な秩序はいかにして可能なのだろうか?」と。個々人は別々の意識をもち、自由に振る舞っているにもかかわらず、社会が成り立つ(現に動いている)、この不思議に取り組むのが、社会システム理論です。
 社会システム理論の捉え方によって、既存の社会諸科学では分析できない社会のダイナミックな側面を理解することができるようになります。また、個別の学問分野を超えた視点で社会を捉えることができるようになります。この理論を考案した社会学者ニクラス・ルーマンは、この社会システム理論を用いて、経済、政治、法、学術、教育、宗教、家族、愛などの幅広い対象を分析しています。総合政策学的な/超領域的なアプローチの新しい基礎論として、社会システム理論を一緒に探究しましょう。

■ 教材・参考文献
教科書として以下の書籍を指定します。各自授業進行に合わせて読んでください。
『Social Systems』 (N. Luhmann, Stanford University Press, 1996)

主要参考文献としては、以下のものを挙げておきます。
『システム理論入門:ニクラス・ルーマン講義録〈1〉』(ニクラス ルーマン, 新泉社, 2007)
『エコロジーのコミュニケーション:現代社会はエコロジーの危機に対応できるか?』(ニクラス・ルーマン, 新泉社, 2007)

これ以外のルーマンの著作については、メディアセンターの授業指定図書棚に置いておきます。適宜、活用してください。

■ 提出課題・試験・成績評価の方法など
成績評価は、授業への参加、宿題、期末レポートから総合的に評価します。

■ 履修上の注意
● 講義中のPCの使用を原則禁止とします。
● 2011年度春学期は学事日程変更により、5月22日(日)および7月18日(月・祝)にも授業があります。また、補講として5月21日(土)および7月9日(土)には、2コマ連続授業があります。これらに参加できることを確認のうえ、履修してください。

■ 履修制限
履修人数を制限する(最大約150人まで):初回授業時に志望理由を書いてもらいます。

授業計画
第1回 イントロダクション (5/9 月)
ニクラス・ルーマンの提唱した「社会システム理論」の魅力はどこにあるのでしょうか? また、物事をシステムとして抽象化して考えるということには、どのような意義があるのでしょうか? この授業の目的と内容、および進め方について説明します。

第2回 学びの対話ワークショップ (5/16 月)
各自の学び方とその経験について語り合うワークショップを行ないます(学びのパターン・ランゲージである『学習パターン』を、コミュニケーション・メディアとして用いて、「コミュニケーションの連鎖」を引き起こすワークショップです)。

第3・4回 ゲストスピーカー鼎談『“自分”から始まる学びの場のデザイン』(5/21 土)
ゲストスピーカーとして、東京コミュニティスクール校長の市川力さんと、カタリバ代表理事の今村久美さんをお呼びし、鼎談を行ないます。
※補講日 5月21日(土)3・4限に実施

第5回 ダブル・コンティンジェンシーと社会形成 (5/22 日)
人は自由な意志にもとづいて考え、行動しています。それにもかかわらず、社会はある秩序をもって成り立っています。このようなことはいかにして可能なのでしょうか? 授業では、出来事や選択が「別様でもあり得る」(コンティンジェントである)ということ、そして、複数の人が集ると、お互いに相手を予測できないために自分の行為を決定できないという「ダブル・コンティンジェンシー」の問題が発生することを理解します。そして、「ノイズからの秩序」という考え方を用いて、社会形成の仕組みについて考えます。

第6回 行為とコミュニケーション (5/23 月)
社会システム理論では、「コミュニケーション」は、従来の社会学でいう「行為」の延長線上にあるものではないと捉えます(つまり、単なる社会的行為や言語的行為ではないと捉えます)。それでは、いったいコミュニケーションとはどのような出来事なのでしょうか? 授業では、従来のような「情報の移転」という捉え方ではない新しい「コミュニケーション」の捉え方について理解します。そのうえで、「コミュニケーション」が「行為」とはどのように異なるのかについて考えていきます。

第7回 コミュニケーションの生成・連鎖としての社会システム (5/30 月)
社会システム理論では、社会の構成要素は人ではなく「コミュニケーション」であるといいます。ここに、社会の捉え方に関する理論的革新があります。それでは、コミュニケーションを中心として社会を捉えると、どのように捉えることができるのでしょうか? 授業では、社会をコミュニケーションの生成・連鎖として捉える視点、および、人間の思考を意識の生成・連鎖として捉える視点を身につけます。また、自分で自分を生み出し続けるシステムを理解するうえで重要な「自己言及」(自己準拠)や「オートポイエーシス」(自己生成)の概念を学びます。

