井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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『2008 Concept Book』を発行しました。

ConceptBook-Cover150.jpg井庭研究会では毎年、そのときの井庭研における重要な「コンセプト」(概念)をまとめた冊子『Concept Book』を制作している。

今年も、先月、最新バージョンである『2008 Concept Book』が完成した。昨年のコンテンツを参考としながらも、テーマ・記述を全面的に改訂し、より内容豊富に、かつ、わかりやすくまとめた。

ぜひ、ダウンロード・印刷して、見てみてほしいと思う。


『2008 Concept Book』
Table of Contents

【Communication】
1 「コミュニケーションの連鎖」としての社会
2 コラボレーション
3 パターン・ランゲージ
4 コミュニケーション
5 オートポイエーシス

【Emergence】
6 複雑系
7 自生的秩序ConceptBook-category250.jpg
8 ネットワーク
9 べき乗分布
10 量子的世界観

【Methodology】
11 機能分析
12 アクション・リサーチ
13 アウトプットから始まる学び
14 構成的理解
15 カオスの足あと


download『2008 Concept Book』 (井庭研究会 編著, 2008)※約10M byte

見開きを想定したデザインになっているので、印刷の際には両面印刷をして、表紙向かって左側の辺にホッチキスを数箇所とめるようにするとよいと思う。

ConceptBook-Chap1-430.jpg


『2008 Concept Book』の制作では、編集担当の学部生2人を中心として、研究会メンバー全員でコンテンツを作成した。今回は僕も結構執筆に参加している。全体としてクオリティをできる限り高めるために、内容や表現をかなり詰めた。そんなわけで、今年の作業は本当に大変だった。でも、その苦労の甲斐があって、かなり素敵な出来だと思う。

cb_making2.jpg cb_making1.jpg

ちなみに、表紙に「Japanese edition」とあるのは、今年は英語版のConcept Bookもつくりたいという野望があるからだ。英語版は来春を目処に制作する予定。乞うご期待!
井庭研だより | - | -

井関利明先生をお呼びして、対談を行います。

来る2008年12月13日(土)、元・慶應義塾大学総合政策学部長で、現在、慶應義塾大学名誉教授の井関利明先生をお招きして対談を行います。学問分野の枠を超えた、超領域的な研究・思想や、現代社会の潮流などについてのお話ししたいと思います。この対談は、授業「モデリング・シミュレーション技法」(担当:井庭崇)の一環として行われるものですが、聴講も歓迎ですので、興味がある方はぜひお越しください。

対談「新しい時代の知と方法の原理を探る」
2008年12月13日(土)3・4限 @大学院棟τ11教室

井関 利明先生 (慶應義塾大学名誉教授, 元・総合政策学部長)
  ×
井庭 崇 (慶應義塾大学総合政策学部専任講師)

IzekiToshiaki.jpg ibatakashi100.jpg


井関 利明先生 略歴
1959年慶應義塾大学経済学部卒業、1964年同大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士(慶應義塾大学,1979年)。米国イリノイ大学留学、慶應義塾大学産業研究所所員、同文学部教授を経て、1990年より同総合政策学部教授。同総合政策学部長、千葉商科大学政策情報学部学部長を歴任。慶應義塾大学名誉教授。専門分野は、行動科学、科学方法論、政策論、マーケティング論。
主な著書に、『消費者行動の理論』(共編著,1969),『消費者行動の分析モデル』(1969),『消費者行動の調査技法』(1969),『ライフスタイル発想法』(1975),『福祉志向の論理』(1976),『労働移動の研究: 就業選択の行動科学』(1977),『ライフスタイル全書』(1979),『生活起点発想とマーケティング革新』
(1991)、『ワインは時を語る:アート、ビジネス、思想をめぐる6つの対話』(対談, 2001)など多数。


本対談に関係が深い論考には、以下のものがあります。

  • 井関 利明, 「ディジタル・メディア時代における「知の原理」を探る: 知のStrategic Obscurantism」(『メディアが変わる知が変わる:ネットワーク環境と知のコラボレーション』, 1998)

  • 井関 利明, 「『創発社会』の到来とビジネス・パラダイムの転換」(『創発するマーケティング』, 2008)
  • イベント・出版の告知と報告 | - | -

    井庭研 雪山合宿2008

    金曜から日曜にかけて、井庭研メンバーと雪山合宿に行ってきた。スキー&スノボのお楽しみ合宿だ。例年だと、10月にORF準備のための研究会合宿をやるのだが、今年はそういう作業は大学で(半分泊まり込むようなかたちで)取り組むことにし、合宿では交流をメインに据えようということになった。そんなわけで、先週の金曜日は、ゼミ後に、横浜/東京に集合し、夜行バスで白馬五竜へと向かった。

    2008ilab_ski0.jpg

    ゲレンデの雪の状況は、まだ12月頭ということもあって、正直あまりよくはなかった。山の上の方以外は滑走禁止になっていて、滑走可能だったのはコース全体の3割程度。ところどころにアイスバーンもあって、ズズズーーーッと横滑りして、何度も怖い思いをした。

    さらに悪いことに、初日は、雪が降るは風は吹くはの過酷な天候。リフトに乗っているときは特に、顔についた雪に体温を奪われた。滑るのはあっという間で、リフトに乗っている時間の方が長いので、どんどん身体は冷えていく。こういうときはいつも、「人間って変な生き物だなぁ」と思う。寒けりゃ、行ったり来たりなんてやめりゃいいのにって(笑)。ま、そうはいっても、気持ちよく滑ると、ついまたリフトに乗って滑りたくなっちゃうんだけどね。

    2008ilab_ski1.jpg 2008ilab_ski2.jpg
    2008ilab_ski3.jpg 2008ilab_ski4.jpg

    こんな感じで初日は大変だったのだが、2日目は打って変わって快晴となった。景色がとてもきれいで、爽快な気分で滑ることができた。完全に雪化粧している山々も、下界に見える町の風景も、冷たく澄みわたった空気ごしに見ると、心が洗われるような綺麗さだった。

