井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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未来へのお守りになるような希望を書く:『こころ揺さぶる、あのひと言』を読んで

本屋で見つけた『こころ揺さぶる、あのひと言』という本、いろんな方が、ずっと心に残り人生を支えてくれている言葉について書いているエッセイ集。

どれも素敵なのだが、なかでも僕が一番共感したのは、角田光代さんの「希望を書かなければだめだ」という話。

「私より三四歳年上の編集者に、『あなたは希望を書かなければだめだ』と、言われた」(p.28)という。

「『なあ、世の中に残っている小説は、ぜんぶ希望を書いているんだ。残る小説にするには、希望を書かなければだめだ』と。」(p.28)

「けれど私は世のなかにはそうかんたんに救いなんかないと思っていた。そう思うのだから嘘は書けないと思っていた。言葉に懐疑的だからこそ、空々しくうつくしいことなんて書けないのだった。けれどそうして書いている小説は、何か決定的に足りないことも自覚していた。」(p.28)

しばらくして、その言葉の意味がわかったという。

「救いはないと断じるのなんてかんたんなことだ。そこからなんとかして信じられる救いをつかみ出す、そういう小説こそ力を持ち得るのではないか。」(p.29)

僕も、パターン・ランゲージを書いているときは、希望の星となって、自分のよい未来へと導いてくれるような言葉をつくり、そのための文章を書いている。宮崎駿も、昔同様のことを言っていた。現実のだめなところを書くために苦労して映画をつくってるんじゃない。希望を描くんだ、というようなことを。

僕らがつくるパターン・ランゲージは、ポジティブで明るいものしかないと言われることがある。それは、僕が希望の言葉をつくりたいと思っているからだ。そうでなくても、過酷な現実は目の前に広がっているわけだし、マスメディアやネット上には、暗い話やひどい言葉にあふれている。そういう状況に、新たになぜ、絶望の言葉を加えなければならないのだろうか。いま世界に不足しているのは、明るく進む道を照らしてくれる希望の言葉ではないだろうか。

僕は、そう考えて、ポジティブなランゲージを日々つくっている。人によっては、その言葉が、お守りのように、自分の人生を支えてくれているという人がいう。そこまでいかなくても、ちょっと勇気がいることも、実践への背中を押してくれるような言葉だという声も聞く。なんとかして、希望が持てる言葉を編み上げて行く。僕らがつくっているのは、そういうランゲージであろり、僕らが取り組んでいるのは、そういう研究なのである。

『こころ揺さぶる、あのひと言』の本の話に戻ると、この本には、なんと、我らが同僚の村井純も書いていた。彼の心に残っっている言葉は、「世界のために働け」(p.36)というキルナム・チョン先生の言葉だという。他にも、夏樹静子さんの「筆をおかずに、ひたすら描き続けてください。続けていれば、必ずまたいいものができるでしょう」(p.88)という言葉、他にも、内山章子さんが姉・鶴見和子さんから言われた言葉「あのね、易しいことはつまんないの。すぐ出来ちゃうから。難しいことはね、ああかな、こうかなって考えて、いろいろ工夫してやるから、すごく面白いの。難しいことに出あったら、面白いと思ってすることね」という言葉など、僕の心にも新たに残るような言葉がたくさん紹介されている。素敵な言葉の宝石箱みたいな本だった。

いつか僕も、誰かの心に残るような素敵なひと言が言えるような人になりたいなぁ、と思った。いつの日にか。

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「いい人に会う」編集部 編, 『こころ揺さぶる、あのひと言』, 岩波書店, 2012
パターン・ランゲージ | - | -

マインドフルネス、ガーター(偈頌:げじゅ)、パターン・ランゲージ

いまの僕にとって、とても発見的な本と出会った。ティク・ナット・ハン師の『今このとき、すばらしいこのとき』(Present Moment Wonderful Moment)。本の内容も素晴らしいのだが、その本で提示されているものがどういうものであるのかという部分が、パターン・ランゲージとの関係できわめて重要なものだった。

パターン・ランゲージを提唱した建築家クリストファー・アレグザンダーは、彼の著作を紐解くと、かなり禅など東洋の影響を色濃く受けていることがわかる。「無我」や「道」や「質」など。彼の言っていることも選ぶ言葉も、西洋近代的ではなく、きわめて東洋的なのである。そして僕らは、そのパターン・ランゲージを町や建物のかたちではなく、人間行為の領域に応用した。ここで、実践・行いという点で重なりが生まれ、マインドフルネスの話とつながっているという感覚がこれまでにもあった。ティク・ナット・ハン師のこの本は、その理解をさらに一歩進めてくれた。

この本に収録されているのは、「ガーター」(偈頌:げじゅ)という短詩である。

「ガーター(偈頌)は、日常生活の中で唱えることで、今この瞬間に戻り、マインドフルネス(気づきの心)を保てるよう助けてくれる短詩です。瞑想と詩の両方を含む実践という意味で、ガーターは禅の伝統には欠かせない要素ですが、それを用いるために、特別な知識や宗教的な修行はいりません。」(p.3)

「ガーターを唱えるのは、この今という瞬間にとどまるための方法のひとつです。一編のガーターに意識を集中させるとき私たちは自分自身に帰り、一つひとつの動作に対する気づきが深まります。唱え終えても、高まった気づきを伴ったまま活動は続いていきます。」(p.6)

つまり、ガーターとは、日常のいろいろな実践において、その実践について意識を集中させて、マインドフル(気づきが深まった状態)になるための入口となるものである。

本書に収録されているものをいくつか紹介すると、ガーターとは、例えば、こういうものだ。まず、「目覚めのとき」(Waking Up)というタイトルがつけられたガーター。

目覚めのとき

目覚めて微笑む
生まれたての二十四時間
一瞬一瞬気づきを忘れず
すべてを慈しみの眼で見られますように」(p.14)


次に、「蛇口をひねる」(Turning on the Water)というガーターは、こういうもの。

蛇口をひねる

高い山から涌きいで
大地の底を流れる
奇跡の水に
心は感謝で満たされる」(p.30)


そして、「食事を用意する」(Serving Food)。

食事を用意する

この食べ物に目をやれば
宇宙のすべてがそこにある
だからこそ
私は今ここにいる」(p.140)


こういう何気ないことが、いかに奇跡的な有難いことなのかを感じさせてくれて、その実践を大切に行うことができるようになる。ほかにも、「水やりをする」とか「お皿を洗う」というようなものや、「コンピュータを立ち上げる」というものまである。

ティク・ナット・ハン師は、日常のなかでの実践のなかにマインドフルネスを活かしていくエンゲージド・ブディズム(現実に関わる仏教)やアプライド・ブディズム(応用仏教)を展開した人であり、訳者解説には、エンゲージド・ブディズムについて、彼の次のような言葉が紹介されている。

「それは、家庭、地域、街や社会の中において、1日中途切れることなくマインドフルの実践を行うことです。あなたの歩み方、視線の投げかけ方、座り方などが、まわりの人びとに影響を与え、どのような時でも安らぎと、幸福と、喜び、そして友愛を育むことを可能にするのです。」(p.245)

「ガーターを使って実践するときには、ガーターとこれから先の人生とが一体となり、私たちは毎日を目覚めた意識で生きることになります。」(p.6)

