「創造社会を支える方法・道具をつくる」研究活動を行う
井庭研の必読文献50冊を選びました。井庭研の研究活動は、これらの文献で論じられていることや提唱されている概念をベースに行われています。よりよい成果を生み出すために、井庭研在籍中の早い段階でこれらの文献を読み進め、知識を身につけ、考えを深め、感覚を磨いてください。
遅くとも3年生の終わりまでに、すべての文献を読み終わることが、4年生の「卒業プロジェクト」開始の前提条件となります。また学年に関わらず、1年以上在籍して「自主プロジェクト」を立ち上げる場合にも、これらの文献を読んでいることが求められます。
以下のリストでは、【井庭研の基本の基本】、【パターン・ランゲージ】、【創造の理論と方法】、【知・芸術・社会】というカテゴリに分けて示してあります。また、文献ごとに、どのような観点で井庭研メンバーにとって重要なのかのポイントを書いておきました。読む時の参考にしてください。なお、邦訳が出ているものは訳書の情報を書いておきましたが、原著を英語で読むのでも構いません(歓迎します)。
【
井庭研の基本の基本】
1.
『【リアリティ・プラス】パターン・ランゲージ:創造的な未来をつくるための言語』(井庭 崇 編著, 中埜博, 江渡浩一郎, 中西泰人, 竹中平蔵, 羽生田栄一, 慶應義塾大学出版会, 2013)※深いところまで語っているので、何度も読み返してほしい。
2.
『【リアリティ・プラス】社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』(井庭 崇 編著, 宮台 真司, 熊坂 賢次, 公文 俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011)※特に序章と第2章(熊坂×井庭対談)はしっかり理解してほしい。
3.「自生的秩序の形成のための《メディア》デザイン──パターン・ランゲージは何をどのように支援するのか?」(井庭 崇, 『10+1 web site』, 2009年9月号:
http://10plus1.jp/monthly/2009/09/post-2.php ) ※創造システムとパターン・ランゲージの関係について理解する。
4.
『創造性とは何か』(川喜田二郎, 詳伝社新書, 詳伝社, 2010)※創造においては、つくるもの(客体)だけでなく、つくる側(主体)も変化するということを理解する。
【パターン・ランゲージ】
(アレグザンダーの重要著作)
5.
『時を超えた建設の道』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 1993)※この本のもつ質感を味わいながら読んでほしい。時間をあけて何度か読み直すとよい。
6.
『オレゴン大学の実験』(クリストファー・アレグザンダー他, 鹿島出版会, 1977)※「6つの原理」について理解し、自分の分野に引き寄せて考えてほしい。
7.
『パタン・ランゲージによる住宅の生産』(クリストファー・アレグザンダー他, 鹿島出版会, 2013)※特に「アーキテクト・ビルダー」について理解し、自分の分野に引き寄せて考えてほしい。
8.
『パタン・ランゲージ:環境設計の手引』(クリストファー・アレグザンダー他, 鹿島出版会, 1984)※建築の話だけれども、内容的に面白いので楽しく読める。町や建物を見る「認識のメガネ」を獲得するとともに、パターン・ランゲージの原典として記述や表現を学んでほしい。
9.
『まちづくりの新しい理論』(クリストファー・アレグザンダー他, 鹿島出版会, 1989)※「成長する全体」をどう育てるのかについて、つかんでほしい。
(パターン・ランゲージの歴史)
10.
『パターン、Wiki、XP:時を超えた創造の原則』(江渡浩一郎, 技術評論社, 2009)※前半はアレグザンダーの考え方の変遷についての素晴らしいまとめになっている。後半のWikiやXPとのつながりも知ってほしい。
11.
『クリストファー・アレグザンダー:建築の新しいパラダイムを求めて』(スティーブン・グラボー, 工作舎, 1989)※アレグザンダーの探究をパラダイム・シフトとして捉えた好著。この本にしか書かれていない話なども多いので、何度も読み直してほしい。
12.「パターンの可能性:人文知とサイエンスの交差点」(井庭崇+江渡浩一郎+増田直紀+東浩紀+李明喜,
『思想地図β vol.1』, 東浩紀 編, 合同会社コンテクチュアズ, 2010)※ビッグデータと質の関係について、この鼎談を読んで、自分なりに考えてみてほしい。
(人間行為のパターン・ランゲージ)
13.
『【パターン・ランゲージ・ブックス】プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』(井庭崇, 井庭研究室, 慶應義塾大学出版会, 2013)※井庭研3部作パターンの最初の出版物。つくり込み方を見てほしい。
14.