    今回一緒に行ったメンバーは、意外にもスキーヤーが多かった。12人のうち4人がスノーボーダーで、残りはスキーヤー。スキーヤーは初心者が多かったが、スノーボーダーは、みんなうまくて感心した。僕はスノーボードは両足を固定されるのと、左右対称ではないので好きではない。うまく滑っている人を見るのは楽しいけれど、自分でやってみたいとは思わない。一度やって、もう二度とやらないと心に決めた。あんなの怖すぎる。

    2008ilab_ski5.jpg 2008ilab_ski6.jpg
    2008ilab_ski7.jpg 2008ilab_ski8.jpg
    2008ilab_ski9.jpg 2008ilab_ski10.jpg


    僕は、スキーとスノーブレード(ファンスキー)をやった。2008ilab_ski11.jpgスノーブレードというのは、普通のスキーの板の半分くらいの長さの板を使う特殊なスキー。ブーツは普通のスキーのものを使うが、ストックは使わず、スノーボードのように身体を使って滑る。ローラーブレードに近い感覚で滑ることができるので、ローラーブレード好きな僕としては、かなり楽しめるスキーなのだ。ストックも持たないし、板も短いので動きやすく、自由度が高いのも魅力だ。

    思い返せば、僕は8年ぶりのスキー。もう滑れなくなっているのではないかと心配したが、不思議なことに身体は覚えているものだ。しょっぱなから、8年のブランクを感じない滑りができたと思う。スノーボーダーたちと行った中級コースも、十分楽しめたし。

    2008ilab_ski14.jpg 2008ilab_ski12.jpg 2008ilab_ski13.jpg

    今回、スキーが初めてという人や、子供の頃にやった以来初めてという人が多かったが、最後には、みんなうまく滑れるようになっていた。スノーボーダーもスキーヤーも一緒に滑ることができたし、みんなの普段とは違う顔も見ることができた。今回の合宿で、ORFに向けて根詰めて取り組んだ疲れを、うまく解放できたのではないだろうか。

    さて、心機一転、秋学期の後半戦、がんばろう!
    井庭研だより | - | -

    ネットワーク可視化ツールの紹介:基本操作編

    今回は、ネットワーク可視化ツール「Cytoscape」の基本操作について解説する。取り上げるのは、データの準備、データの読み込み、ネットワークのレイアウト変更、ネットワークの画像出力、セッションの保存、という一連の作業。画像もたくさん載せるので、かなりわかりやすいはず!

    ■データの準備

    まず、可視化したいネットワークのデータを用意する。「ネットワーク」を可視化したいので、どの「ノード」(node)とどの「ノード」が「リンク」(link)で結ばれているのかを、個別に指定しなければならない。また、ネットワーク分析においては、個々のリンクの重み(強度)が重要になることがあるので、そのような情報も盛り込む必要がある。

    Cytoscapeで読み込めるデータの形式にはいろいろあるが、僕らは普段、次のような形式でデータを用意している。どのノードとどのノードをリンクでつなげるのかということと、そのリンクの重みがどのくらいか、ということを、ずらっと書いていくのだ。テキストフォーマットとしては、カンマ区切りのcsv(comma separated value)形式だ。

    リンク元のノード名,リンク先のノード名,リンクの重み
    リンク元のノード名,リンク先のノード名,リンクの重み
    リンク元のノード名,リンク先のノード名,リンクの重み

    リンクに「向き」がある「有向グラフ」(directed graph)の場合には、1列目のノードから、2列目のノードへとリンクが張られる。リンクに「向き」がない「無向グラフ」(undirected graph)の場合には、1列目と2列目の順番は意味をもたない。

    なお、実データを用いるときには、ノード名の一部に半角のカンマ「,」が入っていないかを確認しよう。データを読み込んだ時に、誤った区切り方で読み込まれてしまうので、事前のデータクリーニングが重要となる。

    ※なお、カンマが区切りの記号なので、ノード名に空白が入っていても問題はない。ただし、空白の数や全角・半角が違うと、別の名前だと判断されるので、同一のノード名にしたい場合には、それらは統一する必要がある。

    今回の説明で使用するサンプルデータ(sampledata.csv)は、次のようになっている。このデータは、井庭研究会のメーリングリストにおける投稿の連鎖のデータだ。ある一定期間に、誰が誰の投稿にリプライをしたのかを調べ、上記の形式に直したものだ。1列目の人の投稿に対し、2列目の人がリプライしたということを示している。最後の数字は、期間中にそのような組み合わせが何回あったのかを表している。

    Angela,Chuck,1
    Angela,Hammer,1
    Angela,Hana,1
      ・
      ・
      ・
    Hammer,Hana,2
    Hammer,Ryo,6
    Hammer,Taka,4
      ・
      ・
      ・
    Tomo,Chuck,1
    Tomo,Miu,1
    Tomo,Ryo,2

    以下で、説明を読みながら実際に試してみる場合には、まず、サンプルデータ(sampledata.csv)を保存しておこう(右クリックで「名前をつけてリンク先を保存」)。


    ■データの読み込み

    Cytoscapeを立ち上げ、起動画面が終わるのを待つ。[File]メニューから、[Import]→[Network from Table (Text /MS Excel)]を選ぶと、「Import Network and Edge Attributes from Table」ウインドウが表示される。

    Cyto_Data_FileImport.jpg

    「Select File(s)」ボタンをクリックし、用意したデータファイルを選択する。ここでは、sampledata.csvを選ぶ。

    次に、カンマ区切りのデータを読み込むという設定にするため、ウィンドウの真ん中にある「Advanced」パネルの「Show Text File Import Options」のチェックし、設定パネルを開く。「Delimiter」のところを「Comma」だけになるようにする(チェックが入っている「Tab」と「Space」のチェックははずす)。「Comma」だけになっていることを確認したら、「Show Text File Import Options」のチェックをはずし、設定パネルを閉じる。

    Cyto_Data_ShowText.jpg

    今度は、どの列がどのようなデータなのかを、「Interaction Definition」パネルで指定する。ここでは、「Source Interaction」を「column 1」、「Interaction Type」を「column 3」、「Target Interaction」を「column 2」と設定する。左下の「Preview」領域で、正しく指定されていることを確認する。