パターン・ランゲージも、まさに、一つひとつの活動・行為に対する「気づき」を深め、「目覚めた意識」で活動できるようにしてくれるものである。なぜそういうことが大切なのかというと、ティク・ナット・ハン師は、次のように言います。

「私たちは忙しすぎて、自分の行動に無自覚なだけでなく、自分自身せ見失うことがしばしばあります。呼吸するのを忘れていて、ということさえあるのです。」(p.5)

「自分にとって大切な人に、きちんと目を向け感謝することも忘れて過ごすうちに、人はそうする機会を失います。時間に余裕があるときでも、自分の心や周囲に起こっていることに確かに触れるすべを知りません。」(p.5)

「瞑想とは、自分の体、感情、心や、この世界に起こっている事実に気づくことです。今この瞬間に心が定まるとき、生まれたばかりの幼子、昇ってくる太陽など、今ここにあるすばらしい出来事や不思議に目が開かれます。私たちは、目の前に起こっていることに気づくだけで、とても幸せになれるのです。」(p.5)

パターン・ランゲージは、心のマインドフルネスを目指すといよりは、第一義的には、よりよい質の実践を目指すものであるので、エンゲージド・ブディズムとまったく同じというわけではない。しかし、ある行為・実践が、どのような意味をもっているのかを、深く感じながら実践することの大切さを重視する点では重なりがある。

「コラボレーション・パターン」に馴染んている人は、チームの仲間に「ありがとう」というとき、それが《感謝のことば》の実践であるということが心に浮かび、それがいかに大切で有難いことかを感じながら行う。やりとりをしているときには、それが《レスポンス・ラリー》であることを感じるし、《こだわり合う》ことがよい質につながることを感じることができる。

『旅のことば』(認知症とともによりよく生きるためのパターン・ランゲージ)に馴染んでいる人は、水やりをするということが《自分の日課》として大切なものであることや、《なじみの居場所》がかけがえのない場所であることを感じながら、自らのなじみの居場所に思いを馳せる。

このように、パターン・ランゲージは、実は、単に実践していない人に新しい発想を加えるというだけでなく、すでに実践している人にも、その行為・実践の意味(よりよい質につながる、当たり前ではない)を感じて、マインドフルにその行為・実践をすることを可能にしてくれる。パターン・ランゲージの「活用」というときに見過ごされがちだが、その実践の意味を深く感じられるというのは、とても重要なことである。

ガーターのタイトルは、パターン・ランゲージのパターン名にあたり、短詩の部分は、パターンの内容・記述にあたるだろう(特に、イントロダクションや状況、解決のあたり)。そして、詩的なやわらかな部分は、イラストが担っていると思う。

「瞑想と詩を合わせて実践するガーターは、禅の伝統の鍵です。ガーターを憶えれば、蛇口をひねるとき、お茶を一服するときなど、特定の行為と結びついた一節がおのずから心に浮かんでくるでしょう。」(p.6)

「ガーターは大きな助けになり、ほかの人にとっても同じく役に立ちます。心の中に安らぎと、穏やかさと、喜びの深まりを感じ、それを人と分かち合えるようになるのです。」(p.6)


このあたりは、パターンが状況駆動であることや、ランゲージ(言語)としてつくっていることにつながる。パターンは、一人の実践をよりよくするとともに、対話のなかで経験を分かち合うためのものでもある。
パターン・ランゲージとガーターの重なりが見えてくると何がよいかというと、マインドフルネスとの関係が見えてくるだけでなく、それが、歴史的に継承されてきた考え方や方法に接続できるからである。

「ガーターの実践は二千年以上前に始まりました。」(p.4)

ガーターについて、さらに学んでみたいと思っている。


さらに、表現媒体の観点からも、重なりを感じるので、パターン・ランゲージの可能性について、ガーターから学ぶことができるかもしれない。

訳者の解説によれば、世界各国で行われているリトリートでは、ガーターがイラストつきの小さなカードに書かれれているものが置かれ、持って帰ることができたりして、人々はお守りのように大切に持っているという。これは、僕らのパターン・カードが近い。

また、ティク・ナット・ハンが開いたフランス・ボルドーのプラムヴィレッジでは、建物や敷地のあちこちでガーターを目にするという。それぞれの場所に応じて、「洗面所には、『手を洗う』、キッチンには食べる瞑想に関する多くのガーターが、禅堂にはもちろん瞑想に関わるガーターである」(p.251)。これは、僕らでいうと、パターン・オブジェクトにあたる。

さらに、ガーターという言葉の原義は「歌」であり、昔は歌いながら口伝したのではないかということである。これも、僕らがパターン・ソングで行おうとしていることに通じる。おそらく、口伝で広まり受け継げるように、短い詩のかたちをとったのだろう。

このように、ティク・ナット・ハン師の本『今このとき、すばらしきこのとき』は、そのガーターの内容が素敵であるだけでなく、このように今の僕にとっては、とても素敵な可能性が見えた本だった。


ティク・ナット・ハン, 『今このとき、すばらしいこのとき Present Moment Wonderful Moment:毎日が輝くマインドフルネスのことば』, 島田啓介(訳), サンガ, 2017

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声、神話、地下水脈:谷川俊太郎・覚和歌子『対詩 2馬力』を読んで

谷川俊太郎さんと覚和歌子さんの『対詩 2馬力』は、お二人の「対詩」でつくった詩と対談が収録されている本。覚(かく)さんは、『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつも何度でも」の作詞をされた方ですね。

「対詩」についての話も面白かったが、それ以外のところで僕にとって重要なところがいろいろあった。まず最初は、覚さんが声から入っているということについて聞かれての発言。

「『一期一会』感覚というか、『そのとき声出してしまったものがすべて』みたいなことと、もう一つは『言葉において、声のほうが文字よりもえらい』と確実に思っていますね。」(覚, p.30)

「文字は『意味』に近いけれども、声は意味を超えて『波動』そのものだということですね。波動のほうがより真実で、リアリティがある。」(覚, p.30)

そうそう、そうなのだ。だからこそ、僕は、パターンの中に事例の文章を入れず、その代わりに対話ワークショップやパターン・カードを用いた対話のようなかたちで、声で自らの経験を語り、それを聞く、ということを重視してきた。パターンの記述だけで伝達のための自己充足的なコンテンツとするのではなく、あえて「スキマをつくる」ことで、語り=声が引き出されるようにつくってきた。

そして、これからのチャレンジは、パターンそのものの内容を声でどう共有していくか。パターン・ソングというのは、その試みの最初のものだし、ラジオやポッドキャストのようなものでの共有なども試してみたいと思っている。いまでも僕らは、パターン・ランゲージをつくり込むときには、視覚的な文字面だけでなく、音として発したり聴いたときにもわかるようになることを気にして、パターン名を考えている。そういうことが発揮される音声的な共有手段についても、もっと模索していきたいと思っている。


また別の箇所で、覚さんのつくる詩が物語詩であることについての話題のなかで語った次のことも、僕をワクワクさせた。

「物語というか、神話をね、詩のかたちでやりたかったんです。小説はどうしても微に入り細を穿(うが)ちすぎるというか……。読みながら『そこ、別に知らなくてもいい』ってところまで説明されすぎていてまだるっこしいんですよね。・・・でも、物語を読みたいという普遍的な人間の欲求はあるだろうなと思って。だからそれを詩のかたちでやりたかったんです。」(覚, p.34)