※ 6/6 休講

第8回 コミュニケーションの不確実性とメディア (6/13 月)
コミュニケーションにはいろいろな不確実性が伴うため、本来は成立が困難なものです。それにもかかわらず、日常生活ではふつうにコミュニケーションが成り立っています。いったいどのような仕組みでコミュニケーションが実現できているのでしょうか? 授業では、コミュニケーションにまつわる三つの不確実性(他者理解の不確実性、到達の不確実性、コミュニケーション成果の不確実性)と、それらの不確実性を確実性へと変換するメディア(言語、拡充メディア、コミュニケーション・メディア)について理解します。

第9回 近代社会の機能分化とシステム類型 (6/20 月)
社会システム理論では、近代社会は、経済、法、学問、宗教など、機能的な分化が起こったと捉えます。つまり近代社会では、経済システム、法システム、学問システム、宗教システムなどがそれぞれ自律的に動いているということです。それぞれの機能システムは、どのようなコードで動いているのか、また、それがどのように発展してきたのかを見ていきます。また、社会システムのいくつかの類型(タイプ)、つまり「相互行為」、「組織」、「(全体)社会」、「社会運動」の特徴について概観します。

※ 6/27、7/4 休講

第10・11回 ゲストスピーカー対談『学びと創造の場づくり』 (7/9 土)
ゲストスピーカーとして、企業・組織における学習やコミュニケーション、リーダーシップについて研究している東京大学大学総合教育研究センターの中原淳さんをお呼びし、対談を行ないます。
※補講日 7月9日(土)3・4限に実施

第12回 オートポイエーシスの考え方 (7/11 月)
ルーマンが引き継ぎ、精緻化した「オートポイエーシス」の考え方について再考します。

第13回 期末発表会 Part 1 (7/18 月・祝)
各自の期末レポートの内容を発表してもらいます。

第14回 期末発表会 Part 2 (7/25 月)
各自の期末レポートの内容を発表してもらいます。
授業関連 | - | -

「創造の知」の言語化 − なぜ僕はパターン・ランゲージをつくるのか?

僕は、個人・組織・社会の創造性(クリエイティビティ)に興味がある。創造的なプロセスと言ってもいい。そこで、創造性や創造的プロセスについてあれこれ考えたところ、創造という事態は、円環的なシステムとしてしか描けない、という結論に至る。こうして、オートポイエーシスのシステム概念を用いた 創造システム理論(Creative Systems Theory)を提唱することになる。心理学でも組織論でもない、創造性についてのまったく新しい捉え方である。

その理論の核心は、創造とは《発見》の生成・連鎖である、という点だ。生成した途端に消滅してしまう出来事としての《発見》。しかも、物理的世界とは異なり、《発見》はコンティンジェント(偶有的)な存在であり、別様でもあり得た可能性が絶えず伴っている。決定論的な因果関係で決められるのではなく、コンティンジェントな選択として、《発見》は生起するということだ。因果法則的でもなく、しかしでたらめでもないような事態 −−− このような事態を、我々はどのように “理論” 化することができるのだろうか?

この問いに対するひとつの答えとして、僕は、パターン・ランゲージによる記述に挑戦している。パターン・ランゲージには、ある状況においてどのような問題が生じるのか(と認識されているのか)と、それをどう解決するのか(とよいと考えられているのか)が記述される。これは、熟達者がそのドメインにおいて、どのように世界を見て、どのように思考・行動しているのか、ということを記述することに他ならない。

僕のみるところ、コンティンジェントな《発見》の生成には、それを下支えする「型」のようなものがある。しかも、型はひとつではなく、数多く存在する。ただし、それらがどの順番で生起するのかについては、かなり自由度が高く、それは生成の状況に委ねられている。それゆえ、法則としてきっちり示すことはできなくても、ゆるやかにつながり、ダイナミックに結合できるパターンとしてなら、記述することができるかもしれない。その可能性に賭けているのである。

そして、パターン・ランゲージで記述するメリットとしては、それが言語であることから、それを思考やコミュニケーションの手段として用いることで、他者と共有することができる点である。つくった “理論”(と呼びうるかは微妙だが)が、そのまま利用可能だということである。