    Cyto_Data_InteractionSelect.jpg

    そして、右下の「Import」ボタンを押すと、データの読み込みが始まる。「Loading Network and Edge Attributes」ウィンドウが立ち上がり、読み込み状況が表示される。小さなデータであれば、あっという間に終わるが、非常に大規模なデータの場合には、この読み込みに数時間から1日かかることもある。読み込みが終わると、「Close」ボタンが押せるようになっているので、それを押して、「Loading Network and Edge Attributes」ウィンドウを閉じる。

    Cyto_Vis_ScreenLayout1.jpg


    ■ネットワークのレイアウト変更

    データの読み込みが終わると、画面中央にネットワークが可視化されているはずだ。最初に開いたときには、ノードが縦横に整列して配置されていると思う。ここで、ネットワークのレイアウトの変更をしてみよう。

    ネットワークのレイアウトの変更は、[Layout]メニューで行うことができる。ネットワークをどのような観点で見たいかによって選択する。[Layout]メニューには、「yFiles」、「Cytoscape Layouts」、「JGraph Layouts」があるが、ここでは、[Cytoscape Layout]→[Edge-weighted Spring Embedded]→[unweighted]を選んでみよう。

    Cyto_Vis_LayoutSelect.jpg

    これで、リンクのつながり方を反映した配置になったと思う。

    Cyto_Vis_ScreenLayout2.jpg


    Cyto_Vis_LayoutScale.jpg見た目の基本的な調整としては、スケールを変える、という方法がある。[Layout]メニューから、[Scale]を選ぶと、左下にスケールパネルが開く。そこでスケールを変更することができる。


    Cyto_Vis_ScalePanel.jpg

    また、上方のツールバーにある「(1:1)の虫眼鏡」を選ぶと、ネットワークの全体像が表示されるように調整してくれる。ネットワーク図のノードをドラッグすると、個々のノードの位置を変えることもできる。

    Cyto_Vis_JustFit.jpg

    色や形などについての詳細な設定については、今度書くことにするとして、次に、ここで可視化したネットワーク図の画像出力を行うことにしたい。


    ■ネットワークの画像出力

    ネットワーク図を画像として出力するには、[File]メニューから、[Export]→[Network View as Graphics] を選ぶ。

    Cyto_Export_FileExport.jpg

    立ち上がった「Export Network View as Graphics」ウィンドウで、「Choose」ボタンを押し、出力場所とファイル名を指定する。

    Cyto_Export_Setting230.jpg出力形式にいは、PDF形式、SVG形式、EPS形式、JPEG形式、PNG形式、BMP形式が指定できる。最初の3つの形式(PDF、SVG、EPS)は、ドロー系の画像として保存される。つまり、ネットワーク図が線の情報として記録されるので、Adobe Illustrator等のドロー系ソフトで編集することができるようになる。論文などで図を使用する場合には、こちらの形式にするのがよいだろう。僕らも普段、PDF形式で出力して、Adobe Illustratorで編集・調整をしている。

    後半の3つの形式(JPEG、PNG、BMP)は、ペイント系の画像として保存される。研究の途中段階で、ネットワークの全体像をとりあえず記録したり、メンバーと共有したりするときには、便利かもしれない。


    ■セッションの保存

    最後に、セッションの保存をする。ここでいうセッションの保存というのは、ネットワーク「図」の保存ではなく、ネットワークデータや見た目の設定などを含んだセッション全体を保存するという意味だ。Cytoscapeを閉じたあと、また次のときに、現在の状態から作業を続けるために必要となる。

    Cyto_Save_FileSave.jpgセッションの保存は、[File]メニューの[Save as ...]で行う。一度、保存場所とファイル名を指定してあれば、[Save]だけでよい。Cytoscapeのセッションは、「~.cys」ファイルとして保存される。

    次に読み込むときには、[File]メニューの[Open]で開くか、「~.cys」ファイルをダブルクリックすることで、保存したセッションを読み込むことができる。


    以上が、Cytoscapeの基本的な操作だ。次回は、ネットワークの描画についての、より詳細な設定について解説することにしたい。
    ネットワーク分析 | - | -

    ネットワーク可視化ツールの紹介:インストール編

    僕らが普段、ネットワークの可視化・分析に使っているソフトウェアを紹介することにしたい。バイオインフォマティックスの分野で開発された「Cytoscape」(サイトスケープ)と、そのプラグインの「NetworkAnalyzer」の組み合わせだ。オープンソース・ソフトウェアなので、無料で利用できる。

    Cytoscape (http://cytoscape.org/)
      Cytoscapeは、比較的わかりやすいユーザーインターフェースで操作でき、大規模なネットワークも可視化できる魅力的なツールだ。また、多くのプラグインが開発されている点も、このコミュニティが活発であることがわかる。Cytoscapeで可視化したネットワークは、ベクター画像をPDF形式で出力することができる。僕らの研究では、Cytoscapeで出力したPDFを、Adobe Illustratorで編集している。

    NetworkAnalyzer (http://med.bioinf.mpi-inf.mpg.de/networkanalyzer/)
      NetworkAnalyzerは、Cytoscape用のプラグインで、Max Planck Institute for Informaticsが開発したもの。ネットワークの直径や平均近傍数、最小経路長、クラスタリング係数などを算出してくれるネットワーク分析ツールだ。また、いろいろな分布なども表示してくれる。分析結果を画像やテキストとして保存できるのでとても便利。僕らの研究でも、このツールは重宝している。


    ■Cytoscapeのダウンロードとインストール
    ※この記事の執筆現在、Cytoscapeの最新バージョンは 2.6.1なので、以下は、そのバージョンについて書くことにする。また、Windowsへのインストールについて説明する(バージョンやOSが変わっても、基本的には同じ手順だと思う)。

    cytoscape_site230.jpgまず、Cytoscapeのホームページ(http://cytoscape.org/)に行く。このサイトから、ソフトウェアのダンロードのほか、各種プラグインや関連ドキュメントなども入手できる。