この気持ちすごくわかる。そう、そうなんだよ。僕は、神話を、詩ではなく、パターン・ランゲージのかたちでやりたい。もう物語として提示されること自体から変えて。でも人類が普遍的にもっている理や型など、神話が伝えてくれたようなことを、物語の形式ではなく、自分が生きるということのなかで物語化がなされるようなやり方で、共有したい。まだうまく言えないけれども、パターン・ランゲージでやりたいことはそのことなのです。そういうわけで、最近、また、神話について、読み直し、学び直そうと思っていたところだった。


詩の創作についての谷川さんが語った次のことも、重要。詩人が2人で対詩をつくるということについて。

「水の比喩で言うと、一人一人が泉でね。泉っていうのは、地下の水脈につながっていて、そこから湧くでしょう?」(谷川, p.45-46)

「僕なんかはやっぱりそういう集合的無意識にできるだけ根をおろしたいというか、届きたいという気持ちがどこかにありますね。」(谷川, p.46)

この地下水脈のメタファーは、井戸と地下という言葉で語る村上春樹さんの話にも通じるし、河合隼雄さんの「個を突き抜けての普遍」という話にもつながる。

まさに、僕がパターンを洗練させて、仕上げるときに、ぐっと深く潜り込んで探るのも、この多くの人の奥深いところに通じる地下水脈である。


最後に、覚さんが言っていたすごく素敵な執筆スタイルの箇所を。

「私は、基本、詩は八ヶ岳のアトリエでしか書かない、と決めて、すごく試作が楽しくなりました。やっぱり自然の中には「お助け小人」がいるんですよ。そういう話をこの間、画家の友人としていたら、彼も『絶対いる』って言ってましたね。自然の中で書くのは、楽しい。エッセイとか散文は東京でも書けるんですけど、詩は山で書くほうが楽しいですね。」(覚, p. 51)

素敵すぎる、そのスタイル。世界の作家たちも、丘の上のヒュッテ(小屋)みたいなところをもっていて、そこにこもって書く、というような人は多い。僕もそういう特別な場所を持ちたいなぁ。実に。


『対詩 2馬力』(谷川俊太郎,‎ 覚 和歌子, ナナロク社, 2017)

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人間、世界・宇宙と向き合う:谷川俊太郎『聴くと聞こえる』を読んで

谷川俊太郎さんの新刊『聴くと聞こえる:on Listening 1950-2017』は、沈黙と音と言葉についての詩とエッセイで編み上げられている魅力的な本だった。

「言葉というものが何でも語ることができると思ったら大間違いだ。」(p.52)

「たとえば、言葉は音楽を語る事ができない。音楽をめぐるいろいろな事、或いは音楽を聞く自分を語れはしても、音楽そのものは語れない。」(p.52)

「だが人間として生きること、それは沈黙して生きることであってはならない。そして特に詩人として生きること、それは言葉や声がどんなに信じ難いものであるにせよ、沈黙ではないものに賭けて生き続けることに他ならない。
 人を互いにむすびつけることだけが言葉の機能ではない。言葉は人間のものであり、同時に人間のものでない。〈青空よ…〉と詩人が呼びかける時、詩人はその言葉を、自分と、青空と、そして人々のために云うのだ。そしてそうすることで、詩人は青空と戦い、かつむすばれる。」(p.108)


僕もパターン・ランゲージをつくるとき、同様の気持ちを抱く。

「実践知は身体的なものであり、言葉で表せるわけがない」と言われることがあるが、そんなことは当然であり、言葉で何でも表現できるなんて思っているわけではない。しかし、しかしだ。詩人が世界について、音楽について、沈黙について語るように、僕らは、なんとか言葉にしようとする。そのものは伝えられなくても、それがどのようなものであるのかを、詩的に表現し、共有するのである。

だからこそ、パターン・ランゲージは、詩との関係が深い。アレグザンダーはパターン・ランゲージの本のなかで「詩学」(ポエジー)という言葉を用いて語ったし、パターン・ランゲージをつくる人のなかには、本当に詩を書く詩人である人もいる。

僕らは言葉の限界を理解した上で、それで表せることに賭けている。そこに挑んでいる。だから、パターン・ランゲージの作成は一筋縄ではいかない、身を削るような作業となる。それは、人間と、そして世界・宇宙と向き合うことである。言葉にならないものに眼差しを向け、そのための言葉を紡いでいくということなのである。


谷川俊太郎, 『聴くと聞こえる:on Listening 1950-2017』, 創元社, 2018

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慶應義塾大学SFC「パターンランゲージ」2018シラバス

「パターンランゲージ」
慶應義塾大学SFC総合政策学部・環境情報学部(基盤科目-共通科目)
担当教員:井庭 崇, 鎌田 安里紗
開講:2018年度春学期(前半)
曜日時限:水曜1・2限

【科目概要:主題と目標/授業の手法など】

この授業では、創造的な未来をつくるための言語「パターンランゲージ」について、その考え方と方法を学びます。パターンランゲージでは、創造・実践の経験則 を「パターン」という小さな単位にまとめ、それを体系化します。かつて、建築家のクリストファー・アレグザンダーは、いきいきとした町や建物に繰り返し現れる関係性をパターンとして定義し、253個のパターンを抽出・記述しました。その後この考え方は、ソフトウェア開発の分野に応用され、現在でも広く活用されています。SFCでは、創造的な学びのための「ラーニング・パターン」や、創造的プレゼンテーションのための「プレゼンテーション・パターン」、創造的コラボレーションのための「コラボレーション・パターン」などが制作されてきました。この授業では、パターンランゲージの考え方を学びながら、新しい分野において自らパターン・ランゲージをつくることができるようになることを目指します。

今年は、以下の9つのテーマでグループワークを行う予定です。履修者は以下のなかから1つテーマを選び、グループワークでそのテーマのパターンランゲージの作成に取り組みます。

(1) グループワークをよりよくするリーダーシップ
(2) SFCのFab環境の活かし方・学び方
(3) SFCでうまく「研究」生活をおくる秘訣
(4) 数足のわらじの履き方(複数のコミュニティ・活動をしっかりやり抜く)
(5) 一人暮らしで料理をしつづけるコツ
(6) 好きなことの突き詰め方
(7) 研究会のよりよい選び方
(8) 外国語の習得と活かし方
(9) よりよいノートの取り方

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【授業計画】

[第1週]
第1回:[4/11] イントロダクション
この授業の内容と進め方と、パターンランゲージの背景にある考え方を学びます。また、グループワークのグループ分けの発表があります。

第2回:[4/11] パターンの掘り起こし方(Pattern Mining)#1 Mining Dialogue
パターンをつくるための情報を対話的に掘り起こすMining Dialogueのやり方について学び、実際にやってみます。


[第2週]
第3回:[4/18]パターンの掘り起こし方(Pattern Mining)#2 Clustering
集めた情報をとりまとめるClusteringのやり方について学び、取り組みます。

第4回:[4/18] 第4回 パターンの掘り起こし方(Pattern Mining)#3 Clustering
集めた情報をとりまとめるClusteringのやり方について学び、取り組みます。

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[第3週]
第5回:[4/25] パターンを書くための準備(CPS Writing)
経験から得られた結果をもとに、状況・問題・解決というCPS形式で書いていく方法を学び、実践します。