もちろん、パターン・ランゲージの形式で、すべての《発見》の型が記述できるとは考えてはいない。というのは、すべての《発見》が、問題発見・問題解決型でなされるわけではないからだ。思考の癖やレトリック、思考スタイルの影響をうけながらの“自由”な想像によって《発見》に至ることもある。そうなると、問題発見・問題解決型のパターン・ランゲージ以外のランゲージも考えられそうである。

こうして僕は最近、パターン・ランゲージも含むより上位の概念として、「創造言語」(Creation Language)というレイヤーを考えるようになった。パターン・ランゲージは、《発見》の連鎖を促す創造言語の一種だが、創造言語には、パターン・ランゲージ以外の言語もあるというイメージだ(現在はまだ、その言語に適切な名前を見出せていない)。

CreationLanguage.jpg


いずれにしても、いろいろなドメイン(の熟達者の心/身体、そして道具/制度/文化)に埋もれている「創造の知」(knowledge of creation)を、次々と言語化していく −−− これが、僕が中長期的に取り組む活動・テーマになりそうだ。

社会システム理論を提唱したニクラス・ルーマンが、経済、政治、法、学術、教育、宗教、家族、愛など、様々な社会領域について一つの理論で記述していったように、僕も、芸術、科学、工学、経営、政策、教育、建築、自然など、様々な創造領域の創造の知を言語化していくことになるだろう。学習パターン政策言語探究型学習のためのパターンの作成というのは、その一環であるといえる。

また、FAB Lab のニール・ガーシェンフェルドが、「How to Make (Almost) Anything」という授業を展開しているように、僕も、いわば「How to Share the Knowledge of Creation in (Almost) Any Domains」というような授業を展開することになるだろう(僕の場合は特殊な機械は必要ない、いたってローテクなアプローチではあるが)。このような展開を見据えて、「パターンランゲージ」の授業を現在、開講・担当している。

今回は、今僕がみている方向性について、ざっくりと書いてみた。このような方向性に興味がある方、一緒に取り組みたいという方は、連絡をいただければと思う。具体的な活動は未定だが、ネットワークづくりは徐々に始めていきたいと思う。
「創造性」の探究 | - | -

世界でも珍しい「パターンランゲージ」の授業、講義映像&資料公開

2010年度秋学期に慶應義塾大学SFC(総合政策学部/環境情報学部)で僕が行った授業「パターンランゲージ」の講義映像と資料が、全回分ネットで公開されている。パターンランゲージについての授業ということで、世界でもかなり珍しい授業だと思う。中埜博 氏、竹中平蔵 氏、江渡浩一郎 氏との対談も必見。興味がある方は、ぜひどうぞ。


「パターンランゲージ」@SFC-GC (Global Campus)
2010年度秋学期(担当:井庭 崇)

http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/class/class_top.cgi?2010_25136

この授業では、創造・実践のための言語として「パターンランゲージ」を取り上げ、その考え方と方法を学びます。パターンランゲージは、創造・実践の経験則 を「パターン」という単位にまとめ、それを体系化したものです。かつて、建築家のクリストファー・アレグザンダーは、建物や街の形態に繰り返し現れる関係性をパターンとしてまとめました。その後この考え方は、ソフトウェア開発の分野に応用され、成功を収めました。SFCでは、「SFCらしい学び」のパターン・ランゲージとして、「学習パターン」(Learning Patterns)が制作・配布されています。この授業では、パターンランゲージの考え方を学びながら、創造的コラボレーションや社会デザイン、ものづくりなど、新しい分野において、自らパターン・ライティングできるようになることを目指します。


授業内容

第01回 Introduction
この授業の内容と進め方について説明します。

第02回 Philosophy of Pattern Language
パターン・ランゲージの背景にある思想・哲学について学びます。

第03回 Pattern Forms / Case: Learning Patterns
パターンの形式について理解します。事例として、SFCで制作・配布されてい る「学習パターン」を取り上げます。

第04回 The Nature of Order
パターン・ランゲージを提唱したクリストファー・アレグザンダーの思想や その可能性について考えます。(ゲスト対談:中埜博 氏)

第05回 Pattern Mining
対象のなかからパターンを見つける方法について学びます。

第06回 Pattern Writing (1)
パターン・ランゲージを記述する方法について学び、作成演習を行いま す。

第07回 Toward a Pattern Language for Policy Making (1)
自生的な社会を実現するための「政策」をつくるパターン・ランゲージの可 能性について考えます。(ゲスト対談:竹中平蔵 氏)