『Fearless Change: Patterns for Introducing New Ideas』(Mary Lynn Manns, Linda Rising, Addison-Wesley, 2004)※組織変革のパターン・ランゲージ。アイデアを組織にどのように導入すればよいのか。文章や構成についても参考にしてほしい。
15.
『Pedagogical Patterns: Advice for Educators』(Pedagogical Patterns Editorial Board, CreateSpace Independent Publishing Platform, 2012)※教え方についてのパターン・ランゲージ。英語でパターンをどのように書くのかについて、文章や構成を参考にしてほしい。
(アレグザンダーの最新著作)
16.
『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質 ― 生命の現象』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 2013)※「いきいきとしている」という全体をどのように捉えればよいのか。センターの概念と、それらが互いに強め合うやり方(15の基本特性)について理解する。
17.
『The Nature of Order, Book 2: The Process of Creating Life』 (Christopher Alexander, The Center for Environmental Structure, 2003)※現在の構造を保全しながら変容していくシステムをイメージできるようになりたい。また、センターとパターンの関係についても理解したい。
18.
『The Battle for the Life and Beauty of the Earth: A Struggle Between Two World-Systems』(Christopher Alexander, Oxford University Press, 2012) ※現代の資本主義的な「Bシステム」と、目指すべき「Aシステム」とは何かを理解する。
(アレグザンダーの過去の著作)
19.
『形の合成に関するノート』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 1978, 絶版)※難しいかもしれないが、「デザイン」とは何かや、「自覚的な文化」「無自覚な文化」などの考え方を理解してほしい。ダイアグラムをパターンと読み替えて読むとよいだろう。
20.「都市はツリーではない」(クリストファー・アレグザンダー, 『テクストとしての都市(別冊國文学・知の最前線)』(前田愛 編、學燈社、一九八四年)所収) ※「ツリー」と「セミラティス」の概念は理解しておきたい。
【創造の理論と方法】
(創造についての探究)
21.
『アブダクション:仮説と発見の論理』(米盛裕二, 勁草書房, 2007)※チャールズ・サンダー・パースの「アブダクション」の概念を理解する。アブダクションとは、「演繹」(deduction)と「帰納」(induction)に並ぶ「発想」(abduction)の論理である。
22.
『暗黙知の次元』(マイケル・ポランニー, ちくま学芸文庫, 筑摩書房, 2003) ※創造の背後にある暗黙知について理解する。ただし、表面的なレベルの理解で終わらないために、「松岡正剛の千夜千冊:1042夜」( http://1000ya.isis.ne.jp/1042.html )を参照して再読してほしい。
23.
『源泉:知を創造するリーダーシップ』(ジョセフ・ジャウォースキー, 英治出版, 2013)※創造の際に、すべてが自ずと明らかになり「意思決定」はいらなくなる、とはどういうことかを知る。これは、「物語が自律的に育つ」ということや「つくっているものの要素(ピース)が然るべきところにはまる」という感覚と同義だと思われる。
(創造の現場)
24.
『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです:村上春樹インタビュー集 1997-2011』(村上春樹, 文春文庫, 文藝春秋, 2011)※一人の作家がどのように創作を行っているのかを垣間みることができる。語られている作品についてではなく、創造に対する考えや感覚、方法に注目して読んでほしい。
25.
『走ることについて語るときに僕の語ること』(村上春樹, 文春文庫, 2010)※創造のためのタフネス。「つくり続ける強さ」をどう身につけるか。
26.
『感動をつくれますか?』(久石 譲, 角川oneテーマ21, 角川書店, 2006) ※継続して創造的な仕事をするためには何が必要かを学んでほしい。
27.
『決断力』(羽生善治, 角川oneテーマ21, 角川書店, 2005)※「棋士は指し手に自分を表現する」という将棋の話から、創造性について学ぶ。
(言葉による表現)
28.
『書きあぐねている人のための小説入門』(保坂 和志, 中央公論新社, 2008)※小説を書くとはどういうことかの話を通じて、パターン・ランゲージの質と表現を考える。
29.
『言葉で世界を変えよう:万葉集から現代俳句へ』(茂木 健一郎, 黛 まどか, 東京書籍, 2010):俳句の世界を知ることで、パターン・ランゲージの質と表現を考える。
30.
『名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方』(鈴木 康之, 日経ビジネス文庫, 日本経済新聞出版社, 2008)※人の心に響く言葉をどうつくるのか。
(創造の技法)
31.
『発想法:創造性開発のために』(川喜田 二郎, 中公新書, 中央公論社, 1967)※井庭研でも多用している「KJ法」について、その考え方と方法についてきちんと理解する。
32.