第6回:[4/25] パターンの書き方(Pattern Writing)
CPSの記述をもとに、フル記述のパターン形式で書いていく方法を学び、実践します。


[第4週]
第7回:[5/9] パターンの磨き方(Pattern Improvement)
グループで書いてきたパターンをさらによい内容・表現にするためのコツを伝授します。

第8回:[5/9] パターンの名前とイラストのつくり込み(Pattern Symbolizing)
パターン名のつけ方や、パターン・イラストの描き方についてのコツを伝授します。


[第5週]
第9回:[5/16] ライターズ・ワークショップ(Writers’ Workshop)#1
各グループのパターンをよりよいものにするために、他のグループのメンバーからコメントをもらいます。

第10回:[5/16] ライターズ・ワークショップ(Writers’ Workshop)#2
各グループのパターンをよりよいものにするために、他のグループのメンバーからコメントをもらいます。


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[第6週]
第11回:[5/23] スタイル・マイニング・ワークショップ #1
パターン・ランゲージの方法をもとに生まれた「スタイル・ランゲージ」(sytle langugae)の考え方について学び、「SFCの授業のスタイル」についてのスタイル・マイニング・ワークショップを行います。

第12回:[5/23] スタイル・マイニング・ワークショップ #2
「SFCの授業のスタイル」についてのスタイル・マイニング・ワークショップを行います。

[第7週]
第13回:[5/30] グループワーク成果を用いた対話ワークショップ #1
グループワークで作成したパターン・ランゲージを用いた対話ワークショップを行います。

第14回:[5/30] グループワーク成果を用いた対話ワークショップ #2
グループワークで作成したパターン・ランゲージを用いた対話ワークショップを行います。

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【提出課題・試験・成績評価の方法など】
成績は、グループワークへの参加と成果、個人宿題、授業中の参加、最終レポートから総合的に評価します。


【履修上の注意】

  • 授業と並行して、授業外でグループワークを行います。しっかりと取り組み、最後までやり切ってください。

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  • 授業と並行して、文献を読んでまとめを提出する個人宿題が毎週出ます。

    【履修選抜課題】
    受入学生数(予定):約 100 人
    選抜方法:課題提出による選抜

    この授業では、選んだテーマのパターン・ランゲージをつくるグループワークを行います。授業時間外にグループにメンバーでしっかりと時間をとって取り組む必要があります。そのことを十分理解した上で、以下の履修選抜課題に取り組んでください。

    今年は、以下の9つのテーマでグループワークを行う予定です。

    グループワークで作成するパターン・ランゲージのテーマ一覧
    (1) グループワークをよりよくするリーダーシップ
    (2) SFCのFab環境の活かし方・学び方
    (3) SFCでうまく「研究」生活をおくる秘訣
    (4) 数足のわらじの履き方(複数のコミュニティ・活動をしっかりやり抜く)
    (5) 一人暮らしで料理をしつづけるコツ
    (6) 好きなことの突き詰め方
    (7) 研究会のよりよい選び方
    (8) 外国語の習得と活かし方
    (9) よりよいノートの取り方

    【課題1】上記の9つのなかから、グループワークで自分が取り組みたいと思うテーマを選び、その番号とテーマ名を明記した上で、それにまつわる自らの経験・秘訣について、書いてください。テーマを選ぶ際には、自分がそのテーマの実践に日頃から親しんでいるか、ある程度知っているということが重要になります。興味があるものが複数ある場合には、「第一希望」、「第二希望」などを、明記してください。なお、このエントリーの情報に基づいて、こちらでグループを決め、初回に発表します。

    【課題2】自分が取り組むテーマ以外で、経験があり、自分が大事だと思うやり方・コツについて語ることができるテーマを、上記の9つのなかから挙げてください(該当するものすべて)。 履修選抜レポートでは、自分が語ることができるテーマの番号とテーマ名を挙げ、どのようなことが語れそうか(経験や秘訣)、ごく簡単に書いてください。ここで挙げてもらった情報を踏まえ、そのパターンをつくっているグループからインタビューを受けてもらう可能性があります。

    以上、(1)と(2)を両方入れた履修選抜レポートを、PDFファイルで提出してください(WordやPagesでPDF保存・PDF出力で作成できます)。


    【教材・参考文献】

    教科書
  • パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』(井庭崇 編著, 中埜博, 江渡浩一郎, 中西泰人, 竹中平蔵, 羽生田栄一, 慶應義塾大学出版会, 2013年)
    参考文献
  • 『プロジェクト・デザイン・パターン:企画・プロデュース・新規事業に携わる人のための企画のコツ32』 (井庭 崇 , 梶原 文生, 翔泳社, 2016年)
  • 『時を超えた建設の道』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 1993年)
  • 『パタン・ランゲージ:環境設計の手引』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 1984年)
  • 『プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』(井庭崇+井庭研究室, 慶應義塾大学出版会, 2013年)
  • 『Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン』(Mary Lynn Manns, Linda Rising, 丸善出版, 2014年)
  • 『パターン、Wiki、XP:時を超えた創造の原則』(江渡浩一郎, 技術評論社, 2009年)
  • 『クリストファー・アレグザンダー:建築の新しいパラダイムを求めて』(工作舎, 1989年)
  • 『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』(井庭 崇 編著, 宮台 真司, 熊坂 賢次, 公文 俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011年)
  • 『A Tale of Pattern Illustrating:パターンイラストの世界』(原澤 香織, 宮崎 夏実, 櫻庭 里嘉, 井庭 崇, CreativeShift, 2015)
  • 『Pattern Illustrating Patterns: A Pattern Language for Pattern Illustrating』(Takashi Iba with Iba Laboratory, CreativeShift, 2015)

    【担当教員】
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    井庭 崇(いば たかし)
    1974年、神奈川生まれ。慶應義塾大学総合政策学部 教授。株式会社クリエイティブシフト代表取締役社長、および、パターン・ランゲージの学術的な発展を促す国際組織 The HillsideGroup 理事も兼務。2003年、慶應義塾大学政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。
    様々な創造実践領域の研究を通じて、創造とはどういうことかを明らかにするために、創造システム理論を構築・提唱している。また、創造社会(Creative Society)の実現に向けての社会論、および、創造実践の支援の方法としての「パターン・ランゲージ」の作成・研究に取り組んでいる。井庭研メンバーと作成したパターン・ランゲージは、多様な分野の30種類以上にのぼり、その数は、1000パターン以上となる。
    編著書・共著書に『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(NTT出版、1998年)、『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』(慶應義塾大学出版会、2011 年)、『パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』(慶應義塾大学出版会、2013年)、『プレゼンテーション・ パターン:創造を誘発する表現のヒント』(慶應義塾大学出版会、2013年:2013年度グッドデザイン賞受賞)、『旅のことば:認知症とともによりよく生きるた めのヒント』(丸善出版、2015年)、『プロジェクト・デザイン・パターン:企画・プロデュース・新規事業に携わる人のための企画のコツ32』(翔泳社、2016年)など。『旅のことば』は、オレンジアクト認知症フレンドリーアワード2015大賞、および2015年グッドデザイン賞を受賞、さらに2016年度かわさき基準の認 証を受けている。また、2017年には中国語(繁体字)での翻訳書が香港で出版された。2012年にNHK Eテレ「スーパープレゼンテーション」で「アイデアの伝え方」の解説を担当。