    サイト内に「Download Cytoscape」という項目があるので、そこからダウンロードページ飛ぶ。ユーザー登録のページのあと、ダウンロードのリンクがあるページ行く。自分が使っているOSに該当するもの(Windows / Mac / Linux)を選んで、インストールファイルをダウンロードする。

    cytoscape_install230.jpgダウンロードしたファイル(exe)を実行すると、インストーラ―が立ち上がるので、ライセンスの承認やインストール先を指定して、インストールする。いま指定した場所に(デフォルトでは、CドライブのProgram Filesの中)に、cytoscapeのフォルダができる。

    cytoscape_screen230.jpgそのなかのCytoscape.exeを実行(ダブルクリック)すると、起動画面が出た後に、Cytoscapeのメインウィンドウが立ち上がる。特にエラーも出なければ、正常にインストールが完了したことになる。立ち上がることを確認したら、ウィンドウを閉じて終了させる。


    ■NetworkAnalyzerのダウンロードとインストール
    NetworkAnalyzerのページは、Cytoscapeのホームページ(http://cytoscape.org/)から辿ることができる。
    ページの上方にある「Plugins」をクリックすると、プラグインのページに飛ぶ(http://chianti.ucsd.edu/cyto_web/plugins/index.php)。そのなかの「Analysis -- Used for analyzing existing networks」の[+]をクリックすると、その項目の詳細が展開される。そのなかの「NetworkAnalyzer」のところに、NetworkAnalyzerのホームページ(http://med.bioinf.mpi-inf.mpg.de/networkanalyzer/)へのリンクがある。

    netana_site230.jpg左のメニューの「Software」の「Download」をクリックすると、NetworkAnalyzerのダウンロードページに行く(http://med.bioinf.mpi-inf.mpg.de/netanalyzer/download.php)。

    そこで、NetworkAnalyzerプラグインのユーザー登録をして、ダウンロードページからダウンロードする。ダウンロードした圧縮ファイルを解凍するときの注意としては、その階層に内容が展開されてしまうので、フォルダをつくり、そこに入れて解凍する方がよい。

    解凍してでてきた二十数個のjarファイルをすべて、先ほどインストールしたCytoscapeフォルダの「plugins」フォルダに入れる。これでプラグインの設定は完了だ。

    cytoscape_plugin230.jpg再度、Cytoscape.exeを実行(ダブルクリック)し、Cytoscapeのメインウィンドウの上部にあるメニューにある「Plugins」のなかに「Network Analysis」の項目があれば、プラグインのインストール完了だ。

    これらのツールの具体的な使い方については、別途書きたいと思う。
    ネットワーク分析 | - | -

    井庭研究会 2008年夏休みの課題

    2008年の井庭研の夏休みの課題は、デザインスキルの向上を目指し、読書と実践に取り組むというもの。以下が、その内容だ。


    井庭研究会 2008年夏休みの課題

    今年の夏休みの課題は、「複雑な情報を可視化・表現する」能力を高めることを目指します。つまり、ヴィジュアライゼーションやデザインの能力を向上させよう、ということです。デザインのコツに関する本を読み、実践してもらいます。

    まず以下の3冊を購入し、読んでください。これらの本は、内容的にためになるだけでなく、見た目にも魅力的な本なので、楽しみながら読んでください。

    『デザイン・ルールズ:デザインをはじめる前に知っておきたいこと』
    『デザインする技術:よりよいデザインのための基礎知識』
    『シンプリシティの法則』

    そして、これらの文献で得た知見を活かして、

        「井庭研」を表現するポスター

    をつくってください。

    「井庭研」を表現といっても、井庭研の概念や方法をうまく表現することだと思ってください。井庭研のすべてを取り上げる必要はなく、メリハリをつけて表現してもらえればよいと思います(新規履修者の人は、「井庭研」を表現するのは難しいと思うので、井庭研関連の授業を表現してください。コラボ技法、モデシミュ、シミュレーションデザインなど、そこで学んだ概念や方法を表現してください)。


    作成するポスターについて
    ポスターのサイズは、A3とします(用紙の向きは縦でも横でも構いません)。

    ポスターといっても、いろいろな種類がありますが、今回想定しているのは、商品の広告ポスターと、(ORFや学会でのポスター発表の)文字が多いポスターの間くらいのイメージです。(つまり、インパクトだけのヴィジュアライゼーションでもなく、文字での説明が過剰な展示でもなく、その間を狙ってください。)

    必ず Adobe Illustrator や Photoshop などのツールを用いて、デザインしてください。(Power Pointは、ビジュアル的に美しくないので認めません。)

    これらのツールを使えないという人は、秋学期に使うことになるので、夏休み中にマスターしておいてください。これらのソフトウェアをもっていないという人は、研究室や特別教室にもありますし、特にIllustratorはかなり便利なので、これを機に購入するといいと思います。アカデミックパックなら正規価格よりもかなり安く買えます(3万円弱)。


    活用したコツをまとめる
    また、ポスターの作成にあたり、上記の3冊のどのコツを活かしたのかを、具体的に取り上げて、まとめてください(WordもしくはPDF提出)。


    締切&提出
    2008年9月22日(月)までに、井庭研MLに提出してください。

    ポスターについては、IllustratorやPhotoshopのオリジナルファイルと、PDF形式で保存したものの、両方を提出してください。(ファイルサイズが大きくなると思うので、どこかにアップして、URLをメールしてください。)

    活用したコツについては、WordかPDFファイルをメールに添付してください。


    提出されたものの公開
    秋学期の最初に、提出されたポスターを一堂に展示する「『井庭研』ポスター展」を開催したいと思います。井庭研ホームページにも掲載したいと思います。


    書籍の詳細情報
    それぞれ早めに購入して読み始めてください。少し大き目の本屋さんで購入する必要があります。

    『デザイン・ルールズ:デザインをはじめる前に知っておきたいこと』(伊達千代&内藤タカヒコ, MdN, 2006)
    Book-DesignRules.jpg
    Step 1 まとまりを持たせる
    Step 2 変化を付ける
    Step 3 強調する
    Step 4 デザインのテクニック
    Step 5 色について


    『デザインする技術:よりよいデザインのための基礎知識』(矢野りん, MdN, 2006)
    Book-DesignSkills.jpg
    第1章 ものづくりの手がかり―「考」の技法
    第2章 点と線とで家が建つ―「図」の技法
    第3章 身近だから知らない―「文字」の技法
    第4章 情報の舞台装置―「面」の技法
    第5章 目に見えることのすべて―「色」の技法