『シナリオ・プランニングの技法』(ピーター・シュワルツ, 東洋経済新報社, 2000, 絶版)※みんなで未来のヴィジョンをつくるということと、それによる組織学習について学ぶことで、パターン・ランゲージをつくる意義や可能性を考える。
(創造の支援)
33.
『人を賢くする道具:ソフト・テクノロジーの心理学』(D.A.ノーマン, 新曜社, 1996)※パターン・ランゲージのような「内省」を促す道具をどうつくるのかを考えてほしい。
34.
『新・コンピュータと教育』(佐伯 胖, 岩波新書, 2000, 絶版)※パターン・ランゲージやシステムによって、学びを支援するとはどういうことかについて理解する。
35.
『マインドストーム:子供、コンピューター、そして強力なアイデア』 (シーモア・パパート, 未来社, 1982)※つくることによる学びと、デバッグの思想を知る。自分たちがつくっているパターン・ランゲージは、思考の「歯車」になることができるだろうか?
(文章の書き方)
36.
『創造的論文の書き方』(伊丹敬之, 有斐閣, 2001)※研究とは何か、論文をどう書くのかについて書かれている。何度も読み直したい。
37.
『「超」文章法』(野口悠紀夫, 中公新書, 2002)※何がメッセージ足りうるかについて書かれている。特に第1章は、文章を書くたびに読み直したい。
38.
『考える技術・書く技術:問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(バーバラ・ミント, ダイヤモンド社, 1999)※論理的に構成された文章はどう書くのかについて書かれている。論文を書くために必読。
【知・芸術・社会】
(自分の立ち位置を知る)
39.
『未来を創るこころ』(石川 忠雄, 慶應義塾大学出版会, 1998)※SFCが創設された背景と、そこに込められた思いを知る。
40.「ディジタル・メディア時代における「知の原理」を探る: 知のStrategic Obscurantism」(井関 利明,
『メディアが変わる知が変わる:ネットワーク環境と知のコラボレーション』, 井上輝夫, 梅垣理郎 編, 有斐閣, 1998, p.3~p.40) ※
41.
『社会科学をひらく』(イマニュエル・ウォーラーステイン+グルベンキアン委員会, 藤原書店, 1996, 絶版)※社会をめぐる学問が個別分野(ディシプリン)へ分化した歴史と、学際・超領域への流れを知る。
(歴史的変化)
42.
『声の文化と文字の文化』(ウォルター・J.オング,藤原書店,1991)※文字が生まれる前の口頭の時代には、人びとはどのような力をもっていたのか。「リテラシー」に対する「オーラリティ」の考え方を理解する。
43.
『ウェブ×ソーシャル×アメリカ:〈全球時代〉の構想力』(池田純一, 講談社現代新書, 2011)※パターン・ランゲージがアメリカで生まれた時代背景を知る。
44.
『ハイ・コンセプト:「新しいこと」を考え出す人の時代』(ダニエル・ピンク, 三笠書房, 2006)※この本で語られている、「情報社会」の次の「コンセプトの時代」というのは、「創造社会」と同じ方向性の未来像である。その時代に大切なことは何かを学ぶ。
(芸術と社会変革)
45.
『虫眼とアニ眼』(養老 孟司, 宮崎 駿, 新潮文庫, 新潮社, 2008)※多岐にわたる話のなかで、いろいろ刺激を受けてください。
46.
『芸術と政治をめぐる対話(エンデ全集16)』(ミヒャエル・エンデ, 岩波書店, 2002)※ファンタジー作家ミヒャエル・エンデと芸術家ヨーゼフ・ボイスの対話。エンデの言葉を味わうとともに、ボイスのいう「社会という芸術」「みんなが芸術家」という考えを知ることで、「創造社会」についての理解・想像が豊かになる。
47.
『独立国家のつくりかた』(坂口 恭平, 講談社現代新書, 講談社, 2012) ※芸術と社会活動を重ねるとはどういうことか、実際に行動に移すことの力など、いろいろ刺激を受けてほしい。
(新しい科学・学問へ)
48.
『科学の未来』(フリーマン・ダイソン, みすず書房, 2005)の第2章「科学」 ※「道具による科学革命」(tool-driven revolution)について知る。
49.
『イメージの心理学』(河合隼雄, 青土社, 1991)※「個より普遍に至る道」という話、および深層心理学における方法から学ぶ。
50.
『デカルトからベイトソンへ:世界の再魔術化』(モリス・バーマン, 国文社, 1989)※現代社会の根本の思想から問い直し、「参加」や「価値」ということについて位置づけ直している。難しい本だが、少しでもここから学びとってほしい。