    鎌田 安里紗(かまだ ありさ)
    1992年、徳島県生まれ。モデル、エシカルファッションプランナー。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科前期博士課程修了、2018年四月より慶應義塾大学大学非常勤講師。高校在学時に雑誌『Ranzuki』でモデルデビュー。エシカルな取り組みに関心が高く、フェアトレード製品の制作やスタディ・ツアーの企画などを行っている。著者に『enjoy the little things』(宝島社)。環境省「森里川海プロジェクト」アンバサダー、People Treeアンバサダー、慶應義塾大学SFC研究所上席所員。これまでに中心的に作成したパターン・ランゲージは、「Ethical Lifestyle Patterns」、「Personal Culture Patterns」、制作に関わったのは「コラボレーション・パターン」、「Generative Beauty Patterns」、『旅のことば:認知症とともによりよく生きるた めのヒント』(イラストも担当)、「Pattern Writing Patterns」など。
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    【論文公開】多様なあり方・取り組み方を言語化するスタイル・ランゲージ

    2018年3月1・2日に早稲田大学で開催される国際学会AsianPLoP2018 (7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs)で発表する(ライターズ・ワークショップにかける)論文の3つ目は、「多様なあり方・取り組み方を言語化するスタイル・ランゲージ」です。

    昨年井庭研で生み出した新しい創造実践支援の言語形式「スタイル・ランゲージ」(Style Language)の考え方についての論文です。「スタイル・ランゲージ」は、ある特定のテーマ・分野における多様なあり方・取り組み方のスタイルを言語化し、自分らしいスタイルを育てていくことを支援するものです。花王さんとの共同研究で制作した「家族を育むスタイル・ランゲージ」と、クックパッドさんとの共同研究で制作した「料理教室のスタイル・ランゲージ」の事例も載っています。僕はいま、スタイル・ランゲージのいろいろな分野での適用可能性を感じてワクワクしているので、ぜひその一端をご覧いただければと思います。


    「多様なあり方・取り組み方を言語化するスタイル・ランゲージ」
    (井庭 崇, 野崎 琴未, 下田 裕介, 宗像 このみ)

    Abstract:
    本論文では、ある特定のテーマ・分野における多様なあり方・取り組み方のスタイルを言語化し、自分らしいスタイルを育てていく方法として「スタイル・ランゲージ」(Style Language)を提案する。「スタイル・ランゲージ」では、対象に置ける物事のあり方・取り組み方における個々のスタイル(様式)の要素を、それがどのようなものであるかを記述し、それに名前(スタイル・ワード)をつける。そのようなスタイルを数多く言語化することで、そのスタイルについて語りやすくなったり、その発想がなかった人がその発想を持てるようになったりすることを支援する。このように、スタイル・ランゲージは、パターン・ランゲージと同様に、創造実践を支援するための語彙・構成要素として用いることができるが、大きな違いもある。まず、パターン・ランゲージが質を高めるよりよい方法の方向性を示し、創造実践の質を高める支援をするのに対して、スタイル・ランゲージは、創造実践の具体的実現方法についての多様な可能性があると認識することを支援する。その意味で、スタイル・ランゲージは、それだけでも用いることができるが、パターン・ランゲージと併用することで、創造実践の強力な支援ツールとなるものである。本論文では、スタイル・ランゲージの具体的な事例として、「家族を育むスタイル・ランゲージ」と、「料理教室のスタイル・ランゲージ」を紹介する。そして、スタイル・ランゲージの活かし方として、それぞれのスタイルに関する実践・経験について語り合うことで「ピアに学び合う」という活用方法と、提供されているスタイルと自分の好みのスタイルのマッチングに用いるという活用方法を取り上げる。

    パターン・ランゲージは、いきいきとした質(名づけ得ぬ質:quality without a name)の実現を支援し、スタイル・ランゲージは、多様な可能性へと発想を広げることを支援する
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    スタイル・ランゲージの各スタイルには、名前(スタイル・ワード)がつけられる。
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    家族を育むスタイル・ランゲージ
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    料理教室のスタイル・ランゲージ
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    井庭 崇, 野崎 琴未, 下田 裕介, 宗像 このみ, 「多様なあり方・取り組み方を言語化するスタイル・ランゲージ
    , 7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs(AsianPLoP2018) , 2018

    論文PDF: http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/papers/AsianPLoP18_StyleLanguage_WWS.pdf

    この論文に興味を持っていただいた方は、ぜひ、3月1・2日に早稲田大学で開催される国際学会AsianPLoP 2018 (7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs)にお越しください。そこでライターズ・ワークショップという場が設けられ、この論文について語り合う時間があります。ぜひ、事前登録の上、ご参加ください。
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    「創造性」の探究 | - | -

    【論文公開】「全体性のたまご」によるワークショップデザイン技法

    2018年3月1・2日に早稲田大学で開催される国際学会AsianPLoP2018 (7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs)で発表する(ライターズ・ワークショップにかける)論文の2つ目は、「『全体性のたまご』によるデザイン技法:全体から分化させるワークショップとプレゼンテーションのつくりかた」です。僕や井庭研が日々実践し、授業「ワークショップデザイン」で教えている、ワークショップ(そして、創造的なプレゼンテーション)のつくりかたです。

    「『全体性のたまご』によるデザイン技法:全体から分化させるワークショップとプレゼンテーションのつくりかた」
    (井庭 崇, 宗像 このみ)

    Abstract:
    本論文では、ワークショップやプレゼンテーションなど、参加者(聴き手)の創造的な学びを促す活動のデザイン(設計)において、「全体性」を重視したデザインを可能にするための方法論を提案する。このデザイン技法は、建築家であり、パターン・ランゲージの提唱者であるクリストファー・アレグザンダー(Christopher Alexander)の『時を超えた建設の道(1979)』や『The Nature or Order』の考え方にもとづき、全体から部分へと分化させ、「15の幾何学的特性」が生じるようにつくり込むことで、いきいきとした活動をデザインすることを支援するものである。本論文では、アレグザンダーの理論とこの手法との関係を明らかにした上で、対話ワークショップのデザインを具体的に例示し、さらに、教育現場における活用例について紹介する。

    全体から分化させてデザインしていく
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    ラーニング・パターンを用いた対話ワークショップの「全体性のたまご」
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    井庭研メンバーは、実際に日々描いています。これは昨年オーストリアで行ったワークショップをつくっているところ。
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    井庭 崇, 宗像 このみ, 「『全体性のたまご』によるデザイン技法:全体から分化させるワークショップとプレゼンテーションのつくりかた」, 7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs(AsianPLoP2018) , 2018

    論文PDF: http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/papers/AsianPLoP18_WholenessEgg_WWS.pdf

    この論文に興味を持っていただいた方は、ぜひ、3月1・2日に早稲田大学で開催される国際学会AsianPLoP 2018 (7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs)にお越しください。そこでライターズ・ワークショップという場が設けられ、この論文について語り合う時間があります。ぜひ、事前登録の上、ご参加ください。
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    The Nature of Order | - | -