第08回 Toward a Pattern Language for Policy Making (2)
自生的な社会を実現するための「政策」をつくるパターン・ランゲージの可 能性について考えます。(ゲスト対談:竹中平蔵 氏)

第09回 Pattern Writing (2)
パターン・ランゲージを記述する方法について学び、作成演習を行いま す。

第10回 Media for Creation and Imagination
パターン・ランゲージや、そこから派生したツール/方法論について考えま す。(ゲスト対談:江渡浩一郎 氏)

第11回 Writer’s Workshop
グループワークで作成しているパターン・ランゲージを、履修者同士でレビ ューし合う「ライターズ・ワークショップ」を行います。

第12回6 Final Presentation
グループワークで作成してきたパターン・ランゲージの発表を行います。

第13回 Final Dialogue Workshop
すべてのグループのパターン・ランゲージを用いて、対話ワークショップを行います。
授業関連 | - | -

探究型学習のためのパターン・ランゲージの制作(ブレスト→パターンの種)

今日は、探究型学習をファシリテートするためのパターン・ランゲージをつくるため、東京コミュニティスクールの市川力先生にインタビューをし、実践知の抽出・記述を行った。朝10時半から夜10時半までの計12時間の充実のコラボレーションとなった。

InquiryBasedLearningPatterns.jpg


探究型学習のミッションをどのようにつくるのか、アクティビティはどのようにデザインするのか、子どもたち同士のコミュニケーションの連鎖をどのように誘発するのかなど、市川さんのコツと考え方についての語りを引き出していく。それが、僕の役目だ。

特に、パターン・ランゲージとしてまとめることを想定して、語られたコツ(Solution)が、どのような問題(Problem)を解決しようとして行なっていることなのかや、どのような状況(Context)で使われるものなのか、について聞き出していく。ここが、パターン・ランゲージをつくるためのインタビューの重要なポイントである。

実例やキーワードが出れば、それもホワイトボードに書いていく。さらに、僕もただ聞き手をしているのではなく、「これはこういう意味ですか?」とか「これとこれは関係していますね」というように、自分の気づきや考えをどんどん話す。それに市川さんが反応することで、さらに語りが引き出される。その結果、市川さん自身がこれまで意識しなかった暗黙的な意味・前提や、隠れた関係性・構造などが見えてくるようになる。

そして、一通りコツと考え方の抽出・記述ができたら(ここまでで開始から7時間)、次はパターン・ランゲージの形式に当てはめながら、内容を詳細に詰めていった(これには5時間かかった)。

記述された要素を振り返りながら、その要素はどのようなProblemのSolutionに関係するものか、を考えていく。具体的には、それぞれの要素が、Context、Problem、Forces、Solution、Actions、Consequences のどれに当たるのかを考え、必要であれば書き方を変え、また、足りない要素については補足していく。このような作業をすべての要素に対して行なっていく。

その結果、今日は最終的には、14個のパターンにまとまった。それに、パターンの自然な順番を考え、番号をつける。これでとりあえず今日の作業は終了。この段階では、実は、パターンが15個ではなく14個でキリが悪いことと、一部のパターンの順番がイマイチだという違和感があった。

その違和感は、この後の夕食の席で解決した。前者については、一番最初に導入パターン(No.0)を設けることにした(学習パターンのNo.0の機能と同様)。後者については、パターンの関係性を再考することで、新しいレイヤー構造を考えついた。これにより、パターンの順番と全体像がすっきりまとまった。

このようにして、12時間におよぶ充実のコラボレーションとなった。次の作業は、今日得られた「パターンの種」を育て、文章によるパターン記述に落とし込んでいくというものだ。今日の記憶がフレッシュなうちにやりたいと思っている。
パターン・ランゲージ | - | -

講演告知「自律的な学びのデザインと誘発 ― 学びのパターン・ランゲージ」

来週、東京ファッションタウンで開催されるテクノロジー・カンファレンス「QCon Tokyo 2011」( http://qcontokyo.com/ )で講演をすることになりました。

4月12日(火) 13:00-13:50 @東京ファッションタウン
「自律的な学びのデザインと誘発 ― 学びのパターン・ランゲージ」(井庭 崇)


「自律的な学びのデザインと誘発 ― 学びのパターン・ランゲージ」
物事のあり方や技術が日々変化する社会においては、組織も個人も学び続けることが求められます。しかし、どのように学べばよいのか(how to learn)や、学びをどのように支援すればよいのか(how to support for learning)は、必ずしも明らかではありません。そこで本講演では、パターン・ランゲージの方法を応用した、自律的な学びをデザインするためのパターン・ランゲージ「学習パターン」を紹介します。自らの向上を目指している方や、場づくり・制度づくりを行なっている方の参加をお待ちしています。

