井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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説明がうまくなるコツ (『シンプリシティの法則』, ジョン・マエダ)

『シンプリシティの法則』(ジョン・マエダ, 東洋経済新報社, 2008)を読んで考えたことの続編だ。

僕が今回、この本のなかで特にビビっと来たのは、以下の部分。「繰り返し」によってシンプリシティを獲得するという話だ。

「数年前、私はスイスのタイポグラフィックデザインの大家、ヴォルフガング・ヴァインガルトをメイン州に訪ねた。当時彼が受け持っていた正規の夏期講座で講義をするためである。驚かされたのは、ヴァインガルトが毎年まったく同じ入門講義をすることだった。私の考えでは、同じことを繰り返し言うのは、価値のないことだった。そのため正直言うと、この大家に対する私の評価は下がりはじめていた。ところが、確か3度目の訪問の際に、こう気づいた。ヴァインガルトはまったく同じことを言っているにもかかわらず、言うたびにシンプルになっていると。基本の基本に焦点を合わせることによって、彼は自分が知っている何もかもを、伝えたいことの核心にまで煎じ詰めることができたのである。」(p.36)

この点はとても同感であり、多くの人に伝えたいと思う点でもある。

僕は基本的に話すことが苦手で下手なのだが、それでも内容によっては「説明がわかりやすい」といわれることがある。例えば、ルーマンの社会システム理論やカオスの説明などは、なかなか好評のようだ。実は、そのような説明は、何度も何度も説明しまくることによって得られたものだ。最初は言葉が足りなくてうまく説明できなかったり、冗長だったりした話が、徐々に洗練されていく。どのような言葉を選び、どのような順番で話し、どのような例を出せばよいのか。そして、どうすればその話題を面白く聞いてもらえるのか。そういうことを考えながら、何度も何度も話す。その最初のオーディエンス(被害者!?笑)になるのは、僕の近くにいるゼミ生だ。

あるホットトピックについて何度も話していると、誰に話したのかがわからなくなり、すでに一度話している人にも、再び話してしまうということが起きる。その結果、「その話、このまえも聞きました。」といわれることが多い。また、直接その人に向かって話していなくても、同じ場所にいる他の人に話しているのを聞いて、「(また同じ話だ・・・)」と内心思いながら、その話を何度も耳にするなんてこともあるだろう。でも、一度、次のことを考えてみてほしい。僕は、誰に話したかを忘れるほど多くの人に、何度も何度もその話をしているのだ。 もちろん僕が忘れっぽいというのも関係しているが、それを割り引いても、考える価値がある事実だと思う。

学生の場合、先生の近くにいる人ほど、先生のそのときのホットなトピックを何度も聞くことになる。もし、先生が熱くなっている話を1度しか聞いたことがないという場合は、それくらいの密度でしか接していないという表れでもある。僕も学生時代に竹中先生や武藤先生の同じ話を何度も何度も聞いたものだ。きっとこのように何度も聞くことで、ようやく先生の言いたいことの真意に近づいていけるのだと思う。人間は繰り返しインプットしないと、頭にきちんと入らないのだから。

もし同じ話を聞くチャンスがあったら、今度は意識して聞いてみるとよい。よくよく聞いてみると、説明の仕方が微妙に違っているはずだ。相手によって説明のレベルや例示を変えている場合もあるし、説明が若干進化しているはずだ。うまくいっていれば、余計な部分を省き、新しい言葉に置き換えられたりして、徐々にシンプルになっているはずだ。これはまさに、上記の引用の部分の話にほかならない。


さて、ここで言いたいのは、「だから、僕の話を何度も我慢して聞きなさい!」ということではない。話すことが仕事の僕らも、何度も何度も話すことで話が洗練されていく、ということを知ってほしいのだ。みんなだって、もっともっと話さないといけない。それが言いたい。

ゼミで研究発表をすると、内容や言葉があいまいなまま発表がなされることがある。これはおそらく、誰にも話していない状態で発表しているに違いない。自分で話していることを自分でもあまり深く理解できていないし、その説明がどのように伝わるのかがイメージできていない。言葉の選び方に迷いがあり、それゆえ曖昧でわかりにくものになってしまう。これでは研究内容の議論にまで至らず、聞いている方も内容の理解をすることで精一杯になってしまう。そういう発表はいただけない。先にほかのゼミ生に何度も話し、話を洗練させてから、発表の場に臨むべきだ。

話すことが得意な人も苦手な人も、どんどん相手をみつけて、何度も何度も話をしてみる。ゼミ生はそのための仲間なのだから、活用しない手はない。僕の個人指導を受けているわけではなく、研究のコミュニティに所属しているわけなので、何度も自分の研究について話すチャンスがあるわけだ。

この鉄則は、文章を書く際にも同じだ。論文や計画書を書くときには、そこに書く予定の内容を何度も何度も話すことが重要だ。準備段階でひきこもっていては、本番でうまく話せるわけがない。完全主義者は、ひとりで完全なところまでもっていこうとするかもしれないが、真の完全主義者は、事前にたくさん話し、本番で完全な話をする人のことかもしれない。

同じことを繰り返し言うのはばつが悪いこともある。あなたが人目を気にするならなおさらだ―――たいていの人は人目を気にするものだが。しかし、恥ずかしがる必要はない。反復はうまく機能するし、みんなそうしているのだから。合衆国大統領をはじめとする指導者たちも例外ではない。・・・」(p.37)

恥ずかしがらずに、何度も何度も話してみよう!
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