    【論文公開】「無我の創造」(Egoless Creation)とパターン・ランゲージ

    2018年3月1・2日に早稲田大学で開催される国際学会AsianPLoP2018 (7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs)でいくつか論文(日本語)を発表する(ライターズ・ワークショップにかける)のですが、その論文、これまでにないかなり面白いものが書けたと思っています。そこで、ここでも紹介したいと思います。(このブログでは、僕がファーストオーサーの論文3本だけ紹介しますが、この他にも、創造的読書のパターン・ランゲージやパターン・アプリなど、井庭研の成果の論文も発表されます。)

    最初の論文は、「パターン・ランゲージによる無我の創造のメカニズム:オートポイエーシスのシステム理論による理解」です。ここ数年僕が興味をもってきたテーマを扱った本格的な論文です。「無我の創造」(egoless creation)とは、自分の身体や感覚を総動員して全身全霊で取り組むが、「こうしてやろう」という作為を生む自我を抜く創造のことです。この論文は、パターン・ランゲージが無我の創造を可能とするためのメディアとしてどのように機能するのかをシステム理論的に明らかにするという論文なのですが、その説明の過程で、作家が「登場人物が勝手に動き出す」と言っているはどういうことかという話や、仏教のマインドフルネスの話なども交えるという"すごい"論文です(しかも32ページの大作!)。ぜひお楽しみください!

    「パターン・ランゲージによる無我の創造のメカニズム:オートポイエーシスのシステム理論による理解」
    (井庭 崇)

    Abstract:
    本論文では、パターン・ランゲージの思想のなかでも最も重要であるが、見過ごされがちであり胡散臭いものだと片付けられてしまいがちな、自我を入れない創造のプロセスについて論じる。アレグザンダーは、デザイナー個人の能力ではなく、個々人のレベルを超えた生成的なメカニズムを見据え、それにもとづく創造を重視した。本論文では、アレグザンダーが主張していることは、物語作家たちが「物語をつくるときには、自分がつくっているというよりも、登場人物が自律的に動き、物語自身が展開していく」と語っていることに共通点があるとして、それを「無我の創造」(egoless creation)という概念で捉える。ここでいう「無我の創造」とは、自分の身体や感覚を総動員して全身全霊で取り組むが、「こうしてやろう」という作為を生む自我を抜く創造のことである。そして、その無我の創造では何が起きているのかを、オートポイエーシスのシステム理論である社会システム理論と創造システム理論から考察する。その結果、無我の創造とは、創造システムでの発見の生成・連鎖の結果を、心的システムが「体験」しているということだと捉えることができる。このとき、仏教の瞑想におけるマインドフルネスの状態と類似した状態になっていると考えられる。そのような無我の創造を可能とするのが、パターン・ランゲージである。再び、システム理論の概念で考えるならば、パターン・ランゲージのパターンは、創造システムにおける発見の選択を支援するための発見メディアであるとともに、言語として心的システムと社会システムを構造的カップリングさせる機能をもつ。本論文では、このように、近代的思考の感覚からすると理解しがたい「無我の創造」について、システム理論で捉え直すという新しい道を拓いた。


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    井庭 崇, 「パターン・ランゲージによる無我の創造のメカニズム:オートポイエーシスのシステム理論による理解」, 7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs(AsianPLoP2018) , 2018

    論文PDF: http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/papers/AsianPLoP2018_EgolessCreationWWS.pdf

    この論文に興味を持っていただいた方は、ぜひ、3月1・2日に早稲田大学で開催される国際学会AsianPLoP 2018 (7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs)にお越しください。そこでライターズ・ワークショップという場が設けられ、この論文について語り合う時間があります。ぜひ、事前登録の上、ご参加ください。
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    「創造性」の探究 | - | -

    慶應義塾大学SFC「創造社会論」2018シラバス

    創造社会論2018
    慶應義塾大学SFC総合政策学部・環境情報学部(基盤科目-共通科目)
    担当教員:井庭崇
    開講:2018年度春学期(前半)
    曜日時限:金曜4・5限※
    ※ 学期後半には、同じ曜日時限に「創造システム理論」(井庭・若新)が開講される予定です。併せてどうぞ。


    【科目概要:主題と目標/授業の手法など】

    これからの社会は、どのような社会になるのだろうか? 本講義では、これからの社会を、人々が自分たちで自分たちのモノや仕組みを創造する「創造社会」(Creative Society)になるという想定から出発する。創造社会では、誰もがさまざまな分野・領域で「つくる」ことをごく当たり前に行うようになる。そして何よりも、「つくる」ということが、生活・人生の豊かさや幸せを象徴するようになると思われる。

    かつてインターネットの登場によって始まった「情報社会」では、生活が変わり、組織が変わり、社会が変わった。同様に、「創造社会」の到来でも、生活・組織・社会のあり方が大きく変わることになるだろう。そこで、その変化とはどのようなものなのか、そして、それらの変化は何をもたらすのかを考えることは、これからの未来に向かうための重要な準備となる。

    本講義では、創造社会へとつながる創造・実践に取り組んでいる方々をゲストにお招きし、対話を重ねることで、創造社会の未来像を描き深めていく。それぞれの対談で見い出された考え方や取り組み方は、履修者がパターン・ランゲージの形式でまとめ、自分たちの実践につなげる準備を行うこととする。

    なお、これまで4年間の授業は、すべてインターネット上で公開されており、 http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/sb/log/eid500.html にその映像ページへのリンク集があるので、興味のある回があれば、見てみるとよいだろう。

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    【授業計画】
    第1・2回(4/13):「日本中を楽しみ尽くす」(加藤史子 × 井庭崇)

    「日本中を楽しみ尽くす、Amazing な人生に。」というキーフレーズで、インバウンドプラットフォーム事業を展開しているWAmazing代表取締役社長CEOの加藤史子さんをゲストにお招きし、これからの日本の楽しみ方について語り合います。加藤さんはリクルート時代に「じゃらんnet」を立ち上げ、「ホットペッパーグルメ」を立ち上げるなど、主にネットの新規事業開発を担当した後、「雪マジ!19」を立ち上げ、「Jマジ!」「ゴルマジ!」「お湯マジ!」「つりマジ!」…などの「マジ☆部」の展開を行なっています。新規事業の企画や立ち上げなどについても伺いたいと思います。(SFC卒業生)


    第3・4回(4/20):「これからの教育の哲学」(苫野一徳 × 井庭崇)

    教育の哲学について探究している苫野一徳さん(熊本大学教育学部准教授)をゲストにお招きし、デューイなどのプラグマティズムとこれからの教育の哲学について語り合います。なお、苫野さんは、この授業の後のゲストである本城慎之介さんや、昨年のゲストの岩瀬直樹さんらとともに、新しい学校をつくる実践もされています。理論と実践の両方に取り組むということの重要性についても語り合いたいと思います。


    第5・6回(4/27):「言葉を編む、世界をつくる」(山本貴光 × 井庭崇)

    心脳問題から文学まで幅広い分野について本を書かれている文筆家でありゲーム作家でもある山本貴光さんをゲストにお招きし、言葉を編むということや、それによって世界をつくるということについて語り合います。特に、西周の「百学連環」をいま読み解くという本を出されていることから、日本語での概念の命名についても一緒に考えていきたいと思います。(SFC卒業生)


    第7・8回(5/2):「下宿 = 地方から考える教育の未来」(瀬下翔太 × 井庭崇)