井庭 崇 (Takashi Iba)
慶應義塾大学 総合政策学部 准教授
2003年慶應義塾大学政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学総合政策学部専任講師、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院 Center for Collective Intelligence 客員研究員等を経て、2010年より現職。システム理論と方法論の観点から創造性について研究し、いろいろな分野での「方法のイノベーション」に取り組む。特に最近は、新しい領域へのパターン・ランゲージ手法の応用・制作を行なっている。共著書に『複雑系入門』(NTT出版)、『ised 情報社会の倫理と設計』(河出書房新社)など。
イベント・出版の告知と報告 | - | -

地震の規模と頻度の法則から、大地震の発生可能性について考える(1)

東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。そして、現在も被災地において、あるいは避難先において、不自由な生活を余儀なくされている方々に、心よりお見舞い申し上げます。


2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、大地震の被害のみならず、そこから派生した大津波や原発の問題などによって、大きな被害・不安が続いている。このような状況のなかで、僕はなかなか仕事が手につかなかったのだが、少しずつ動き始めたいと思う。そこでまずは、研究者としての専門を活かしながら、地震について見つめ直すことから始めたい。


ここでは、地震の規模と頻度の法則と、近年の日本の実データから、大地震の発生可能性について考えることにしたい。

地震の規模と頻度に関しては、「グーテンベルク・リヒター則」(Gutenberg-Richter Law)という法則が知られている。この法則によれば、地震の規模 M と発生頻度(あるいは発生数) N の関係は、次の式で表される。


ここで、ab は定数であり、地域によって異なる値をとる(なお、厳密に言うと、「頻度」はその規模の地震の発生回数を全事象数で割ることで求めるのだが、ここでは直感的なわかりやすさのために、「頻度(回数)」としてまとめて表記することにする)。

この式をグラフにすると、次のような感じになる。横軸が規模、縦軸が頻度(回数)なので、規模が大きくなるほど、発生する頻度(回数)は、ぐっと小さくなっていく、ということがわかる。

GR_LinearPlot.jpg
図1:グーテンベルク・リヒター則の式のかたち[線形グラフ](a=1, b=1


まったく同じものを、別のグラフ表現で表すと、この法則がもつ特徴がより明確に示される。次のグラフは、縦軸の頻度(回数)の軸を対数軸(log)にしたものである。対数軸なので、縦軸は1目盛り進むごとに10倍になっている。このような軸の取り方でプロットすると、グーテンベルク・リヒター則の式は、直線のかたちになる。

GR_LogPlot.jpg
図2:グーテンベルク・リヒター則の式のかたち[対数グラフ](a=1, b=1


複雑系科学やネットワーク科学の知識がある人ならば、どこかで見覚えのあるグラフだろう。そう、この地震の規模と頻度は、まさに「べき乗則」(power law)に従っているのである。地震の規模を表すマグニチュードは、地震のエネルギーの対数で計算されるので、グラフの横軸にエネルギーEをとれば、横軸も対数軸となる。このように、グーテンベルク・リヒター則は、べき乗則を示す現象の古典的な例として知られている。


さて、グーテンベルク・リヒター則を直感的に理解するために、具体的な数字を用いて説明をすることにしよう。

地震の規模と頻度の関係は、マグニチュードが 1 小さいと発生頻度が約10倍になる―――大雑把にいうと、こういうことだ。例えば、日本では、マグニチュード7クラスの地震が年に1回くらいの頻度で発生しているので、マグニチュード6クラスの地震は年に約10回、マグニチュード5クラスの地震は年に100回、マグニチュード4クラスの地震は年に1000回という計算になる。

逆に言えば、マグニチュードが1大きい地震は約10分の1の頻度で起きるということも意味している。例えば、マグニチュード8クラスの地震は年に約0.1回の頻度で発生する、つまり10年に1回くらい起きるという計算になる。さらに、マグニチュード9クラスの地震は年に約0.01回、つまり100年に1回という計算になる(もちろん、ここで言っているのは確率の話なので、100年に必ずぴったり1回しか起きないということではない。100年に2回来ることもあるし、来ないこともある。あくまでも確率的な傾向の話である点に注意)。