    『シンプリシティの法則』(ジョン・マエダ, 東洋経済新報社, 2008)

    Book-Simplicity.jpgシンプリシティ=健全さ
    法則1 削減
    法則2 組織化
    法則3 時間
    法則4 学習
    法則5 相違
    法則6 コンテクスト
    法則7 感情
    法則8 信頼
    法則9 失敗
    法則10 1
    鍵1 アウェイ
    鍵2 オープン
    鍵3 パワー
    人生
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    「創発する学び」について考える @PCカンファレンス

    PCC0.jpg2008年8月6日(水)~8日(金)に開催された「2008 PC Conference」の初日に参加した。PCカンファレンスというのは、CIEC(コンピュータ利用教育協議会)と全国大学生活協同組合連合会が共同開催する教育系のカンファレンス。今年は、「創発する学び」をテーマに、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)で開催された。

    基調講演(佐伯先生)

    PCC1.jpg最初の基調講演は、佐伯胖(ゆたか)先生(青山学院大学社会情報学部教授, CIEC会長)の講演だ。僕は昔から佐伯先生の本がすごく好きで、実際かなり影響を受けているので、講演をとても楽しみにしていた。講演タイトルは、「学習学ことはじめ ~勉強から学びと共感へ~」。

    この講演で、佐伯先生は、“学習学”(学び学)という分野を提唱した。これまで「学び」(学習)については、「教育学」で主に研究されてきたが、それとは異なるアプローチで「学び」に迫っていこうというアプローチを提唱したわけだ。

    「学び」は教育に従属するものではない。「教える」という意図的行為に拠らなくとも、人間は学ぶ。そうであるならば、「教育学」のように「教育」というジャンルにおいて「学習」を考えるのではなく、“学習学”というジャンルをまず設定し、そのなかで「学び」について考えるのがよいのではないか。こうして、人間の「学び」について明らかにし、「学び」を支援することを目的とする“学習学”が必要となるのだ。

    “学習学”は、言葉的には似てはいるものの、認知科学における「学習科学」(Learning Sciences)とも異なる。学習科学では、学習について科学的な(特に認知科学的)な立場から考えるが、“学習学”では、いわゆる科学の枠を超えて、理論(学習論)、実践(学習実践)、臨床(学習臨床)から構成される。ここで提唱された“学習学”は、実は新しい考え方というよりは、これまで佐伯先生が言ってきたことを端的に言い表したものだといえる。しかし、端的に言い得た分、その論を知らない人にも伝わりやすくなったと思う。

    これからの「学び」の具体的なイメージについては、佐伯先生は、「教え主義の教育」と「共感的参加型の学習」を比較し、後者が重要であるということを主張した。「参加型」というだけならば簡単であるが、そこには学習者の能動性がどうしても不可欠となる。このような能動性は、学習者自身の中だけから生まれる人依存の性質なのだろうか。佐伯先生は、そうではない、という。

    「近年の状況的学習論や社会構成主義的学習論が示唆しているように,学習者の学習への能動性の源泉は『他者と共にいる』という協同性にある。何らかの『共同体』実践に加わることから,そこでの自律的参加が『いざなわれる』のである。そこでは,『他者と共にある』中での『自分らしさ(アイデンティティ)』の確立が促進されるのである。自分なりの参加に独自性が発揮され,そのことが共同体によって『よろこばれる(appreciateされる)』のである。」(佐伯胖, 2008 PC Conference 基調講演概要より)

    「共感的参加型の学習」という指摘は重要だ。これは、従来からの「教え主義の教育」とは異なる目標をもつということにつながる。「『勉強』の世界では,学習の動機づけは個人能力の高揚だけにある」(佐伯胖, 2008 PC Conference 基調講演概要より)が、「共感的参加型の学習」では、関係性のなかの自分が高まっていく。そしてそれは、個人能力というよりは、関係性における能力なのだ。まさにSFCが設立当初から目指してる方向性であり、僕も「コラボレーション技法ワークショップ」や研究会で目指しているものだ。

    この講演では、このほかにも、「学びを“関係論的”に見る」や「人は共感によって世界を知る」という魅力的な話が出た。興味深かったのは、ミラーニューロンの発見の意義についての話である。佐伯先生が70年代に提唱した「擬人的認識論」(自分の「分身」を世界に投入することで、世界を認識する)が、ミラーニューロンの発見によって科学的に裏付けされたという。そしてそこから、マイケル・ポランニーの個人的知識の話につながったりと、分野横断的に「学び」について語る語り口がとても魅力的な講演だった。


    基調講演(熊坂先生)

    PCC2.jpg2つ目の基調講演は、今回のPCカンファレンスの実行委員長である熊坂賢次先生(慶應義塾大学環境情報学部教授)の講演だ。
    タイトルは、「SFCの挑戦:『未来からの留学生』から未来創造塾へ」。熊坂先生らしいトークで、笑いながら聞いた。

    熊坂先生の講演では、1990年に開校したSFCが何を目指し、今後どこに向かうのか、ということが語られた。SFCの出発点は、佐伯先生の指摘と同様に、「知識の伝達」には限界がある、という問題意識だ。そこで、SFCでは「知識の伝達」ではなく、絶えざる「時代の変化」に対応していける「問題発見・解決の方法論」の開発と共有が目指された。それに応じて、知識の伝達のための「教育」体制ではなく、問題発見・解決を実践し、方法論を開発する「協働的な学習」体制の構築が行われてきた。

    この精神は、「先端と創造のカリキュラム」と呼び得る現行カリキュラムにもしっかりと根づいている。このカリキュラムの特徴は、「階層(教養と専門)の打破」、および「時代性の<先端>と、時代性を超越する<創造>の対抗的相補性」だ。そして、その中核をなす「研究会」では「先端と創造の探究(研究)=研究の本質」が行われる。しかも、それをチームで行うということが重要であり、それこそが「半学半教の精神」につながるのだ。

    今後SFCは、『未来創造塾』として研究と教育と生活の融合を目指していく。このように、この講演では「学び」という観点から、SFCがこれまで何を考え何を実践してきたのか、ということが語られた。興味深い講演だった。