    瀬下翔太さん(津和野町地域おこし協力隊, NPO法人bootopia代表理事)をゲストにお招きし、これからの教育のかたちと、そのための「下宿」の可能性について語り合います。(SFC・井庭研 卒業生)
    (この日は水曜日ですが、SFCでは、金曜日科目の代替日ということで、金曜日の科目が開講されます。)


    第9・10回(5/11)「これからの生き方・働き方」(尾原和啓 × 井庭崇)

    マッキンゼー、リクルート、Google、楽天などを経て、現在インドネシア・バリ島に住みながら「リゾートワーカー」として、これからの生き方や働き方について新しい視点を投げかけているIT評論家の尾原和啓さんをゲストにお招きし、これからの生き方・働き方について語り合います。この回は、なんと、尾原さんが直接教室に来られるのではなく、分身のロボが教室に来て、海外からの遠隔対談をします。そんなちょっと近未来な対談の経験もお楽しみに。


    第11・12回(5/18):「新しい普通をつくる」(本城慎之介 × 井庭崇)

    楽天株式会社の創業メンバーで元・楽天副社長を務めたあと、全国最年少(当時・32歳)の公立中学校校長を経て、現在、新しい学校づくりに取り組んでいる本城慎之介さん(軽井沢風越学園設立準備財団理事長)をゲストにお招きし、これからの教育・学校のあり方と、新しい普通をつくるということについて、語り合います。(SFC卒業生:秋祭実行委員会初代委員長!)


    第13・14回(5/25):「音楽をめぐる創造性」(渡邊崇 × 井庭崇)

    「舟を編む」「帝一の國」「湯を沸かすほどの熱い愛」などの映画音楽やCM音楽を手がけ、日本アカデミー優秀音楽賞、国際エミー賞などを受賞している作曲家の渡邊崇さん(大阪音楽大学特任准教授)をゲストにお招きし、音楽制作と創造性について語り合います。

    【履修選抜課題】
    受入学生数(予定):約 100 人
    選抜方法:課題提出による選抜

    (1)次のページに、これまで4年間のこの授業の対談映像のリンクがあります。どれでもよいので、好きなテーマのどれか1回分(前半・後半)を見て、対談(ダイアローグ)型の授業というのはどういうものかを理解してください。その上で、自分がどの回を見たのかを明記して、それを見て考えたことや感想を書いてください(この授業では、これと同じように、その回の対談に参加して考えたことや感じたことを提出する宿題が、毎週出ます)。
    http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/sb/log/eid500.html

    (2)この授業を通じて学ぶことはどのようなことだと考えている(予想している)か、そして、それを自分の今の活動や今後にどのように活かしたいと考えているかを書いてください。


    【提出課題・試験・成績評価の方法など】

    成績評価は、授業中の議論への参加、宿題、期末レポートから総合的に評価します。

    【履修上の注意】

  • この科目は、春学期の前半(4・5月)に週2コマ開講する科目です。
  • この授業では、教員とゲストスピーカーによる対談を聴きながら、重要だと思うことを自らつかみ取ることが求められます。
  • 授業と並行して、文献(教科書)を読んでまとめを提出する個人宿題が毎週出ます。


    【教材・参考文献】
    教科書


    参考文献

    • 『パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』(井庭 崇 編著, 中埜博, 江渡浩一郎, 中西泰人, 竹中平蔵, 羽生田栄一, 慶應義塾大学出版会, 2013年)
    • 『プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』(井庭崇+井庭研究室, 慶應義塾大学出版会, 2013)
    • 『創造性とは何か』 (川喜田二郎, 詳伝社新書, 詳伝社, 2010年)
    • 『凡才の集団は孤高の天才に勝る:「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア』(キース・ソーヤー, ダイヤモンド社, 2009年)
    • 『ハイ・コンセプト:「新しいこと」を考え出す人の時代』(ダニエル・ピンク, 三笠書房, 2006年)
    • 『エコロジーのコミュニケーション:現代社会はエコロジーの危機に対応できるか?』(ニクラス・ルーマン, 新泉社, 2007年)
    • 『社会システム理論〈上〉〈下〉』(ニクラス・ルーマン, 恒星社厚生閣, 1993/1995年)
    • 『社会の社会〈1〉〈2〉』(ニクラス・ルーマン, 法政大学出版局, 2009年)
    • 『離脱・発言・忠誠:企業・組織・国家における衰退への反応』(A.O.ハーシュマン, ミネルヴァ書房, 2005年)
    • 『アブダクション:仮説と発見の論理』(米盛裕二, 勁草書房, 2007年)
    • 『人間性と行為』(J.デューイ, 人間の科学社, 1995年)
    • 『感動をつくれますか?』 (久石 譲, 角川oneテーマ21, 角川書店, 2006年)
    • 『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです:村上春樹インタビュー集 1997-2011』 (村上春樹, 文春文庫,文藝春秋, 2011年)
    • 『未来を創るこころ』(石川 忠雄, 慶應義塾大学出版会, 1998年)
    • 『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』(井庭 崇, 福原 義久, NTT出版, 1998年)
    • 『はじめての哲学的思考』(苫野 一徳, ちくまプリマー新書, 筑摩書房, 2017)
    • 『子どもの頃から哲学者:世界一おもしろい、哲学を使った「絶望からの脱出」』(苫野一徳, 大和書房, 2016)
    • 『教育の力』(苫野 一徳, 講談社現代新書, 講談社, 2014)
    • 『「自由」はいかに可能か:社会構想のための哲学』(苫野 一徳, NHK出版, 2014)
    • 『勉強するのは何のため?:僕らの「答え」のつくり方』(苫野一徳, 日本評論社, 2013)
    • 『どのような教育が「よい」教育か』(苫野 一徳, 講談社選書メチエ, 講談社, 2011)
    • 『文学問題(F+f)+』(山本 貴光, 幻戯書房, 2017)
    • 『「百学連環」を読む』(山本 貴光, 三省堂, 2016)
    • 『世界が変わるプログラム入門』 (山本 貴光, ちくまプリマー新書, 筑摩書房, 2015)
    • 『サイエンス・ブック・トラベル: 世界を見晴らす100冊』(山本 貴光, 河出書房新社, 2015)
『文体の科学』(山本 貴光, 新潮社, 2014)
    • 『ゲームの教科書』(馬場 保仁, 山本 貴光, ちくまプリマー新書, 筑摩書房, 2008)
    • 『心脳問題―「脳の世紀」を生き抜く』(山本 貴光, 吉川 浩満, 朝日出版社, 2004)
    • 『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』(尾原 和啓, 幻冬舎, 2017)
    • 『ザ・プラットフォーム IT企業はなぜ世界を変えるのか?』(尾原 和啓, NHK出版新書, NHK出版, 2015)
    • 『ITビジネスの原理』(尾原 和啓, NHK出版, 2014)
  • 授業関連 | - | -

    井庭研春プロ:パターン/スタイル・マイニングのための読書

    井庭研:春の特別研究プロジェクト(3月5, 6, 7, 9, 12, 13日)に向けての宿題

    パターン/スタイル・マイニングのための読書
     井庭研では、パターン・ランゲージやスタイル・ランゲージなど、ことばをつくり、文章を書くということに日々取り組んでいます。また、成果を論文にまとめています。そこで、僕らの活動の中心にある「書く」ということについて、よりよい実践ができるよう、学んで力をつけたいと思います。今回、以下の本から、「書く」ということについてのパターンとスタイルをマイニング(掘り起こし)します。そのため、まず、以下の本を各自入手してください。書き込みをしながら読んでいくので、すべて自分の本になるように、「購入」してください。