ここで注目に値するのは、マグニチュードが大きくなっても、(理論上は)確率は完全に0にはならないという点である。つまり、かなり大きな地震はごく稀にしか起きないが、起きないことはない、ということである。わずかでも起こる可能性はある。大地震は忘れたころにやってくる、と言われるが、まさに、この「起きにくさ」が防災の意識や対策・準備を怠りがちな理由であろう。かなり大きな地震も、ごく稀にだが起きる ――― この点は、決して忘れてはならない。

(つづく)

※公開当初は、独自のデータ分析の結果も掲載していましたが、データに不備があったため、続きは、後日再度アップします。すみません。


Refenreces
●『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(井庭 崇, 福原 義久, NTT出版, 1998)
以前この本で、グーテンベルク・リヒター則とべき乗則の簡単な説明をした。

●『歴史は「べき乗則」で動く:種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』(マーク・ブキャナン, ハヤカワ文庫NF, 早川書房, 2009)[Mark Buchanan, Ubiquity: Why Catastrophes Happen, 200/2002]
地震の事例も含め、べき乗則をめぐる研究者たちの探究を紹介している。べき乗則になる地震モデルについての紹介もある。

●『地震予知の最新科学』(佃 為成, サイエンスアイ新書, ソフトバンククリエイティブ, 2007)
地震が発生する仕組みや、規模と頻度の関係などについての解説がある。
複雑系科学 | - | -

講演・対談「コミュニケーション・ランゲージ」(難波 和彦 × 井庭 崇)

明日2月14日(月)、建築家/東大名誉教授の難波和彦先生と対談する機会をいただきました。

難波和彦先生は、「箱の家」シリーズの住宅等で有名な建築家ですが、クリストファー・アレグザンダーの日本での建築プロジェクトに参加したり『まちづくりの新しい理論』の翻訳も手がけるなど、アレグザンダーの影響を受けながらご自身で独自の展開をされている方でもあります。

DIEP : 環境工学×建築デザイン研究会 第1回レクチャー
「コミュニケーション・ランゲージ」(難波 和彦 × 井庭 崇)
日程:2011年2月14日(月) 13:00~15:00
場所:東京大学本郷キャンパス 山上会館 001会議室
詳しくは、 http://d.hatena.ne.jp/DIEP2011/ 参照。


難波和彦先生の講演は『パタン・ランゲージから「箱の家」へ』という題目で、アレグザンダーの理論展開と「箱の家」に埋め込まれたパタン・ランゲージについての話をされる予定とのことです。

僕の講演は『方法としてのパターン・ランゲージ:学習パターンを事例として』ということで、パターン・ランゲージの方法の新しい分野へ応用について、これまでの自らの実践を交えて話したいと思っています。

アレグザンダーとパターンの話をするので、興味がある方はぜひお越しください。


NanbaIbaPoster.jpg
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【春休みの宿題】研究会B2(社会システム理論)

春学期からの研究活動の準備として、春休み中に、以下の(1)(2)を各自やっておいてください。※(1)についてはレポート提出あり。


(1)ルーマンの『システム理論入門』を読み、社会システム理論の考え方を知り、自分の研究との関係を考える。

『システム理論入門:ニクラス・ルーマン講義録〈1〉』(ニクラス ルーマン, 新泉社, 2007)を購入し、二度読む。ルーマンの理論は、相互に複雑に関係する概念で構成されているので、一度全体を概観した後もう一度読むことが大切。二度目は理解度が変わるはずです。講義録なのでルーマンの他の著作よりはわかりやすいとはいえ、理論や文章はやはり難解なので、すべての箇所を理解しようと思わなくていいし、自信を喪失しないこと。

一回目は、わからないところは飛ばしてよいので、どんどん読み進める。ただし、どのようなキーワードがあるかは意識しながら読む。重要だと思う箇所に線を引くなどして、印をつけていく。

二度目は、自分の研究に関係がありそうな部分(あるいは、使えると思う部分)を中心に読む。→ その部分、つまり、自分の研究に関係がありそうな概念をレポートにまとめる。


(2)『創造的論文の書き方』を読み、テーマの詰め方と、研究の育て方を学ぶ。

来学期の個人研究では、自分の研究を自分で進めていく必要がある。そのための考え方とコツを学ぶため、『創造的論文の書き方』(伊丹敬之, 有斐閣, 2001)を購入し、読む。重要だと思う箇所に線を引くなどして、印をつけていく。