    パネルディスカッション(プロジェクトによる学び)

    PCC3.jpg午後には、妹尾堅一郎先生(東京大学, CIEC副会長)の司会のもと、「プロジェクトによる学び」(Project Based Learning:PBL)のパネルディスカッションが行われた。パネルには、「プロジェクトによる学びの創発とメディア」の熊坂賢次先生(慶應義塾大学)、「経験学習とプロジェクト型授業」の長岡健先生(産業能率大学)、「ソフトウェア開発によるプロジェクトマネジメント教育」の松澤芳昭先生(静岡大学)、「eラーニングの専門家を養成するプロジェクト型実践演習」の北村士朗先生(熊本大学大学院)が登壇した。

    全体としては、ひとえに「プロジェクトによる学び」といっても、いろいろなタイプがあるんだなぁ、ということがよくわかる展開だった。要は、みんな言いたいことを言って、それがズレあっているということなのだが。それでも、個別の考えやエピソードは、面白かった。

    「プロジェクトによる学び」を実現するには、教員が「面白いプロジェクト」を思いつく必要がある、という指摘が長岡さんからあった。本当にそのとおりだと思う。プロジェクト型教育では、「プロジェクトが面白いかどうか」が重要であり、それゆえ教員が「面白いプロジェクトを思いつくかどうか」が決定的に重要となる。僕も、「コラボレーション技法ワークショップ」や研究会でプロジェクトの設定をするとき、「面白いか」を本気で考えている。参加するメンバーにとって、そのプロジェクトが魅力的にみえなければ、プロジェクトは単なるタスク以外の何ものでもない。それゆえ、プロジェクトの「面白さ」に対してのセンスが求められるのだ。

    「プロジェクトによる学び」では、学生の方も求められることが違ってくる。妹尾さんの言葉だが、「知識伝達型では、皆と同じことが言えるかが問われるが、プロジェクト型では他と違うことが言えるかが問われる」のだ。同一化ではなく、差異化、しかも単なる差異化ではなく、プロジェクトという共通基盤の上での差異化である。これは、プロジェクトのみならず、社会においても重要となる能力だ。

    熊坂先生が紹介した、評価を学生自身に申告させるという独自の成績評価方法も刺激的だ。「自分の評価は自分で決める。他の人に評価を決められるのはこんなに不幸なことはない」。ここで紹介されたものは、教育評価におけるかなり核心的な(そして革命的な)考え方だと思う。授業運営だけが、従来の知識伝達型と異なるだけではだめだ、というメッセージだからだ。これについては、僕もちゃんと考えていかないといけないと思った。

    ところで、ステージ上の熊坂先生が、客席の僕に話を振ったので、僕もステージで一言話すことになった。そこで、「アウトプットから始まる学び」について話した。面白かったのは、妹尾先生がつけ加えてくれた「呼吸法も同じだ」という話。呼吸法では「まず、吐け」と言われるという。吐けば、自然と吸えからだ。そう、「アウトプットから始まる学び」というのは、まさにそういうことだ。SFCでは1年生のうちに創造実践科目において「アウトプットから始まる学び」を実践する。これは、大学入学時までに吸収してきたものを、一度吐き出して(創造・実践して)みることが求められる。その結果、今自分は何が出来て、何が出来ないのか。それを知ることが、それ以降のSFCでの学びに影響を及ぼす。吐き出した分、吸収できるようになる。この呼吸法の話は、かなり僕的にはヒットだった。


    さて、今回のPCCは、熊坂先生が実行委員長だということで、井庭研のメンバーにも裏方のお手伝いをしてもらった。おつかれさま!ありがとう。
    「研究」と「学び」について | - | -

    地域行政にもっと創造性(クリエイティビティ)を!

    Chigasaki1.jpg夕方から、茅ヶ崎市の産業振興課と農政課の方を対象に、発想支援ワークショップを行ってきた。みなさん、通常の仕事が終わってからの参加だったが、楽しみながら一生懸命取り組んでいただいた。おつかれさまです!

    今回はまずイントロダクションとして、「コミュニケーションの連鎖」の観点から地域の活性化を考えるという視点と、地域活性における創造性(クリエイティビティ)の重要性についてお話しした。その上で、ブレインストーミング(略して「ブレスト」)の演習を行った。今回は、練習用のテーマで行ったが、最終的には未来像やヴィジョンを設定するために行う予定だ。目の前の問題・課題を処理していく通常の業務とは異なる頭の使い方をする演習になったと思う。

    Collaboration.jpgブレストのコツは、まず第一に「とにかくたくさん出す」ことだ。質より量を目指す。「下手な鉄砲、数打ちゃ当たる」ではないが、アイデアもたくさんだせば、そのなかに優れたアイデアの原石が混じっているものだ。それを後で拾い上げ、磨いていくことになる。ブレストの段階では、そのアイデアが良いか悪いかの判断はしないのが鉄則だ。

    ブレストの第二のコツは、「ポジティブの連鎖」ということ。他の人のアイデアを否定したり批判したりするのではなく、「いいねぇ」というポジティブな感じで反応するのがよい。たとえ実際にはあまりよいアイデアではなかったとしても、できるかぎり良い面を拾いあげる。このことは、たくさんのアイデアを出す上でとても大切なことなのだ。言ったアイデアがすぐに否定されたり批判されたりしたら、その人はもうそれ以上アイデアを出そうとは思わないだろう。そうではなく、お互いに「乗せ」合うことが重要となる。お互いに他の人の良いところを引き出し合いながら「ポジティブ」な流れができるようにするのだ。

    第三のコツは、「増幅効果」だ。これは、他の人が言ったアイデアに対して「それなら・・・も」というように、アイデアを増幅させて連鎖させていく、ということだ。この増幅効果があるからこそ、複数人でブレストを行う意味がある。もし、一人一人が考えてきたアイデアを寄せ集めるだけでよいのであれば、ブレストをやる意味はない。グループレベルの非線形性が生まれ、創発が起こるためには、この増幅効果が不可欠だ。