  • 伊丹 敬之, 『創造的論文の書き方』, 有斐閣, 2001

  • バーバラ・ミント, 『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』, 新版, ダイヤモンド社, 1999
    ※今回は、「第1部 書く技術」のみ

  • 村上 春樹,『職業としての小説家』, 新潮社, 2016
    ※大きな単行本の方ではなく、みんなで小さい新潮文庫の方で揃えましょう。

  • 川上 未映子 ,‎ 村上 春樹,『みみずくは黄昏に飛びたつ』, 新潮社, 2017
    ※村上さんの最新作『騎士団長殺し』(村上 春樹, 新潮社, 2017)などの話が出てきますが、具体的な話は読み飛ばして大丈夫です。気になる人はその小説の方もどうぞ。

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     これらの本を読みながら、「書くこと」のパターンになりそうなことが語られている箇所や、スタイルになりそうなことが語られている箇所を探し、線を引いたりして「自分なりの書き込み」をしていきます。

    パターン・・・書くという実践の質を向上させるために、奥の人におすすめすべきコツ・経験則(やり方・考え方)。それをしないと実践の質が損なわれる「問題」がおきやすくなります。

    スタイル・・・書くということへの考え方や実践方法において、そういう人もいるというもの(一例として紹介するとよいが、多くの人が実践すべきだとおすすめするというものではないもの)。人によっては、別様でもあり得るもの。


     『創造的論文の書き方』と『考える技術・書く技術』からは、基本的にパターンがたくさん見つかるでしょう。村上さんの『職業としての小説家』『みみずくは黄昏に飛びたつ』については、パターンとスタイルの両方を見つけられると思います。注意が必要なのは、村上さんが「これはあくまで僕の場合ですが」と言っているものでも、スタイルではなく、パターンとして抽出できるものもあるのがあります。実際、パターンかスタイルかの境界はあいまいなので、自分なりに判断が求められます。また、同じ箇所からパターンとスタイルが両方見つかることもあります。
     今回、抽出したものは、レポートのようなかたちでまとめる必要はありません。読んだときに、 本に直接線を引き、書き込んで、付箋を貼ったりして、その本を春プロの集まりに持って来てください。その本を見ながら、みんなでどこをパターンで、どこがスタイルかを、一緒に話し合っていきましょう。

    パターンとスタイルの違いについて、もう少し理解を深めるために例示してみると・・・

     村上さんがよく語っていることに、書くときに、自分の奥深いところに降りていき戻ってくるというためには「体力が必要だ」と言います。それは、毎日コンスタントに書き続けるためにも重要です。そのため、彼は、毎日走り続けていて、マラソンもよく走っています。その「走る」ということと「書く」ということの関係について書いた本もあるくらいです(『走ることについて語るときに僕の語ること』 (村上 春樹, 文春文庫, 2010)これも興味深い本です)。
     そういうことを語っている箇所があったとき、「深い創作活動を行うために、体力をつけ、維持する」ということはパターン的です。それでは、「走る」ということは、どうでしょうか?書く人はみんな走るべきでしょうか?僕は、そうは思いません。泳ぐのでもいいでしょうし、サイクリングでもいいかもしれません。そこで、「書くための体力をつけるために、走る」というのは、村上さんのスタイルということになると考えられます。
    書くという実践において、「体力をつける」ということは、別様でもいいようなスタイルではなく、世の中にそれに当てはまらない人がいるとしても(病弱な著者)、基本的には、多くの人におすすめすることだと思うからです。それに対し、体力をつけるために「走る」ということは、体力をつけるためのいくつかの方法の一つの方法であり、実際に何をやるかは、人それぞれの好みや条件によるでしょうから、これはスタイルだと言えます。このように考えていくわけです。

     もう一つ例をあげましょう。村上さんは、毎日、朝起きてから午前中の間に長編小説を書いているようです。1日10枚(原稿用紙)と決めて、毎日欠かさず、同じペースで書き続けているそうです。ここから僕らが学ぶことができるのは、「毎日決めた時間に書く」ということです。これは書くことについてのコツであり、パターンになりそうです。これをしないので、僕(井庭)なんかは、なかなか本の原稿が仕上がらないという問題がよく起きます。このパターンを実践すれば、きっと本をもっと出せているでしょう。とても重要なパターンです。
     それでは、「午前中に書く」ということは、パターンでしょうかスタイルでしょうか?これは難しいところです。夜に書く作家もいることを考えると、スタイルといえます。しかし、午前中は、日常の雑多なことに触れておらず、頭もクリアであることから、午前中であることは、理に適ったコツ・経験則であるとも言えます。そうなれば、これはパターンとも言えます。このように、判断が難しいものもあります。
     この例の場合には、おそらく、書くことのランゲージをつくるとなると、僕は、別様でもあり得る選択肢を否定しないために(仕事や生活スタイルにもよるので)、「午前中に書く」はスタイルであるとした上で、「毎日決めた時間に書く」というパターンの記述のなかで、その例を強調するというふうにすると思います。
     このように、パターンであるか、スタイルであるかは、唯一の正解というものがあるわけではないので、あまり、その区別に思い悩みすぎないように注意しましょう。

    ■補助的な資料として読んでおいてほしい論文・冊子
  • 井庭 崇, 「パターン・ランゲージによる無我の創造のメカニズム:オートポイエーシスのシステム理論による理解」, AsianPLoP2018初稿

  • この論文は日本語ですが、元の論文は英語で、Takashi Iba, Ayaka Yoshikawa, "Illuminating Egoless Creation with Theories of Autopoietic Systems," PURPLSOC2017 です。日本語か英語かどちらかを春プロまでに読んでおいてください。紙で配布し、PDFでも共有します。
  • 『オープンダイアローグ・パターン』冊子

  • 現段階の井庭の書く力を総動員して仕上げたという意味で僕のなかでの現段階でのベストの作品です。

    ■井庭研のつくる「○○ランゲージ」の総称=クリエイティブ・ランゲージ

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    パターン/スタイル・マイニングのための読書のためのポイント

    読書のクリエイティブ・ランゲージ『Life with Reading』より


    今回読むときには、パターンやスタイルに関係しそうなところに「線」を引きながら読みます。僕の書き込みスタイルは、鉛筆での線引きです。1回目に読むときには、線引きまで。2回目に読むときには、そこで言われていることが、パターンなら「パターン」もしくは「P」、スタイルなら「スタイル」もしくは「S」というように書き込んでいきます。

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    『みみずくは黄昏に飛びたつ』は、具体的な村上さんの作品(小説)の話などが出てくるので、その部分は、今回の目的(パターン/スタイルのマイニング)には関係ないので、適宜読み飛ばしながら、どんどん進んでいきます。
    また、どの本も、2回目に読むときには、線を引いた箇所だけ読みます。

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    特に村上さんの本を読むときには、彼の「書く」ということや、創造の活動を、自分のパターン・ランゲージ(スタイル・ランゲージ)の作成や、論文執筆に置き換えて、「つくる人生」についての深く豊かなイメージを味わってください。

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