井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(まとめ)

特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”(竹中 平蔵 × 井庭 崇)の連載のまとめ。

竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(1)
対談の概要とプロセス

竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(2)
今回制作した「政策言語」プロトタイプの内容

竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(3)
政治的コミュニケーションのイノベーション

竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(4)
政策言語が行なおうとしているのは “道具による革命”である

竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(5)
政策言語によって教育がどう変わるか


SFC「パターンランゲージ」特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”
対談:竹中 平蔵 × 井庭 崇
日時:2010年11月27日(土)3・4限(13:00〜16:15)
会場:慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 大学院棟 τ(タウ)12教室

※ 当日の資料/映像は、SFC Global Campus の「パターンランゲージ」授業ページで一般公開されています(無料)。
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竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(5)

2010年11月27日に行なった特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”の最後に触れた「政策言語によって教育がどう変わるか」という話を補足したい。


政策言語教育

「政策言語」という名称は、実は5年ほど前にすでに考えついていた。それは、慶應義塾大学SFCの現行カリキュラム(2007年から実施)の改定作業を行なっている最中のことであった。学部設立の経緯を踏まえ、さらにこれからのことを考えてみた結果、「政策言語」というものが総合政策学部の教育の重要な要素になるだろう、と考えるようになった。

総合政策学部と環境情報学部では、1990年の設立当初から、「自然言語」と「人工言語」について、独自の“言語教育”を行なっていた。理論を教えた後に実践・応用するという従来のスタイルではなく、ワークショプなどでの実践を通じて感覚的に体得させるインテンシブな“言語教育”が売りであった。

その後十年ほど経ってから、環境情報学部では「デザイン言語」という第三の “言語教育” を開始した。デザイン言語でも、それまでの自然言語・人工言語と同様に、ワークショップでの実践とインテンシブな“言語教育”を行なったのだ。さまざまな領域からトップデザイナーたちを講師に迎え、非常に魅力的な科目が揃っていた。そして、その教育を受け、素晴らしい学生たちが育ち始めていた(デザイン言語については、「『デザイン言語』という実験:慶応藤沢キャンパスの新たなフェーズ」(後藤武) および 「デザイン言語とは何であろうか?」(脇田玲) にその趣旨の説明がある)。

そのとき僕が考えたのは、総合政策学部でもこのようなワークショップでの実践を通じたインテンシブな教育ができないだろうか、ということだった。デザイン言語に倣って、「それは、総合政策学部なのだから『政策言語』 と呼ぶべきものだろう」と考えた。政策の“言語教育”というわけである。当時の学部長であった、故・小島朋之先生にお話したところ、「ほう、いいですね。どんどんやっちゃってください。」と、いつものにこやかな笑顔で背中を押していただいた(小島先生はいつもそうであった)。

ところが実際に案を詰めていくと、デザイン言語のときのようにはうまく実現できそうにないことがわかってきた。まず、政策を実際につくっているプロを講師として迎えることが難しい。これは、日本においては誰が政策デザインのプロなのかがよくわからないという問題でもある。そして、デザインの分野に比べて、その政策をつくることに関する根本原理・定石などがほとんど研究されていないという問題もあった。つまり、ルールやパターンとして、言語化がまったくされていないのである。こうして、カリキュラム改定にはとうてい盛り込むことができない、と判断せざるを得なかった。

それでも、その熱い思いは、現行カリキュラムにも一部実装されてはいる。創造実践科目群にある政策デザインワークショップ、外交政策ワークショップ、未来構想ワークショップなどである。これらのワークショップによって、「ワークショップの実践による学び」の部分は実現できたといえる。

しかし、もう一つの大切なポイントである「政策の言語」教育については実現できなかった。それが僕には「宿題」として残ってしまったといえる。早いもので、それからすでに5年が過ぎた。(時が経つのは本当に早い!)

そんな経緯もあり、今回、「政策言語」をつくるという第一歩が踏み出せたのは、本当によかったと感じてる。これは、まだほんの始まりに過ぎないが、ここから同僚の教員や学生たちと政策言語をつくっていくきっかけとなればと思う。

今回おつきあいいただいた竹中先生だけでなく、SFCには社会的実践があちこちのプロジェクトでなされている。それらの実践知を記述していけば、様々なレベル/ドメインの政策言語がつくれるはずである。そして、学外の賛同者や協力者とともに洗練し、導入実験し、整備していく。研究と教育と実践が一体となっているSFCらしいアプローチだと僕は思うが、どうだろうか?


「竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング」連載 完
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竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(4)

2010年11月27日に行なった特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”の最後に触れた「政策言語が行なおうとしているのは “道具による革命”だ」という話について、補足しておきたい。


道具による革命(Tool-Driven Revolution)

かつて、物理学者フリーマン・ダイソンは、科学革命には「概念による革命」(Concept-Driven Revolution)と「道具による革命」(Tool-Driven Revolution)の二つがあると指摘した。トーマス・クーンが『科学革命の構造』で取り上げた科学革命は「概念による革命」の方であったが、ここ5世紀ほどは「道具による革命」も多いのだという。

科学者が世界を観察するとするとき、日常的な理解よりも深いレベルで理解しようとする。直観的に理解できることもあるが、多くの場合は何らかの道具=手段が必要となる。顕微鏡があればミクロの世界を観察することができ、望遠鏡があれば遥か彼方の星の姿を観察することができる。

同様に、世界に関わり、実験を行なうときにも、何らかの道具立てが必要になる。そのため、新しい実験道具が開発されれば新しい発見につながることがしばしばある(詳しくは、以前のエントリ「Thing Knowledge (物のかたちをした知識) その1」および「… その2」を参照してほしい)。

このように、道具というのは僕らの認識や発見を支えている。ダイソンは、このような道具によって科学革命が起きることを、「道具による革命」と言ったのである(詳しくは、以前のエントリ「Imagined Worlds (科学の未来)」を参照してほしい)。

政策言語が行なおうとしているのは、まさに「道具による革命」である。政策を理解し、つくり、実践するための道具として機能するために、僕らは政策言語をつくろうとしている。

もちろん、「道具」といっても、政策言語は機器・装置という意味での道具ではない。それは、コトバを用いた構成物だ。「Context」、「Problem」、「Solution」で構成される言語(パターン・ランゲージ)なのである。

政策言語が「言語」であることを強調するのは、そこで記述されたコトバによって思考やコミュニケーションを支えるからである。そのためには、政策言語が実際の政策デザインのコツをうまく表現しているだけでなく、コトバとして使いやすい/使いたいと思わせることも重要だ。だからこそ、単に実践知を記述するというだけでなく、わかりやすく魅力的なコトバで表現するということが求められるのである。

政策言語という道具によって、政策デザインのあり方、開き方、質を向上させることができるかどうか。挑戦はまだ始まったばかりである。
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