    Chigasaki4.jpgChigasaki2.jpg僕が、ブレストの場をファシリテートするときに必ず用いるツールは、大きな付箋(ポストイット)、太い黒ペン、ノリがいい音楽の3点だ。付箋は、正方形の大きいタイプのものを使う。細長いのでは、書けるスペースが小さいし、存在感が薄いのでだめ。正方形の大きな付箋であれば、描こうと思えば絵も描ける。

    太い黒ペンは、ぺんてるの水性サインペン(S520-AD)が一番よく、そうでなければ、ゼブラのハイマッキー(の細い方を使う)か、マッキー極細(の太い方を使う)。でも、長時間書き続けることを考えると、水性の方が匂いが少なくてよいと思う。ある程度の太さがあると、テーブルを挟んだ遠い参加者にも読めるようになるし、書いたものに自信が出てよい。

    音楽は、その「場」に勢いをつけるために不可欠だ。ノリの良い曲を選曲する。聴き流せるように洋楽の方がよい。そして、少し大きめにかける。これにもちゃんと理由がある。ブレストには勢いが必要だ。しかし、静かな空間では、人は比較的小さな声になってしまい、徐々にアイデア出しの連鎖も萎んでいってしまう。逆に、人は騒がしいところでは、相手に聴こえるようにと少し大きな声になる(騒がしい飲み屋を出た後に声が嗄れていた、なんてことを思い出してもらえればいい)。そういったしっかりとした発声は、自信にもつながる。もちろん、音楽がなっているので、周囲の人(他のグループやファシリテーター)のことを気にせず、くだらないアイデアも話してみることができる、というメリットもある。

    そんなわけで、僕のこだわりとしては、ブレストには、大きな付箋、太い黒ペン、ノリがいい音楽の3点セットを必ず用意するのだ。

    Chigasaki0.jpgさて、最終的に、たくさん出したアイデアのどこに着目するかというと、まずは、「普通に考えると意味がわからないアイデア」や、「実現方法が想像できないようなアイデア」だ。なぜそこに着目するかというと、それらは現実から演繹したアイデアではないからだ。その意味で、ブレストで出てきたアイデアとして価値がある。そして、それを一度眺めた上で、「それらよりは少しは現実味のある魅力的なアイデア」を探していく。さっきの意味や実現方法が想像できないものよりは理解しやすいが、現実には存在しないもの。このように、現実から遠いところから現実の方へと戻ってくる。

    なぜこのようなアプローチをとるかというと、未来像やヴィジョンは、まさにこの方向で考えていくべきだからだ。未来像やヴィジョンを設定するときには、現状から演繹してはだめだ。現実を無視してよいわけではないが、最初から現状を踏まえて発想してしまうと、発想の飛躍が起きず、「想像の圏内」にあるそれなりの案しか出せない。未来像やヴィジョンは、発想を思いっきり飛躍させ、理想的なイメージを思い浮かべてから、現状にグラウンディングしてこなければならない。決して現状から演繹するのではないのだ。

    Chigasaki3.jpgこのようにして、未来像やヴィジョンが見えてきた後に、今度は現在地点からそこにどうやって行くかを考える。いうならば、カーナビ方式と言うことができる。カーナビでは、目的地を設定してから、現在からの行き方を考える(カーナビがルート計算してくれる)。これと同じように、将来に達成したい未来像やヴィジョンを思い描き、そこに向かってどう進んでいけばよいかを考えるのだ。目的地が決まっているから、途中のルートが多少ずれても、最終的な到着にはさほど影響はない。また、他のメンバー(の車)も、それぞれにその目的地に向かうことができる。

    問題発見・解決のアプローチではなく、想像力を飛躍させることが重要だということについて、ずいぶん以前に(博士時代に)書いたものがある。今回のワークショップでも資料として配った。興味がある人は、こちらも見てみてほしい。僕自身、久しぶりに読んでみて、昔から軸はブレていないなと思った。

    ● 井庭崇, 「思考のおもちゃ箱(1): 未来をデザインする」, 季刊 未来経営, 春季号, フジタ未来経営研究所 発行, 大学出版センター, 2001


    というわけで、今回は地域政策や地域活性のワークショップとしてはかなり異色の(しかし本質的な)ワークショップになったと思う。今後もこのトーンで展開していきたい。


    「地域行政にもっと創造性を。」

    これが今回の僕らの究極のミッションだ。
    「創造性」の探究 | - | -

    幻のバンド !? リアル・ライフ・ファクトリー (その3)

    僕が大学院生のときに組んだ即席バンド「リアル・ライフ・ファクトリー」の曲で、最後に紹介するのは「tsubomi」という曲。

    この曲は、ライブの2週間ほど前に、植野が突然「1曲できた!」と持ってきたもの。恋の歌だ。ほかの曲と違って、この曲はアコースティックギター&ボーカルだけの曲。ライブでは、植野自らがギターを弾いた。


    tsubomi

                           music by Ken UENO
                           words by Ken UENO & Takashi IBA

    [1]tsubomi200.jpg
    風に乗って あの星に代えて
    光の粒を 水面に浮かべる
    ふざけた恋なら どうでもよかった
    占いなんかに うなされている

    † せつない響きを
      たよりないコトバを
      君を想って
      そっと包み込む

    ‡ Ah はかない想いだけど
    君に 咲かせてみせよう
    Ah ささやき届くあたりで
    君と 一緒に 一緒に

    [2]
    風を集めて ポケットにしまって
    君の仕草を 夜空に浮かべる

    やさしい声なら なんでもよかった
    ふいにひとりで 微笑んでいる

    †'せつない鼓動で
      たよりない両手で
      君の面影を
      キュっと包み込む

    ‡ Ah はかない想いだけど
      君に 咲かせてみせよう
      Ah ささやき届くあたりで
      君と 一緒に 一緒に

    ‡'Ah はかない想いだけど
      君に 咲かせてみせよう
      君に 咲かせてみせよう
      僕が 咲かせてみせよう

                     Copyright(C) 1999, The Real Life Factory


    「tsubomi」の音源も、1999年の学園祭ライブで収録したもの。ちなみに、この曲は、「Sur Long Dayz」についで人気が高かった。

    icon-face-mini.gif 「tsubomi」(MP3音源: The Real Life Factory, 1999)

