井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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インターリアリティ プロジェクト(2008年度春学期)スタート!

interreality.jpg大学院プロジェクト「インターリアリティ」プロジェクトが始まった。

今年度は土屋さんがいないので、熊坂先生と僕の二人での担当となる。今年は僕らの研究室から修士に上がる学生がいなかったので、「このプロジェクトも少し寂しい感じになるねぇ」と思っていたが、学期が始まってみると、新規メンバーや聴講の学部生もいて、それなりの人数になった。

先学期の輪読では、ルーマンをはじめ社会学系の文献が多かったが、今学期は複雑系関連の理論を学ぶほか、データベースを使いこなす、というのがテーマである。まず複雑系関連では、べき乗分布やネットワーク科学の数理的な面を強化する。輪読する本は、『Scale-Free Networks: complex webs in nature and technology』(Guido Caldarelli, Oxford University, 2007)。Book-Network.jpg昨年出たばかりの本で、基礎的な考え方から最近の手法までを紹介してくれている。また、いろいろな分野におけるネットワークの可視化や解析の事例も紹介されているので、全体を見渡すのに適している文献だと思う。ちょうど昨年のネットワーク科学国際会議( International Workshop and Conference on Network Science '07)のころに出版されて、著者がアピールしていたり、バラバシがプレゼンの中で紹介したりしているのを覚えている。


さらに、べき乗分布に関するニューマンの論文も読む予定だ。しかし、いきなりこれらの専門的な文献に行くとなると、初心者にはきついかもしれないということで、イントロダクションとして、最初にひとつ日本語の文献を入れることにした。それは、『歴史の方程式:科学は大事件を予知できるか』(マーク・ブキャナン, 早川書房, 2003)だ。Book-Buchanan.jpgこの本は、僕がとてもおすすめしたい本で、べき乗分布に関する研究の歴史がしっかり書かれている。この本の著者は、この次に出した本『複雑な世界、単純な法則:ネットワーク科学の最前線』で有名なマーク・ブキャナン。博士号をもっているサイエンス・ライターだ。『歴史の方程式』自体はあまり有名な本ではないが、複雑系科学の読み物としてかなりおすすめなのだ。僕の授業「モデリング・シミュレーション技法」でも教科書の1つに指定していて、履修者に宿題で読ませている。

データベースについては、SQLなどの基本と実践スキルを少しでも身につけたいと思っている。このようなテーマにしたのは、最近、データの扱いが巧みな人たちの仕事を目の当たりにして、このスキルこそ、いまの僕たちに必要なものだ!と考えるようになったからだ。僕が初めてデータベースについて知った10年前は、データベースで扱える情報に僕が魅力的だと思うようなものはなかった。いうなれば「データをインプットして溜めるための技術」というくらいの認識だった。しかし、インターネットが普及して膨大なデータが取れるようになった現在では、データベースは、もはや「アウトプットのための分析スキル」の一部になったということを感じた。実データの解析にしても、シミュレーション結果の解析にしても、僕らはもっともっと使いこなせるようにならないと! この春、そう痛感したのだ。そこで、インターリアリティプロジェクトでは、複雑系の数理的な面を強化するだけでなく、データを実際にさばける能力をつけることにしよう、というわけだ。先学期ルーマンを読んだメンバーで、べき乗分布やデータベースのこともやる。新しい社会学には新しい方法と道具が必要だ―――これこそが、インターリアリティ流なのだ。

もちろん今学期も、熊坂先生の昔話や、僕と熊坂先生とのトークは欠かせない。結局、ここが一番面白かったりするんだよね。
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