この読書によって、自分の研究のテーマを詰め、どのように研究の論理を構築していくのかのイメージを固める。→ 今回は特に提出しないが、4月のゼミで研究テーマ・計画発表を行なう。


【春休みの宿題レポートの提出】

提出〆切:2011年 4月5日(火)
提出先 :井庭研履修予定者ML
ファイル:PDF形式:ファイル名に半角アルファベットで名前を入れる
メール件名:春休みの宿題B2( 自分の名前 )


【補足】

●来学期読む輪読文献『社会の社会』を、春休みのうちに各自購入しておいてください。(余裕があるなら、興味があるところだけでも読んでおくと、学期中が楽になるでしょう。)

『社会の社会』〈1〉(ニクラス ルーマン, 法政大学出版局, 2009)
『社会の社会』〈2〉(ニクラス ルーマン, 法政大学出版局, 2009)


●個人研究をサポートする以下の重要文献についても、春休みのうちに各自購入し、読める範囲で読んでおくことをおすすめします。個人研究を進める計画・遂行にかなり役立ちます。

『創造の方法学』(高根 正昭, 講談社, 1979)
『考える技術・書く技術:問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(バーバラ・ミント, 新版, ダイヤモンド社, 1999) [ B. Minto,
The Pyramid Principle: Logic in Writing and Thinking, 3rd Revised ed, Financial Times Prentice Hall, 2008 ]
井庭研だより | - | -

【春休みの宿題】研究会B1(パターン・ランゲージ)

春学期からの研究活動の準備として、春休み中に、以下の(1)(2)を各自やっておいてください。※(1)(2)ともにレポート提出あり。


(1)アレグザンダーの本『パタン・ランゲージ:環境設計の手引』を読み、パターン・ランゲージの書き方について学ぶ。

『パタン・ランゲージ:環境設計の手引』(クリストファー・アレグザンダー 他, 鹿島出版会, 1984)、もしくは、その原著の『A Pattern Language: Towns, Buildings, Construction』 (C. Alexander, S. Ishikawa, M. Silverstein, Oxford University Press, 1977) を購入し、以下の手順で読んで、レポートを作成する。

まず、「あるパターン・ランゲージ」(邦訳 p.ix〜xiii / 原著 p.ix〜xvii)を読み、パターン・ランゲージの書き方についてのポイントをまとめる(これをレポートの最初に書く)。

次に、「町」(邦訳 p.3〜5 / 原著 p.3〜7)、「建物」(邦訳 p.243〜p.245 / 原著 p.463〜p.466)、「施行」(邦訳 p.495〜497 / 原著 p.935〜938)を読み、全体像をつかむ。

そして、(すべてを読まなくてよいので)パラパラと見て、自分が面白そうだと思うパターンを3つ選ぶ。

その3つのパターンを、形式も真似してそっくりになるように書き写す。そっくりというのは、内容だけでなく、形式も真似るという意味。文字のボールド(太字)、センタリング、スペース、マークなども、ほぼ同じになるように心がける。写真や図もスキャン(あるいは簡単なやり方としては、デジカメで撮るなど)して載せる。(邦訳の二段組みや一行の文字数などは、真似しなくてよい。)

この課題の出題意図は、パターンの書き方/形式について、しっかり意識してもらうこと。単なる読む立場としてでなく、書き手の立場からパターンに接してほしいということ。なので、上述の「あるパターン・ランゲージ」に書かれていた形式の説明との対応関係を確認しながら、書き写してほしい。→ この3パターンの引用記述を、レポートに収録する。


(2)「魅力的」で「優れている」と思うプレゼンテーションを集めて、分析する。

来学期に取り組むパターン・ランゲージ作成のテーマは(広義の)「プレゼンテーション」。そこで、自分がよいと思う(広義の)「プレゼンテーション」を集め、そのどの点がよいのかを分析してまとめてください。

具体的には、「TED: Ideas worth spreading」( http://www.ted.com/ )など、講演=口頭プレゼンテーションの映像のなかから3つ、「魅力的」で「優れている」と思うプレゼンテーションを探して選ぶ。TEDでなくても、YouTubeやiTunesUなどの映像でも構いません。ただし、学期始めにみんなで見るので、長くない方がよい(30分以内)。

選んだ3つのプレゼンテーションについて、そのどこが「魅力的」なのか、またどのような点で「優れている」のかを分析してレポートにまとめる。講演タイトル、講演者、映像URLも明記する。