    僕らのバンドは、メンバー全員が大学院生だったので、昼間は各自研究や授業の手伝いなどでバタバタしていた。だから、活動はいつも夜中。メンバーの家で飲みながら作詞・作曲したり、スタジオでのバンド練習も、たいていは夜11時から朝4時まで、という感じで行われた。

    初心者ばかりなので、演奏の良し悪しについては仕方がないところがある。それでもやはり、オリジナルの曲にチャレンジしてよかったと思う。このときつくった歌たちは、このときこのメンバーでなければつくれなかったものばかりだ。もしかすると、つくった張本人たちが、ほかの誰よりもこれらの歌のファンなのかもしれない。それでもいいかもしれない。

    歌を自分たちでつくる。そして演奏する。こんな贅沢をさせてもらえたメンバーには感謝の気持ちでいっぱいだ。歌ってすごいな。ほんと。

    band1-150.jpgband2-150.jpgband3-150.jpgband4-150.jpgband5-150.jpg
    ちょっと昔の話 | - | -

    幻のバンド !? リアル・ライフ・ファクトリー (その2)

    僕が大学院生のときに組んだ即席バンド「リアル・ライフ・ファクトリー」で体験した「作詞」について書きたいと思う。そして、そのときの歌をあと2曲だけ紹介することしよう。

    band6.jpg僕らは「曲先」(曲をつくった後、歌詞をあてる順番)で歌をつくっていった。まず植野がギターを引きながら、曲をつくる。ときに、僕らに相談したりしながら、少しずつつくっていく。そして、それをMDに吹き込む。僕は、そんな「できたて」の曲を、MDウォークマン(時代的にまだiPodではない)で何度も聴きながら、歌詞をあてていく。

    実際にやってみると、歌詞をつくるのって難しいな、と痛感する。まだギターパートとメロディラインしかできていない曲を聴きながら、どういう世界観の歌詞が合うのかを考える(感じる)ことから始める。そして、そのメロディラインに言葉をのせていく。言葉選びのときは、イメージが合うかだけでなく、文字数も合っていないといけない。このときはまだ、歌いやすさを考える余裕はなかったが、本当はそういうことも考えないといけない。歌詞は、最終的には「音」として表現されるから、音としての響きは重要だ。

    しかも、歌詞には2番があって、1番とトーンを統一するが、違う内容を歌わなければならない。これが難しい。とても難しい。あまりに難しいので、このころからJ-POPの歌詞を分析し始めた。ふだん僕らが聴いている歌の歌詞が、どのような構造・表現になっているのか、ということを分析してみるのだ。それでわかったことは、歌詞がうまい人たちは、本当にうまいということ。具体的な話はまた今度紹介したいと思うが、実に巧みにつくられていることがわかってくる。(ちなみに、このときわかったことを、僕は「コラボレーション技法ワークショップ」の授業で教えている。この授業には「J-POPの歌詞分析」の回があり、「共感」の仕組みについて考えるきっかけにしている。)

    さて、今日紹介するのは、「Rail Way」。この歌は、僕が生まれて初めて作詞した歌だ。曲がとても素敵で、当時、こんな素敵な曲に歌詞をつけたり歌ったりできるなんて、なんて僕は幸せなんだ、と真剣に思った。それと同時に、これを作曲した植野は本当にすごい!と心から尊敬したものだ。(そして、この曲をライブでやったときの、おっちーのアドリブのギターもかっこいい。)


    Rail Way
                                      music by Ken UENO
                                      words by Takashi IBA

    [1]railway1-150.jpg
    つめこまれた一本遅れの電車の中
    奇妙な形で立ってる僕がいる

    誰かの電話のベルで 夢から醒めては
    背中の温かいものを 避けて向きを変える

    僕もいつか 降りてみたいと思ってるんだ
    すてきな場所(ところ) 光の射す世界

    † だけど
     このままどこまで 僕は行けるんだろう?

     厳しい世界を 寝ぼけたままで
     でも今は もう少しだけ on the railway

    [2]
    あなたの言うことわかんない いつも言われる
    君の言うこともわかんない そんなもんかな

    誰かの軽い冗談で 意味に気づいては
    左の温もりを抱いて 日々が過ぎていく

    僕もいつか 見てみたいと思ってるんだ
    君の奥に 広がる世界

    †' だけど
     これからいつまで 僕らは行けるんだろう?railway2-150.jpg
     壊れそうな世界を 抱えたままで
     でも今は もう少しだけ on the railway

    †'' このままどこまで 僕らは行けるんだろう?
     新しい世界を 夢見たままで
     そして もう少しだけ on the railway


                        Copyright(C) 1999, The Real Life Factory


    「Rail Way」の音源も、前回同様、1999年の学園祭ライブで収録したもの。曲の最初の部分にノイズあり。後半演奏を間違ったりしているし、ボーカルの声の伸びも足りなかったりするけれども、そこは大目にみてね。

    icon-face-mini.gif 「Rail Way」(MP3音源: The Real Life Factory, 1999)

    この曲、すごくいい曲だと思うし、僕もいまだにすごく好きな曲だ。ちなみに、上の写真はアメリカで撮影したもの。大学院生らしく(笑)、学会発表に行ったときに、一緒に行ったバンドメンバーの島くんと撮影した。

    当時、この歌詞を書くときに気にしていたのは、自分のことを歌うのではなく、聴き手のための歌を書くということだった。聴き手として考えたのは、僕と同じ年代の人たち。学部卒業後2、3年たって、だいぶ仕事にも慣れ、徐々に今後の人生のレールが見え始めた、そんな時期の僕らの世代に向けて書いたのだ。

    「このまま定年までずっとこのレールに乗っているのかな?」「そういう安定は必要だけれど、もうずっと先まで決まっているというのも、少しさみしいな。」という声を、しばしば友達から聞いたりした。でも、「まだ勤めて2、3年だから、まだしばらくはこのレールの上をひたすら走るぞ」、そういう穏やかな決意も心に秘めているようだった。そんなことを、通勤ラッシュの電車のなかで思い出し、この「Rail Way」の歌詞が生まれたのだ。

    そんなわけで、この曲は、僕から同世代のみんなへの応援歌なのである。
    ちょっと昔の話 | - | -
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