井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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シンプルに生きる (『シンプリシティの法則』, ジョン・マエダ)

Book-Maeda.jpg『シンプリシティの法則』(ジョン・マエダ, 東洋経済新報社, 2008)を読んだ。

情報が溢れ、複雑化する現代においては「シンプリシティ」(単純さ)が重要であるということ、そしてそれをどうすれば実現できるのか、ということがこの本のテーマである。John Maedaといえば、『Design by Numbers』などで有名なMITメディアラボの教授だ。著者紹介の情報によると、今年2008年6月には、米国有数の芸術大学であるRhode Island School of Design (RISD)の学長に就任するようだ。

ちょうど10年前、科学や芸術において「複雑性」=「コンプレクシティ」が注目され、単純な法則から複雑な世界がどのように生まれるのかが話題となった。そして10年たった今、複雑な状況においてシンプリシティをどのように獲得するかが話題となっているというのは、興味深い。Webといえば、htmlのベタ書きによるシンプルなページからなる世界だったが、いまや動的なコンテンツが載り、膨大な情報量が詰め込まれた「騒々しい」世界へと変化した。それゆえ、Googleのトップページのシンプルなデザインが効いているのである。同じように、iPodのシンプルなデザインも、そのシンプルさゆえに、相当なインパクトをもつことになる。GoogleもiPodも、どちらもこの「コンプレクシティの時代のシンプリシティ」を先取りした事例なのだ。

ジョン・マエダは、シンプリシティに関する「10の法則」と「3つの鍵」を提示する。

【10の法則】

1. 削除 シンプリシティを実現する最もシンプルな方法は、考え抜かれた削除を通じて手に入る。
2. 組織化 組織化は、システムを構成する多くの要素を少なく見せる。
3. 時間 時間を節約することでシンプリシティを感じられる。
4. 学習 知識はすべてをシンプルにする。
5. 相違 シンプリシティとコンプレクシティはたがいを必要とする。
6. コンテクスト シンプリシティの周辺にあるものは、決して周辺的ではない。
7. 感情 感情は乏しいより豊かなほうがいい。
8. 信頼 私たちはシンプリシティを信じる。
9. 失敗 決してシンプルにできないこともある。
10. 1 シンプリシティは、明白なものを取り除き、有意義なものを加えることにかかわる。

【3つの鍵】

1. アウェイ 遠く引き離すだけで、多いものが少なく見える。
2. オープン オープンにすればコンプレクシティはシンプルになる。
3. パワー 使うものは少なく、得るものは多く。

それぞれがどのような含意をもつかについては、実際に本を読んでもらうことにしたい(これが上記の内容を知るための一番シンプルな方法だ!)。文章は読みやすく、分量も少なめなので、さっと読むことができる。


まず、この本で取り上げたいのは、「シンプル」というキーワードだ。

個人的なことを言うと、ここ1ヶ月ほど、「シンプルにする」というのが、僕の基本方針であった。この本を読んだからというわけではなく、阿川さん(総合政策学部長)がいつも、大学の制度や説明に対して「複雑すぎる。シンプルに。」ということを言い続けているのを見ていた影響だ。なるほど、たしかに、物事はシンプルにしたほうがいい。

ここ1、2年の間、僕の仕事や生活はどんどん複雑になり、この冬、ついに破綻した。心も身体もついていけなかった。なので、なるべくシンプルにしようと心がける。もちろん、完全にシンプルにすることはできないし、したいとは思っていない。突き進むべきフロンティアは、未知の「コンプレクシティ」に満ちている。やっていること、考えていることが複雑な分、環境はシンプルでなければ破綻する。これを身をもって体感したのだ。

「シンプリシティとコンプレクシティはたがいを必要とする」(p.45)

シンプリシティだけでは飽きてしまう、だが、複雑すぎても破綻する。その両方が必要なのだ。現代社会では、複雑さは自ずと増大していく。そのなかで交通整理をするのであれば、基本方針としては「なるべくシンプルに」を心がけるとよさそうだ。

(次回につづく)
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