さらに、講演=口頭プレゼンテーション以外の、広い意味での「プレゼンテーション」=表現で、魅力的なもの、優れたものがあれば、それも加えて紹介してほしい。広告、ポスター、データの可視化、サイエンティフィック・ヴィジュアライゼーションなど、どのような表現でも構いません。


【春休みの宿題レポートの提出】

提出〆切:2011年 4月5日(火)
提出先 :井庭研履修予定者ML
ファイル:PDF形式:ファイル名に半角アルファベットで名前を入れる
メール件名:春休みの宿題B1( 自分の名前 )


【補足】

●2010年秋学期に僕の「パターンランゲージ」の授業を履修していない人は、SFC-GC (Global Campus) にアップされている授業映像を全回分、見ておいてください。ここで話したことを前提として研究会を始めます。

SFC-GC「パターンランゲージ」(担当:井庭崇, 2010年度秋学期)
http://gc.sfc.keio.ac.jp/cgi/class/class_top.cgi?2010_25136


●パターン・ランゲージ作成のプロジェクトでは、創造的なコラボレーションの技法をいろいろ駆使します。そのプロセスやコツについて書いてある次の本も購入し、春休みから春学期末までに読むことをおすすめします。

『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』(トム・ケリー, ジョナサン・リットマン, 早川書房, 2002)
(原著:『The Art of Innovation: Success Through Innovation the IDEO Way』, Thomas Kelley, Jonathan Littman, Profile Business, 2002)
井庭研だより | - | -

井庭研究会 2010年度最終発表会【最終案内】

明日1月29日(土)に開催する「井庭研究会 2010年度最終発表会」の最終案内です。

★ キーノート・スピーチ(基調講演)のみ、USTREAMで映像配信します。
→ 井庭研チャンネル http://www.ustream.tv/channel/井庭研

★ 本発表会の公式twitterハッシュタグが決まりました。
#ilab2011

★ 開場時間の10時から、コーヒーとお菓子を用意しております。
早く到着された方は会場で談話等、お楽しみください。


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井庭研究会 2010年度最終発表会
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日時:2011年1月29日(土)
時間:10:00開場、10:30開始~17:00終了
会場:慶應義塾大学SFC 大学院棟 τ 11(タウ11)


■ 開場→コーヒーサービス(10:00~10:30)

■ 開会式(10:30~10:40)
 ・開会の辞(井庭 崇)

■ キーノート(10:40~11:30)
 ・「リアリティの把握と参加:デカルト的パラダイムを超えて」(井庭 崇)
   ※ USTREAM配信( http://www.ustream.tv/channel/井庭研

  ー小休憩 ー

■ プロジェクト発表(11:40~12:40)
 ・「カテゴリからみたWikipediaの編集者の記事選択」(馬塲 孝通, 村松 大輝)
 ・「Characteristics behind Productive Collaboration in Wikipedia: Concerning Japanese, English, and Vietnamese Articles」(Natsumi Yostumoto, Ko Matsuzuka, Bui Hong Ha)
 ・「パターン・ランゲージを学ぶためのカードゲームの提案:学習パターンを事例として」(坂本 麻美, 藤井 俊輔, 河野 裕介)

  ー 昼休み ー

■ リフレッシュセッション(13:40~14:10)
 ・学習パターンカードゲーム

   ー小休憩ー

■ 修論発表(14:15~15:45)
 ・「成長するネットコミュニティにおける参加パターンの分析:料理レシピサイトを事例に」(加藤 剛)
 ・「書籍販売における定常的パターンの形成原理」(北山 雄樹)
 ・「育児にひそむ問題発見・問題解決:語りのメディアとしてのパターン・ランゲージ」(中條 紀子)

  ー小休憩ー

■ 修士発表(15:55~16:20)
 ・「集合知パターン試論:戦略策定におけるweb上の集合知活用に向けて」(清水 たくみ)

■卒論発表(16:20~16:45)
 ・「Evolving Collaboration Networks in Japanese Wikipedia」(Natsumi Yotsumoto)

■ 閉会式(16:45~17:00)
 ・閉会の辞(井庭 崇)

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【会場案内】

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ11

キャンパスまでのアクセス → http://www.sfc.keio.ac.jp/maps.html
※小田急線 湘南台駅からバス、もしくは、JR辻堂駅からバスとなります。

キャンパスマップ → http://www.sfc.keio.ac.jp/about_sfc/campus_map.html
※ 大学院棟は、キャンパスマップの (11) です。

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